渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 10月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
身体が熱くなってきていることがわかる。そして笑いが出たり、涙が出てきたり。
そんなこと、最近経験していますか?
今回の4人は、とにかく身体の温度をあげてくださる芸の持ち主。火照るような熱さが感じられます。でも不快じゃない。入りやすい温泉のような。高座にあがってすぐに爆発をする方々です。
じわっと汗をかくような渋谷らくご、ぜひお越しください。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。放つ狂気が強烈すぎて、落語を聴いている客が倒れてしまうという経験をたびたびしている。先月の渋谷らくごでは、小学生の子どもさんまでが、昇々さんの落語で大興奮をしてるほどの「なにか」を放っている。まばたきをあまりしない。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴35年目、1997年3月真打ち昇進。高校までラグビーをやり、現在もトライアスロンをやる熱血男。8月にギックリ腰を経験されて辛そうでありながらも絶品の落語を披露。電子タバコiQOSユーザー。
独演会「圓太郎ばなし」「圓太郎商店」シリーズがライフワーク。
▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴7年目、2014年11月二つ目昇進。
趣味は、ボードゲーム、カードゲーム、ランニング、靴磨き。「ハンバートハンバート」というバンドが好き。楽屋入りがとても早い。ギックリ腰になったので座り続けられないということで圓太郎師匠から、歌舞伎のチケットを譲り受ける幸運の持ち主。昔、泊まり込みでお祓いを受けた経験があるが、一切効果がなかった。
▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴9年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。ランニングをしながら、稽古をしている様子がツイッターで確認できる。先日、真夜中のハーリー&レイスのイベントでプロレスと講談をコラボ。シブラクで初めてトリをとられたときの講談「グレーゾーン」、その日でお蔵入りすることにした。
レビュー
10月16日(日)17時~19時「渋谷らくご」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「誰にでも青春〜番外編〜」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)「子別れ」
柳家緑太(やなぎや ろくた)「猿後家」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「天明白浪伝 首無し事件」
EXILE ON MAIN STREET
春風亭昇々さん
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春風亭昇々さん
ダンスで重要なのは、身体をどれだけ「動かせるか」もそうですが、どれだけぴたりと「止められるか」であると言われているように、この方もまるでパントマイムのように「ピタッピタッ」っと、画面を停止させることで、物語を展開させています。
そしてそのお話というのは、一見「片想いをしている、内気な男子高校生の日常」を描いたギャグものかと思いきや、実は映画「恐怖の足音」のような、「自分はすでに死んでいるのに、そのこと自体に本人が気づいていない」という、不条理系スリラーでした。
最初に引っ掛かったのは、序盤に主人公が誰もいなくなった教室で、自分の好きな「足立さん」という女の子の席に座り、変態ストーカーのように、彼女の机を舐め回しているシーンです。そんな致命的な瞬間を、教室に戻ってきた足立さん本人に目撃された男は、「自分の席と間違えたんだよ!」と、苦しすぎる言い訳をするのですが、本来なら一発アウトのそんな言い訳に対して、当の足立さんは「なんだ、そうか」と何の感情も込めずに納得してしまうのです!私はこのあたりで、この世界にある裏の仕掛けのようなものを感じはじめました。
その後もこの男が、「彼女だって実は俺のことが好きで、本当は両思いになんだ!」などと、「タクシードライバー」のロバート・デニーロのような、ヤバイことを言い続けている様子が延々と写しだされていくのですが、中盤でいきなり時系列を前後したかのような「バスケットボールのシーン」が始まります。そしてそれ以降、「受験勉強をしているシーン」へと、こちらの意識が追い付けないくらいの速さで、次々と場面が転換していき、気がついたときには、男はなぜか「不登校」になっているのです。
そして、迎える「初詣」のシーン。
神前で彼女に愛の告白をすることを決めた主人公でしたが、となりにいる彼女に、告白どころか「喋ることすらできなく」なり、心臓発作を起こして病院へと運ばれます。
この「初詣のシーン」は、この男が死ぬ間際に見た幻影だったのではないでしょうか。
なぜかというと、これが「たいして親しくもなかったはずの彼女が、向こうから誘いに来てくれる」という、ありえない展開であるということ。そして告白を成し遂げた場面が、今作のなかで唯一はっきりと「完全なる妄想」だったことが示されているからです。
このシーン全体が実際には無かった、妄想だということは、神社で「足立さん」が神様にお祈りしている内容が、主人公があれほど望んでいた「彼女も自分のことが好きである!」というものではなくて、「彼が学校にもう一度登校して来て欲しい」という、この異常な世界のなかで、唯一常識的なものに「変化」していることからも、逆転して読み取ることができます。
この彼女の口から、神様に告げられたものが、彼の本当の願いなのではないでしょうか。
それは、「もう一度彼女に会いたい」、「通常の生活へ戻りたい」という、彼の異常なまでの恋心に隠された、本当の気持ちなのです。
「徹底した一人称」で語られる今作は、主人公の意識だけを、ひたすら写実的に追いかけているため、「客観的な描写」、「他者性」というものがまるごと抜け落ちています。そのため「常識という枠」すらもが、あくまでこの男の認識の中で伸びたり縮んだりするため、こうした「内側をひっくり返して、そのまま外側」に反映しているような表現になっているのです。
ですが、ただ一つ「主人公の精神状態が加速度的に悪化している」ことだけは、間違いなく克明に描写されていますので、そのラインを追っていくと、こうした男の妄想がエスカレートしたすえ、ついにはその中に飛び込んでしまい、しかし「ハッピーエンド」を迎えることができず、最後は決定的な「現実」の前に敗れ去ってしまうという、この作品を裏で支えている「内面のドラマ」が浮かび上がってきます。
以上の理由から、この作品自体が彼の死の直前に見た「幻想の人生」のようなもの。そこから巻き戻して再生した、「彼の青春の走馬燈」だったのだと考えることができ、すべてのこの世界の不条理に、説明をつけることができます。
音楽なら「GREEN DAY」の「BASKET CASE」のプロモ、映画なら「気狂いピエロ」、アニメなら「新世紀エヴァンゲリオン」、ゲームなら「メタルギアソリッドⅤファントムペイン」が好き方に是非ともオススメしたい、心理喜劇の新たな傑作です。
橘家圓太郎さん
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橘家圓太郎師匠
一コマ目は、いつもの派出所で「あーあヒマだな・・・」と両さんが言っていると思ったら、いきなり「フォークリフト」が突っ込んでくるという唐突な展開で本作は始まります。
話を聞いてみると、この大工の男が、一度は酒で身を持ち崩したけれど、今は更生しようと必死に働いている真面目な男だということがわかります。煙草は辞められたけど、酒は相変わらずの両さんは心を打たれ、「そういや、こないだベーゴマやってたときに、喧嘩をしていたガキが亀坊とかいう名前だったな・・・」と思い出して、「額に傷のある子供」を男と一緒に探しに行きます。
ようやく「亀坊」を探し当てた二人でしたが、いざ久しぶりの再会となると、「いや、私は合わせる顔がない」と、父親は会うのを渋りますが、両さんが「再婚してようが関係ない!子供に親は選べないんだから行ってやれ!」と背中を蹴とばし、なんとか二人を合わせることに成功します。
久しぶりの対面でいろいろと話をし、子供に小遣いをあげて別れた男の脳裏には、かつて自分が子供だったころ、両親が別居していたときの辛い思い出や、父親との約束を守るために、母親から盗みを働いたんじゃないかと、叱られても黙っていたこと、そして深夜に目を覚ますと、父親がみんなを起さないように、手で絞って洗濯をしているのを見たことなど、色々な出来事が思い出されて、思わず目に涙を浮かべます。
「それから、どうなったんですか?」という中川の問いかけに、「F40」の助手席に座っている両さんが、何気なく商店街の方を見ると、今まさに話していたその男が、妻と思しき女性と、亀坊と三人でウナギ屋の暖簾をくぐっている姿が、目に飛び込んできます。
急に嬉しさを爆発させた両さんが、「さあ、そこから先は一杯飲んでからのお楽しみ!もちろん君のおごりで!」と言うと、中川が「先輩も少しはその方を見習ってくださいよ!」という最後のコマで、この話はおしまいになります。
「こち亀」でも、「初老の画家が昔のスケッチを元に、初恋の人を探す話」や「子供の頃のベーゴマ友達が、ヤクザになっているのを止める話」など、「大人」の両さんが出てくる下町の人情話が思い出されて、大変胸が熱くなる物語でした。
映画なら「リトルダンサー」、アニメなら「美味しんぼ」が好きな方にオススメです。
柳家緑太さん
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柳家緑太さん
今回の怪異は「神原駿河」と同じ、「レイニー・デビル」と呼ばれる猿の怪異で、願い事を叶えてくれる悪魔のアイテム、「猿の手」に願って金持ちになった代償として、顔が完全に「猿」になってしまった、とある女性をめぐる物語です。
この女性は自分の容姿のせいで、「猿」という言葉に異常なほど神経質になっており、それこそ「サルベージ」から「ダリ」の本名に至るまで、「SARU」という言葉の発音レベルで、この「音」を話してしまった使用人をクビにしてしまうほど、身も心も悪魔に浸食されています。
いくら金持ちであっても、商売である以上コミュニケーションができなければ、仕事が立ちゆきません。そこでとあるイケメンの使用人が、「自分は一度似たような怪異に遭遇したことがある。それは馬の怪異で、とにかくその人間と仕事をしようとすると、なぜか全く関係ないのに長距離を走らされるハメになった。だが、自分は走るのが好きだったので事なきを得た。私は話すのも得意なので、ここはひとつ自分に任せてくれ」と、自ら「除霊」を買って出ます。
ですが、いざこの女性を前にすると、「猿」という言葉を言うまいと思えば思うほど、吸い寄せられるように「猿」と言ってしまいます。
そしてぎりぎりの攻防の末、「猿回し」とじゃなくて「皿回し」と言ったんだよ、と「空耳トリック」でうまく切り抜けたのもつかの間、やはり「猿」と言ってしまい、クビになってしまうところで、残念ながら「Aパート」が終了してしまいました。
ですが、おそらく「Bパート」から「忍野メメ」など、プロの「交渉人」によって、悪魔払いが行われることになると思います。
そこで「除霊」のポイントとして、何が重要になってくるのかを考えると、やはりこの女性のプライベートな部分、例えば「なぜ猿のような容姿になってしまったのか」、また「金持ちになって何がしたかったのか」という根本的な問題へと、今一度立ち返ることが必要だと思います。つまりこの女性自身が、「猿」と向き合わなければならないことでしょう。
これは想像ですが、やはり神原の場合と同様に、旦那に浮気されたなどの「嫉妬」が根本にあり、悪魔にその相手の破滅を願ってしまったか、もしくは被害妄想と強迫観念で、心に空いた穴を「お金」で無理やり埋めてしまったかのどちらかが、この怪異の原因ではないかと、私は考えています。
いずれにせよ、素人がいい加減に他人の心を操ろうなどと思ってはならない、そして人付きあいというのは、ある意味では命がけの作業であるというのが、今作の教訓であるというのは間違いないでしょう。
映画なら「羊たちの沈黙」や「ザ・マスター」、小説なら「トルストイ」の短編、漫画なら「MONSTER」が好きな方にオススメです。
神田松之丞さん
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神田松之丞さん
「その女は生きている。だがこの話は内緒だ」と、あえて口の軽そうなタクシーの運転手に名推理を披露したヤクザでしたが、義弟から「悪魔の手毬歌」の磯川警部のように「なぜ内緒にされたんですか。金田一さん」と尋ねられると、兄貴はハンフリー・ボガードのように葉巻をくゆらせながら、「まあ見ていなさい。三日もあればそのセムシ男の方から、こちらへやってきますよ」と、謎めいたことを言って、にやりと笑います。
その後、案の定やってきた殺された女の亭主である童貞男と共に捜査を進め、夜中に墓を掘り返して、首なしの死体が、実は同時期に死んだ別の人間であるという、「パノラマ島奇談」のようなトリックを見破った三人は、この事件の犯人である、寺のイケメン坊主と偽装結婚だった、生きていたご令嬢への巻き返しを決意し、手始めに「ゴッドファーザー」のように、その「生首」を坊主の家のなかに投げ込みます。
すぐさま悲鳴があがるかと思いきや、中にいたのが「ロードオブザリング」に出てくるゴラムのような怪しい下男で、「わしの誕生日!わしの誕生日!」とニコニコしながら生首の入った風呂敷を喜々として開けるという、「ブレイキングバッド」のようなメキシカン・ジョークを挟みつつ、生臭坊主と女を引っ捕らえた三人は、元のデパートの屋上から店内へ「東京ゴッドファーザーズ」のラストシーンのように、一目で結末がわかるように、するするとみんなの前に犯人を突き出して、一件落着!
「なーに。褒美なんざいらねえよ。もしどこかで俺たちがお縄で括られたら姿を見かけたら、ちぃっとばかし拝んでくれいっ」と、新たな道を歩き出した童貞男に、キザな台詞を投げつけ、デパートから失敬してきてた金目のものを、懐からチラリと見せたところで「THE END」。
喜怒哀楽すべてが入った娯楽作品で、「市川崑」のミステリー映画として見ても、大変面白かったです。
他にも映画なら「天空の城ラピュタ」か「隠し砦の三悪人」、漫画なら「ブラックラグーン」、アニメなら「カウボーイ・ビバップ」が好きな方にオススメです。
以上、四作品すべてを通して見た印象に加えまして、会場の雰囲気や、スタッフの方々の様子、そして演者さんと、私を含めたお客さんとの関係性などを見た全体の感想として、この「渋谷らくご」は今、「初心者でも気軽に楽しめる落語会」というマニフェストを十全に果たしている、ひとつの「黄金時代」に入っているように思いました。
先のことはわかりませんが、これがシブラクに関わる、みなさんの「善意」で成り立っている、奇跡的な状態であることは、疑う余地がありません。
是非とも、今この時期に「シブラク」へといらっしゃることを、私個人の立場から全力でオススメいたします。
そしてそんな「瞬間」に立ち会えていることを、同時代人として大変光栄に思います。
どうもありがとうございました。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」10/16 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ