渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 12月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月8日(金)20 :00~22:00 立川志の太郎 柳家緑太 柳家小せん 隅田川馬石

「渋谷らくご」時代を担う旗手たち

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プレビュー

◎ニコニコ公式生放送「WOWOWぷらすと」中継あり(http://www.wowow.co.jp/plast/

30代~40代の、これからの落語界を背負うホープたちが集う落語会です。
はじめて落語会に行ってみよう!と思う人にも最適のメンバー。もちろん、常連さんにも見応えのある会です。


▽立川志の太郎 たてかわ しのたろう
24歳で入門、芸歴8年目、2015年4月二つ目昇進。『曲解答弁』というポッドキャストが好評配信中。カープファン。先日はサザンの法被を着てアリーナ席で桑田佳祐のライブに参戦する。ニッスイの大きな大きな焼きおにぎりが好き。

▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴8年目、2014年11月二つ目昇進。古典落語をラップにしている。Youtubeで公開されていて、おそるべき完成度。最新作は「芝浜」。最近「押忍!」だけで会話をすることにハマっている。

▽柳家小せん やなぎや こせん
22歳で入門、芸歴21年目、2010年9月真打ち昇進。橘家文蔵師匠と入船亭扇辰師匠と音楽ユニット「三K辰文舎」としても活動中。先日はじめてハンバーグづくりに挑戦。ソースにスライスしたマッシュルームを入れている。チンアナゴに興味がある。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴24年目、2007年3月真打昇進。毎日5キロ、荒川沿いを走っている。高座を終えて楽屋を出る速度が渋谷らくごの出演者の中で最も早い。シブラク3周年記念Tシャツを着て微笑んでいる写真が可愛いとツイッターで話題になっている。

レビュー

文:香川菜月Twitter:@cntszz (なんでも楽して、ちょっとズルしたい)

12月8日(金)「渋谷らくご」20:00~22:00

立川志の太郎(たてかわ しのたろう)「人間っていいな」
柳家緑太(やなぎや ろくた)「子別れ」
柳家小せん(やなぎや こせん)「紋三郎稲荷」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)「二番煎じ」


トリップ
知らぬ間に、私は4つの旅をした。1つ大体30分の。
鑑賞のマナーを、サンキュータツオさんが毎度うるさくみなさんに語るのは、落語への想いが熱くて強いからなんだなあと思う。どの回も大事に大事にしているんだなあ、と。その中で「演者さんは皆さんを、落語の世界にトリップさせてくれるんですから」という発言が私はとても気に入った。落語を聞いている時、仕事の事や恋人の事を考え悩む人はあまりない。噺が終わるまでは、他の色々を忘れ、現実から少し離れた場所にトリップするのだ。

ああ、今日も良い旅だった。


立川志の太郎(たてかわ しのたろう)「人間っていいな」


  • 立川志の太郎さん

    立川志の太郎さん

まくらの間、志の太郎さんの「今日は新作がやりたい気分なんで」と言った時の顔が、悪だくみをしている子供のようで良かった。
日本初のAI落語家に弟子入りした一人の男。一番弟子に師匠と接する注意点を色々教えてもらう。まずその設定だけでも面白い。のに、加えて細かな所がいちいち笑えてくる。師匠は落語界史上3日で真打になり、持ちネタは700席。普通の落語家は風(扇子)と曼荼羅(手ぬぐい)が、AI師匠の風は冷却ファンのスイッチ、曼荼羅はとても分厚い取扱説明書。弟子はその取扱説明書のコピーを持たされている。師匠は人気者で有名人で凄い人、だが出囃子に日本昔ばなしの「人間っていいな」を選ぶ位人間に憧れている。
師匠の切なく遣る瀬無い感情と、公演まで時間が迫る中繰り広げられるドタバタ劇に思わず前のめりになってしまう時間だった。


柳家緑太(やなぎや ろくた)「子別れ」


  • 柳家緑太さん

    柳家緑太さん

こりゃハンカチを持って望むべきだった。と、大変後悔した。
自分のせいで離れ離れになってしまった可愛い息子に、3年ぶりに会った時。きっとあれくらい声が出ず信じられず、どうしたらいいのか分からなくて。浮かべる涙はさぞ濃いものであったでしょう。久しぶりに偶然会うことが出来た自分の父親、息子もどれだけ嬉しかったでしょう。生涯愛そうと決め、しかし別れた旦那ともう一度会う女房は、きっとあれ位モジモジとしてしまうでしょう、ね。
もう鰻の味なぞきっと分かりませんよ。
夫婦がモジモジとしてる間、息子と一緒に「ほら!いいから!もう!早くくっついちゃえ!幸せになれ!」と、なんの関わりもない私が口を挟みそうで危なかった。ふぅ。 良かったねえ、亀坊、また家族3人で暮らせるよ。サゲと一緒に、2人を繋げるトンカチの音が聞こえた気がした。


柳家小せん(やなぎや こせん)「紋三郎稲荷」


  • 柳家小せん師匠

    柳家小せん師匠

小せん師匠はどちらかといえば、狐でしょうか。キリッとスマートなお顔立ち、でもにっこりするとなんとも暖かい笑顔が印象的。落ち着いた雰囲気なのに、どんどん話に引っ張っていく。あれよあれよとのめり込んでしまう。不思議な感覚だった。
どの時代も、お茶目な人はいるもんですね。でもまぁ、自分の事を狐と勘違いしている奴がいるなんて分かったら、誰でもふざけてみたくなりますよね。しかも泊まった宿では大変有難がられる。面白い上にラッキーじゃないか。美味しいお酒につまみ、おひねりまでもらえる。いい心持ちだ。
でもやっぱり人間、ふと我に返って怖くなる。居た堪れなくなり、逃げ出してしまう。これもどの時代も一緒なんですね。人間臭さがあって良いですね。ねえ、志の太郎さん。やっぱり、人間っていいな。


隅田川馬石(すみだがわ ばせき)「二番煎じ」


  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

「寒くなると寒い落語、冬の落語が出来ていいですね」とクククってな感じに笑っていた。雰囲気のある人だ。
寒い日は、出来る限り外に出たくない。暖かい家の中でぬくぬく過ごしていたい。絶対皆そう。夜回りなんてしたくない。火事なんて皆がちゃんと注意すればいいじゃないか。でもそんな訳にはいかない、役人が目を光らせているんだもん。
寒い日は、鍋をつつきながら酒を飲むのがいい。冷えた体が一瞬でポッとなる。皆そう。火事なんて一人一人が注意しときゃいいんだよ。でもそんな訳にはいかない、役人に見つかってしまったんだもん。
でも大丈夫、皆そうだから。皆、猪鍋食べてお酒飲みたいだもん。ね、役人さん。
猪鍋、私は食べたことがないんですけれど。近いうちに、出来ればうんと寒い日に食べに行きたい、絶対食べに行きたいと思った。だって馬石さんがまた、めちゃくちゃ美味そうに食べるのよ。本当お腹凄く鳴っちゃったもん。
そんなことを考えていると時計は丁度20時を指し、私は本日の旅から帰ってきたのである。次のトリップも、大変に楽しみだ。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」12/8 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ