渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 8月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月12日(土)14:00~16 :00 柳家緑太 柳家小八 雷門小助六 神田松之丞

「渋谷らくご」神田松之丞が普通にトリをとる会

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プレビュー

 講談師、神田松之丞。2010年代を振り返ったとき、この人物のこの時期を聴けたことはとても幸せだったと実感することができるでしょう。講談のことはよくわからないという方でも、気にせずまずは松之丞さんを聴きに来てください。
 緑太さん、小八師匠、小助六師匠という、まちがいない力の持ち主がつなぐ会全体の空気も、心地よいことでしょう。この会にきて、ぜひお気に入りの落語家さんも見つけちゃってください。


▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴8年目、2014年11月二つ目昇進。会話中絶妙な間で合いの手を入れる。落語家になる前は、朝までバイトして夜まで寝るという生活をしていた。バイト先の上司の話に対してリアクションをとっていたことで合いの手が上手くなり、いまでは師匠である花緑師匠にタメ口でつっこめるほど上手いらしい。市童さんにラップやダーツを教えた犯人は、緑太さん。

▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で入門、芸歴14年目、2017年3月真打ち昇進。東京農工大学工学部卒業。物理学を学ぶ。私服がおしゃれ。おかみさんは、8月18日の「しゃべっちゃいなよ」にご出演の三遊亭粋歌さん。粋歌さんの尻に敷かれている。先月の渋谷らくごでは、枕をふらずそのまま落語本編に入るという本寸法っぷりと、本人が落語を楽しむという絶妙なバランスの配分をされた。

▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴18年目、2013年5月真打ち昇進。楽屋入りは必ずスーツで、早めに楽屋入り。後輩から慕われ、また甘えられている。11歳の時に落語家になるということを漠然と考えていたらしい。4匹の猫を飼っていて、そして猫アレルギー。今年の7月に、熱中症になってしまい、大好きなお酒を一時控える。今年の夏は、こまめにポカリスエットを買って熱中症対策をしている。

▽神田松之丞 かんだ まつのじょう
24歳で入門、芸歴11年目、2012年5月二つ目昇進。プロレス好き。iPadを使いこなす。東京かわら版8月号、先輩である宝井琴調先生とともに冒頭インタビューをうける。570人キャパの会場もすぐにチケットが売り切れてしまう人気ぶり。6月28日には、初のCDとなる『松之丞講談-シブラク名演集-』がソニーミュージック来福レーベルより発売。渋谷らくごの会場でも発売中。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 趣味:茶道 猫のいるカフェ巡り


8月12日14時から16時  「渋谷らくご」
柳家緑太(やなぎや ろくた) 「ねずみ」
柳家小八(やなぎや こはち) 「夏泥」
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)「猫の災難」
神田松之丞(かんだ まつのじょう)「幽霊退治」


 8月は、お盆休みで連休だった方も多い中、渋谷らくごの5日間が始まりました。
本来は先祖の霊を祀り供養する数日の習わしらしいですが、最近、茄子で馬を作って飾ったりする家を見かけなくなりました。
 茶道では、季節によってお点前の手順やお菓子、生ける花が変わりますが、この時期ならではのお菓子はまだ出されています。それは、先生たちが、しっかり伝えて来られた結果なのでしょう。落語の季節によってかける噺も、師匠らがお伝えしているからしっかり受け継がれているので、何もしなかったら、お盆の茄子や胡瓜の牛や馬のように消えたり、季節関係なしにかけられたりするのかも知れないと、見なくなった茄子の馬を想うお盆です。
30分前にユーロに到着すると、2階から1階までチケットの受付を待つ人たちが大勢並んでいました。明らかに満員御礼です。さて8月はどんなお噺が聴けるのかを楽しみに、席で静かに待っていると、2番太鼓が聞こえて来ました。

柳家緑太さん「ねずみ」

  • 柳家緑太さん

    柳家緑太さん

 名人の腕を持つ左甚五郎シリーズの仙台バージョン。この8月は仙台が七夕で、今でも旅行者が多い季節です。左甚五郎も旅をしながら七夕を見物したのでしょうか。
この名人左甚五郎の旅シリーズって、無一文で宿屋に泊る場合もあります。
録太さんが「ねずみ」というのは意外に感じましたが、思いの外、「良い声」でまるで宿屋の主が目の前で話しているかのような声色から子供の声やしぐさの細かい使い分けに驚きました。テンポも心地良く聞き易いです。老獪な語りには安定感があって、「鼠屋」の主の身の上話につい、聞き入っていると、思う間もなく、すぐ元気で機敏な子供に早変わりです。緑太さんは映画「クレイマー・クレイマー」で、突然奥さんに離婚を切り出されて父子家庭となり、幼い息子と奮闘する父親を演じた、演技派俳優ダスティン・ホフマンを彷彿とさせる名演技です。
 子供ながらに、けなげに「鼠屋」の客引きをする卯之吉にもなり、左甚五郎にもなり、旅人にもなる。何人もの登場人物の顔を演じ分ける落語の技術に、改めて感心した一席でした。

柳家小八師匠「夏泥」

  • 柳家小八師匠

    柳家小八師匠

 噺の中でやって良いといわれる三ぼうの話題から丁寧に、小咄をかけ始める小八師匠。ケチの噺で様子を伺い、泥棒の噺で様子を伺う。そして、客席の反応を確かめて「夏泥」への流れが自然で美しい噺の運びです。
今回の泥棒さん、漆黒の暗闇の中で火が燃えているのを発見して慌て、夜中に火事になる心配をしたり、常識的でお人好しな所が職業の泥棒とギャップがあって、「殺すぞ!」と言ったものの、「殺せー!殺せー!」と住人に開き直られると「命、大事にしろよ!」とか「人間、真面目に働かなくちゃダメだろ!」と諭すので、その度に客席から笑いが起こり、いつしか、「殺せー!殺せー!殺」というセリフが出る度に、大爆笑!私もおおいに笑いました。
この住人は、質に入れた道具箱代金5円、道具箱の利息2円、「ありがとうございます。あなた良い人なんですね」と下手に出ながら米代金50銭、「おかずが食べたいー!おかずが食べたい!」で泥棒さんの財布の中身を全部せしめてしまいます。小八さんのオリジナルな工夫があって笑い処たっぷりに仕上がった「夏泥」でした。

雷門小助六師匠「猫の災難」

  • 雷門小助六師匠

    雷門小助六師匠

 小助六師匠の高座では、猫の登場率が高めで、猫好きとしましては、注目の師匠のお1人です。インスタグラムでは飼い猫さん達の寝姿を披露していて、マクラでもしばしば飼い猫さんたちの特徴をお話ししてくださっています。伺えなかった回で猫の噺が出て来たと後か分かると、(今回猫が居たの!行けばよかった!)と家で後悔したことが何度かあります。今回は「猫の災難」で、隣りの猫が登場しました。隣りの猫が病気で鯛をお見舞いに鯛をもらい、猫が柔らかい所を食べて捨てる所、通りがかりに余りをもらった熊さん。それなのに、都合の悪いことはみな、隣りの猫のせいにしてしまう噺です。けれど、悪気はないといいますか、ダメ人間の弱さを、おもしろおかしく表現されていると感じる噺です。最初は熊さん、嘘をつくつもりはなかったんですよね。行き当たりばったり、目の前にあるお酒の誘惑に負けて、呑むお酒が、一段と美味しいので呑んでいたら無くなってしまっただけなんだと思います。小助六師匠もお酒が好きなご様子のマクラと、熊さんの酔っ払いながら、畳のお酒を吸う呑みっぷりが、本当にお酒が好きで仕方ない様になっていて面白かったです。

 

神田松之丞さん「赤穂義士銘々傳 不破数右衛門 幽霊退治」

  • 神田松之丞さん

    神田松之丞さん

 今から30年前、2代目山陽先生から若き愛山先生へお伝えし、30年後の今、若き松之丞さんへと伝えられたという珍品「幽霊退治」は、最初から客席は、笑いの渦という素晴らしさです。日本ではもはや、愛山先生と松之丞さんしか読まれていらっしゃらないなら、お2人がどなたかに伝えないと、廃れてしまうのですね。一応、怪談噺ですが、滑稽で少しも怖くありません。不破数衛門が、おこもさんへ、斬らせてくれと頼んだり、柳重兵衛のお墓をあばいてその死体を斬り刻んで、幽霊として化けてでられないようにするという発想は、シンプルでありながら斬新です。実は、「牡丹燈篭お札はがし」を期待していたのですが、「幽霊退治」もおもしろいです。
気楽で楽しい一席で、松之丞さんが、あえて笑える読み物をかけてくださったことに感謝しました。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ