渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 8月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月14日(月)20:00~22:00 瀧川鯉八 橘家文蔵 玉川奈々福* 橘家圓太郎

「渋谷らくご」 福の神落語会

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プレビュー

 福の神のような出で立ちの落語家さんたちが集結!
 とはいえ、どの演者さんも「口の悪い」福の神。ポッドキャストでも人気沸騰中の圓太郎師匠をはじめ、立体的な「観る」落語で観客を魅了する文蔵師匠。すべて自作の落語で、映画や小説などと比較される落語を演じる天才・鯉八さん。
 なによりこの日は浪曲、玉川奈々福さんが、これら強烈な個性のなかでひときわ凛々しくインパクトを放つ予定。
 公演後には幸せを保証できる、福の神落語会です。


▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。2015年第一回渋谷らくご大賞受賞。子供の頃右手と左手が同じ長さかどうかずっと確認していたらしい。後輩には辛い思いをさせないとのことで、後輩をとにかく守るような優しい先輩でもある。ウディ・アレンとアキ・カウリスマキが好き。「アウトレイジ」の最新作を楽しみに待っている。先日NHKEテレの「にほんごであそぼ」に出演した。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴31年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近のされたお料理は「豚ナンコツと里芋を煮込んだもの」とのこと。ホッピーと焼きトンが好き。疲れた日には、ぬるい風呂に長い時間入り汗をたくさんかく。または焼酎を柑橘系で割って飲む。日本で一番顔が怖い三代目。

▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴22年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。
「シブラクの唸るおねえさん」。日本全国に熱烈なファンも多く、浪曲の裾野拡大に大いなる野心を注ぐ。先月、夏休みを取って、大阪と京都へ行く。現在、「語り芸パースペクティブ」という、日本の語り芸を網羅する一大プロジェクト進行中。

▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴36年目、1997年3月真打ち昇進。高校までラグビーをやり、現在もトライアスロンをやる熱血男。オヤジの小言マシーンぶりは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。「わたしも圓太郎師匠に叱られたい!」という感想も次々と寄せられる。この夏は、「暑いですね」とは言わないことをモットーにしている。

レビュー

文:井手雄一 男 35歳 会社員 趣味:水墨画、海外旅行

8月14日(月)20時~22時「渋谷らくご」

瀧川鯉八(たきがわ こいはち)「長崎」
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)「青菜」
玉川奈々福/沢村美舟(たまがわ ななふく/さわむら みふね)「風説天保水滸伝 飯岡助五郎の義侠」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)「火焔太鼓」

渋谷らくご


瀧川鯉八さん

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

 映画「おもひでぽろぽろ」みたいな落語でした。
 本作は、お盆のとある一日に、亡くなったご主人の墓前で手を合わせる、一人の女性の回想という形式を取っていますが、その語り口は順次繰り出し型で、思い出が次々と走馬燈のように駆け巡っていきます。それが後半になるにつれて、昔夢で見たイメージという、本筋と全然関係のないものまでが無意識にどんどん繋がって加速していくため、見ている側はこの女性の意識を、ダイレクトに追体験することになります。それはまるで「おもひでぽろぽろ」で、主人公の過去の回想や歴史が、徐々に視聴者の個人的な記憶までも呼び覚ましていくように、強烈なノスタルジーを掻き立てられました。ですので、まるで歌謡曲の歌詞のような、「長崎の思い出」があまりにも切なく愛らしい体験として、強烈に胸に突き刺さりました。
 それにしても、ラストでこの作品が回顧録だとわかるときのオチによって、そんなどこかしんみりとした心境から、ふっと現実に引き戻される結末は本当に見事で、この作品があくまで映画ではなくて、「落語」なんだなということを思い知らされました。  
 他にも漫画なら「ダニー・ボーイ」、映画なら「タルコフスキー」や黒澤明の「まあだだよ」などが好きな方にオススメです。

橘家文蔵さん

  • 橘家文蔵師匠

    橘家文蔵師匠

 ドラマ「孤独のグルメ」みたいな落語でした。
 本作には「食事パート」と「ドラマパート」があり、今回食事パートで訪れたのは、とある大きな武家屋敷で、この屋敷の縁側に座って、暑い日のさなか、庭の松の木を見ながら、冷えた日本酒と鯉の煮つけをいただくという、そのシチュエーションを聞くだけで涎が出てしまいそうな、でも実はかなり変化球なグルメシーンの登場に、そんな手があったのかと、まるで一つの大喜利でも見たみたいに関心してしまいました。ちなみに江戸時代から続いている落語には、食事のシーンがフューチャーされることが割と多いのですが、それは昨今のグルメドラマなどと、機能的にあまり変わらないのかもしれません。
 そこに、リアルを通り越して、今時有り難いほど美味しそうに食事をする演技が重なるので、この男の普段の食生活までも色々と想像してしまい、余計に食欲をそそられました。
 そして後半のドラマパートでは、相変わらずギャグに徹していましたが、「孤独のグルメ」にしては思いっきり、コメディよりに針が振り切れていたお話が続きました。
 映画なら「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」や、宮崎駿の食事シーン。音楽なら「スタン・ゲッツ」が好きな方にオススメです。

玉川奈々福さんと沢村美舟さん

  • 玉川奈々福さんと沢村美舟さん

    玉川奈々福さん・沢村美舟さん

 「THA BLUE HERB」のライブみたいな浪曲でした。
 まるでポエトリー・リーディングみたいな、ときに空間を言葉で埋め尽くすがごとき、怒涛の歌い方で、ONE DJ ONE MCの限界に挑戦しているみたいな圧巻のライブ・パフォーマンスでした。これでVJも使わず、照明も単一でやっているのが信じられないくらいです。
 語られている内容はというと、漁船が嵐でほとんど難破してしまい、壊滅的な打撃を受けた村が、とある男の英雄的な働きによって復興するという、物語風の曲で、(ブルーハーブの曲だと「路上」などのような感じ)、この話の面白いところは、普通なら荒れ狂う海原でタイタニックみたいに沈没していく船の様子を悲劇的に描けばいいのに、それを受けての村に残された女たちをどうするのかという、言うなれば「出来事の裏側」を描いているところです。
 ですので、個人的には、「漁師は一寸先は闇。だから四十九日過ぎれば、女房が誰と暮らそうが、あの世でとやかくいわないさ」という台詞にみられる、リアルさとかっこよさが同居しているギリギリの感覚が、この作品で一番しびれた部分でした。
 アニメなら「天元突破グレンラガン」、映画なら「ライフ・オブ・パイ」や「ゴッド・ファーザー」が好きな方にオススメです。

橘家圓太郎さん

  • 橘家圓太郎師匠

    橘家圓太郎師匠

 ドラマ「シャツの店」みたいな落語でした。
 この作品は下町のリサイクルショップが舞台で、この店の旦那の目利き道楽で仕入れた、古びた太鼓をめぐっての、てんやわんやを描いたものでしたが、ここにはいつも一筋縄ではいかない家族愛がありました。
 主演の鶴田浩二は不器用を絵に描いたような昭和の男で、いつしか奥さんはそれに愛想をつかして家から出て行ってしまいます。それと同じように本作の主人公も、「男たるもの、妻に気を使ってばかりはいられない」と虚勢を張るのですが、気がつけば「妻は、俺にまだ惚れているのだろうか?」と自問自答してしまうという、なんとも言えない自信のなさをたびたび露呈します。下宿している弟子も妻の味方ばかりするので、これがドラマならスナックに行っては一人で酔っ払い、ママにちょっかいを出していることでしょう。
 ですが、いざ本当の窮地に立たされるとなると、気がつけば奥さんの助言に従ってばかりいるという姿が延々と写しだされ、そのあまりに情けなくも、いじらしい姿に胸を締め付けられました。
 クライマックスは、落語とドラマで男女が逆転していますが、信じられないほど高値で売れた太鼓を武器に、思いっきり気の強くなったご主人が、儲けたお金をばんばん見せながら、「俺にまだ惚れているのか、いないのかはっきり言えー!」と奥さんに迫る場面で、ここには「人間の心の解放」のようなものがありました。この大カタルシスによって、人生ドラマというものの純粋な凄さを、まざまざと見せつけられた思いでした。
 他にも映画なら「マグノリア」、ゲームなら「Grand Theft Auto 4」、アニメなら「げんしけん」が好きな方にオススメです。


 以上、一番手は青春と旅情が香る、お盆にぴったりの、とある女性の年代記。二番手は、残暑の厳しい日中に美味しい、風情満点のグルメリポートバラエティー。三番手は、ひとりの伝説的な投資家が私財を投げ売って、一つの村を救うという豪快な浪漫譚。そして最後は、笑いと物語の隙間から人情味があふれてくるという、いくつもの顔を持ったヒューマンドラマでした。
 やはりお盆の真っただ中ということもあり、どの作品にも夏と死を強烈に感じるのと同時に、その裏返しで、「日常に生きている」ということを強烈に意識させられるといった、共通したテーマのようなものを感じました。こうした今現在の季節によって、作品の味わいがダイレクトに変わるという作用も、落語というジャンルの秀でた特性のひとつではないかと思います。 
 どうもありがとうございました。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」8/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ