渋谷らくごプレビュー&レビュー
2017年 7月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
落語ってなに? 講談ってなに? 浪曲ってなに?
ジャンルから勉強して、演者を覚えて、演目を覚えて、なんていう「お勉強」はもうやめましょう。
とにかく「玉川太福」を生で聴いてください。浪曲とはなにか、その後に考えても遅くありません。
抜群の古典解釈の笑二さん、どう転がってっも楽しませてくれる文蔵師匠、小助六師匠はトリがやりやすい空気感で仕事をしてくれます。最後まで見どころしかない!
▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴7年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家、兄弟子の吉笑さんによると焼肉屋さんで「なすの煮浸し」を金網で焼こうとしたらしい天然エピソードをもつ。公園でお稽古をしているとのことで、「落語家さん?」と聴かれると「○○大学の落研です」と答えるらしい。楽屋入りが早い。
▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近のされたお料理は「牛タンシチュー」とのこと。ホッピーと焼きトンが好き。日本で一番顔が怖い三代目。先日、自転車に乗っていた時軽自動車が突っ込んできたが、無傷だった。事故の後遺症は、お腹がすぐに空いてしまうとのこと。
▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴18年目、2013年5月真打ち昇進。楽屋入りは必ずスーツで、早めに楽屋入り。後輩の高座に耳を傾けてそっとアドバイスをしている。そんなこともあり、後輩から慕われ、また甘えられている。11歳の時に落語家になるということを漠然と考えていたらしい。カールを毎日1袋ほど食べていたとのことで、先日ショックを受けられていた。猫にマッシグラ。猫アレルギー。
▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。
「わかりやすい浪曲」を目指して日々奮闘中。大学までラグビーを続けていた熱血漢。2015年「渋谷らくご創作らくご大賞」を受賞。疲れたときは、ニンニク注射をしてスタミナを回復する。新幹線に乗ると、条件反射でシュウマイ弁当を買ってしまうらしい。
レビュー
「渋谷らくご」
立川笑二(たてかわ しょうじ)-青菜
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-試し酒
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)-猫忠
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-地べたの二人〜10年&道案内〜
立川笑二-青菜
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立川笑二さん
噺は「青菜」。暑い夏の定番の噺だからこそ、笑二さんらしさが覗く瞬間が面白い。噺のしょっぱなからやられたって思ったのが、植木屋・八五郎のマイワールド感。「あちぃ」と全然仕事のやる気のない八五郎に、「ご精が出ますなぁ」と話しかける旦那。暑さのせいか全く旦那に気づかない八五郎。繰り返し一生懸命に話しかける旦那に、ようやく気づいて焦りだす八五郎。何故全然気づかない?なんでそんなに一生懸命なの?と、二人の会話にどんどん気持ちが引き寄せられていくのです。
旦那のお誘いでお酒をごちそうになる八五郎。流れの中でさりげなく、いい酒を美味しそうに飲む八五郎。この辺のサラリとした雰囲気が、なんだか夏の暑さを和らげてくれる気がします。八五郎に青菜をごちそうしようとし、なかったと気づいた時の旦那と奥様の会話――この家での隠し言葉を聞いた時の八五郎の反応がいい。隠し言葉の意味が分かっていない八五郎の「牛若さんはいつくるんですかね」という言葉に、再び隠し言葉について説明をする旦那。なのに「そろそろ牛若さんがいらっしゃる」「ずーっと牛若さんがいらっしゃるという」と全く要領を得ない返答に、とうとう途方に暮れる旦那。本当のところ、八五郎が会話のどこからちゃんとわかっていたのかしら。旦那をからかって、いやただ会話を楽しんでいたような……。笑二さんの八五郎、侮りがたし。またうまいこと隠し言葉を使ってみようとして失敗している八五郎も好き。素っぽい感じ。それから旦那と奥様の様子を思い出しながら、「二人してどこかで稽古してたんだよ。暇なのかー?」と考えてるところもいいなあ。立派な旦那と奥様が間抜けな稽古をしている姿を想像しておかしくなってしまうのです。
八五郎のおかみさんは、口は悪いが素直なところが好き。「あにおー!」と大分ガラの悪い感じや、また売り言葉に買い言葉で「言えるよっ」と言うような強さ、女ながらにケツをまくるきっぷがいい人なのに、”八五郎さんの奥さま”と呼ばれるようになると言われ、まんざらでもない表情を浮かべたり素直に押し入れに入っていくところが可愛らしい。八五郎のおおらかな愛もあるし。こういう旦那さんいい(笑)。
友人が青菜が食べられない理由も現代的でなるほどと思った。食べさせるわけにはいかないとわかっていて、でもどうしても隠し言葉を言いたい八五郎が、困り切ってるくせに無理矢理青菜を出そうとするのがおかしい。笑二さんの八五郎がどこまでも我が道を行こうとし、それに周りの人たちが次々に巻き込まれていく。台風の目のような八五郎ととりまく人々という構図が見えたのが、私には新しくて楽しい「青菜」でした。
橘家文蔵-試し酒
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橘家文蔵師匠
観ながらずっとお酒を飲みたいなぁと思ってました。だって久蔵が本当に美味しいそうに飲むんだもの。単純な私です。お酒を一升飲むってだけで自分に置き換えたらとんでもない話。だけれど久蔵が2杯目を飲み始めて、美味しさに気づくところ、また気づいて飲み方が変わるところがいいんです。いい酒だなって思う。大きな杯でお酒を飲むシーンがやたらに長いのも、あんな音を立てながら飲み込むのも、きっと文蔵師匠がお酒を好きだから。女中さんが杯にお酒を注いでいるところ、杯の大きさ、お酒の重み、なみなみと入ったお酒が揺れるのが見える気がしました。お酒が好きな人は観たら絶対飲みたくなったろうし、文蔵師匠のお酒に対するこだわりを感じたと思う。それ位に美味しそうで、飲むのが楽しそう。唇の湿った感じ、のどごし、いいお酒を結構なペースで飲んでいく姿。一度くらい、大きめの杯で私も飲んでみようかしらって思いますね。
一升入る大杯の3杯目にして、ようやく久蔵が徐々に酔ってきた。笑い声が大きくなったり、開けっ広げな雰囲気が出てくる。久蔵の「あの酒は大したことねぇ」「よっぽど悪党だ」なんて冗談なども、久蔵の意外な博識さを思わせると共に、酒に対するこだわりを感じさせます。酒に関する話をするのも楽しいんだろうな。普段どんな人とお酒を飲んで、あんな知識を得たのかしら、なんて想像してしまいます。
ぞんざいな口のききかたをする久蔵だけど、ただガサツなだけじゃなくて冗談を言って主人や女中をからかうところ、人間臭さが久蔵の魅力ですね。そうそう、口の下に手を丸めてあてる姿が可愛らしい。文蔵師匠がやるからこその可愛らしさもあるような気がします。手の丸め具合、手首の角度、身体全体から甘えた雰囲気が出てくる(笑)。コワモテだからこそ、なんか逆にギャップで可愛いらしさが際立つのかもしれません。はにかんだような顔も好きです。もしかして文蔵師匠は意外に甘えん坊……なのでしょうか?
雷門小助六-猫忠
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雷門小助六師匠
美人のお師匠に、下心見え見えで弟子入りしている六さんとじろさん。あわよくば師匠といい仲に……そんな”あわよかれん”の先達さんの六さんだから、師匠と常兄い(つねあにい)がいちゃついていると聞いては面白くない。じろさんによると”入れ違いの刺身”をやっているという。この”入れ違いの刺身”という言葉がまた楽しい。師匠が常兄いに刺身を食べさせ、常兄いが師匠に刺身を食べさせ……って、そりゃあ邪魔しにも行きたくなるでしょう。
六さんが、やきもち焼きの常兄いのおかみさんに、常兄いと師匠との仲を言おうと提案。じろさんはそういった話にうまく合いの手を入れられないよなんて言っておきながら、実際には口以上によく語る見事な手つきがいい。「だめだって、だめだって」と言いつつ、最初は手のひらを下に、上から下へと相手を落ち着かせる動きをしておきながら、途中から手のひらを上に変え、もっとやれーもっとやれーと動きで囃したてている。じろさんの手がさりげなく、でもしっかりあおっているのが楽しい。形だけは六さんを止めるフリという、このさじ加減が好きです。
上方の噺らしく、途中でお囃子の音楽もかかり華やかな印象。猫の動きもしなやかに。この噺はストーリー展開・場面展開が速く、また登場人物も多いけれど、それをサラリと品良く見せる小助六師匠。それぞれのキャクターの個性がわかりやすく、会話のやり取りも丁寧で、小助六師匠のきちっとした性格なのかなと思います。が、その中で気になるのはふと顔を出す、師匠の少しクセのありそうな何か(笑)。小助六師匠を初めて観たのが「擬宝珠」というアクの強い噺だったせいもあるかもしれませんけれども。うーん。小助六師匠のとぼけた感じや品のある雰囲気の中の、この曲者感が何なのか、ゆっくり探っていきたいですね。一人で落語を聴くのも楽しいけれど、こういう気持ちは誰かと話したいなぁ。他の人がどう受け取ったのか、独特の個性を感じる師匠だからこそ、次回はぜひ友人と分かち合ってみたいと思います。
玉川太福/玉川みね子-地べたの二人~10年&道案内~
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玉川太福さん・玉川みね子師匠
太福さんを含め、シブラクではおなじみの4人で構成されている、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」についてのお話から。第二回ソーゾーシーは8日間に渡り毎日WEBで様々な配信を行うそうで、かなり意欲的。そしてその最中のこの日。WEB配信の初日にお客様からサゲ(話の最後にくるオチの言葉)の案をいくつかもらい、その中から1つを選んで最終日にあたる公演の日に、この同じサゲで4人が新作をおろすというなんとも攻めの企画です。リアルタイムで新作づくりの進捗を公開することになっているけれど、この日の太福さんの弁によると、みんな全然アップしていないらしい(笑)。新作を8日間で作ってしまうというのに驚きます。一体全体どうなってしまうのか……。そうそう、DVDのもやもや話、太福さんの心境を垣間見れて嬉しかったです。太福さんにもそういう想いがあるということに、勝手に親近感を感じてました。少し切ない気持ちなのに、聴いてて笑っちゃうのはどうしてなのかしら。
本編は私の大好きな「地べたの二人」シリーズ。6作もあるそうで、しかも今回シブラクでは初となるお話を2作メドレー形式で。期待が高まります。場所は東京近郊のとある場所、よくありそうなグレーの作業着を着た同じ会社の同僚二人のお話。特別な人間ではなく、50代サイトウさん(サイトウの漢字は難しい方)と28歳のカナイくん、というどこにでもいそうな二人がいい。どうでもよさげなことを流せずに突っ込んで聞いてしまう、少々面倒な性格のサイトウさん、けれどどうも憎めない。今回初めて気づいたのは、サイトウさんのおちょぼ口(笑)。今更かよ!って突っ込まれそうですが、あの表情がキャラクターの雰囲気をより醸し出してますね。
会社に勤めて「まる、十年」のカナイくん。この”まる”だけでこれだけやり取りが続いてしまうのが凄いなあ。サイトウさんらしさ全開です。対するカナイくんの、あきらめにも似た、”まる”のお休みとか。いつもにましてどうでもいいことを語っています。くだらなくてふつうの日常過ぎて、けれどもそれがいい。このくだらなさを浪曲で節(ふし)と啖呵(たんか)で聴く。くだらないことがこんなにも盛り上がり、笑いに昇華されていく不思議。いつも思ってしまうのです、浪曲の三味線と節ってズルイ。現代のお話で親しみやすく、その描かれる世界に入りやすいからこそ、浪曲初心者にはぜひ聴いて欲しいこのシリーズです。何より日常の中に出てくる、太福さんの注目ポイントや言葉を選ぶセンスが素敵。「ぴったりジャスト」とかそれだけで笑っちゃいます。
後半に出てくる、バックパッカーの鼻筋通った外国人のいい男。目は青。サイトウさんが考えてるフリをしながら「この人は何人だろう」とか全然別のことを思ってるのもいい。そういうごまかし、私もやってしまう気がします。
テクテクテクテク、黙々黙々。テクテクテクテク、黙々黙々。3人で歩いていくけれど、会話は始まらない。英語ができないから。凄くわかる(笑)。親切にしてあげたいけれど、伝えられないもどかしさ。アイハブノーマネー。言われた方はどんな気持ちでお札を出したのかしら。
個人的に期待値が高すぎて、「地べたの二人」をやるという太福さんの言葉を聞いた時に、嬉しさと反面楽しめるか不安もあったけれど、見事に笑わせてくれた太福さん。トリに相応しく大笑いさせてもらいました。素敵な時間と皆様に、今回も深く感謝です。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」7/17 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ