渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 3月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月12日(日)17:00~19:00 立川笑二 三遊亭遊雀 雷門小助六 神田松之丞**

「渋谷らくご」 神田松之丞が普通にトリをとる会

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プレビュー

講談師・神田松之丞。はじめて演芸に触れる方、はじめて落語を聴きに来た方、ぜひ「講談」というジャンルにも興味を持っていただきたい。
どこに行くのか迷ったら、まずはシブラクの松之丞を聴きに来てください。今日も笑二さん、遊雀師匠、小助六師匠と、見事にお客さんを昇天させてくれるはずです。


▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴7年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家、兄弟子の吉笑さんによると焼肉屋さんで「なすの煮浸し」を金網で焼こうとしたらしい天然エピソードをもつ。シブラクメンバーでもある志ら乃師匠の影響で、コミケに参加することになった。後悔したとのこと。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴29年目、2001年9月真打ち昇進
とてつもない乗り物マニア。飛行機に関しては、「オールフライトニッポン」という本を出版している。楽屋でお会いしてみてるととても背が高いことがわかる。着物の色の組み合わせが独特でお洒落。チワワを飼っていて、お名前は「大吉くん」とのこと。

▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴18年目、2013年5月真打ち昇進。じんわり」と良さが波及していく芸と戦慄を覚える芸の両面を持つ。猫を飼っていて「ハッピー」とハッピーの姉の「茶々」と「チョコ」と「小判」の4匹と生活している。2月22日の猫に日に、この4匹のオフショットがツイッターで公開される。「チョコ」のオフショットが可愛い、小助六師匠の左足を抱きしめている。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴11年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。iPadを使いこなす。『週刊文春オンライン』では、「33歳の救世主が語る“ビジョン”」とのことで、独占インタビューが掲載された。講談を知らない層にも響き、話題になっている。

レビュー

文:井手雄一 男 34歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

3月12日(日)17時~19時「渋谷らくご」

立川笑二(たてかわ しょうじ)「仲順大主」
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)「花見の仇討ち」
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)「ねずみ」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「左甚五郎 陽明門の間違い」

BACK TO THE FUTURE



立川笑二さん


  • 立川笑二さん

    立川笑二さん

 ビッグコミックに連載している、大人のギャグ漫画のような作品でした。
 お話は、とある旦那さんが家督を息子の誰に継がせるべきか迷うというものですが、この相談した相手というのが、そもそも頭のおかしな人で、「こういう場合は故事に倣うべきです」と言ったまでは良かったのですが、その引用先が「沖縄の王の神話」という、恐ろしく趣味に走ったものだったため、旦那さんはアーサー王伝説みたいな時代錯誤な試練を、息子たちに与えることになります。
 「女房のお乳を飲ませろ。そして自分のために赤ん坊は殺せ」という、無茶苦茶なことを言い出したその父親を、息子たちは次々と勘当して、去って行ってしまいますが、最後に残った四男の与太郎だけが、その条件を受け入れて、なぜか「親孝行の、いい息子っぽい雰囲気」になりますが、よくよく考えると、平気で自分の子供を梅の木の下に埋めようとする、この男が不気味でなりません。なぜなら、それは神話上の理屈であって、この時代の忠誠心の表し方ではないからです。ですので、最後はネタバらしで、この与太郎も、うすうす冗談だとわかっていたことが明らかになって、このお話はおしまいになりました。
 この作品は新作落語とのことですが、こうして江戸時代のお話に、琉球王朝の神話が出てくるものをみると、江戸という時代の倫理観が、極めて現代に近いものであることが感じられて、大変面白かったです。落語を見ている間は、現代と江戸をシンクロさせて見ている自分に気づかされました。
 月亭可朝の「嘆きのボイン」や、テレビなら「お笑い漫画道場」が好きな方にオススメです。

三遊亭遊雀さん


  • 三遊亭遊雀師匠

    三遊亭遊雀師匠

 筒井康隆のスラップスティックコメディのような、メタ時代劇でした。
 マクラもそこそこに、すっと始まった本編では、何やら男たちが真剣に話し込んでいる様子からスタートしました。最初は「真面目な会合なのかな?」と耳をそば立てて聞いていると、「上野の花見の余興で、ひとつ仇討の芝居を打ったら、モテるんじゃないか?」という、深夜のファミレスでやるような、心底くだらない話だということがすぐに判明します。
 それでも、なんと剣の練習までして本番を迎えたのですが、一人は知り合いの耳の遠いじいさんに、夜逃げだと思われて説教される。仇討ち役の二人は、通りすがりのお侍に本当の仇討ちだと思われて、助けを買って出られる、とやはりろくなことが起きません。それでも、本番の「仇討ちショー」まで、漕ぎつけるのは偉いもので、The show must go on。彼らの遊びに懸ける意地のようなものを感じました。次第に竹光ではない、日本刀でチャンバラを始めた三人に、花見見物の客から歓声が上がります。余興が成功かと思いきや、そこへやってきたのが先ほどのお侍で、「違う!こう、腹を突け!」と、本気で指導を始めるシーンが爆笑でした。
 おそらく今作は、昔からある忠臣蔵など仇討ちものの、パロディでしょうが、展開のドタバタ感など、かなり現代的なものがあり、またこれはお芝居ですよと芝居の中言ってくれるからこそ、チャンバラの場面で、日本刀が本当に刺さるんじゃないかとハラハラしてしまいました。  こうしてみてみると、落語には芝居や史実をメタ的に語る、批評性というものを、そもそもの初めから本質的に持っているだなと強く感じました。
 漫画なら「新最強伝説黒沢」、映画なら北野武「座頭市」が好きな方にオススメです。

雷門小助六さん


  • 雷門小助六師匠

    雷門小助六師匠

 漫画「21エモン」みたいな、温かい「生活ギャグ」作品でした。
 ホテル「つづれ屋」を営んでいた父親と、その息子のエモン君は、リゲルという大手ホテルチェーンの男に、「つづれ屋」の経営を乗っ取られてしまい、今ではそのはす向かいにある「ねずみ屋」というボロボロの旅館に住んでいます。そんな風に大変に貧乏なので、21エモンがお小遣いが欲しくても、お客さんを呼んできて、チップでもらうなどして、自分で稼ぐしかありません。
 ある日、テレビに出ている有名な旅行ジャーナリストを見つけた21エモンは、あの手この手でそのお客を自分のホテルへと案内しますが、「足を裏手の川へ洗いに行かせる」、「食事に、自分たちの分のまかないも一緒に注文させる」などと、次々に通常ではありえない不手際が発覚し、お客さんに実はここは、ただの貧しい民宿であることが、バレてしまいます。
 ここまで、サービスが失敗ばかりだと、もはやお代は頂けないとお客さんを無料で帰した彼らでしたが、どうしたことか、後日お客さんがわんさかと押しよせるようになりました。
 どうも、あのジャーナリストが「今の世に珍しい、大変にアットホームなホテル」と、大々的に宣伝してくれたからでした。
 極めて正統で、飾り気のない、純度の高い「藤子作品」だと思いますので、ファンの方には、ぜひ見ていただきたいと思います。
 他にも絵画なら「ブリューゲル」、漫画なら「黒田硫黄」が好きな方にオススメです。

神田松之丞さん


  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

 虚淵玄が脚本を書いたみたいな、美学を求めて自滅していく男たちを描いた劇画作品でした。
 内容は、一人の老舗大工の棟梁が、新興の「甚五郎」という腕のいい男に嫉妬することから、二つの組が全面戦争に突入しようとするのを、その棟梁の愛弟子が命を賭して食い止めるという、「男たちの挽歌」シリーズ、そのまんまみたいなものなのですが、この作品が男臭いのは、その愛弟子が日本刀でズバズバと、大工の腕を切り落として、最後は自らの腹を切るというエピソードそれ自体よりも、最後のエピローグで、「こうして二組の抗争は無事終結したのであった。上野寛永寺にある龍の門は、その後、この事件でそれぞれ右腕と左腕を失った二人の棟梁が、片手でそれぞれ、半分ずつを彫り上げたものであり、大層見事なものである。」というナレーションの部分であり、ここがいい話そうに見えて、全然腑に落ちませんでした。なんというか、全然反省していないというか、やっぱり色々あっても、愛弟子の命や腕の一本や二本より、こいつらは「芸術」の方が大事なんだなという、圧倒的美意識がむき出しになっているからです。「お前ら、何仲良く掘ってんだよ」と、苦笑しました。このあたりの、「男って、本当に馬鹿な生き物だな」と思わせてくれる部分が、最高の作品です。
 映画なら「ジョン・ウー」、アニメなら「Fate/Zero」が好きな方にオススメです。


   以上、一番手は神話時代と、現代の我々の価値観のズレを、江戸時代で奇妙に融合してみせた、幾層にも重なった世代間ギャップコメディー。二番手は、まもなくやってくる桜の時期に浮かれる人々を、一つの物語にスケッチして見せた、長い俳句のような作品。そして三番手ですが、これは本日トリの神田松之丞さんが、「左甚五郎」という名大工が出てくるお話を、落語と講談でどれだけ雰囲気が違うか、並べてみたいからと、リクエストされたものだそうで、その雷門小助六師匠のものは、「左甚五郎」のノミ捌きが活躍する、心がほっとする「人情噺」でしたが、もう一方の四番手の神田松之丞さんの方は、「左甚五郎」の切り落とされた腕を見て、大工の棟梁が高笑いするという、心が殺伐とする「任侠噺」でした。
 今回の番組は、どれも古典、もしくは古典風の作品でありながらも、どれも今現在の価値観で見て、「古さ」を感じさせるものが少なく、懐かしさよりもむしろその語り口から、「新鮮さ」を強く感じました。こうしたある種、未知の感覚を味わえるのも、我々が今落語を聞く楽しさのひとつだろうなと思った次第です。
 どうもありがとうございました。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」3/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ