渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 3月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月10日(金)20:00~22:00 瀧川鯉八 柳家ろべえ 玉川奈々福* 古今亭文菊

「渋谷らくご」 華のある人とはなにか:文菊を聴く会

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プレビュー

 ◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/

高座にあがった瞬間から、空間はその人を中心とした時間で動く。一挙手一投足が見逃せない。
そんな人たちが集まったこの会では、華の塊のような文菊師匠がトリをつとめます。
柳家ろべえさんはこの3月21日から真打昇進のお披露目を都内各所で行います。ぜひ足を運んでくださいね。


▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。2015年第一回渋谷らくご大賞受賞。WOWOW動画では、鯉八さんの落語とインタビューが配信中。かわいい見た目とは裏腹に、ハートが熱い男前の鹿児島男児。この時期は常にマスクをしている。

▽柳家ろべえ やなぎや ろべえ
25歳で入門、芸歴14年目、2006年5月二つ目昇進。
東京農工大学工学部卒業。物理学を学ぶ。ついに今年の3月に真打ちとなり、真打ち披露興行がスタートする。私服がおしゃれ。ツイッターではろべえさんの紳士っぷりが書かれ、「#ろべえさん素敵」というハッシュタグが存在する。

▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴22年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。
「シブラクの唸るおねえさん」。日本全国に熱烈なファンも多く、浪曲の裾野拡大に大いなる野心を注ぐ。『東京人』浪曲特集の表紙になっていたお姉さんです。最近は、雑誌『クロワッサン』でも、奈々福さんの着物コーデが取り上げられる。

▽ 古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴14年目、2012年9月真打ち昇進。落語協会若手ユニット「TEN」のメンバー。ろべえさんは直接の先輩で前座修行を共にしていた。私服がおしゃれで、細身のジーンズに帽子を華麗に着こなされている。帰り際、舞台のスタッフまで全員に頭をさげてくださる。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

「渋谷らくご」
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-いまじん
柳家ろべえ(やなぎや ろべえ)-花見の仇討ち
玉川奈々福(たまがわ ななふく)/沢村美舟(さわむら みふね)-仙台の鬼夫婦
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-笠碁

瀧川鯉八-いまじん


  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん


いつもの「チャオ」から始まる鯉八さん。鮮やかな黄色の羽織がお似合いです。開口一番のせいか、まだちょっと会場の雰囲気が固いかな?という印象が。鯉八さんも緊張かちょっと固めのような気もします。けれどもしゃべり始めると、いつもの通りゆっくりおだやかな口調で、聴いている人に安心感を与えるリズムです。
マクラは鯉八さんの妄想ラブレター?、そしてお母様の誕生日のお祝いの話です。今までそんなことをしたことはなかったけれど、記念の年のお祝いとして、今回は湯布院の高級旅館へ行こうと飛行機を予約。しかしタイミング悪く台風が来てしまい……。と、本人も言ってらっしゃいましたけど、相手を思いやるいい話です(笑)。が、さすがは鯉八さん。親孝行のいい話も実は妄想の世界に突入していたとは!一体どこからが創作だったのかしら……。いつも惑わされております、私。そして「え?そうなのー!?」と思いながらも、最後は笑いに変えてしまうからすごい。気づけば鯉八さんの世界に入ってしまっています。

今回の噺は、そんな妄想の世界をこれでもか!と遊びまくっているところが好きです。小国の武士、青十郎・黄十郎・赤十郎の3人が、もし自分たちが戦国時代の武士ならば……と殿・姫・忠臣になりきってのごっこ遊び。ノリノリの忠臣に巻き込まれる殿、好き勝手・マイペースな姫とそれぞれが自由で、まるでその場の思い付きで役柄を演じているみたいで楽しそう。インプロ(「インプロヴィゼーション:即興」の略語)の舞台みたいです!そうそう、姫なんですけれど、国民の憧れの美しい人のはずなのに、私には鯉八さんの顔をした姫しか想像できませんでした(笑)。だって「愚かよのう」「スカポンタン」とか言ってる姫ですもん。それがとってもいいんですけどね。心の中で「なぜみんなこの姫が好きなのか」と一人突っ込みをしたくなりますし(笑)。姫と忠臣の王道のラブシーンもコテコテで楽しく、出番を求めて空気を読まずに割り込んでくる殿もいいですよね。こういうのあるある(笑)。コテコテをしっかりたっぷりやる楽しさ、最高です。

このごっこ遊びはどう終わるのかしらと思っていたら、それはもう見事なオチが。これまで聞いた鯉八さんの噺の中で(まだまだ聴いたのは少ないですけれど……)今回の、かなり好きです!いつも鯉八さんの想像の世界に圧倒されるんですけれど、それにプラスして、次はどうなるんだろうという気持ちにさせられる所、一緒に鯉八ワールドに参加している気持ちになれるのが嬉しいのかも、ですね。実際すごく計算されて作られた世界なんだなぁという驚きと感嘆と……本当に素晴らしい!

ラジオなのに「顔」の感想をリスナーからもらってしまうのも、鯉八さんのある種淡々と語る言葉に、想像させるものがあるのかもしれません。鯉八さんの落語を初めて聞いた衝撃は、今でも私にとって忘れられない未知との遭遇です(笑)。それから少しずつ慣れてきて、なにやらよくわからないまま楽しくなってきていますが、これからも鯉八さんの不思議な魅力を探る旅は続きそうです。私と同じように鯉八さんの落語と出会い衝撃を受けた方々が、その後どんな心の変遷をたどっているのか、そんなことも気になる今日この頃。密かな野望は、まだ鯉八さんを知らない友人に、鯉八落語の衝撃を味わってもらい、感想を聞き出すことだったりします。さてさていつ決行しますかねー?

柳家ろべえ-花見の仇討ち


  • 柳家ろべえさん

    柳家ろべえさん


真打のお披露目会が終わり、まもなく真打披露興行も始まるろべえさん。色々バタバタと大変だけれど、何より大変なのは子育てとか(笑)。湯上りに踊るのが好きなのに、子育てには良くないからやってないって、それはどんな踊りなのかしらん?(笑)。
真打披露興行が始まるまでは、二つ目・ろべえでもあり、真打・小八でもあるそうで。端境期はきっと複雑な気持ちがしますね。真打のような二つ目のような芸、ってうまいことおっしゃっていましたが、もちろん落語はろべえさんらしい魅力が溢れてます。

「花見の仇討ち」は登場人物みんながそれぞれの役割で必死なところが楽しいお話。花見の余興だった仇討ちに振り回されてる姿が、騒々しくて滑稽で思わず笑ってしまいます。特に巡礼兄弟のくだりが好きです。巡礼兄弟役の一人・ロクちゃんの与太郎っぽいところ、素直で一生懸命だけどなんか不器用で、周りが助けてあげたくなる感じ。ロクちゃんが動くところに、少しずつ事件が起きる(笑)。立ち回りの稽古のために杖を振り回したら、運悪く侍の顔に当たって首を落とされそうになったり、また仇にセリフを言うところも「アジの開き」と美味しい感じになっちゃったり、そうしていざ本番の立ち回りになったら、止めに入るはずの六部役がいつまでも来なくてもう疲れ果て、泣きながら刀を突き出すもんだから、相手の浪人役が危うく刺されそうになってるところとか。悪気がないだけに厄介で、観ているこちらも素直に笑っちゃいます。そして実際の立ち回りはしっかりお遊戯会、というゆる〜い動きもいい(笑)。
対する浪人役の方も、巡礼兄弟を待っている間にタバコを吸い過ぎて具合が悪くなっていたり、いつまでも気づいてくれない巡礼兄弟を呼びよせるのに、深編笠を持ち上げわざわざ顔を出しながら、小声で精一杯に「こっちー!」と呼ぶ姿など、ろべえさんのシチュエーションの作り方・描き方が楽しい。あの飄々とした雰囲気のあるろべえさんが必死にやるからこその面白さもあるのかもしれません。ギャップといいますか(笑)。

仇の名前が、前の鯉八さんの噺を受けていい感じにアレンジされていたのもの素敵です。その場その場でそういう遊び心をすぐに話に盛り込めるのは、本当に落語家さんたちの凄いところですね。バタバタ騒がしさを楽しんでいるうちにあっという間の30分。こんな人たちはいないでしょうが、お花見に行きたくなりました。この時期の花見の噺はやっぱりいいなー。季節ごとの噺、大好きです。

玉川奈々福/沢村美舟-仙台の鬼夫婦


  • 玉川奈々福さん・沢村美舟さん

    玉川奈々福さん・沢村美舟さん


浪曲は三味線と二人の芸とおっしゃり、「寝ぐせが直らない沢村美舟」と紹介する奈々福さん。言われて髪を触りちょっと照れたような顔をした美舟さん。二人の仲、絆が垣間見られる瞬間。キュンとしました(笑)。

主人公は仙台一の器量よしのお貞(さだ)。武術を嗜み、なぎなたの名人。そんなお貞には縁談も引く手あまただけれど、なぜか男の趣味が悪い(笑)。三道楽(酒を飲む・ばくちを打つ・女遊び)のそろった人がいいという。そうしてお貞が選んだのは、同じご家中の井伊仙三郎直人(いいせんざぶろうなおと)。身を放蕩で持ち崩し、中でもばくちが大好き。その人の押しかけ女房になったという。なにがそんなに良かったのか……?謎です(笑)。

そんな変わった女性だけれど、奈々福さんのお貞がめちゃくちゃカッコイイ。身体を斜にしてなぎなたをピシッと構える姿、隙のない、背筋の伸びたそのりりしさ。それはまるで浪曲をうなる時の、奈々福さんのきりっとした美しいたたずまいそのもの。その姿勢の良さ、会場全体を受け入れるような首が伸びほんのすこしあごがあがっているような頭の位置。手をつくときの柔らかな指先から頭、肩までの流れ。女性らしさとりりしさや迫力が共存している姿。

夫婦になったお貞は優しい言い回しで仙三郎に一両持たせ、ばくちへ送り出す。その間に家をきれいに直してしまう。そんな日々が何日か過ぎ、ある日お貞は言います。一両渡す前にお貞と立合いをし、旦那様が勝ったなら差し上げましょう、さもなくば一文たりとも渡さないと。話に乗った仙三郎でしたが、なぎなたの名人お貞には全く歯が立たない。

この軽いノリで弱っちい仙三郎の木剣の構えと、お貞の隙のない構えとの激しいギャップが面白い!構えを見ただけで、仙三郎はめっちゃ弱いとわかるのです(笑)。倒された仙三郎に、お貞がなぎなたの石づきでもって「んっ」と抑え込むところがまた楽しい。「んっ」という言い方がなんとも柔らかいのがいいんです。
お貞に完敗し、そこから反省した仙三郎は江戸に上り道場で学ぶこと3年。久方ぶりに仙台の我が屋敷へ戻ってきた仙三郎でしたが、お貞との手合わせで分かったのは、お貞の並大抵ではない強さ(笑)。休む間もなく追い出す、容赦ないお貞の姿がまた楽しい。そこから修行し直して更に3年。仙三郎はお貞が認める強さになった。

仙台から江戸までの道中をうなる奈々福さんの、流れるような言い立ての見事さ。聴いていてほんとに気持ちいいです。また女中・おたけのすっとぼけた調子といい感じに人の話をきいていないキャラクターもいいですね。おたけがこの家に奉公することになったいきさつとか、仕事はじめとか、そんな話も聞いてみたくなりました。おたけとお貞のやりとりはきっと側から見たら楽しいに違いないと思います。

そしてそして美舟さん、前回観た時から何か月しか経っていないのに、私なんぞからみてもすごくうまくなっている気がする!大変な努力をされたんだろうなぁ。他人事ですが、嬉しくなりました。出だしから楽しそうな奈々福さんと美舟さんの合いの手、やっぱり浪曲も好き、と節操なく思います。でも楽しくて幸せだから仕方ないですね。

古今亭文菊-笠碁


  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠


舞台袖から高座に上がるまで、その歩いている姿が既に艶っぽい文菊師匠。あの色気はなんなんでしょうか。けれども、話し出すとよく通る声に男前な雰囲気。どっしりと何者にも邪魔させないような居住まい。あっという間に空間が文菊師匠のものになっている。文菊師匠の多彩な表現にはいつも魅了されます。その人物のほんの少しだけ、けれども確かに変化した気持ち、そういった細かなものを表情・声・姿・仕草そして間で伝えてくる。伝わってくる。

今回は噺は「笠碁」。ざっくり言えば、下手だけど囲碁好きなおじいさん二人のケンカのお話です。おじいさん同士の会話で、しかも幼馴染の二人は歳が近いと思われ、一人の演者が二人のおじいさんを表現すると似てしまいそうなものですが、文菊師匠はそれぞれの性格の違い、しゃべりの違いで、きちんと二人の人物を浮かび上がらせてきます。またそれとともに、文菊師匠のご本人の年齢以上に感じさせるどっしり落ち着いた感じが老人の人生経験を思わせるような気もします。

「今日は待ったなし」で始めた囲碁なのに、やはり一手を待ってほしい一人と、決まりだからと待てないもう一人。タバコを吸い、何もしゃべらない長い長い間の後、小声で本当に困った顔で「だめかい?」と聞く姿。「待てないよ」と、相手にぶつけないけれどワナワナと、怒りがあることを率直に感じさせる返答。言われてどう感じ・考えたのか、こう来たからこう返す、そう来るならこうする、相手を受けての反応や伝える姿一つ一つが細かく丁寧に作られている。そうして伝わるから観ているこちらには、そこに確かに二人の人間がいる、と感じられる。
そうそう、おじいさんの片方の人物が、私にはある落語家さんに見えました(笑)。きっと同じように誰かに見えた人はたくさんいたと思います。文菊師匠はどうやってその人物像を作り上げているのかしら。具体的なモデルがいらっしゃるのかな?誰かの影が見えるような、奥行きのある人間を表現することの凄さ。そうやって立体的に表現された人が「強情だ」「わがままだ」とお互いに意地を張り、本当は帰って欲しくないのに止められず、逆に勢い「へぼッ」と言ってしまう、そんな人間の愚かさが、滑稽で面白く感じます。

ケンカ別れした後日、仲直りしたいけれど素直になれない二人。それぞれの意地の張り方の違いと似ているところ、またおばあさんのキャラクターの個性、更に表情の変化だけで伝えてくる部分もあったりして、それもまた様々な色で面白い。
結局、自分を納得させる理由をつけて会いに行くことにしたおじいさん。店の前を通りながら、一瞬だけ首を曲げてさりげなく中にいる相手の様子を伺うところが楽し過ぎます。全然さりげなくなってないし(笑)。店に行く前に一人で首振りの練習している姿は、録画された映像を何度も何度も巻き戻して再生しているみたいで好き。ちょっとずつうまく(?)滑らかになっていくところもいい。またもう一人のおじいさんも、店の前を首を振りながらうろうろしている相手を見て、声をかけてくるのは今か今かと待っているところがかわいいし、そうやって相手を気にしている姿に、観ている私までも気持ちがひっぱられて、「来るのはまだか?」と思ってしまう。それなのに何もせず店の前を通り過ぎていく相手。「もう~!なんで来ないかなー!」と、気づけば待っているおじいさんとおんなじ気持ちになっている。そう、碁を打つ音を聞きつけて、白目で碁を打つ心地よさを感じているおじいさんの姿もイっちゃってて凄いです(笑)。

そうして時間をかけて気持ちを引き付けられたからこそ、会話を始め仲直りする時のスピーディーな運びがとてもいい。お互い余計な事は言わない。元通りになればそれでいい。そんな二人の気持ちが通じ合っている瞬間が嬉しくて楽しい。
観ている人を惹きつける力は色々あると思うけれど、あのしゃべらない長い間に仕草と表情とその呼吸で伝えてくる緊張感。文菊師匠の落語、あらためてその魅力を感じた時間でした。素敵な時間に深く感謝を。



【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」3/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ