渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2017年 12月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

12月12日(火)20:00~22:00 林家つる子 立川吉笑 古今亭駒次 玉川太福* 瀧川鯉八 林家彦いち

大賞決定戦 創作らくご「しゃべっちゃいなよ」

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 ※エントリー 林家きく麿「桃のパフェ」、立川志ら乃「ほぼほぼ」
 ◎審査員:林家彦いち、長嶋有(芥川賞・大江賞作家)、美保純(女優)、木下真之(創作らくごウォッチャー)、サンキュータツオ

 この一年、2ヶ月に一度開催してきた「しゃべっちゃいなよ」。ここで生まれた創作らくごの大賞を決める会です。
 開演前には、この一年もっとも活躍した二つ目に送られる「渋谷らくご大賞」の発表もあります。
 今年の「渋谷らくご」もこの公演で最後です。


▽林家つる子
8月の「しゃべっちゃいなよ」に登場。2010年9月に入門、2015年11月二つ目昇進。2016年にはミスiD2016の特別賞を受賞する。毎週月曜日ラジオ高崎でパーソナリティをつとめている。ぐんま観光特使。先日高崎税務署で一日税務署長を務める。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
8月の「しゃべっちゃいなよ」に登場。26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。夜中にポテトチップスを食べてしまう。時代劇に出演するために、カツラ合わせをした。毎年大きな熊手を買っている。酒豪。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。4月の「しゃべっちゃいなよ」に出演。前人未到の二度目の「創作大賞」を狙う。お酒が飲めないのにも関わらず、打ち上げではすぐに眠くなってしまう。

▽古今亭駒次 ここんてい こまじ
2月の「しゃべっちゃいなよ」にご出演。24歳で入門。芸歴15年目、東京都渋谷区出身。鉄道をこよなく愛する。東京新聞では「鉄学しましょ」という連載を持っている。2018年9月に真打ち昇進することが決定した。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
6月・10月の「しゃべっちゃいなよ」にご出演。24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。体重が99キロということで、いまダイエットを試みている。ただツイッターでは、美味しそうなホットケーキや麻婆豆腐の写真が定期的にツイートされている。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。この秋、「天然アユ」についてのシンポジウムに登壇する。先月のシブラクの楽屋では、三周年記念Tシャツを着てたくさんの決めポーズをしてくださった。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam


「渋谷らくご」2017年12月公演
▼12月12日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」創作大賞発表


林家つる子-ストロベリー・フィールズ・フォーエバー
立川吉笑-コンプライアンス
古今亭駒次-10時打ち
玉川太福/玉川みね子-地べたの二人~おかずの初日~
瀧川鯉八-人生あやとり
林家彦いち-という
※他ノミネート作品:林家きく麿「桃のパフェ」、立川志ら乃「ほぼほぼ」

渋谷らくご創作大賞:古今亭駒次「10時打ち」

審査員:長嶋有、美保純、木下真之、林家彦いち、サンキュータツオ

2017年の「しゃべっちゃいなよ」の大賞を決める大会。開演前には「2017年渋谷らくご大賞」が発表され、「おもしろい二つ目賞」に瀧川鯉八さん、「たのしみな二つ目賞」に立川寸志さんが輝きました。受賞したお2人とも本当に嬉しそうで、2018年の活躍が楽しみです。

大賞は今年も激戦。出演した5人とも雑談や余計なまくらを振らず、すぐに本編に入ったので(事前注意はあったものの)、競技性の高い緊張感のある戦いになりました。皆さん、ネタおろしをしてからさらに磨きをかけて来たようで、この会にかける意気込みも半端ではありません。審査では「この人のここが素晴らしい」といった個々の演者に対する絶賛の声が続出。さまざまな意見が飛び交う中、まんべんなく高い評価を集めた駒次さんが納得の大賞です。エントリーされたものの、スケジュールの都合で出られなかった、きく麿師匠と志ら乃師匠。この2人も交えた決勝戦も見てみたかったですね。

林家つる子-ストロベリー・フィールズ・フォーエバー(作:青山知弘)

  • 林家つる子さん

    林家つる子さん

別れ話を持ちかけた彼氏が、彼女を呼び出した場所はメイドカフェだった。そこで明らかにされる衝撃の事実に彼女は翻弄されていくという話。落語作家の青山知弘さんによる台本の完成度が高く、笑えて、意外性に富む見事な作品でした。
メイドカフェを扱っているため一見マニアックに見えますが、中身は一般性の高いホームドラマです。場所を中華「幸楽」に置き換えれば、彼氏はえなりかずきで、あの人が泉ピン子で、筑前煮が角野卓造になる。「渡る世間は鬼ばかり」にも通じる、誰にでも共感できる要素がちりばめられています。
演じるつる子さんも台本の意図をきちんと汲み取り、的確にギャグをヒットさせていく。見せ場を理解して、きちんと表現できるのは天性の才能ですね。トップバッターというハンデもありましたが、ノーミスで狙った笑いもすべて取ったことで「しゃべっちゃいなよ」全体の流れができました。
物語は「メイドカフェ」「設定のばらし」「パニック」の3部で構成されていますが、最後の「パニック」の章でギャグを畳み掛けるように攻める構成だったら、さらに盛り上がって印象が変わったかもしれません。


立川吉笑-コンプライアンス

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

コンプライアンス(企業における法令遵守)を理由に、お化け屋敷の出しものがどんどん骨抜きにされていくという話。融通の利かないお役所仕事を皮肉った作品は、落語でも他ジャンルでもありますが、コンプライアンスに目をつけたのが吉笑さんの非凡なところ。現代を的確に見抜くセンスを感じます。しかもそれが某金融機関と吉笑さんが仕事をした時の実体験に基づいているだけにリアリティがあります。
初演時はお化け屋敷の出しものから遊園地のアトラクションに発展し、スリルのある仕掛けをことごとく無力化していくところで留まっていました。今回は後半部分に新たなアイデアを投入し、プロ野球のインコース攻め、漫才の乗り突っ込みなど、エンターテインメント全体を企業の論理でゴースト化させていきます。大胆に発想を展開させたことでダイナミックな話に生まれ変わりました。吉笑さんの狙いが当たっている部分もあれば、外れている部分もありましたが、最後まであきらめずに笑いを追求していくチャレンジ精神には頭が下がります。
発想の面白さで常に上位にいながらトップにあと一歩という吉笑さんにM-1グランプリのジャルジャルを重ねてしまいます。いつかトップを取って欲しいです。


古今亭駒次-10時打ち

  • 古今亭駒次さん

    古今亭駒次さん

「10時打ち」とはJRの人気列車の指定席券を確実に取るための裏技のこと。鉄道好きの駒次さんしか作れない唯一無二の作品です。鹿児島発稚内行きの寝台特急「星屑号」の超豪華ロイヤルシートを賭けた10時打ちをめぐり、東京駅の駅員と上野駅の駅員が因縁のバトルを繰り広げます。
こちらもマニア向けの作品に見えますが、「10時」のタイムリミットが来ればすべてが終わる物語として見れば、「24」「プリズン・ブレイク」「48時間」などのタイムリミットサスペンスと同じです。鉄道の知識がゼロでも、次々と困難にぶち当たりながらミッションの遂行を果たそうとする登場人物たちに感情移入しながら、スリルを味わうことができます。
シーンを次々と変えながらドラマを進めていく手法は落語的というより映像的で、時としてはお客さんがついていけなくなるリスクもあるのですが、前向きに聞きに来ているシブラクのお客さんに対しては効果てきめん。サスペンスの王道パターンに、漫画的なばかばかしいギャグをちりばめた構成は完璧で、後半に向けて客席のボルテージが上がっていく様子がわかりました。「10時」に向けたカウントダウンでお客さんを盛り上げる演出のアイデアも素晴らしく、客席の一体感は半端なかったですね。
駒次さんの魅力は何といっても流れるような高速のしゃべりで、一度走り出したら止まらない中央線の通勤特快や小田急線の快速急行のようです。初演時はセリフが乱れたりすることもあるのですが、口慣れた再演になるとそのスピード感はさらに増します。聞いていて本当に気持ちよかったです。


玉川太福/玉川みね子-地べたの二人~おかずの初日~

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

    玉川太福さん・玉川みね子師匠

海浜地帯の工場に勤める年の離れた2人の男が、お弁当をただ食べるだけの「地べたの二人~おかず交換~」で第1回創作大賞を受賞した太福さん。そこから、さらに何も起こらない「おかずの初日」を作りました。作品の狙いも明確で、加えた工夫もオリジナリティがあふれていて「おかず交換」を知らなくても楽しめます。
王者ならではの余裕と風格もあり、安心して見ていられました。特に今日の高座はラストの切り方の「間」が絶妙で、腕のいい柔道家に体落としを掛けられるような心地よさがありました。
この作品の面白さは、後輩のカナイ君がうざったい先輩のサイトウさんに対して「味噌汁冷めろ~」と悪意を持つ部分にあるのかなと思っています。さらにキュウリのぬか漬けをただ噛むだけの「ポリポリポリ」を延々うなるという節も前代未聞で、浪曲の新たな魅力に気付かせてくれます。審査員の美保純さんも太福さんの浪曲にはまったようで、浪曲ファンとしても嬉しくなりました。2018年はシリーズ以外のネタおろしも見てみたいですね。


瀧川鯉八-人生あやとり

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

野心家の中2男子が、有名人の格言をパクることで偉人になろうとする話。美保純さんが「テレビの世界には他人のコメントをあたかも自分で考えたように言っている人がいる」と言っていましたし、ツイッターでも人のツイートをそっくりコピーする「パクツイ」が横行しているように、現代性も備えています。
自分たちの現在の境遇に満足せず、そこからの脱出を目指している人物を描く鯉八さんの落語は、黒澤明監督の「どん底」や「どですかでん」を見ているかのようで、庶民の生活を描く古典落語の世界を通じるものがあります。派手な展開はないのですが、多様な見方ができる「すきま」の多い落語で、改めて鯉八さんのすごさを感じました。
2人の中2男子の関係性と2人の将来。周到に練られた仕掛けは非常に巧みです。自分自身、初見の時にこの落語をどう言語化していいにかわからず、再演でやっとつかめた部分もあるので、見れば見るほどこの作品の奧深さがわかっていくような気がします。
座布団に座った鯉八さんが最初に発する「世界で一番君が好き」というフレーズが全編を貫いていることがわかるのは最後になってから。まくらのように思わせながら本編につなげていく高度なテクニックにも鳥肌が立ちました。今日の高座の出来は完璧で、現時点でこれ以上の完成度はないと思います。ドラマチックな駒次さんの落語と、どんな人間の中にもあるほめられたい感情にスポットを当てた鯉八さんの落語は、エンタメの直木賞作品と、純文学の芥川賞作品を比べくらい性格の異なるもので、両方が並び立つ創作落語の奥深さを感じました。


林家彦いち-という

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

審査のため、高座は見られませんでしたが、間違いなく会場を沸かしていたはずです。年間の最後を締める彦いち師匠の落語は、シブラクの「第九」ですね。

  • 審査員の方々

    審査員の方々

  • 受賞の瞬間

    受賞の瞬間

  • 受賞の瞬間

  • 受賞の瞬間


  • 受賞の瞬間



【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」12/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ