渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 3月10日(金)~14日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
圓太郎師匠 VS 馬石師匠。
ひとつひとつの落語を身体に沁み込ませるように自分のものにしている二人。持ちネタの豊富さでも有名です。
そんなベテランふたりの間に、鯉斗さん、昇々さんという二つ目が存在感を発揮する。
▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。
元・名古屋の暴走族総長。バイト先の居酒屋で鯉昇師匠に衝撃を受けて、入門。インスタグラムをやっていて、そこでは甥っ子の想太郎さん(2歳)と楽しそうにしている写真多数。ラジオ番組の企画で、島田秀平さんに手相をみてもらう。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴35年目、1997年3月真打ち昇進。高校までラグビーをやり、現在もトライアスロンをやる熱血男。オヤジの小言マシーンぶりはは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。私服のトレーナーが毎回可愛い。独演会「圓太郎ばなし」「圓太郎商店」シリーズがライフワーク。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。
LINEのキャラクターの「ブラウン」のぬいぐるみを抱きしめている写真がかわいい。Youtubeで「アバンギャルド昇々」というチャンネルを立ち上げ、自作の曲をアップしている。狂気と愛嬌の絶妙なバランス。
▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴24年目、2007年3月真打昇進。手が意外とごつごつしているが、指が長く綺麗で、みとれてしまう人多数。
東京ポッド許可局を認知していて、「ラジオやってますよね? あの、三人でグダグダしゃべってるやつ」と認識されている。
レビュー
3月12日(日)14時-16時「渋谷らくご」
瀧川鯉斗(たきがわ こいと) 「蜘蛛駕籠」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう) 「唖の釣り」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう) 「お面接/最終試験」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき) 「幾代餅」
私が落語を聴くようになったきっかけは、昨年の夏、渋谷らくごのポッドキャスト「まくら」でした。
そして「渋谷らくご」という落語会の存在を知りました。しかしながら、渋谷という土地が自分の生活圏外ということもあり、「行ってみたいけど、なんとなく億劫」と、初来訪までに5ヶ月がかかりました。
ところが、一度足を踏み入れると、その空間の心地良さがクセになり、気付けば月に一度は足を運んでいます。
渋谷らくごは、「おひとり様」でも「落語初心者」でも、まったく気兼ねする必要がないから心地良い。
会場であるユーロライブは元映画館を改装したとのことですが、まさに映画を見に行く感覚で会場に入ることが出来ます。
座席がゆったりとしていて、前の人の頭で高座が見えないなんてこともない。
また、規模が大きすぎないので、後方の席に座っても充分噺家さんの表情を楽しむことが出来ます。
「渋谷らくご」のもう一つの魅力は、お目当ての二つ目さんを見に行ったつもりが、ベテラン師匠の落語に触れることもできたりと、少しずつ自分の世界が広がっていくところです。
そして、この日も圓太郎師匠と馬石師匠という素敵な真打との出会いがありました。
瀧川鯉斗さん
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瀧川鯉斗さん
まくらの中で、暴走族は時間厳守で行動するため、入門してからご自身の師匠にも褒められたと、お客さんの笑いを誘っていましたが、先輩や師匠がたからの人望も厚そうだなぁと思いました。
この後の圓太郎師匠のまくらでもいじられていますが、鯉斗さんは決して「達者」とは表現出来ません(すみません…)。
特にまくらは危なっかしい(笑)。お客さんも笑っていいのか不安がったり、「ん?」と首をかしげる一面も。
その場のお客さんの顔ぶれや雰囲気を見て、お客さんに寄り添うまくらを目指されているのでしょうか??もっとご自身の価値を信じて、自由に暴れてしまってもいいのではないでしょうか。
と、これは私の勝手な想像に基づく意見ですので、見当違いだったら申し訳ないです。
しかし、鯉斗さんからは落語に惚れ込んでいるんだろうなぁということが伝わってきます。だから、ヒヤヒヤしながらも、見守るように集中して見入ってしまう。元暴走族総長を見守る自分(笑)。
本編が始まると、まくらでの穏やかで静かな口調が一変。チャキチャキの落語口調に切り替わります。この日は駕籠屋の主人公の前に珍客が次々と現れる噺で、歌う客あれば踊る客もありで、テンポ良く最後まで楽しませてもらいました。
橘家圓太郎師匠
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橘家圓太郎師匠
出番がイケメンの鯉斗さん、昇々さんに挟まれて心外のご様子。背骨と背骨の間の軟骨にご自身を例え、クッションの役割の重要性を力説することでお客さんの笑いを誘います。
それから衝撃的だったのが、鯉斗さんの落語をさらっと下手呼ばわり。鯉斗さんには申し訳ないですが、会場には笑いと拍手が少々。これ、ただの中傷ではなく、圓太郎師匠から鯉斗さんへの愛情を感じるからこそ、お客さんも気まずさを感じずに笑える。鯉斗さんがまだ袖にいらっしゃったら、苦笑いしながら聞いているかな~なんて微笑ましく想像しました。
この日初めて渋谷らくごを訪れたお客さんも多かったようですが、まくらだけですっかり圓太郎師匠に心を掴まれ、会場に笑いの一体感が生まれました。
本編でも、エネルギッシュな圓太郎師匠の面白さに衝撃を受けました。
「唖の釣り」に登場する与太郎は絵に描いたような粗忽者。バカ。バカ。小賢しい。でもやっぱりバカ。たまにズル賢い一面を挟むところが憎めない。しかし、この男は主役ではない。七兵衛を立たせる脇役なのだ。
殺生禁断の池で夜な夜な鯉釣りをしていた主人公の七兵衛。その秘密を漏らしてしまったものだから、粗忽者の与太郎を夜釣りのお供に連れて行くハメに。与太郎がしくじり、七兵衛も見回りの役人に見つかってしまう。与太郎が先に見つかって、仕込んでおいた言い訳を使ってしまったはずだから、自分は何と弁解したらよいものか。気が動転し、緊張からか舌が痙攣して言葉を発せない。
「うぃーうぃーうぃー」と奇声を発しながら、ボディーランゲージで熱演される圓太郎師匠に会場一堂爆笑の渦でした。とても痛快な1席でした。
ちなみにこの場面、後から出てくる昇々さんが袖で待機している時、音しか聞こえないため、何が繰り広げられているのか不思議だったとおっしゃっていました。
春風亭昇々さん
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春風亭昇々さん
「お面接」は昇々落語の中でも大好きな噺です。小学校のお受験を控えたゆうた君が主人公。目にゴミが入り痛くて、「ママ、おめめが開かない」と言って始まります。ママから「おめめをパチパチしたらいいんじゃないの?」とアドバイスを受けて、目を手でパチパチ叩いてしまうシーンが可愛らしくて大好きです。
今回の「お面接」はいつもよりテンポが速いなと思いながら見ていたら、終了後、「リクエストにお応えして」ともう1席、「最終試験」を披露してくれました。
「お面接」は可愛らしい男の子が主人公なのに対して、こちらは最終面接で緊張がピークに達し壊れてしまった大学生が主人公。高座の上で完全に横になり、狂った演技をする昇々さんはエキセントリック。狂人以外の何ものでもない。
昇々さんの落語を拝見して毎回驚かされるのは、まくらも作品として完成度が高いこと。それから、同じ演目を何度見ても毎回どこかがバージョンアップされていたり、今回のように時間配分に応じて演出を変えたりと、進化を止めないところです。自らの芸に対する飽くなき探究心、ストイックさが昇々さんの魅力です。
お客さんの笑い声に化学反応し、時間の経過につれて増々自由にご自身の落語を楽しむ昇々さん。そしてそんな昇々さんの落語を心から楽しむお客さん。双方が相思相愛でとても気持ちの良いひと時でした。
隅田川馬石師匠
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隅田川馬石師匠
まくらは短めに、すぐに本編が始まると、なんともお上品な落語。特に女性を表現するお声の美しさにうっとり。途中くすぐりもあるものの、お客さんは無言で馬石師匠の世界に夢中になっている様子。
「幾代餅」は主人公の清蔵が、花魁である幾代太夫の錦絵に一目惚れし恋患いをしてしまう噺。恋の病でお粥も喉を通らない弱々しい清蔵。1年働いて貯めたお金を全部叩いて愛しい花魁に会いに行く健気な清蔵。そんな清蔵がやっと恋い焦がれた花魁との対面を果たし、一緒になる約束まで交わして帰ってくると、なんと粗忽者キャラに一変。幾代太夫と再開する予定の3月のことで頭がいっぱいに。「3月、3月」と繰り返すあまり、あだ名がすっかり「3月」に。何はともあれ、最後はハッピーエンドで良かった。
この日初めて拝見するまで馬石師匠がどんな方か存じ上げませんでしたが、圓太郎師匠と昇々さんの笑いでヒートアップした会場に、上品で落ち着いた雰囲気を纏って登場し、一瞬でご自身の世界観に塗り替えてしまう。単純に、凄い方だなと思いました。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」3/12 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ