渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 3月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月13日(月)20:00~22:00 金原亭馬久 玉川太福* 春風亭昇々 橘家文蔵

「渋谷らくご」 横綱相撲を堪能しよう:文蔵を聴く会

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プレビュー

前の演者がなにをやっても、必ず最後はお客さんを満足させて帰す。それが三代目橘家文蔵!
明るくて元気のある二つ目三人の後、最後になにをやってくれるのか。
この会はそんな、文蔵師匠に至るまでの三人の若手の熱演にも注目! 馬久さんは渋谷らくご初出演です。


▽金原亭馬久 きんげんてい ばきゅう
24歳で入門、芸歴7年目、2015年11月二つ目昇進。先日の落語家さんだけでおこなう歌舞伎のお芝居(=鹿芝居)に出演した。演目は『らくだ』で、馬久さんはずっと倒れている「らくだ」役をつとめた。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。
「わかりやすい浪曲」を目指して日々奮闘中。大学までラグビーを続けていた熱血漢。2015年「渋谷らくご創作らくご大賞」を受賞している。DVDを発売中。楽屋でも常に師匠方にさりげなく気をつかっている。背が高い。先月は広島から大阪で公演。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2016年「渋谷らくご大賞」受賞。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。オリジナル楽曲を歌ったり、「落語マン」というキャラクターを追ったドキュメント風の動画など、公開中。アバンギャルド昇々第二弾「そばロック」を発表した。しゃべる前の印象は「イケメン」。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。
ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近のお料理は「大分どんこと牛すじとアキレスを一緒に煮込んだ牛めし」とのこと。ご自宅にいるときはTBSラジオをずっと聴いている。ホッピーと焼きトンが好き。日本で一番顔が怖い三代目。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 趣味:ピアノとお箏 特技:時刻表速引き

3月13日(月)20:00-22:00「渋谷らくご」
金原亭馬久(きんげんてい ばきゅう)             「素人義太夫」
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ) 「石松代参」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)           「生徒と先生/部長の娘」
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)              「猫の災難」

いよいよ17年ぶりの四横綱時代が幕を開けました。17年前も今回も、人気の理由は共通項が多いのです。勢いのある若手と個性的な平幕、それぞれ特徴が強い横綱。どこを切り取っても面白い。落語も相撲同様ブームと言われるほどの人気です。相撲人気の法則がそっくりそのまま当てはまります。今回はまさにそんな回。個性のぶつかり合いでした。

鶴竜×金原亭馬久さん
「素人義太夫」



  • 金原亭馬久さん

    金原亭馬久さん


 笑うと可愛い鶴竜。ただ、土俵では下がった眉毛がなんとも頼りなく、こちらの心の準備ができぬ間に横綱になった印象でした。特に好きも嫌いも思っていませんでしたが、相手は横綱だし仕方ない。まぁ敬意を払ってちゃんと取組見始めました。そしたらね…。今までの無礼を土下座して謝りたいくらい相撲が上手いのです。速さや土俵際の粘り、投げのタイミング、そりゃ横綱以外に鶴竜の地位はない。
しぶらく初登場の馬久さん。ずっと出たかったそうで、そんな緊張感がひしひしと伝わってきました。馬久さんを見るのが初めてだったので、この緊張感大丈夫か⁈落語できるか⁈とソワソワしてしまいました。でも、マクラの中で義太夫の大袈裟な笑い方をやってみせると、えぇぇ…普通にすごい実力者じゃん…と衝撃を受けました。偉そうに「緊張してて大丈夫かしら⁈」なんて思った私を誰か殴って下さい。
そうな若干の放心状態で聴いたのが「素人義太夫」。ジャイアンのリサイタルのくだりはこの噺が元になっているのではないかと思うようなストーリーです。モンゴル人という事を忘れさせるような流暢な鶴竜のインタビューのように、馬久さんが若手なのを忘れる貫禄。これを機会にぜひずっと見続けたいと思いました。

白鵬×玉川太福さん
「石松代参」



  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠


国技館で相撲を見ていると、外国人の観客に解説をする機会があるのですが、だいたい皆さん相撲の予備知識はほとんど無いにも関わらず、白鵬だけは知っているのです。それもそのはず、横綱在位もほぼ10年で、大相撲界の低迷期を一人横綱として支えた大横綱ですもの。それだけの大横綱は、客席がヒートアップして訳わからない状態になっている取組ですら、冷静に策を練りながら相撲を取っているのです。
落語は高座から客席の様子を汲み取ってネタを決めることが普通だそうで、浪曲のネタ選びは不勉強で分からないのですが、客席への観察眼は浪曲も同じなようです。太福さんは噺の中の絶妙なところでしっかり笑わせてきます。パッと見は気持ち良さそうに唸っているのですが、経験値と観察眼でこの絶妙加減が出せるんだと思います。清水の次郎長の子分のネタで、どれだけ笑わされても、噺の格好良さはそのままです。
たまに相撲に興味の無い人をうまいこと騙して国技館に誘いこむのですが、だいたいは白鵬の迫力とオーラに圧倒され、相撲の面白さに目覚めてくれます。まさに同じような感覚で、元々浪曲には興味がなかったのですが、シブラクに来るようになって面白さに目覚めました。初めて白鵬を生で見た感覚を思い出すほどの迫力に震えます。圧倒されるって大事な感覚です。

日馬富士×春風亭昇々さん
「先生と生徒」「部長の娘」



  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん


日馬富士の体重は136キロ。千代の富士の現役時代よりは重いものの、平均体重165キロとも言われる現代ではものすごく軽いのですが、それを補う武器は土俵入りのせり上がりに見られる足腰の強さと、突き刺さるような驚異の立ち合いの速さです。千代の富士、若乃花に続き、四横綱時代を盛り立てるのはいつでも小柄な業師なのです。
年齢より若く見える昇々さんと年齢より貫禄たっぷりの日馬富士、このお二方は同い年。年齢だけでなく、立ち合いのスピードも両者の共通点です。高座に上がってお辞儀をし、顔を上げた瞬間にはもう前ミツを取るかの如く昇々ワールドのマクラが始まります。スポットライトに当たらない人を主役にした噺をやると言ってこの日は二席、「先生と生徒」と「部長の娘」。どちらも主人公は変な奴なのですが、胸を張ってリア充と自称できる者のみがこいつらを嗤え。「先生と生徒」の中で、生徒の仲間はずれを訴えるエピソードは昇々さんの実話だそうで、かなり切なくなるんですが、人付き合いに苦手意識があれば多かれ少なかれあるあるネタが入っているのでスカっとします。
小柄でも横綱になった日馬富士と、人付き合いが下手だったかもしれないけど高座で人気者の昇々さん。二人ともほんと観ていて気持ちがいいのです。

稀勢の里×橘家文蔵師匠
「猫の災難」



  • 橘家文蔵師匠

    橘家文蔵師匠


世界で一番美味い酒は何だろうか。本場所で優勝したときの祝賀会で大銀杯で飲む酒ではないでしょうか。なかなか場所中には見られないいい笑顔でギュっと杯を傾けます。そこまで見ないと本場所は終わらないのです。特に、先場所の稀勢の里。何度もあと一歩で優勝を逃してましたが、逃せば逃すほどに期待が高まります。その期待が絶頂にまで達した時の優勝。稀勢の里ご本人も美酒だったでしょうが、その美味そうに飲む稀勢の里を見ながら飲む缶ビールもまた、美味かったのです。
「猫の災難」は、酒癖の悪い奴が自分のしでかした事を全部猫のせいにする、良い具合にダメ人間の噺です。でもそんなダメな奴も、文蔵師匠にかかれば憎めない。まぁ酒飲む仕草の美味そうなこと、幕内優勝の銀杯の如し。こんなに美味そうに酒を飲まれたら、酒を独り占めされてもついつい許せてしまうのです。騙される兄貴分も、罪をなすりつけられた猫も、仕方ねぇな…となるんでしょう。私なら、確実になります。
強面の文蔵師匠ですが、酔った姿がとにかく可愛い。猫言葉を喋られ萌え殺されました。ギャップ萌え。寡黙な印象の稀勢の里の、万遍の笑みの楽しそうなオフショットを見たときくらい萌えます。はっきり言ってやばいです。3日分くらいは他の萌えやトキメキの補充は不要です。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」3/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ