渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 7月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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7月17日(月)14:00~16:00 春風亭昇々 入船亭扇辰 立川左談次 入船亭扇遊

「渋谷らくご」 純米大吟醸落語会

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プレビュー

純米大吟醸は下戸でも飲める。これが私の持論です。
落語に触れたことはない。あるいはいままで苦手だと思っていた。そんな人でも圧倒的な「本物」に触れれば、苦手意識はなくなります。
すべてがわかる必要はないんです。ホンモノが醸し出す空気に触れた感触を、体験するだけでいいんです。
この回の出演者は間違いないです。抗がん剤治療で闘病中の左談次師匠、扇遊師匠とは久しぶりの競演です。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2016年「渋谷らくご大賞」受賞。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。オリジナル楽曲「トロピカルストロー」「そばロック」が公開されている。この2曲は、TBSラジオの昇々さんの冠番組「春風亭昇々の青春ジャングルジム」で電波にのるという快挙が達成された。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。
最近、iPadを駆使している。読書量がすごい。ご自宅の本棚には、たくさんの本と落語の資料がいっぱい。お酒が大好きだとのことで、とにかく召し上がられる。新幹線の中では、ハイボールを飲んでしまうとのこと。二日酔いはポカリスエットで治す。ピアノからギターまで演奏される。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴50年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、病院に出たり入ったり。その様子がツイッターにアップされており、痛々しいというよりは、ほほえましい。最近視力検査をすると、左眼右眼とも視力が回復しているとのこと。左眼1.0で右眼が1.2。目が良い。今月の東京かわら版では、30年ぶりに巻頭インタビューをうけられる。談志の弟子として、「立川」という亭号ではじめて真打になった人物。多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。

▽入船亭扇遊 いりふねてい せんゆう
19歳で入船亭扇橋師匠に入門、芸歴45年目、1985年真打ち昇進。喜多八師匠の盟友で、毎晩のようにお酒の席で喜多八師匠と芸論をかわしていた。扇遊師匠の「軽く飲みに行こうか」は4時間コースとのこと。現在落語協会理事。入船亭一門の総帥。携帯電話は持たない主義。ユーロライブの近くにご自宅があるため、歩いて楽屋入りされる。渋谷を歩いている扇遊師匠の姿もカッコイイ。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 趣味:力士の出身地探訪 特技:紅のギター弾けます

7月17日(月祝)14時-16時「渋谷らくご」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう) 「雑俳」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ) 「茄子娘」
立川左談次(たてかわ さだんじ) 「反対車 快楽亭ブラックバージョン」
入船亭扇遊(いりふねてい せんゆう) 「棒鱈」

「鹿鳴館と落語の意外なカンケイ」


ロックの聖地、泣く子も黙る目黒鹿鳴館。だけど、ライブハウスなのに座席があるのがずっと謎でした。邪魔と言えば邪魔だけど、頭を振るときにはこれがまたいい支えだったりもするんです。ふと10代の頃のバンド追っかけ時代を思い出し、鹿鳴館で落語会とかやったら面白そうなのになぁ〜と思ったら、すでに数年前にあの座席は撤去されていたのでした。
鹿鳴館ができる前は、なんと寄席。元々映画館だったのを買い取って「目黒名人会」なる寄席を開たのが、なんと談志師匠。なんてとこで私は頭を振っていたんだ…。

春風亭昇々さん「雑俳」

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

 鹿鳴館でライブをしていた中で代表的なバンドはXではないでしょうか。今や世界をも揺るがす大物中の大物ですが、テレビ初登場は「元気が出るテレビ」のヘビメタシリーズ。鹿鳴館で演奏してた頃だと思うのですが、バラエティーでも手加減無し。その本気具合は清々しい。全力フルスロットルなのは昇々さんも同じ。座布団の上で頭を上げた瞬間から問答無用に攻めてきます。
 たまにローディーで弟子っぽいことはしますが、基本的に弟子入り文化のないバンド界。ロックに目覚めるきっかけになったアーティストが、師匠のような存在に近いかと。曲やビジュアル、スピリットも少なからず師匠的なアーティストから影響を受けますが、Xにはベートーベンやバッハなんてクラシックの大師匠もいて、イントロに「月光ソナタ」や「小フーガ」が使われていたりしますが、完全にXの世界に取り込まれています。この「雑俳」ですが、柳昇一門で受け継がれてる噺だとどこかの機会に聞いて、録音ですが柳昇師匠と昇太師匠のを聴いてみたことがありましたが、ほんのり受け継いだエッセンスを感じつつ、手加減なくぶつかってくる感じの昇々さんの雑俳。普段なんとなく思い描いている落語の世界には昇々さんみたいな人はいないのですが、あの江戸の町に違和感を感じさせる間すら与えない問答無用さ。まさにヘビメタシリーズの時のXのような存在です。この噺の中では八っさんが風流をよくわからず俳句を読んでいる描写が出ますが、昇々さん版八っさんは、風流を超えた前衛俳句な気がしてきます。どうっしようもないな、と八っさんを嗤うのではく、新しいジャンルの芸術性に触れた時のような、ぽかーんとする感じが近いかと。新しいイメージの八っさん、もう何句か詠んで俳句集出してほしい。前衛俳人だもの。初回限定版買うし、インストアイベントも行きたい。

入船亭扇辰師匠「茄子娘」

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

そんなXですが、とにかく喋りが立つ。ロックバンドのトークは何言ってるのかよくわからん人達が多いなか、Xはふつうに笑わせにきます。物心ついた頃のXは拠点をアメリカに移しており、他のアーティストとは一線を画してちょっと取っ付きづらいイメージでしたが、音楽番組でのトークが気さくで面白く、曲の綺麗さとのギャップにハマりました。
扇辰師匠のポジションが若手という、この回は信じられないくらいの豪華な出演陣です。扇辰師匠はシュっとしたイメージだったので、ときめきはしても萌えはしないと思ってました。マクラが結構雑談ぽいなぁと聴いていたら、まだ左談次師匠も扇遊師匠も会場入りしていないらしく、すっごく困った顔をしていました。 両師匠暑さでやられてませんようにと祈りつつも、困った顔の扇辰師匠が妙に可愛いのです。そんなギャップ萌えを抱かせつつも、やはり本編に入れば圧巻です。「茄子娘」は夏らしいちょっと色っぽいファンタジーなお噺でした。ロン毛にドレス時代も今も、YOSHIKIの美しさったらなかったですが、扇辰師匠の女役もゾクゾクするほど色っぽい。だてに私も女やって約30年ですがね、この50代男性のお二方の女性的な色気と美しさには勝負にならないのです。「Silent Jealousy」は静・激・明・悲が綺麗に混じり合った曲ですが、素朴に暮らすお坊さんが色に狂い、反省して修行をし直す心情や情景な移り変わりは、この曲のようにメロディアスに展開しました。暗い内容の曲が多いのに鬱にさせてこないのはYOSHIKIの破天荒さとToshIの芯のある声によるように、エッチな場面もヤらしくならず、綺麗さにドキドキするのは扇辰師匠の品の良さなのかもしれません。綺麗なドキドキ、まさに夏ですね。

立川左談次師匠「反対俥」

  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

Xの曲の中で一際ポップなのがHIDE作の楽曲。ちゃんとロックしてるのにアソビの部分も残してて、ピリっとしたスパイスが効いている。左談次師匠の好きなところは、そんなXの曲にも通じるピリっとした軽さと、人生の大先輩なのに母性をくすぐってくるイタズラ小僧のような笑い顔です。
どうしても体調大丈夫かしら…と心配になりますが、視力が良くなった事と睫毛が黒くなった事をあの軽い口調で言われ、師匠自ら心配を蹴散らせてくれました。で、反対俥やりますと。快楽亭ブラック師匠バージョンと。一体どんなものなのかと思ったら、ブラック師匠バージョンは演芸番組の中で噺が進んでいくようです。番組内の解説と司会のやり取りがとにかく辛口でエッジが効いています。ではご覧くださいとばかりに本編が始まるのですが、この反対俥…とにかく全力すぎるのです。師匠の疲れっぷりもすごいですが、観てるこちらもものすごーく疲れるのです。この会場全体が息が上がってる感じ、まさにXのライブです。YOSHIKIの超高速ツーバスと、それに合わせて首を振る観客の一体感。落語は静かに座って聴くと思ったら大間違えです。ヘドバンと同じだけの爽快感があります。「サゲに無理がある。そのままやるなら左談次の了見を疑う。」とさんざん冒頭の演芸番組パートで言っていたのに、さんざんコキ下ろしたサゲをそのままきっちりやってかなりロックでパンクでした。
ちなみに「目黒名人会」とググると一番最初にあがってくるのが、左談次師匠のTwitter投稿です。やっぱり談志師匠のお弟子さんってことはよく出演してたのだろうか…。あまり情報がないので詳しく調べられなかったのですが、妙なご縁を感じてしまいます。時代やジャンルやハコの営業形態は様々でも、あのステージに上がっていた人達は魅力的。

入船亭扇遊師匠「棒鱈」

  • 入船亭扇遊師匠

    入船亭扇遊師匠

色々曲はあるものの、やっぱりXと言えば「紅」でしょう。30年近く前のメジャーデビューシングル曲なのに高校野球のブラスバンド曲でもよく耳にします。昨年末の紅白で多分名実共に一番大物ったらXじゃないかと思うのに、ゴジラ退治もしちゃうしメジャーデビュー曲演っちゃうし、定番の「紅だぁー‼︎」のToshIの雄叫びは圧巻だし、若いアーティストに対しての貫禄の見せ方がやばかった。若い奴は〜で始まる口うるさそい文句って、カチンとくる時と妙に心地良いときとありませんか?多分若い頃多少悪さをしてそうで、圧倒的な格好良さの方に言われるのは、大抵気持ち良いパンチ喰らう感じ。もっと打ってほしい。マクラで若者の言葉に苦言を呈してられましたが、なんだこの心地良さは…。扇遊師匠を観るのは今回が初めてなのですが、落語の中の親分感をビシビシ感じました。普段口うるさくても、一番頼りになるのは扇遊師匠みたいな親分でしょう。懐の広さとそして、気がついたら若者言葉をやいのやいの言ってしまうお年頃になってしまったので、どうしたら煙たがられないか勉強になりましたが、せせこましい性分の自分には到底無理だなぁ…。
「棒鱈」は落語の世界のキャラの精鋭たちが登場する噺だと思います。酒癖が悪く喧嘩っ早い江戸っ子と、ちょっぴり不粋な田舎の侍と、調子のいい芸者さん。色々な境遇や個性を持った人が集まってくるのがライブハウスで、そこから強烈な個性と技術を持った人が集まってXになり伝説が今でも続いてるのですが、落語のなかで色々な身分が集まるのは遊廓やお座敷、料亭になるんでしょうか。ライブを観てキャアキャア楽しむように、棒鱈の喧嘩に首を突っ込んでやいのやいのやりたくなる一席です。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/17 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ