渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 1月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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1月15日(日)14:00~16:00 笑福亭羽光 橘家文蔵 桂春蝶 神田松之丞**

「渋谷らくご」震撼:神田松之丞、トリをとる。

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プレビュー

格式のある劇場での独演会、連続読みへの挑戦、新規の講談ファンの獲得。
この男の背中にのしかかるものはあまりにも大きい。あまりにも大きいが、その大きさにだれも気づかない。
それはもはやだれもが、「神田松之丞だったらそれくらい当たり前だろう」と感じているからだ。
講談は、松之丞以前と以降で確実に進化する。初見のだれもが震撼する存在。再見してまた震撼する存在。
大丈夫、あなたの生きた時代に、神田松之丞がいた。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴10年目、2011年5月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。侠気がある。
2016「創作らくごしゃべっちゃいなよ」ファイナリスト。しっとりとした上方古典落語も披露する。オリジナル根付が可愛い。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。
ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。ご自宅にいるときはTBSラジオをずっと聴いている。最近お風呂場を工事されているらしく、若い作業員の方々にカツサンドとカフェオレを差し入れするような、気遣いの人。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月「春蝶」を襲名する。
関東と関西を行き来される生活をする。ツイッターのつぶやきが面白い。インスタグラムの写真がひとつひとつ美しい。先日、甲冑の姿で大喜利をされた様子が確認される。綿密な取材に基づいた創作も披露する、完全無欠っぷり。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴10年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。iPadを使いこなす。昨年12月に発売された「成金本」では、師匠の神田松鯉先生との師弟対談が掲載されている。日経新聞の「ブレイク」の欄に、芸人ではじめてとりあげられた。
もはや「渋谷らくご」では神田松之丞がトリをとる公演は常態化しているほど。12月25日、米粒写経と東京グローブ座公演を行った。みんな、落ち着いてよく聞け。神田松之丞はまだ34歳だぞ。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

1月15日(日)14:00~16:00
「渋谷らくご」

笑福亭羽光(しょうふくてい うこう)-ん廻し/桃太郎感想文
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-のめる
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-佐々木裁き
神田松之丞(かんだ まつのじょう)-天保水滸伝 潮来の遊び


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笑福亭羽光-ん廻し/桃太郎感想文



  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん


トロピカル上方落語家の羽光さん。
いじめられっ子だったので、文蔵師匠が怖いらしい。さりげなく前座さんに落語協会怖い人ランキングを聞いているところがリアルでいい(笑)。

まずは「ん廻し」から。
懐かしのグロンサンのCMネタやお笑い芸人さんネタなど様々なネタを放り込み、初めて聞くお客様もどれかは引っかかるに違いないというネタ盛りだくさんで、心をグッとつかまれます。次は何をいうのか気になるし、ズルいわぁと思いながら楽しくなってきちゃう。聞かれるのが怖いと言いながら、少しだけど下ネタもちゃっかり入れてくるところが流石です。

次に「桃太郎感想文」。
マクラでお話しされた、静岡県三島の小学校でやった落語会の、子供たちの感想が面白い。昇々さんのやった落語のせいもあるけれど、小学校で「ぶたこーぶたこー」と流行ってしまい、教育上良くないって。そんなこともあります(笑)。
ご自身のお子さんの言葉を絡めて話されるところを始め、子供たちの反応がいいなぁ。お子さんがお父さんを尊敬しているところも垣間見られるお話、ご自宅では憧れのお父さんなんでしょうね。

噺は新作落語、あの有名な「桃太郎」の感想文を発表する個性的な子供たちのお話。あらすじを書く子、感想が一言で終わる子、食べ物に執着する子から、お金にこだわって交通費からワクチン代まで語り出す子、論文をパクる子、色気に迷っているおませな子。多種多様な性格の子供たちを、いろんな切り口の感想文で表現するのが楽しい。文章の読み方、話し方でも個性が出てて、よく人を見てるなーと思う。たくさんの子供が出てくるけれど、どの子も個性がハッキリしてて違いが良くわかるのが凄いなぁ。中には子供じゃない子もいたようないないような。大人も子供も色んな人がいるからきっと世の中面白い(笑)。

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橘家文蔵-のめる



  • 橘家文蔵師匠

    橘家文蔵師匠


寄席の出番を終えて、少し遅れて楽屋に到着した文蔵師匠。「急いで来て息が上がってるんです。休ませてください」と高座で言ってしまうあたりが、やっぱり凄いとこかと。もちろんお客はみんな大人しく待っておりまする(笑)。そして黙っている師匠が何を言おうとしているんだろうと、会場がじっと耳をそばだてている雰囲気に緊張感があっていい。
マクラは文蔵師匠が経験された、ひと味違う変わった高座について。葬儀屋の2階でやった時は、なんと棺桶2個並べて高座を作るって……きゃー!またまた雀荘で麻雀卓の上にギリギリの大きさの座布団を乗せてやった時には、扇子で下をたたいた(戸を叩く音を出すアレです)拍子に全自動麻雀卓が動き出したり……。本当に色んなところで落語をやられてきたんだなぁと、素直に驚きまくりです。

そうして始まったのは癖の噺。「無くて七癖」と言うように、自分ではなかなか気づかなくても、誰もが癖を持っているもの。主人公の男は「一杯飲める」と言うのが口癖。夫が急死したと悲しむ奥さんの前で「(通夜があるから)一杯飲める」と言ってしまって失敗したり、ちょっと頭の回りはにぶいらしい。この男がご隠居のところにやってきて、建具屋の半公のやっつけ方を尋ねる。なんでもお互いの口癖を言ったら相手に1円渡すという約束をしたので、半公の癖「つまらねえ」を言わせたいのだという。ご隠居は漬け物大根が届いた話をする案を出してやるがそれが失敗したのを聞いて、更に次の案を出してくる。最初はそんなに乗り気な感じでもなかったのに、ムキになってくるご隠居が人間くさくていい。ご隠居の次の案は、詰め将棋で駒が足りなくて詰め切れない、そこで口癖が出てしまうというもの。本当は「詰めない」が正しいけれど、口癖だから「つまらない」と言うところまで予想するご隠居。この案はうまく行ったかと思いきや、半公の方が一枚上手だった……。

丁寧に会話と仕草で話をつむいでいく文蔵師匠。説明が多い噺もサラリと聴かせる心地良さ。その何気ない流れの中で、半公がすっと美味しいところを持っていってしまうのが、小憎らしいけれど素敵です。二人がライバルというだけでなく、普段の仲の良さも感じるやりとりがまたいい。騙しに来た主人公に対し、半公が素直に大根をもらえると思ったり、当たり前に菜漬けのたるを貸そうとするところ。さりげない表情がこんな日常を送っているんだろうなぁと感じさせて、そういう端々に文蔵師匠の人柄が出ているような気がします。
そうそう、主人公の「言うね、言うね」と手を交互に前に出す癖、あれ好きです!あのうるさい仕草に主人公のダメさが出ている気がするのと、文蔵師匠がなんか可愛いのです(笑)。

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桂春蝶-佐々木裁き



  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠


いきなりのっけから「昔からお金に細かいんです」と言い出す春蝶師匠。名古屋の大須演芸場に出る際に使われる、とあるホテルでのこと。なんとここにはマストで幽霊が出るそうな。「死:タナトス」の対極は「性:エロス」だという持論から、幽霊よけ(?)に有料のエロ番組を見ていた時に突然起こった、音、そして顔にかかる風。エロ番組に反応しているところから、幽霊は男と判断。そこでふと、自分はお金を払ってこの番組を見ていることに気づき、猛烈な憤りを感じた師匠の一言。
「半分払え!」
なんとその一喝により、部屋は静まり返ったという。何せ幽霊はお金を持っていない。幽霊はおあしがない……。どこまで本当かはわからないけど、いろんな対策方法があるもんだ(笑)。

「佐々木裁き」という噺、江戸落語では「佐々木政談」に当たる噺ですね。赴任してからそれとなく町中を見回りしている佐々木信濃守。見ると縄付き(罪人として捕らえられていること)の子供が二人。実は子供たちの間で西町奉行・佐々木信濃守のお裁き姿をまねした、お奉行ごとが流行っていて、今まさにこのお裁きが行われるところ。それを見守っていた佐々木信濃守は、後程そのお裁きをした四郎吉を本物のお白州へと呼び出すことにした。

春蝶師匠の四郎吉がもうもう可愛い。いちいち小憎らしい事ばかり言うけれど、あふれる愛嬌に許してしまいたくなるのは春蝶師匠の愛らしさでしょうか(笑)。また関西弁のと言いますか、そのイントネーションが四郎吉のこまっしゃくれぶりをいい感じに伝えてくれている気がします。四郎吉と父・高田屋綱五郎のこんな親子いいなぁと思わせるやりとりも面白く、またそこへ登場する佐々木信濃守の家来がなんとも絶妙のタイミング!うわあと、思わずこちらも笑ってしまいます。お白州での四郎吉と佐々木信濃守のやりとりはもちろん、周りに控えている父や町役の人々、お役人たちのそれぞれもいい味出してますねー。

名奉行といば遠山の金さん。その中でも松方弘樹さんの金さんを観てほしいとおっしゃる春蝶師匠。松方さんの金さんが「オイオイオイ」「オイオイオイ」「オイオイオイ」と三段階で前に出てきて、落ちそうなくらい身体を乗り出しすところがいいそうな。やってみせる春蝶師匠のしゃべり、声がもう松方弘樹さんそっくりでびっくりした。そしてそれがめちゃくちゃ格好イイ。しかもイケメンの春蝶師匠にやられたら、そりゃあもう、ねぇ。春蝶師匠が松方さんを推すのもよくわかって、久しぶりに遠山の金さんを観たくなったなぁ。今見るなら、お白州の様子とか周りもじっくり見てみたい。映像で確認したら、きっとまた落語を聴く時に楽しくなるに違いない(笑)。


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神田松之丞-天保水滸伝 潮来の遊び



  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん


出てきてすぐに「二つ目が初めてトリをとった、あの時の熱気がない!」とお客に訴える松之丞さん。その普通ではないことが起きた回の熱気は知らないけれど、会場には頷くお客様もいらっしゃったり。確かにその日の会場には何かが起こるかも!という熱気よりも、約束された楽しみを待つ期待感があるような気がしました。
真打が先に出て、二つ目がトリをとるということ。今やシブラクではそういう回もあるよなーという雰囲気があるけれど、他の会ではまずありえない。2017年1月のシブラクは全ての回で二つ目がトリをとる。攻めている。本当に凄いことだなあ。

今回は軽い話を、と始めたのは、落語の「明烏」によく似たお話。トメキチはやくざ者から堅気になり質店を営んでいるが、そちらの才もあったらしく店は繁盛している。心配なのはせがれ・トメジロウのこと。お固い性格で、もういい歳だが子供たちと遊んで喜んでいる。そんなんじゃ不安だと、トメキチはトメジロウに寄合に顔を出し、そこの若者たちとお女郎買いを してこいと命令する。しかも1日や2日ではなく、5~7日を超えて15日は味わい尽くしてこいという。「行かないと勘当だ」と言い放たれ、仕方なく寄合に行ったトメジロウは、お女郎買いに連れて行ってくれるよう「お女郎買いの四天王(今日は一人欠けていて、あと一人をちょうど探していた三人の若旦那)」に泣く泣くお願いし、この三人と一緒に出かけることに。

四天王にお願いする時のトメジロウの「あの!」という勢いが好き。勘当されるという切羽詰まった状態と、嫌だけど何とかしなくちゃという決意が詰まっている。身持ちが固く遊びに誘っても来ないと思っていたトメジロウからのアプローチに「固くないよ」「柔らかい!」
と嬉しそうに驚く三人の姿もいい。三人がトメジロウにはひなづる花魁がいいだろうと相談がまとまり、みんなで鶴屋へと向かう。途中、船頭までが「ひなづるはいいですよ」というのが面白い。船頭のさりげない言い方の中ににじむ本音の響きがいいのです(笑)。そしてとうとう時が来て、ひなづる花魁に手を引かれ優しく部屋へといざなわれるトメジロウ。若旦那三人をはじめ、みんなが後ろでいい笑顔で見送ってるシーンも好き。なんだろう、このほんわかした空気。聴いているこちらまでトメジロウを見守るような気持ちになってくる。「がんばれー」って応援したくなる(笑)。

そうして翌朝。花魁が来てくれずフラレた若旦那たちと、ひなづる花魁と一夜を共にしたトメジロウとの対比。トメジロウの成長。成長ですよ!!別人なトメジロウが素敵すぎる(笑)。「チャオ」と言っちゃったり、花魁も「行っちゃヤダ」色っぽく甘えたり。三人の前でいつまでもいちゃつく二人もいい。松之丞さんの花魁が艶っぽくて可愛らしくていいなぁ。あのしゃべりと相まって、艶があるのです。けれど、うぶな雰囲気もちゃんとある。

と、ここで話が終わったら落語と同じだけれど、このお話はまだまだ続く。ひなづる花魁と良い仲になり、ふにゃふにゃのグニャグニャに柔らかくなったトメジロウ。ここからは任侠の世界に切り替わり、もぐらのシンスケ、通称モグモチの登場でガラリと変わってくる。キリリとした空気。追い詰められたひなづる花魁とトメジロウ。松之丞さんの言い立てと張り扇と扇子で作られるリズムに乗って、高揚していく空気。
そうきたか、と思わせるストーリーと、この後どうなるんだと気になったところで、お開きのお時間のご挨拶。
あーっ、もっと聴きたいと思ってしまう。
講談ってズルイ。



【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」1/15 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ