「渋谷らくご」 名手:柳家わさび、トリをとる。 | 初心者でも楽しめる「渋谷らくご」

渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 1月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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1月16日(月)20:00~22:00 春風亭昇々 三遊亭遊雀 春風亭百栄 柳家わさび

「渋谷らくご」名手:柳家わさび、トリをとる。

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プレビュー

 名手、柳家わさび。
 緻密に練り上げられたセリフ、コミカルに伝える身体、会全体を計算したネタ選び。そして謙虚な人柄に、ほどよく意地悪な内面。神経質そうに見えて大胆な戦略家でもある。
 目立たなかった伏兵に刺殺された将軍が、有史以来何人いただろうか。わさびさんはそんな「伏兵」のフリをしたスナイパーです。
 わさびの手のひらの上で、踊らされてるのも悪くないよ! というわけで、わさびさんはもっと目立っていいと思うのでトリです。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2016年「渋谷らくご大賞」受賞。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。オリジナル楽曲を歌ったり、「落語マン」というキャラクターを追ったドキュメント風の動画など、公開中。アバンギャルド昇々第二弾「そばロック」を発表した。

▽三遊亭遊雀
さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴29年目、2001年9月真打ち昇進
とてつもない乗り物マニア。飛行機に関しては、「オールフライトニッポン」という本を出版している。楽屋でお会いしてみてるととても背が高いことがわかる。着物の色の組み合わせが独特でお洒落。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在です。静岡県静岡市出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。次郎長とさくらももこ先生と昇太師匠とおなじ地元。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴14年目、2008年二つ目昇進。古典落語だけでなく、創作落語という隠し刀をもつ実力派。イラストが可愛い。WOWOWの密着取材動画が2ヶ月経った今でも話題になっている。このドキュメンタリー動画は「Find7」で公開中。このドキュメンタリーはスマホでもみられるので帰りに見てみてください。ダメ人間っぷりが発揮しています。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 趣味:ピアノとお箏 特技:力士のモノマネ
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「廻る家族」
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)  「十徳」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)   「キッス研究会」
柳家わさび(やなぎや わさび)      「明烏」

落語の襷リレー



 日本の正月といったらコレです。箱根駅伝。箱根駅伝のスタートでようやく年が明けるのです。元旦なんて選手のコンディションと当日の天候を考えたら浮かれてなんかいられないのです。ニューイヤー駅伝も見なきゃだし。
寄席と駅伝、一見全く異なるものですが、似てます。寄席は襷を繋ぐが如く色々な噺家さん、芸人さんが出てきます。まだスベった高座は見たことありませんが、1人ブレーキかかっても優勝できた今年の青学の総合力のように、きっと1人くらいスベったところでその日の高座は総じて面白かった印象になるでしょう。また、気が遠くなるほどの長時間見たところで飽きない。これ大事!

春風亭昇々さん「廻る家族」



  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん


箱根駅伝花の二区で毎年区間賞を掻っ攫っていく留学生ランナー。ケニア人だからといって元々速いわけではなく、あの速さは努力の賜物。とはいえ、その脚の長さを見たらちょっとは有利だとは思いますよ。その別格な速さから留学生ランナーについては賛否両論ありますが、素質ある者がとことん努力した結果の別格なんだと思ってます。もう、笑っちゃうくらい速いんだもの。
勢いのある二つ目の代表格・春風亭昇々さん。留学生にしかできない走りがあるように、昇々さんにしかできない落語があります。それがこの「廻る家族」。家族喧嘩の噺なのですが、この家族みんなキャラが濃いんです。その中でも一番心を打たれたのが、お友達のいない息子。
よくマクラのネタにもなっていますが、昇々さんは幼少期にお友達がいなかったそうです。噺に出てくるお友達のいない息子が、完全に昇々さんと重なりました。妙なリアルさがあるんです。普通この手の話はただ悲しくなるか、完全にネタとして笑えるかどちらかですが、昇々さんの場合は悲しさと面白さが化学反応を起こして新しい感覚が生まれます。これはずっと友達に囲まれ孤独を味わったことのない人間には出せない面白さと哀愁だし、かわいそうとも思わないのは昇々さんの持って生まれた雰囲気ではないでしょうか。そんな素質ある者が落語の修行をみっちりしてしまったら…。2009年モグスが花の二区区間新を更新した瞬間が蘇りました。



三遊亭遊雀師匠「十徳」



  • 三遊亭遊雀師匠

    三遊亭遊雀師匠


箱根駅伝は学生の大会なので、落語で言えば二つ目です。まだまだ成長途中なのです。そんな彼らも卒業後は実業団へと進み、国内外へと活躍の幅を広げます。箱根駅伝を盛り上げたランナーたちの卒業後は、箱根以上に熱い。陸上長距離界の真打ちは、世界選手権やオリンピックでその活躍を見ることができます。因みに昨夏のリオオリンピックの男子陸上長距離代表選手は、全員箱根ランナー。
二つ目や若手真打ちが中心の渋谷らくごですが、遊雀師匠のようなオリンピック代表級の師匠も見ることができます。やろうと思ってる噺が短いから長めにマクラを話してると言う、その余裕ある語り口はまさにリオ五輪で堂々27分台の走りを見せた、早稲田のヒーロー・泣く子も黙る大迫傑選手のようです。「十徳」は教わった洒落を試そうとするのに上手くいかない、そそっかしい江戸っ子の可愛さが爆発した噺です。十徳って羽織りのような衣らしいのですが、ググってみてもいまいち分からない。でも遊雀師匠から聴いたら、十徳がどんなものかはどうでもいい。これだけキーワードになるものが分からなかったら噺も理解できないのが普通かと思うのに、知らなきゃ知らないで噺の面白さには影響ありません。だって遊雀師匠だもの。
私の母校は早稲田ではない箱根出場校なので、もちろん早稲田より先行してたほうが嬉しいに決まってますが、大迫選手だけはスタートラインに立った姿を見ただけで、区間賞おめでとうとまで思ってました。母校の選手に一発かましたれと激励すらできない大迫選手の説得力が、「十徳」の遊雀師匠なのです。

春風亭百栄師匠「キッス研究会」



  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠


出雲、伊勢…と続く日本三大〇〇、残りの一つはどこでしょう。そんな質問をしたら、多くの人は厳島や明治神宮など神社やパワースポットを挙げるのではないかと思いますが、即答で箱根と答える人は聞くまでもなく駅伝オタクです。日本三大学生駅伝ですもの。そんな感じに、「モモエちゃん」と聞いて山口百恵より先に百栄師匠の顔が浮かんだら、ひとまず落語超初心者と自称するのは卒業してもいいのかな…と思う今日この頃。
箱根を目指して日々猛練習に励む選手たちのように、熱い青春の部活の噺がこの「キッス研究会」。“何”に情熱をかけるかが大事なのではなく、“どれだけ”情熱をかけるかが重要だと教えてくれる噺です。
一見すると長距離走はただ走るだけで何が楽しいのかと思いますが、200キロにわたる箱根路はまさにドラマであり、ただただ感動します。特に87回大会の二区。例年以上に反則級の速さの留学生が揃ってる中で、日本人選手が多く奮闘したあの大会です。キッス研究会も、熱量たるや駅伝部に負けず劣らず血で血を洗う激しい練習。最後には拳を握りしめて活動を応援してしまう不思議。ただ、駅伝部との大きな違いは最終的に報われるか否か。87回大会では東海大の村澤明伸選手が歴代5位の好タイムで区間賞を獲り、その死闘に日本中が感動に包まれましたが、キッス研究会は日々の練習の成果を出すことなく卒業するんでしょう。普段はそのお姿にときめきを感じる素敵な百栄師匠が、キモく感じてしまう摩訶不思議。でも人生3回くらいやり直せるなら、一度くらいキッス研究会かウインク研究会で熱い青春を過ごすのもいいかも。



柳家わさびさん「明烏」



  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん


箱根駅伝が特別に面白い最大の理由は、全大学満遍なく放送してくれるところです。他の駅伝に比べて出場チームが少なく1区間の距離が長いからではありますが、多くの駅伝中継は上位のみ、酷ければ首位しか放送しません。箱根駅伝は特筆事項のない5〜6位の単独走行も、シード権が狙えない位置での競合いも、上位校と大差をつけられた最下位も、きちんと放送します。渋谷らくごの良さはまさにこれ。わさびさんの落語はもちろん面白い。でも、この回の出演者でトリって普通に考えたらあり得ない。優勝争い関係なく異次元な走りはしっかり放送する箱根駅伝の如く、面白い噺家さんなら二つ目だろうとトリに抜擢するあたり、箱根中継クルーのファンにはたまらん感覚なのです。
この日のわさびさん、普段より少々テンションが高い。そりゃトリだからテンション上がるよな、とは思いますが、出だしの静かなわさびさんしか見たことがなかったので、驚きで震えました。マクラでなにやら童貞の話題となり、さらに熱を増した先には「明烏」。マクラが活きることこの上ない臨場感です。このスピード感、伝わってくる熱気…わさびさんは箱根の山を軽やかに駆けていました。長距離ランナーのような細い身体のわさびさん、主人公の堅物の若旦那は違和感なく見れますが、どう考えても似つかない外見の、どっしりしてそうな遊郭の女将さんや色気たっぷりの花魁も姿形がそのまま見えるんです。もう、わさびさんが分からない。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」1/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ