渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 10月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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10月16日(日)14:00~16:00 古今亭志ん八 玉川太福* 立川左談次 三遊亭遊雀

「渋谷らくご」ひょうきん落語会

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プレビュー

「ひょうきん」とは、剽軽と書きます。飄逸で、軽妙。聴いている人が疲れないで、心地よく、マッサージのように笑いのツボを押していやしていく。
「オレたちひょうきん族」で「ひょうきん」の言葉のイメージはかなり変わってしまいましたが、ここに出る四人はみな飄逸で軽妙、「ひょうきん」な人たちです。それでいて洒脱、茶目っ気、そんな「江戸」の匂いがする人たち。
とにかくかっこいいし、愛らしいし、ずっと見ていたい。
その方々の芸はもちろん素晴らしいです。そして高座に臨む姿勢も本当に素敵です。
2016年10月16日に、この4人はなにを考えているのか。それを聴けるのはこの日会場の来た人だけが味わえる特権です。

▽古今亭志ん八 ここんてい しんぱち
28歳で入門、芸歴14年目、2006年11月二つ目昇進。趣味は、漫画をかくこと。落語会のパンフレットには可愛いイラストが入ることがある。ウェブサイトに4コマ連載中。渋谷らくごのどがちゃがにも、志ん八さんの4コマが掲載されている。魚が大好き。来年秋真打ち昇進決定! 名前が変わるかも!?

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。
「わかりやすい浪曲」を目指して日々奮闘中。
大学までラグビーを続けていた。最近の活動は佐渡島に行き、「小木演芸場」というほんの数日だけ存在した素敵な演芸場で浪曲を披露した。この出来事をすぐさま浪曲化するという革新的なことをしている。娘さんが先日1歳になった。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴49年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、療養中。渋谷らくごは先月復帰。大爆笑の連続であった。その様子はポッドキャストでも配信されて大好評。入退院の合間に、隙を狙って渋谷らくごに出演してくださっている。
来年は芸歴五十周年!多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴29年目、2001年9月真打ち昇進
とても背が高く、着物がとてもお洒落。とてつもない乗り物マニア。飛行機に関しては、「オールフライトニッポン」という本を出版している。本日の会のトリに相応しい、重厚さを隠す軽妙さを持ち合わせた稀有な落語家。

レビュー

文:えり (Twitter:@eritasu  29歳 女性 事務職 趣味:フラメンコを踊ること)

10月16日(日)14時~16時「渋谷らくご」
古今亭 志ん八(ここんてい しんぱち)  「警察23時頃」「猫の皿」
玉川 太福(たまがわ だいふく) 「清水次郎長伝 秋葉の仇討」
曲師 玉川 みね子(たまがわ みねこ)
立川 左談次(たてかわ さだんじ)  「権兵衛狸」
三遊亭 遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく) 「紺屋高尾」

体を残して旅する頭


【軽妙な夜のとばりの中へ】


  • 古今亭志ん八さん

    古今亭志ん八さん

イヤホンして自転車乗りながら大声で歌う人、私も何度か見かけたことあります。とても開放的な気分になれそう。そんなテンションの高い男性と、落ち着くように諭すおまわりさんの会話から噺は始まります。
このテンポと間、何かに似てると思いましたが志ん八さんのマンガです。作者が同じなのだから当たり前かもしれませんが雰囲気が独特。ヘラヘラした主人公とおまわりさんの顔が、志ん八さんの画風で浮かんでくるのです。ペターッと平らな(お魚の)目をしたあの顔です。物語が進むにつれておまわりさんは興奮しだし、自転車の男性はふてくされて、気がつくと見事に二人のテンションの高さが逆転しています。
さらに古典まで!「猫の皿」田舎茶店のとぼけたおじいちゃんと見せかけた天才詐欺師、志ん八さんが飄々と演じるため落差が激しく、騙されっぷりが痛快です。こうして新作と古典を一気に聞き比べできるのもたっぷり感があって嬉しいです。


【日本と旅と浪曲と】


  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

シブラクでみね子師匠を見るたびに、渋谷の人混みの中をお着物姿で颯爽と歩くみね子師匠はかっこいいなぁと妄想します。今日の太福さんは古典バージョン。ビシッと「清水次郎長伝」声が太く大きい太福さんのドスの利いた啖呵はやっぱりかっこいい。侠客ものの血気盛んな登場人物が際立ちます。
浪曲には旅がテーマの連続物が多いと聞きますが、清水次郎長伝にもあります連続物特有の「解決したけどまだまだ旅は続きます」感。時代劇を見ている感覚にも近いです。
次郎長縁の地を巡る旅にも出てしまいたい。もし次郎長伝を聴いていなかったらきっと死ぬまで訪れることはないであろう場所。浪曲を通して物語と出会い、その土地と出会う。とても良い。それにしても法印大五郎はなんだか無邪気で少し怖いです。昔兄弟分だった神沢小五郎をあっさり騙し「俺は男になるんだ、すまねェ兄弟ェ、首くれよ」と軽く言っちゃう感じ。狂気の沙汰!


【帰ってきた左談次師匠】


  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

「まだ、生きてます」にも「朗報です、うぶ毛が生えました」に対しても拍手で応える会場。
「いちいち反応しすぎ!」と扇子で床をパシパシ叩きながらも笑顔の左談次師匠。今月もカードにメモってきたという「癌病棟の人々」にまたしても大笑い。点滴が本人のかどうかを何度も看護師さんに確認させられるという話、
「ヤマオカさんで間違いないですか?」「はい間違いないです、ヤマオカです」
「ヤマオカさん?」「ヤマオカです」「ヤマオカ?」「ヤマオカヤマオカ」
真面目なやりとりのはずなのに左談次師匠が再現するとなんだか妙にほっこりして面白い。 渋谷らくごの出演日を帳面に○つけて楽しみにしていたという左談次師匠。キュン。
今日はなんとなんと久々に古典落語。「権兵衛狸」は軽い感じの噺だと思っていましたが、扇子をハサミに見立ててパチンパチンと毛を切るなどのしぐさ一つ一つが魅力的で目が離せません。「(ドンドン)ごんべ(ドンドン)ごんべ」というリズムも「権兵衛さんきさんじの煎餅布団に柏餅…」というフレーズも、ずっと繰り返し聴いていたい。温泉に浸かっているような気持ちよさです。


【シンプルな言葉ほど】


  • 三遊亭遊雀師匠

    三遊亭遊雀師匠

「今日は寄席の匂い」と遊雀師匠。たしかに寄席サイズの短めな噺や渋い古典が多かったり、演者さんの雰囲気も楽屋の雰囲気もゆるゆると心地が良さそうなイメージです。遊雀師匠の「傾城に…」のひとことで、再びその匂いに包まれてうっとり。 紺屋高尾は物語自体の印象が強く、あの演者さんはこの場面がこうだった、あの演者さんのセリフはああだった、と自然と特徴を探してしまいます。「身分を偽っていた久蔵さんに高尾太夫が惚れる」という流れが唐突に感じてしまうこともあるのですが、遊雀師匠の演じる久蔵さんは「すいません」「ありがとう」というシンプルな言葉で話し、懸命でまっすぐな想いに溢れていて胸に響きます。騙されたと一度は怒りつつも「ぬしの正直に惚れんした」という花魁。その潔さと、遊雀師匠の艶のある声で余計に色っぽく感じます。 爆笑系の噺のときとも、芸協まつりで黙々とゴミを拾っていらっしゃるときとも違う、ギャップがたまらない密度の高い時間でした。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/16 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto