渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 7月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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7月16日(日)14:00~16:00 立川吉笑 柳亭小痴楽 春風亭百栄 入船亭扇里

「渋谷らくご」 カオスを味わう

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プレビュー

寄席をコース料理とするならば、渋谷らくごはワンプレーとのディッシュ料理です。4種類のおいしい料理が出てくるお皿みたいな感じ。
とはいえ、食い合わせは考えているのですが、今回はタイ料理と和食と創作フレンチとおかゆみたいな、カオスな落語会です。
なにが出るかわかっている料理を食べて味を確認するよりも、こういうどうなるかわからない、闇鍋みたいな会に足を運ぶのが楽しみを知ってもらえたらうれしいです。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。2015年末『現在落語論』を出版。音楽番組の司会をつとめる。最近ウェブページがリニューアルされて、素敵なデザインになっている。先月念願の作業場を借りたとのことで、いま吉笑さんのツイッターでは、その作業場の設備を充実させていく様子が公開されている。この作業場でどのような落語が生み出されるか楽しみです。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴12年目、2009年11月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。最近お引っ越しされたとのことで、ご自宅にはセキセイインコを飼っている。名前は「福助」さん。この時期は日差しがつよいとのことで、サングラスをされるが、ものすごい似合っている。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。静岡県静岡市出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。次郎長とさくらももこ先生と昇太師匠とおなじ地元。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴21年目、2010年真打ち昇進。趣味は競馬と野球観戦。絵本作家。熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン現在、扇里師匠が球場に行くとベイズターズが勝つ確率は7割5分。渋谷らくごのポッドキャストから「扇里ファン」が急増中。
笑わせる気がないんじゃないんです。聴かせる気があるんです。結果、笑いがついてくればいいんです。それがわかります、師匠の落語を聴いていると。そんな不思議体験をしてもらいたいです。笑うためだけだったら、お笑いライブに行きゃいいんです。

レビュー

文:えり Twitter:@eritasu30歳 女性 事務職 最近の目標:浴衣で寄席に行く

7月16日(日)14時~16時「渋谷らくご」
立川 吉笑(たてかわ きっしょう)「明晰夢」
柳亭 小痴楽(りゅうてい こちらく)「岸柳島」
春風亭 百栄(しゅんぷうてい ももえ)「ロシアンブルー」
入船亭 扇里(いりふねてい せんり)「寝床」


真夏の昼の夢


  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

まくらから既に仕掛けられています。平日昼の落語会で常連さんとの連携プレーがキマる爆笑まくら、本編に入りそうで入らないフェイント。言葉の終わりの「~なんだ」「~なわけだ」という書き言葉っぽい口調も印象的。すごい勢いで流れるように出てくる言葉の数々。ソーゾーシーのwebサイトに掲載されていた“吉笑×母”の対談の「最初は言葉が早くて聞き取り難かった」というお母さんの率直な感想を思い出します。その早口が癖になってくるのです。今日の噺は「明晰夢」私はこの噺が大好きです。古典落語の世界観で登場人物二人が寄席に落語を聴きに行くのですが、この後予想外の展開が待ち受け、さらに落語という枠を飛び出す展開に。いわゆる劇中劇、“メタ”的な表現の物語ですが設定自体はシンプルでわかりやすいです。吉笑さんが口演するとサクサク進んで理系っぽい感じに。海外ドラマ『シャーロック』の推理シーンのような爽快感があります。お二人のファンとしては少し切なく、とても嬉しいです。エモい。



  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

出囃子が鳴り、舞台袖で吉笑さんとすれ違っているであろうタイミングで「むずかしーよ!」と小痴楽さんの声が聞こえてきて思わずニヤニヤ。私は古典落語に出てくる昔の言葉や「宵越しの天ぷらーあげっぱなしー」の方が難しいような気がしますが、小痴楽さんにとってはその方が身近なのかもしれません。まくらでも、しっこし(引っ越し)、ちりし(ちり紙)などの言葉がごく当たり前のように出てきて素敵。酔った吉笑さんになぜか全力疾走させられて「兄さんの走ってる姿を見たかった」と言われたというエピソードはなるほど納得。たしかに走る姿、見てみたい。小痴楽さんの岸柳島は何度か拝聴していますが今回はまた格別でした。声に張りがあって威勢がよく、テンポも間も表情も絶妙でとても良い感じ。岸に取り残された侍に向かって、ここぞとばかりに調子に乗ってからかう町人たちの場面は雰囲気ぴったりで、毎回楽しみにしている聴きどころです。



  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

「吉笑さんの噺を聴いて以前やっていた噺を思い出したので、うろ覚えですがやってみます」と急遽噺を変更。イレギュラーな感じと、ちょっと変わった噺なんだろうなぁという期待で高まります。物語の始まりはなんと、主人公がシブラクに行こうとする場面から。突然のリアルな設定に驚き、引き込まれます。遅刻してでもどうにか行きたいと思っているのにさまざまな困難に襲われる主人公。細かいセリフ一つ一つが妙におかしくて、つい笑ってしまいます。百栄師匠の大好きなねこも登場します。主人公の心の声を聴いているうちに、段々と気持ちが真逆に変化していく様子にドキドキ。上がったり下がったり、人間の裏の顔が見えてジメっとしそうな場面もありましたが、最終的には百栄師匠の手腕でまるっと収めて、ちゃんと元の楽しい場所に帰してくれるのでした。両手を広げて最後の一言、ホッと安堵して顔が緩みました。



  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

柔らかい空気を纏って、一定のリズムを保っている感じが印象的な扇里師匠。ときおり見せるニカッと明るい笑顔も素敵です。勝手ながら「寝床」は頑固でふてぶてしそうな旦那という感じがしていて、扇里師匠の雰囲気とは離れた印象でした。でも聴いてみればこれがとても魅力的な旦那なのです。もちろん頑固なところもありますが、素直で嫌味がない。義太夫の会のお客さん(長屋の人々)のためにいそいそと料理や飲み物の準備を指示するときの嬉しそうな様子や、へそを曲げていたのにおだてられて段々ご機嫌になっていく様子がなんともかわいらしい。どんなに義太夫が聴くに耐えない声でも、こんな旦那なら無理して聴きに行くかもなぁと思いました。扇里師匠の語り口は重たい感じがしないので、疲れているときにも聴きたくなります。心を軽―くしたいときに聴きたい。暑い日でしたが、さっぱりと涼やかな気分になりました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ