渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 7月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月9日(土)14:00~16:00 台所おさん、玉川太福、古今亭文菊、柳亭小痴楽

「渋谷らくご」柳亭小痴楽、トリ公演。

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プレビュー

 小痴楽という男、16歳で入門し、現在27歳のヤンチャ小僧のような風体です。この小痴楽さんは、いま拝見していると、進化や成長を手に取るように感じます。
シブラクの楽屋では、えずきながら精神統一して高座に向かっていきます。ほどよい緊張がこの人を突き動かす原動力なのかもしれません。客席を巻き込みながら爆笑を取り続けています。このグルーブ感を会場で味わってください。
 落語家さんは、日々刻々と変わっていきます。毎回同じ高座はありません。一期一会です。いましか見られないこの時期の落語家さんをみてください。
 小痴楽さんはまだ二つ目。まだまだ試行錯誤して失敗していい時期だと思うのですが、本人はもう失敗できないと思っているかもしれません。そんな緊張感に触れられるのも、いまのうちです。文菊師匠という、若き実力者の後ろではごまかしはききません。この日はどんな高座になるのか。見守りましょう!

▽ 台所おさん だいどころおさん
31歳で入門、芸歴15年目、2016年3月真打ち昇進。真打ち昇進おめでとうございます!昇進後はじめての渋谷らくご出演。浅草の名画座で昔の日本映画を観て時間をつぶすのが趣味だった。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
27歳で入門、芸歴10年目、2012年日本浪曲協会理事に就任。前職は放送作家。大学までラグビーを続けていた。いまtwitterで入谷や鴬谷近辺の生活感あふれる情報をつぶやいている。銭湯好き。「わかりやすい浪曲」を目指している。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴14年目、2012年9月真打ち昇進。落語協会若手ユニット「TEN」のメンバー。毎回、お着物も素敵。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴11年目、2009年11月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。IT化し損ねた若者。

レビュー

文:瀧美保 (Twitter:@Takky_step  事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと  )

7月9日(土)14:00~16:00「渋谷らくご」

台所おさん(だいどころ おさん)「二階ぞめき」
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)「原敬の友情」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)「あくび指南」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)「らくだ」

台所おさん-二階ぞめき

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

今年の3月真打に昇進されたおさん師匠。
安心して聴ける……というと偉そうですけど、安定感がありますね。
最寄駅のドトールが居心地がよく、夢は「ドトールで富士そばのミニヒレカツ丼セット(もりそば)を食べ、最後にドトールのアイスコーヒーでしめること」とか。
ばかばかしいけど、コレがやりたいっていう熱い思い、好きです(笑)。

番頭と若旦那のやりとりから見えてくる、若旦那の、吉原の冷やかし好きがまたいい。
棟梁にこしらえてもらった特注の吉原へ行く若旦那。
言ってしまえば二階に行くだけなのに、いい着物に着替えてほっかむりして。
番頭がそんな格好しなくたってと言うのに対し、吉原に行く心構えを語る若旦那。
それに意外とすんなり納得する番頭も面白い。

そうしてやって来た誰もいないはずの二階・吉原。
けれど、若旦那にかかると、客を呼び込もうとするクセのある男や女郎がたちまち現れる。
軽やかに、でも本気でめいいっぱいひとり冷やかしを楽しむ姿に、見ているこちらも浮かれてきます。
おさん師匠の流れるような軽やかさ、意外にサラリとしたやりとり、こらからの活躍がますます楽しみです。

玉川太福/玉川みね子-原敬の友情

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

玉川太福のテーマから始まり、お客様に浪曲での拍手のポイントを教えてくれる太福さん。
拍手と共に会場全体が盛り上がるのが浪曲のいいところですね。
そしてどこで拍手をしたらいいのか、というポイントを探して、お客様の心がぐっと浪曲に引き寄せられていくのを感じます。
浪曲への導入とつかみのうまさ。
太福さんの目指しているわかりやすい浪曲ということもあるのかもしれません。
内務大臣まで出世した原敬とその友・若林との友情の物語。
病気で弱り動けなくなった原敬を荷車に乗せて自宅へ運び、介抱してくれた若林とその妻。
移動途中の原敬と若林の会話や、警官や書生とのやりとりなど、人物の面白さや遊び心の織りまぜ方が太福さんらしさでしょうか。
それぞれの善良さが、端的にかつ心地よく感じられます。
それから30年。 すっかり貫禄のついた原敬。
車屋とのやりとりから、根っこの人の良さは変わらず感じさせるものの、威圧感さえ漂わせている落ち着きぶりが、月日の流れたことを教えてくれます。
書生のヤマダがまた後半でいい味を出していて、感動から笑いを誘う絶妙のタイミング。
十円札は「見るだけで(病に)効きますな」という、とぼけた性格がまた楽しい。
太福さんのとぼけた人物の描き方と言いますか、調子のいい、けれど愛すべきニンゲン。
落語の与太郎とはちょっと違うような、近いような……。
キャラクター自体でも、一瞬のとぼけたやりとりでも、人物に愛情があって好きです(笑)。
最後のところの、原敬と若林、二人の間に漂う空気もほぐれて……という言葉に、見ているこちらの心もほぐれてじんときました。
太福さんの人を見つめるまなざしが好きなのかもしれませんね。

古今亭文菊-あくび指南

  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

文菊師匠の女性は色っぽい。
というか文菊師匠が色っぽいのか。
細かい仕草とその表情で、艶のある女性から喧嘩っ早そうな八五郎まで、人物を見事に描きだす。
似てきそうな兄イと八五郎の違いも的確に表現されているから、噺がすとんと入ってくる。
時折見せる、悪いカオがまたいい。実は文菊師匠の本性はそっちなのかな、と思う位悪い(笑)。
マクラで見せた、他の奴を出し抜いたつもりの男の顔が悪くて悪くて、すごくイイ。
どちらかといえばお澄ましの印象がある文菊師匠だからこそ、そのギャップがいいのかもしれない。

今回やられたあくび指南という噺は、私から見ると難しい噺じゃないのかなと思う。
言ってしまえば、あくびを習いに行く、ただそれだけの噺だから。
けれど、それぞれのやりとりがちょっとずつずれている所や、くだらないことを一生懸命やっている姿が可笑しい。
それを文菊師匠はきちんと見せてくれる。
だからこちらも思わず笑ってしまう。
舟の揺れ方ひとつ、言い方ひとつ、とても繊細に違いを伝える技術は凄いと思う。
でも実は、今回あくび指南を見て一つ困ったことがありまして……。
それは、話の中でうまいあくびをされる度に、つられて見ているこちらもあくびが出てしまうこと。
全く眠くないのに。
おかげで噺中に3回あくびをしてしまいました。
でもでも決してつまらなかった訳ではないんです!
こんな風に落語を見て困ることがあるなんて、初めて知った驚きです。

柳亭小痴楽-らくだ

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

文菊師匠のイジリを受けて「通称、焼きそばでございます」と登場した小痴楽さん。
師匠方の後に二つ目がトリを取る。
渋谷らくごだからこその、番組の面白さですね。

小痴楽さんらしい熱演だったと思います!
持ち味のテンポのいい会話とその勢い。
身体全体を使った大きな動きで表現される人物たち。
何しろこの噺は登場人物が多く、また似たようなやりとりが多い中で、キャラクターの違いを表現するのはなかなかに大変です。
また、くず屋さんが酔って態度が変わっていく所、らくだの兄貴分がその対応に変わっていく所、この辺りの見所でも笑わせて頂きました。
そういえば、大家の持ってくる煮しめが不味かったのは初めて見たかもです(笑)。
その分お酒は本当に美味しそうで美味しそうで。
頭を剃る代わりに毛を抜くのは、何とも言えないエグさはありますが、死というものを改めて感じさせる意味もあったのかなと思ったり。
随所に落語家さんの意図や見せ方があるんだろうなぁと感じました。

樽を運んで行く所のやりとりなど、勢いを感じさせるテンポももちろん楽しいけれど、小痴楽さんがこれからこのらくだという噺をどう料理して変わっていくのか、応援しながらその成長ぶりを見ていけたらと思うと、お客としてもまた次が楽しみですね。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/9 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ