渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 8月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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8月15日(火)20:00~22:00 立川吉笑 林家つる子 林家きく麿 三遊亭粋歌 林家彦いち 

林家彦いちプレゼンツ 創作落語ネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

 偶数月に一度開催している創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 本年4回目となる8月は、昨年末の大会にエントリーした吉笑さん、きく麿師匠、粋歌さん(大賞受賞)に、彦いち師匠に出演を直訴した初参戦のつる子さんという豪華なメンバー。
 宇宙初公開の創作らくご、お客さんと一緒に作り、産み落とす「落語」の楽しさをどうか初心者の方にも知っていただきたいと思います。


▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。念願の作業場を借りたとのことで、いま吉笑さんのツイッターでは、その作業場の設備を充実させていく様子が公開。そしてこの作業場で黙々と作業している様子がYOUTUBEでライブ配信されていることがある。この作業場でどのような落語が生み出されるか楽しみです。

▽林家つる子
2010年9月に入門、2015年11月二つ目昇進。2016年にはミスiD2016の特別賞を受賞する。毎週月曜日ラジオ高崎でパーソナリティをつとめている。ぐんま観光特使。ツイッターでは、湘南乃風の純恋歌を口パクで熱唱されている動画がアップされている。

▽林家きく麿  はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴20年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。仲間内から「顔ハメのカリスマ」と呼ばれている。先日親知らずを抜き、頬がふくれあがった。ツイッターにアップされるお料理はだいたい肉料理。先日崎陽軒のシウマイ弁当に入っている、たけのこをたくさん食べる。北九州市文化大使。

▽三遊亭粋歌 さんゆうてい すいか
2005年8月入門、現在12年目、2009年6月二つ目昇進。28歳で突如会社勤めをやめて、落語家になる。2016年「渋谷らくご創作大賞」受賞。にっこり笑うとえくぼがでる肝っ玉母さんな一面をもつ。小沢健二が好きとのことで、今年2月のオザケンが復帰したミュージックステーションを見逃して大変後悔されていたらしい。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。先月より大型バイクの免許を取るために、教習所に通われはじめた。先月の渋谷らくごには、とにかく長い棒を持って楽屋入りされる。棒の用途は不明。アクシデントに対しては、徹底して、腹を立てるより面白がる芸人性で、身辺にも数々の面白いことを引き寄せる。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam


「渋谷らくご」2017年8月公演
▼8月15日 20:00~22:00
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

立川吉笑-コンプライアンス
林家つる子-ストロベリー・フィールズ・フォーエバー
林家きく麿-桃のパフェ
三遊亭粋歌-SAのラーメン食べたい
林家彦いち-まさか

「しゃべっちゃいなよ」があるので、出演者のみなさんは、憂鬱ですっきりしないお盆を過ごされたのではないでしょうか。今月は創作らくごのネタおろしに女性の落語家さんが2人並ぶという奇跡的なプログラム。それぞれの持ち味が発揮され、おおいに楽しませてもらいました。

立川吉笑-コンプライアンス

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

新作ユニット「ソーゾーシー」を立ち上げたり、自前のラボを作ったりと、積極的な仕掛けで落語を外部に向けて発信し続ける吉笑さん。金融機関に依頼された仕事で笑いどころを軒並みカットされ、骨抜きの作品にされていった実際の経験から生まれたと思われる「コンプライアンス」は、まさに現代を切り取った一席でした。少し前まで一般の人は「コンプライアンス」なんて言葉を知らなかったのに、最近は本来の法律を守るという意味より、何でも無難にやり過ごそうとする社会の息苦しさを象徴する言葉として広まっているんですね。
吉笑さんは過剰なコンプライアンスへの意識を「お化け屋敷のアトラクション」という切り口で皮肉ってくれました。マクラでのつかみから、本編のオチまで計算尽くされた構成は見事。お化け屋敷にさまざまな自主規制をかけていく中で、「うらめしや」のメロディーを長調にするというギャグがツボでした。

林家つる子-ストロベリー・フィールズ・フォーエバー(青山知弘・作)

  • 林家つる子さん

    林家つる子さん

彦いち師匠に直訴して出演したというつる子さん。エアスポット的な新作枠に作家さん付きで参入するところは、なかなかクレバーで面白いですね。つる子さんの持ちネタに、部下が上司の課長に変化球の投げ方を教える「スライダー課長」という完成度の高い創作落語があるのですが、この作者が今回の作品を作った「どこかの会社で経理をしている」という青山さん。メイドカフェを題材にした落語ですが、2段階の仕掛けがあって、前半のギャグを伏線的に使って後半でことごとく回収していく爽快な作品でした。
そしてメイドカフェで男女が別れ話をするという設定を、つる子さんの持ち前の濃い顔を使って爆笑に変えていきます。つる子さんのツイッターで確認できるように「実地研修をした」というだけあって、デフォルメしたメイドさんのキャラクターがいい感じにはまっていました。「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー!」と叫んでも嫌みがないのがつる子さんのいいところ。濃い顔が余計にメイドさんの暑苦しさを増幅しています。客席で見ている限り、女性のお客さんの笑い声が大きかった印象で、多くの人の心をがっしり掴んでいましたね。

林家きく麿-桃のパフェ

  • 林家きく麿師匠

    林家きく麿師匠

スマートで、完璧な構成の前の2席がかすんでしまうほど、むき出しで人間くささが漂う、馬力のある作品でした。といってもネタ自体はシンプルで、喫茶店かファミレスあたりを舞台に、コーヒーとカフェオレを飲みながらくっちゃべっているバカカップルの会話のみ。
ふてくされた女が、自分の頼んだ桃のパフェから桃を1切れ勝手に取って食べた男の行為を思い出しては繰り返し責め続けるだけの落語です。一見自分たちと関係ないキャラクターだと思いながらも、「怒りのポイントって、みんな違うよね」「怒りって簡単に消えなくて、突然ぶり返すよね」と共感してみたり、自分の中にも人とのコミュニケーションの中で気に障ることがたくさんあると思ったりと、落語を聞きながら自分や友だち、知り合いの顔が浮かんできます。どんなの人の中にもある人間の無神経さをあぶり出された感じで、きく麿さんの術中に完全にまってしまいました。

三遊亭粋歌-SAのラーメン食べたい

  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん

ネタを直前まで考えていて、お盆を棒に振っている感が一番出ていたのが粋歌さんでした。「サービスエリア(SA)あるある」満載の中に、帰省にまつわるちょっとした家族のドラマもあり、粋歌さんらしい温かみのある話でした。それまでがワンシーンの落語が多かった中で、粋歌さんの作品は車中、SA、実家とシーンを変えながら進むので、それぞれの場面を飽きずに聞くことができます。
そして何といっても「SAのラーメン」というノスタルジー。旅先だからこそ不味いものが美味しく食べられるマジックと、それに手を出してしまう背徳感、そして食べたくないものにも食べてしまう人間の意地汚さに共感しまくりでした。海老名、中井、足柄などのSAや、玉こんにゃく、おやき、五平餅などのローカル色が漂う食べ物も具体的な名詞として盛り込まれていて、脳ミソに直接訴えてきます。この夏、どこへも出かけなかった自分にとっても、粋歌さんの落語を聞いて東名高速を下って田舎に帰った気分になりました。

林家彦いち-まさか

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

いつも想像もできないところから話を発想してくる彦いち師匠。今回も「まさかそこから」という予期せぬ落語でした。だって主人公は、母親の産道を通ってまさに外の世界に出ようとしている胎児ですよ。その胎児が産道の門番を務める教官らしき人から「予期せぬできごとに注意せよ」と伝授されるんです。実は彦いち師匠がオートバイの講習を受け、8/8に免許を取得したというほやほやのエピソードトークがあり、そこから本編につながっています。しゃべりながら作っているので、「予期せぬ古典落語」や「予期せぬサゲ」など彦いち師匠本人も予期しなかったギャグや設定が口から出てきます。高座の上でも試運転をしているような、スリル満点の一席でした。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/15 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ