渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 7月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
昇々さんは、すでに「昇々落語」を確立しています。古典にしても、創作にしても、表現力豊かに、そして感情の起伏を大きく、聴く人の心を常に動かしてくれます。天才だと思います。
計算された台本を的確に演じるだけではなく、ちょっとくどく演じてみたり、逆にあっさり演じてスカしてみたり。いろいろ挑戦しています。受けると、だれよりもはやく「別の方法」での笑わせ方がないかと模索する。昇々さんの落語が、ただの勢いだけとか、声の大きさだと理解している人はまちがっています。この人の落語は奥深いです。
単純に、面白いです。しゃべってるのを見ているだけで楽しいです。昇々さんだけをずっと見ていたいです。一家に一台昇々さんがほしいです。いや、うるさいのでホントはいらないです。ひと月に一度、渋谷らくごで見るので十分かもしれません。
ですが、中毒性があります。何度見ても、何度聴いてもいいのです。だから、60分を任せます。
芸歴10年目の男の軌跡。これまでなにを考えて、これからどうするのか。しっかり味わいたいと思います。落語が初めての方も、昇々さんの狂気を味わってみてください。クラスにひとりもいないタイプです。戦慄の才能です。
▽春風亭昇々しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。先月、イタリアで落語修行をしてきた。しゃべっているとき、あまりまばたきをしない。
レビュー
文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 職業:会社員 年齢:31歳 趣味:ピアノと箏の演奏、史跡めぐり
7月11日(土)18時~19時「ひとりらくご」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「初天神(はつてんじん)」「湯屋番(ゆやばん)」
渋谷という街で。
渋谷のパルコが建替えのため、一時閉店になるという。ロックの聖地・渋谷公会堂も取り壊しになり、東横線ターミナル駅舎の廃止を皮切りに渋谷の再開発は進んでいる。この再開発でだんだんと落ち着いた大人の街になりつつあっても、やはり渋谷はカオスな街だ。70年代頃からファッションと文化の発信地だった渋谷。オシャレや流行りを発信する他の街と一線を画しているのは、パーリーピーポーから小洒落たマダムまで、世界に棲息するありとあらゆるジャンルの人がごちゃ混ぜになりながら少し肩の力を抜いて歩いている、このカオスさからくるものだと思う。
そんな渋谷で、落語を聴く。春風亭昇々「ひとりらくご」。
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春風亭昇々さん
今日のマクラで本人が言うには、開始2分でイヤになる落語らしい。勿論イヤになんてならないが、普通に落語を聴く気でいるととにかくビックリする、(心から良い意味で)カオスな落語。「落語はJAZZだ」とかっこいい事を言うので、なんだどうしたと思っていたら、JAZZをエアで奏で出す。ひとしきり昇々JAZZライブを演ったところで、「JAZZは知らない」と全てをうっちゃる。カオス以外何があるだろう。このくだりだけで、春風亭昇々という噺家と出会えて良かったと思った。でも、まだ「ひとりらくご」は始まったばかりだった。
「初天神」
この噺は色々な落語会で聴く機会が多いと思う。渋々子供(金坊)をお祭りに連れて行くが、「今日はおねだりしない」と約束したのに何だかんだねだってくる…という内容。小生意気な金坊の演じ方が噺家さんによって様々で、見比べるのがとても楽しい噺だ。その噺家さんの幼少期を妄想するのも、本来なら楽しい見方の一つのはずだった。
昇々さんの「初天神」は、何か違う。昇々さんの演じる金坊は、生意気さの欠片もなくずっとベソベソしていて、とても生々しかった。涙を拭う仕草が本当にリアルで、残像が脳にこびりつく。フィクションではなくドキュメンタリーを観ているよう。この金坊を見て昇々さんの幼少期を妄想しようとすると、切なくなってダメだ。ただ、この金坊が生々しくいじければいじけるほど、泣けば泣くほど笑いのツボは突かれっぱなしになる、新感覚の初天神なのだ。
「初天神」のサゲは色々なパターンがあるようで、今回のように団子屋で終わる場合もあれば、このあとに親子で凧揚げをするバージョンもある。微笑ましくて大好きなシーンなのだが、昇々さんの親子だとどうなってしまうのか。凧揚げしながらベソベソする金坊を見てみたい。
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春風亭昇々さん
「湯屋番」
家を勘当され、厄介になっていた出入りの職人からも働けと追い出された若旦那が、お湯屋で奉公をする「湯屋番」。女湯への興味から炸裂する若旦那の妄想が、どことなく昇々さんにピタッとハマる噺。昨年10月のNHK新人落語大賞本戦でやったのが、この「湯屋番」だ。
高座ではかなりエキセントリックな話し方をするので一瞬忘れてしまいがちだが、普通に喋るととても美声なのだ。この声で冷静なキャラを演じると、サディスティックと言うか、冷たく棘があって突っ込みの切れ味が増すのだ。また、若旦那の妄想っぷり、緩急のついた突っ込み以上のこの噺の見どころ、それは妄想の中に出てくる女性である。どこぞのお妾さんという設定なので絶対美人なはずなんだが、ここでも昇々さんのエキセントリックさが爆発し、色気は全て狂気に変換される。
昇々さんの「湯屋番」はまさにジェットコースターのような感覚。若旦那と女が変態がかったエキセントリックさのアップダウンを繰り返し、ヒィィとなったところで冷静キャラが美声突っ込みのスクリューをキメてくる。サゲまで全く休ませてくれない、笑いの拷問落語なのだ。
この2席を聴いて、いつか昇々さんから「芝浜」が聴きたいと思った。個人的には神聖な噺ではあるのだが。狂気に満ちた「芝浜」を、目を覆う指の隙間からじっくりと見てみたい。サゲの前の酒を呑もうとするのになかなか呑めない場面、昇々さんがやったら物凄い化学反応が起こりそう。昇々さんの落語は、聴くたびにあれも聴きたいこれも聴きたいと、聴く側の想像を駆り立ててくるのだ。
カオスなのか計算されているのか、混乱のままに終わった「ひとりらくご」。余韻を引きずりながら外に出ると、渋谷はやっぱりカオスだった。きっと再開発されつくしてもそこは変わらないだろうから、愛着を持ってカオス呼ばわりを続ける。やっぱり、何とも似てない混沌としてるものって、掘れば掘るほど面白い。これが、渋谷という街で落語を聴くこと。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/11 公演 感想まとめ
写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto