渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 10月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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10月18日(火)20:00~22:00 立川志ら乃 春風亭昇也 林家きく麿 立川吉笑 林家彦いち

林家彦いち Presents創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

隔月でお客様も定着して下っている「しゃべっちゃいなよ」。
もう一度ここで、この企画「しゃべっちゃいなよ」のルールを説明しておきます。
落語は、古典落語と創作落語の二つがあります。古典落語は、代々継承されている落語。創作落語は近年新しく創られた落語です。この「しゃべっちゃいなよ」では、まだ公開されていない創作落語を宇宙初公開・ネタおろししていただくという企画です。
このネタおろしにかける情熱と緊張感、客席もこの緊張感で支配されている。そして一度落語がはじまってしまえば、爆笑の連続、すさまじい熱気が客席を包み込みます。
まだご覧になったことがない方は、ぜひ一度この現場に立ち会ってみてください。強烈な落語体験をお約束します。年内最後です。12月の最終公演にて、大賞を決めるベストバウト編があります。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴19年目、2012年12月真打昇進。趣味は、アイドルと声優と相撲とプロレス。『昭和元禄落語心中』から派生したイベント「声優落語天狗連」では声優さんに落語を稽古している。昨年、「そばーん」で第一回渋谷らくご創作大賞受賞。

▽春風亭昇也 しゅんぷうてい しょうや
千葉県野田市出身。2013年1月二つ目昇進。御朱印を集めている。
師匠である春風亭昇太師匠よりも早く結婚するという昇太一門でなければできないエピソードをもつ。あまり創作をやらないが、今回無茶ぶりに応えて敢えての初参戦!

▽林家きく麿  はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴20年目。2010年9月真打ち昇進。能年玲奈さん主演の「ホットロード」を見て泣いてしまったとのこと。彩大師匠との創作落語会を終えてすぐの、シブラク初参戦!

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門6年目、2012年4月二つ目昇進。
2015年『現在落語論』を出版。毎週独演会を開くプロジェクトが進行中。音楽番組の司会に抜擢される。酒癖が悪い。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼軍曹。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。集中する朝は、土鍋でご飯を炊く。
創作から生まれた絵本「ながしまのまんげつ」(絵 加藤休ミ 小学館)が発売中!最近お弟子さんを取られた。

レビュー

文:木下真之/ライター  Twitter:@ksitam

▼10月18日 20:00-22:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

立川志ら乃-グロサリー部門
春風亭昇也-町の小さな動物園
林家きく麿-殴ったあと
立川吉笑-歩馬灯
林家彦いち-記憶椅子

鬼軍曹、彦いち師匠の招集に2人がシブラク初登場。新たな落語がまた生まれました。真打ち3人が登場したこともあってか、5人ともバランスがよく2時間が普段より短く感じました。

立川志ら乃-グロサリー部門


  • 立川志ら乃師匠

    立川志ら乃師匠

2015年のシブラク創作大賞を受賞した志ら乃師匠。トップバッターで貫禄を見せてくれました。「スーパーマーケットが好き」と本人がいう通り、そこで起こる普通の人たちのドタバタにリアリティが感じられて面白かったです。スーパーって、ほとんどの人が日常的に行くところだから、親近感があるし想像力も膨らむからわかりやすくていいですね。特に閉店間際のスーパーって独特の緊張感が漂っていて、落語にぴったりのシチュエーションでした。「半額シールが2枚張ってあるから合わせ技でタダにしろ」という壷算的なクレームの発想はさすが志ら乃師匠。「原材料が書いてあるシールを表面に貼ったら」という提案からもスーパーが身近にある師匠の「主婦感」が伝わってきます。
落語本編はほぼ「惣菜部門」で起こるお話しなのですが、タイトルにあえて「グロサリー部門」としてあるところがミソ。グロサリーとはどんなものかは各自調べてもらうとして、グロサリーって耳慣れない言葉はひっかかりますよね。志ら乃師匠もあえてグロサリーのフレーズを押し出していて、そこが面白かったのでこのタイトルはいいなあと思いました。


春風亭昇也-町の小さな動物園


  • 春風亭昇也さん

    春風亭昇也さん

昇太一門から初登場。昇々、小痴楽、鯉八、松之丞、羽光、A太郎さんらが組む「成金」の名参謀役です。今は古典を中心に修業をしているという昇也さんの創作が聞けるということで楽しみでした。昇太一門の中で唯一結婚していて娘さんもいるので、生活感のあるマクラが聞けるのも希少価値がありますね。
本編はタイトル通り、町の小さな動物園にいる珍獣たちを描いたギャグ落語です。圧巻は、300匹の猿と500羽のフラミンゴが出てくるクライマックス。お金がない動物園が餌代を浮かすために取った奇策がユニークでした。日本最高齢のライオンとトラがいる状況を、日本最高齢の落語家に例えたり、カピバラを某二ツ目さんに例えたりと、さりげなく盛り込んだギャグもよかったです。


林家きく麿-殴ったあと


  • 林家きく麿師匠

    林家きく麿師匠

シブラクは初登場のきく麿師匠ですが、2006年から10年続いている新作ネタおろしの会「せめ達磨」の立ち上げメンバーで、今でもせめ達磨や独演会で積極的にネタおろしをしている、新作ファイターの1人です。彦いち師匠と同じ木久扇一門でありながら、きく麿師匠には明るいオーラでみんなを包み込む懐の深さがあって安心して身を委ねられます。今回、きく麿師匠が持ってきた飛び道具は何と浪曲! 「シブラクで何かをぶちかましてやろう」という企みが感じられて、ワクワクしました。
物語は、商談成功の打ち上げで旅館にやってきたサラリーマン2人が、陰のある旅館の中居さんに「人には言えない過去」をさりげなく聞き出すというもの。そこで中居さんが語り出す半生が浪曲なのです。しかも、浪曲をうわべだけなぞるのではなく、一般人がイメージする浪曲の「貧乏」「耐える女」の世界観を押し出してきます。「殴った男がジャイアントカプリコをくれた」「アンデス山脈で育ったトマトが男のやさしさ」といったへんてこなギャグも面白く、「旅~ゆけばぁ~」でおなじみのフレーズをエジプトの砂漠に置き換えてみたりとやりたい放題。きく麿師匠の遊び心に乗せられて、終始笑いっぱなしでした。


立川吉笑-歩馬灯


  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

「D春師匠が俺のバックについている」と任侠っぽさを出してきた吉笑さん(笑)。いつもながら、センスのいい落語を作るなーと感心してしまいます。今回は走馬燈の脳内映像を使った1人コント風の作品。奥さんにパンを買ってこいと命令された男が外に出るとトラックにはねられた。頭の中で走馬燈のように流れる40年間の人生の映像が、なかなか進まないというものです。
陣内智則さんのような1人コントは、映像に直接突っ込むのでわかりやすい反面、それ以上の世界は広がらないのですが、脳内だけで映像が再生される落語の場合はバリエーションも無限大。自分なりの走馬燈を想像しながら、吉笑さんの繰り出す世界に入り込むことができました。しかも走馬燈の映像が進まないというワンアイデアだけでなく、後半にいくほど変化のバリエーションが出てきて、最後はミステリーテイストで終わる。最初から最後まで、この先はどうなるんだろうと前のめりで聞いていました。あえて関西弁で進めたことも吉笑さんの狙い通りなんでしょうね。


林家彦いち-記憶椅子


  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

4月の「しゃべっちゃいなよ」で彦いち師匠がネタおろしをした「あゆむ」が「いい話」なら、今回の「記憶椅子」は「悪い話」がテーマのような気がします。外れの外れにある古びた写真館にある記憶椅子。そこに座って過去の写真を見ると、当時の映像が再生されるというもので、噂を聞きつけてやってきた人たちの「いい思い出」が次々と「悪い思い出」に塗り替えてられていきます。
例えるなら、普段は穏和な知り合いのSNSを見たら、裏では過激なことが書かれていた時のような落差の大きさです。残酷ですけど、期待が裏切られた時の落差が大きければ大きいほど笑えるんですよね。5人のお客さんの思い出話のエピソードが、最後はこうなるかというまとめ方も見事でした。「あゆむ」に出てきた芝浜ネタがこちらにも出てきたりして、彦いち師匠の芝浜愛もハンパないです。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/18 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ