渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 7月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月10日(日)14:00~16:00 立川笑二、瀧川鯉斗、立川左談次、入船亭扇遊

「渋谷らくご」左談次、扇遊。素敵なオジサマ落語会。

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プレビュー

 ○○亭や○家などといった芸名の名字に当たる部分を、亭号と呼びます。この中でも落語好きでないと知らない亭号に「入船亭」があります。「いりふねてい」と読みます。
 落語を聴き終わったあとに「あー、良い落語聴いたなぁ、想像したなァ」としみじみ出来るのがこの「入船亭」を背負っている方々。そして現在入船亭の総帥でもある扇遊師匠が、ついに渋谷らくごに登場です。
脇目も振らず王道を歩み続けてこられた、ライオンのように孤高の存在。はじめて落語をみる方でも「この人すごい!」ってなること間違いなしです。
 この回は、笑二さん、鯉斗さんというヤンチャな二つ目に加えて、左談次師匠がいらっしゃいます。芸の道を歩んで数十年、進む「道」がちがうとこれだけ落語も変わるものかというのを、体感できる楽しい回になると思います。
 渋谷らくごを支えた、柳家喜多八(やなぎや きたはち)師匠が愛した男たち。素敵なオジサマをご堪能あれ!

▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴6年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家、兄弟子の吉笑さんによると焼肉屋さんで「なすの煮浸し」を金網で焼こうとしたらしい。

▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。元・名古屋の暴走族総長。バイト先の居酒屋で鯉昇師匠に出会い、入門。
最近、落語に目覚めた。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴49年、1973年真打ち昇進。読書好き。読書好きの「まくら」が渋谷らくごのポッドキャストで好評配信中。骨折していた足が治った。

▽入船亭扇遊 いりふねてい せんゆう
19歳で入門、芸歴44年目、1985年真打ち昇進。喜多八師匠の盟友。毎晩のようにお酒の席で喜多八師匠と芸論をかわしていた。

レビュー

文:井手雄一 男 34歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

7月10日(日)14時~16時「渋谷らくご」

立川笑二(たてかわ しょうじ)「弥次郎パート1」
瀧川鯉斗(たきがわ こいと)「天災」
立川左談次(たてかわ さんだじ)「弥次郎パート2」
入船亭扇遊(いりふねてい せんゆう)「天狗裁き」

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立川笑二さん

  • 立川笑二さん

    立川笑二さん

 「サザエさん」みたいな、誰もがついつい笑ってしまう「四コマ落語」でした。
 25歳には到底みえない大変貫禄のある方で、マクラで沖縄へ仕事に行ったときのドタバタエピソードを「起承転結」のメリハリをつけて順番に紹介していくのですが、それが例えば「高座がないと落語ができないんだけど・・・」と三コマ目でカツオがスタッフに説明すると、「こちらをどうぞ」と言って、四コマ目でノコギリを渡されて、「え、僕がやるの?」と自分を指さして終わりといった感じで、きちっと四コマで完結し、ひと笑いするとまた違う話が始まります。
 本編に入っても、「取材で沖縄に行ってきた。米軍と戦った」というノリスケの自慢話を聞いたイササカ先生が、「そりゃいくらなんでも大げさだよ」といって三コマ目で茶化すと、急に大まじめな顔をして、「沖縄にとっちゃ、冗談じゃ済まないんです!」と真っ赤な顔をして怒り出すノリスケをみて、びっくりした先生が「すっかり沖縄ナイズドされたな」と言って宙に飛び上がって終わり、といった具合に、「話は繋がっているけど、それぞれは一つずつ完結している」という大変安定感のあるストーリーテリングで、そのひとつひとつに個人的な体験から時事ネタ、古典的なギャグなどいろんな味が詰め込んであって、老若男女みんなが楽しめる作品になっていました。
 そのせいか、終わると「この場」の人たちとすごく打ち解けた気分になりました。「お茶の間感」とでも言えばいいでしょうかね。
 他にも「コボちゃん」や「ののちゃん」のような新聞連載の国民的四コマ漫画、もしくは「アタック25」や「のど自慢」のような長寿番組が好きな方にオススメです。

瀧川鯉斗さん

  • 瀧川鯉斗さん

    瀧川鯉斗さん

 「落語」と「落語家」の境界が曖昧な「モキュメンタリー落語」でした。
 元暴走族の総長をされていたという異色の経歴の方ですが、ぱっと見のたたずまいから、むしろ育ちの良さそうな印象を受けます。ですので、マクラで総長時代の「実体験」を元にしたお話を聞いていても、かなりさわやかな感じで、それだけでギャップがあって面白いのですが、「こう、ばーっと走ってきたわけです」とか、身振り手振りを交えて説明するあたりから、どんどんとリアリティが増していき、警察無線の真似で、「おい、そこの箱乗りしてるヤツ止まれ!」という頃になると、そのニュアンスから、「あ、これマジなんだ」ということを実感し、「落語家が落語をしている」のか、「落語自体が落語家のふりをしている」のか、だんだんとわからなくなり、「逆メタフィクション」とでも呼ぶべき異様な世界が立ち上がってきます。
 そして、マクラとの垣根などまったくないまま本編に突入すると、今や完全に本物の「ヤンキー」になった、特攻服を来て「しんがり」を務める若者がしゃべる度に、言葉の端々から「リアル」がこぼれ落ちてきて、冷や冷やしながら聞いていると、鈴鹿サーキットの理事をしておられるという「ご隠居」が、まるで落語の登場人物のように、品よく話し始めたとたんにぐっと意識を集中させて、「ああ、そうか自分は今落語を聞いているんだった」と、作品をフィクションによみがえらせます。
 これはなんというか、「サゲ」の逆だから「アガリ」でしょうか?
 映画「レスラー」や「ダーウィンの悪夢」など、ドキュメンタリー風のとてもリアルなフィクションか、リアル過ぎてもはやフィクションに見えるようなドキュメンタリー作品が好きな方にオススメです。

立川左談次さん

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

 「RED HOT CHILI PEPPERS」のような、世界最強の「オルタナティブ落語」でした。
 これまで聞いたことがなくても、一発で「これで間違いない」と確信させられて、素人目に見ても天才だとわかりました。リズムとメロディーとヴィジュアルが渾然一体となってジャムっており、早い話がこれは一種の「ダンス」です。
 そして歌われている内容は、「赤塚不二夫」のギャグマンガのような「条理と不条理」の間を逆立ちして綱渡りするというヤバすぎるもので、例えば「北海道に行ったら、雨は寒くて矢のように降ってくる」「そんなに?」「浮世絵の雨みたいな氷が、二三本首に刺さった」と言ったかと思うと、「また鴨が簡単に取れる」「なんで?」「足が凍り付いてるから芝刈りみたいに刈れる。鴨狩りという」「へー」「また、春には残った鴨の足から新芽が出てくる」「それってカモメっていうんじゃないの?」という、完全に頭のぶっ壊れたとんでもない代物で、笑いすぎて死ぬかと思いました。
 おそらくこの方は、音楽でいうところの「バンドマジック」みたいな「落語マジック」というものを、そして「ライブ」というものの一回性の持つ力を、本気で信じているのだろうと思います。
 絶対に生で見ていただきたい、奇跡的な作品です。
 漫画なら「日常」、音楽なら「NUMBER GIRL」、映画なら「タランティーノ」、絵画なら「伊藤若冲」、小説なら「カフカ」、アニメなら「ピンポン」が好きな方にオススメです。

入船亭扇遊さん

  • 入船亭扇遊師匠

    入船亭扇遊師匠

「エミール・ギレリス」が、バッキバキに「ベートーヴェン」を弾いているような鉄板の「天狗裁き」でした。
 本作は「全五楽章」の典型的なソナタ形式で、「君が見ていた夢の内容を教えてくれ」という、同じ主題を合計五回繰り返しますが、これが「ボレロ」みたいに一回転するごとに、どんどん演出と事態が過剰になっていきます。例えば登場人物だと最初は「妻」だったのが、「友人」、「大家さん」、「お奉行様」という風に、楽章を重ねるごとに人数も情感も賑やかに、状況もよりハードでリアクションも派手になっていき、見ているこちらもその都度ぐっとテンションを引き上げられて行きます。
 ですがリズムは驚異的なまでに一定で、完璧にBPMを守っており、指揮が寸分の狂い無く行き届いています。このあたりが強烈に「クラシック」です。
 そして最終楽章の手前になると、ついに巨大な「竜巻」が巻き起こり、ぶわっと客席ごと吹き飛んだところで、もはやお馴染みになった「テーマ」がついに「フルバージョン」で堂々とはじまると、そこはもう人外の境地で、雲の切れ間に「高尾山」が見下ろせる空の上でした。そして最後は「バッハのフーガ」みたいな循環構造を描いて最初に戻り、すっと終わります。
 結論としては、この方のピアノさばきが「天狗」のようなものなのだと私は考えています。
 他にも音楽なら「スティーヴ・ライヒ」や「YMO」、アニメなら「魔法少女まどか☆マギカ」が好きな方にオススメです。

 以上、一番手は今一人しかいないという沖縄出身の落語家さんが、硬軟おり交ぜた誰しもが楽しめるギャグで笑いを取って確実にステージを温めたのち、その次に飛び出したのが「鵺(ぬえ)」のような空想上の生き物で、それが折り目正しく落語をやるのを、なぜか普通に聞いていると、「いやいや、楽屋で話してたけど、俺たちの世代の方が荒れてたって」「てか一番最初の曲、もう一回やってやるぜ」と、三番手に出てきた男が、いよいよとんでもないことを言いだして、それが「チャーリー・パーカー」ばりの超絶技巧ビバップで、本当に「予告ホームラン」を打ってしまうのを目撃して、雷に打たれたように痺れてしまい、一体この後どうするんだろうと訝っていると、最後は「LED ZEPPELIN」が出てきたので、「あ、だからか」などと、これまたなぜか得心していると、普通に「天国への階段」をやり始めたので、このあたりでもう考えるのをやめました。
 今日まで半年間「シブラク」を見てきて、なんとなく自分なりに「落語」というものが掴めてきた気がしていましたが、今回のでまたなんだかよくわからなくなりました。
 私はちょっと、落語のファンになってきたような気がします。
 どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ