渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 10月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

10月14日(金)18:00~19:00 入船亭小辰 入船亭扇里

「ふたりらくご」じっくりシットリ落語を聴く会

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

落語界の中でも、ずっと聴いていても疲れることなく、いつまでも心地よい気分にさせつづけてくださる一門、それが「入船亭」です。
今回はその一門から、小辰さんと扇里師匠の「ふたりらくご」。
小辰さんからみれば、自分の師匠の弟弟子が扇里師匠。同じルーツを持っていても、芸の燻され方と趣向は少しずつ違ってくるもの。このおふたりの同じところや違ったところを見れば、芸が継承されていく意味とか心地よさとか、そんなことが感じられるはずです。
じっくり、しっとり、のんびり楽しめる贅沢な1時間になることでしょう。

▽入船亭小辰 いりふねてい こたつ
24歳で入門、現在入門9年目、2012年11月二つ目昇進。
冷蔵庫とクーラーのない部屋で前座時代を過ごす。落語協会の謝楽祭のカラオケ大会では尾崎豊の「I LOVE YOU」を熱唱した。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴21年目、2010年真打ち昇進。
趣味は競馬と野球観戦。絵本作家。三浦大輔の引退試合のチケットを手に入れるために9時間30分並ぶほどの熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。ビュッフェでは時間配分を間違えるタイプ。シブラクからジワジワ中毒者続出中。

レビュー

文:瀧美保 (Twitter:@Takky_step  事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと  )

10月14日(金)18時~19時「渋谷らくご」
入船亭小辰(いりふねてい こたつ)-目黒のさんま
入船亭扇里(いりふねてい せんり)-三井の大黒


入船亭小辰-目黒のさんま


  • 入船亭小辰さん

    入船亭小辰さん

東西で800人程いる落語家の中でも8人しかいないという入船亭、その中のお二人。
とても貴重な会です(笑)。

小辰さんはいい声ですなぁ。イケメンボイス。
しかしながら、そんなイケボとは対照的とも言える、自由で軽ーいお殿様のギャップがいいのです。
ちゃんと家臣たちの立場はわかってるけど、やりたいことはやってしまう。
美味しいさんまも10匹あったら、全部一人で食べてしまう。
そうして家臣たちにはちゃんと食べ終わった頭と尻尾を下げつかわす(笑)。
テンポよくさわやかなしゃべりは扇辰師匠ゆずり。
そこに高校生のカップルやら某芸能人グループのイジリネタやら、小辰さんの遊びが加わって楽しい。

私が一番好きなのは、お殿様がさんまを食べるところ。
魚は鯛と金魚という赤い魚しか見たことがないお殿様、さんまの姿を見てまず驚きます。
長くて黒くて(炭火が付着したのか)光ったりもする。
そのさんまの油のプチプチと跳ねる様を表現する小辰さんの手がいい。
手のひらを上にして、指がうごめく。
ジューと音が聞こえてきそう。美味しそう(笑)。
それからさんまを口に入れようとして熱さに驚くお殿様と、その家臣・金也がフーフーを教える仕草。
セリフなしで、動きで伝えるやりとりが楽しい。
お殿様がいつも食べている冷めた鯛を「無礼者、冷たい奴じゃ」といい、対してさんまを「火照ったボディ」と表現するのも面白い。
ちょっとエロいし(笑)。

「一口ボレ」したお殿様の焦がれる想いが熱い熱い目黒のさんま。
軽やかさと小辰さんの熱さと、心地良く。
そして私は炭火のさんまが恋しいぞ。


入船亭扇里-三井の大黒


  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

「野球が楽しい」と扇里師匠の日常が垣間見える、嬉しそうな一言から始まった。
いつもの、淡々とゆったり語る扇里師匠。
ついさっきまでの小辰さんとはもう違う空気が漂っている。

おかしな姿の男が、江戸の大工たちの仕事を「下手でぞんざい」と言ったもんだから、寄ってたかって殴られた。
棟梁の政五郎が止めに入ると、なんと男は「18」と殴られた回数を数えていた。
変わった人だ。
男に話を聞いてみると、西の方の番匠(ばんじょう=大工)だという。
仕事に対する心意気を買ったのか、何故か「嫁さんをたたき出してもお前を置く」と言い放った政五郎と、
その心意気を「ほめおく」と言ったその男。
そんなわけで男は政五郎の家に居候する事になる。
出身の話から飛騨の名工・甚五郎について聞かれた男は「甚五郎はつまらんな」と答えたり。
その次に自分の名前を聞かれたが、「箱根の山を越えた時にえらく暑くて名前を忘れた」という。
そうしてみんなにからかってつけられた「ぽんしゅう」という名前を、「好きだなぁ。ぽんしゅうになりたかった」と言ったりもする。
姿も態度もおかしな男を、扇里師匠のあの淡々とした語りでやられると、ますます変な奴に思えてくるから面白い。
なんだか変、と聴いているこちらが感じるところをサラリと言われるから、なんだか当然のことのよう思えてきて、でもやっぱり気になる、と気持ちが行ったり来たりする。

「嫁さんをたたき出しても……」と言った言葉が、後の展開の伏線になっていて「ああ!」と笑ってしまった。
「また鮭か、ブリはないのか。富山のブリはうまいぞ」とか「今、湯の帰りに思い出した」とか、男のキャラクターがポイントポイントでいい味を出してる。
大黒様が目を見開いてにこにこーとする様子も、扇里師匠の人の好さと相まってぽんっと入ってくる。
語り口の軽妙さ、これが入船亭の得意なところなのかしらん?と密かに思う。

見終わってじわじわくる楽しさ。
強く感情が揺さぶられる落語もあるけれど、扇里師匠の適度に笑い柔らかく心地よい落語もある。
最近の忙しさに疲れた心がじんわり暖かくなる感じ。
色んな噺があって、色んな落語家さんがいて嬉しいなぁと素直に感じる。
そうそう、「三井の大黒」は初めて聴く噺で、新しい噺との出会いにも感謝です。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ