渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 8月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月14日(月)18:00~19:00 玉川太福* 桂春蝶

「ふたりらくご」 いまのうちに聴いておけ!

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プレビュー

 東の一之輔、西の春蝶。
 講談の松之丞、浪曲の太福。
 私は常にそう思って「渋谷らくご」に出てもらっています。とにかく一度聴いてください。
 この二人はとんでもない領域に足を踏み入れています。努力する才能、裏切らない場数、圧倒的なサービス精神。
 満足度120%をあなたに。お盆にシブラクに足を運ぶだけの価値は、この二人が保証してくれます。


▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。「わかりやすい浪曲」を目指して日々奮闘中。大学までラグビーを続けていた熱血漢。2015年「渋谷らくご創作らくご大賞」を受賞。疲れたときは、ニンニク注射をしてスタミナを回復する。毎晩娘さんを寝かせてから、夜中作業を始める。たまに娘さんと一緒に朝まで寝てしまう。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。
関東と関西を行き来される生活をする。岡本太郎の太陽の塔のブローチをつけている。先日引っ越して、その時断捨離をした。10年前銭湯で買った不思議な瓶のジュースがインテリアとして美しく、捨てるかどうか迷う。猫を飼っていて、お名前は「千代」。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

「ふたりらくご」
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-悲しみは埼玉に向けて
桂春蝶(かつら しゅんちょう)–天災

玉川太福/玉川みね子-悲しみは埼玉に向けて

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

太福さんの魅力は、なんといっても浪曲をわかり易く伝えよう、楽しんでもらおうという姿勢じゃないかと思う。シブラクという、落語や浪曲の初心者に気軽に来てもらいたい狙いがある公演というのもあるけれど、シブラクで聴く太福さんの浪曲はいつも丁寧だ。声を長く伸ばす節の最後に、知っているお客様は拍手をする。でも初めて浪曲を聴くお客様にもたくさん拍手で参加してもらえるよう、同じ個所を再びみんなで練習したりする。これが楽しい。太福さんのさりげない案内にいつも素直に乗りたくなる。また、台の上に掛かっている布(正式名称:テーブル掛け!)についての説明をしたりもする。太福さんのテーブル掛けにはきれいな水色が入っている。この布の名前だけでも覚えて帰って欲しいと、初心者でも置いてきぼりにせず、知っている人はクスリと笑ってしまうような、優しく楽しい心づかい。そうして気づけば、会場全体がみんな太福さんの次の言葉を待っている。

今回の演目は、三遊亭円丈師匠作「悲しみは埼玉に向けて」の浪曲バージョン。「きたせんじゅ(ひらがなで)」という言葉には、悲しみに満ちた響きがあるという。特に「じゅ」の部分。じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ……。愁いを帯びた太福さんの表情と語り。でもどこか可笑しみを感じるのは何故だろう。20年前の北千住の景色。パチンコ店が2軒に居酒屋が1軒。居酒屋での役職の無駄遣い、ちょっと使ってみたくなる。当時の景色や日常を描写しているだけなのに、その視点や愛を込めて茶化しているのが面白い。

19時43分発、準急、新栃木行き。叙情的な雰囲気の中、繰り返される言葉。力強い語りだが、どこか寂しさを漂わせる。間に北千住のたくさんの別名や沿線の駅の情報、さりげなく勉強。へーそうだったのかーと思いながら、北千住のまとう空気の意味を知った……のかもしれない(笑)。そうそう、あれは密かな宣伝だったのかしら?太福さんの「三ノ輪橋とか、くる?」、あの話も好き。太福さんが描く日常の物語は、私たちの当たり前の毎日に寄り添って、不条理なことやちょっとした面倒なことを、大きな愛で笑いに変えてくれる。少し見方を変える為の気づきを与えてくれるのかも。おお。電車のマナー広告も色々あるけれど「やめましょう。電車に石を投げるのは」って。この広告、本当に?って思ってしまうんですが。これはオリジナルにあるのかしら?太福さんの発見?マナー広告からそんな味を出しているなんて、楽し過ぎる。

物語の後半は、心の声がふんだんに織り込まれた場面場面が楽しい。東京未来大学の学生……かもしれない彼女。チエちゃんという名前で振られた……のかもしれない。母親はスナックをやっていて、親に心配をかけないように、リンゴをむきながら一人、悲しみにくれる……かもしれない。妄想に妄想を重ね、聴いているこちらも心でツッコミまくりです。「変な気持ちは、ほぼ無い」って、ゼロじゃない所がリアルでいい。2回言うくらい、本当にゼロじゃない(笑)。彼女に声をかけなきゃ、と強く思いながら、急な展開を見せる最後。劇的、かつ当たり前な行動に笑ってしまいます。去っていく電車を見送る最後が、映画のラストシーンのよう。全編を通して漂う哀しみの中のおかしみ。太福さんの風景描写のチカラ、魅力を堪能です。


桂春蝶-天災

  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠

春蝶師匠は「全ての学問は哲学になる」という言葉が好きだという。噺家の家に生まれ、子供の頃から枝雀師匠やざこば師匠と交流があったそうで。そうした方々の天才(天災?)ぶりのエピソードが面白い。スーパーマリオ、私も大好きでした。私の地域では無限1UPと言ってました。3-1面のアレ(笑)。懐かしい。本気のざこば師匠、想像するだけでも凄そう。

そんな一つ一つの事柄が異彩を放つ、普通でいられない人々。いやいや、その方々にとってはそれが普通なのでしょうが、私なんぞにはその瞬間にその選択肢はないなぁと思う。やしきたかじんさんの突き抜けた遊び方や、「落語はな、向こから来んのや」という言葉。ある壁を超えたからこそ見える世界なのでしょうか?春蝶師匠と一緒に”困惑の種”を抱えて(嬉しいけれど)、いつかわかる日が来るのかどうか……。

この日は心学の出てくる噺、「天災」。この噺を好きだとおっしゃる通り、とても楽しそうな春蝶師匠。心学の先生、ホリカンことホリサダカンベエのドヤ顔が好き。親を蹴るような乱暴者の八五郎に話を聞かせる技も凄いけれど、あのちょっとワルイ顔がいい。手紙を読みながら、交互に八五郎を見る時の、目の座った無表情もなんとも言えない。

春蝶師匠の高座での自然な姿はとても魅力的です。力強く動いたりしゃべったり、切り替わる人物も、とても自然。そういう人たちがいる、と感じる。だからこちらもとても自然にその世界に入っていて、楽しい。観ている方には自然でも、きっと師匠は全身を使って話しているから大変だろうと思う。でも無理を感じない何気なさ。木を描く八五郎のけだるげな、それでいて大きな動きが印象に残っている。あー、でも単純に笑っちゃったのは、自由な高座でストレス発散している師匠の姿かもしれません(笑)。

それから思ったのが、言葉を繰り返すことで生まれてくる面白さ。よく浪曲でズルいなぁと感じていたけれど、春蝶師匠も落語の中でやっているのを見て、繰り返しを面白く感じさせる技術があるんだと思う。ただ繰り返してもそれだけ。繰り返し時にどう繰り返すのか、そのチョイスが太福さんも春蝶師匠も絶妙。

後半の、天災を知って「キュンときた」八五郎が好き。その素直さに観ててこちらもキュンとしちゃう。そして天災を知ってからの八五郎の尊大でありながら、何かが変わった八五郎の姿がいい。頭でわかったというより、感覚で理解したようなその自由さ。春蝶師匠の自然さにも通じる自由さが、八五郎をイヤな奴と感じさせ過ぎないのかなと思う。困ったヤツ。春蝶師匠の自然さをもっともっといろんな噺で観てみたいですね。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ