渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 12月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月17日(火)20:00~22:00 瀧川鯉八 台所おさん 立川寸志 立川談吉 立川吉笑 林家彦いち

「しゃべっちゃいなよ」★2019創作大賞★

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プレビュー

◎審査員:林家彦いち、長嶋有(芥川賞、大江賞受賞作家)、木下真之(創作らくごウォッチャー、ライター)、サンキュータツオ
◎他のエントリー:立川笑二「わかればなし」、柳家花いち「心スタンド」
※開演前に「渋谷らくご大賞(おもしろい二つ目賞)」の授賞式があります。

 2月から隔月で開催されてきた「しゃべっちゃいなよ」。その年間の創作大賞を決定する会です。
 今年も名作名演が生まれました。そのなかから選りすぐりの演者演目が揃いました。次の「創作大賞」はだれだ!?
 こうご期待。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在芸歴9年目、2012年4月二つ目昇進。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。JR東海「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンで京都駅で専用アプリを立ち上げると、吉笑さんの話を聞くことができる。先日、あこがれの図書館に行ってきた。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴13年目、2010年二つ目昇進。2020年5月に真打に昇進することが決定。寒くなってくるとモンベルのウィンドブレーカーを着る。鯉八さんの似顔絵のラインスタンプが完成した。

▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴12年目、2011年6月二つ目昇進。電車につかわれているネジや道に落ちているネジまでを写真に収めてツイッターにアップしている。最近は、スマホゲームの「アナザーエデン」をプレーしている。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。編集マンをやめて、落語家になった。チラシの構成から、文章まで編集マンの能力を遺憾なく発揮する。携帯電話を紛失し、電話帳のデータが無くなってしまった。最近、何度も「現代落語論」を読み直す。

▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴18年目、2016年3月真打昇進。自分よりも年下の師匠に入門をする。落語家になる前に、東京から大阪まで歩いて旅したことがある。いま缶コーヒーでは「Café de BOSS ほろあまエスプレッソ」がお気に入り。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。ヒマラヤ山脈にて、高山病と戦いながら落語をやったこともある。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2019年12月公演
▼12月17日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」2019年創作大賞
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-四年目
台所おさん(だいどころ おさん)-兄ぃと辰の珍騒動
立川寸志(たてかわ すんし)-小林
立川談吉(たてかわ だんきち)-生モノ干物
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-当日談
林家彦いち(はやしや ひこいち)-長屋ばいぷれいやーず

渋谷らくご創作大賞:立川談吉「生モノ干物」
審査員:林家彦いち、長嶋有、木下真之、サンキュータツオ

シブラク5周年の今年も、強力な5人が「しゃべっちゃいなよ」の年間大賞を決める大会にエントリーされました。普段は古典落語が中心のおさん師匠、談吉さん、寸志さんの3人は、滅多に創作落語を作らないだけに、マグマのように溜まった感性が吹き出すと大きく爆発する可能性があります。創作落語1本の鯉八さんと創作で独自の世界を築く吉笑さんの2人は常に自分の作品と向き合い、新たな可能性を掘り起こそうとしています。ソーゾーシーのツアーも成功し、現在の創作落語のムーブメントを牽引する2人です。一方、立川流からは3名がエントリー(仕事で出演できなかった笑二さんも入れると4名)の大躍進。これも偶然ではなく、一門の若手で互いに切磋琢磨してきた証ではないでしょうか。
今年は落語のアプローチが三者三様であるため、「審査は難しい」というのが審査員の意見でした。それぞれ大賞にふさわしいと思う作品を挙げ、その理由と感銘を受けたポイントを主張していく中で最終的に選ばれたのが談吉さんの「生モノ干物」です。「一般的なコンテストなら選ばれにくい」(タツオ氏)というように、大衆受けするわかりやすい落語ではありません。ただそこには談吉さんの感性を正直にぶつけてやり切った跡がありました。談志直系の弟子がたどり着いたイリュージョン落語は、聞く側の脳を活性化し、心地よさを感じさせてくれるものでした。

瀧川鯉八-四年目

  • 瀧川鯉八さん

美しいお姫様にプロポーズする男が列をなす中、「一目惚れした」と告白しながらも「やっぱ止める」と言って帰ろうとした男。気になったお姫様が婆やを通して問いただすと「3年も一緒にいると飽きるから」という。それを聞いたお姫様は反論するという話です。
すべて「婆や」を通して話していたわがままで気高いお姫様がついに顔を出し、本気になって議論を挑んでいくところが見どころです。面白さは「3年一緒にいたら絶対飽きる」といい張る男の論理。「脳科学的に証明されている」「先人が言っていた」と関節的な理由を挙げ、さらには「相手を傷つけたくないから」と自分の論理で畳みかけていく。突き放すほど追いかけてくるお姫様。
鯉八さんの面白さは、屈折した男女で展開される恋の駆け引きと、押しの強い恋愛観にあるように思えます。代表作の「おちよさん」をはじめ「科学の子」などで女心を巧みについてきた鯉八さんの本領が本作にも発揮されていました。個人的にも鯉八さんの屈折した恋愛系話は大好きで、特集を組んでみたいほどです。

台所おさん-兄ぃと辰の珍騒動

  • 台所おさん師匠

冴えない人生を送っている兄ぃが、弟分の辰と2人で小田急線の新宿駅のホームでいちゃついているカップルに水をぶっかけ、渋谷の円山町まで逃走するという話です。
エントリー作の中では唯一ドラマ性があり、映像として浮かんできます。2人が計画を企てる場所が荻窪のベローチェで、犯行現場が小田急新宿駅のホーム、逃走先が渋谷のユーロスペース前の駐車場と、場所も特定しているので映画を見ているような気分になってきます。
リアルなロケーションの中、観客の脳内にはそれぞれの「兄ぃと辰の珍騒動」が再生されていきます。実際に映像化したらB級チンピラ映画かもしれませんが、落語にして脳内再生すればとてつもなく面白い話になる。落語の可能性を感じさせてくれる一席でした。扇子を使った喫煙シーン、手ぬぐいを使った放水シーンなどアクションにも凝っていて、感情は揺さぶられまくりでした。

立川寸志-小林

  • 立川寸志さん

「小林」という名字のサラリーマンが、同僚の「徳永」に対して、名字のヒエラルキーにまつわる妄想をとくとくと語る話です。
小林をきっかけに名字のバリエーションが拡大していくところが面白さで、「小林」の上には「中林」と「大林」があり、さらにその上には、「大森」、「中森」、「小森」がある、とテンポよく畳みかけていきます。ウッディ(木)系から、ランドスケープ(山)系と言葉のセンスも豊かです。とにかく、アイデアが満載で、聞きながら「そうか!」「そうだね!」「おもしろい!」と気分が高揚していくのがわかります。ちなみに審査員の長嶋有さんの筆名はブルボン小林です。
4月のネタおろしでも語りのよどみなさを含めて完成されていましたが、その後の8カ月でネタを若干修正し、磨きをかけてきた跡も見られました。黒紋付きで登場し、絶妙なタイミングで羽織りを脱ぐところも完璧で、落語としての美しさも感じました。シブラクで確実に実力を身に付けていく寸志さんを見るのは本当に楽しみです。

立川談吉-生モノ干物

  • 立川談吉さん

工場のベルトコンベアーで青いモノと赤いモノを仕分けている2人。青は生モノ、赤は干物。1人は3カ月の新人で、1人は15年のベテラン。意味のない2人の会話が淡々と続くのですが、ネジが外れたように突然暴走を始めて「生茶」「伊右衛門」とお茶のブランドをつぶやいたと思えば、「ハバネロ「ビーノ」と東ハトのお菓子の名前を連呼、最後は論理も崩れてなぜかプロレスラーの名前で終わるという話です。
会場のお客さんには受けていましたが、他の落語会で受けるかどうかといえば微妙かもしれません。ただ、頭の中を空っぽにしてこの落語を受け入れれば、「生モノ干物」のリズム感と、その間に差し込まれる会話、途中で追加される「ゆでモノ」のリズム、突然の転調でお茶ブランド、お菓子ブランドの名詞の畳みかけは、脳みそに最高のマッサージ効果を与えてくれます。話はシュールですが、私にとってリズムとメロディーがあって、最も聞き心地のよい落語でした。
2年前の2017年に下ネタの「肛門飴舐め専門店」を堂々とやりきったものの、次にあがった真打の師匠を激怒させた談吉さんが創作大賞を取る日が来るとは想像もできませんでした。過去4回の創作大賞とは毛色は異なるかもしれませんが、談吉さんのセンスで新しい創作落語の可能性を多くの人に見せ続けて欲しいと思います。

立川吉笑-当日談

  • 立川吉笑さん

久しぶりに再会した2人の男が、初恋や高校時代の部活の話をするだけのシンプルな話です。それでありながら会話の中にさまざまな「違和感」「ひっかかり」が仕込まれ、笑いにつながっていきます。
2人の会話はあくまでも日常の雑談のように進んでいますが、引いてみると「ダブルボケ」になっています。男Aの初恋相手は、目の見えない女の子で、彼女の家に行くためには、目印ではなく「鼻印(臭い)」を頼りにするという話から、「雰囲気印」にまで発展していきます。男Bの初恋は、女優を夢見る女の子が相手で、夢を追うために別れたという話。ありがちな話と思いきや後日談が衝撃的です。
世界がずれて、異次元の世界に入っていくのは極めて小説的で、審査員の長嶋有さんは吉笑さんのこの世界観を高く評価されていました。一方、初聞きの長嶋さんにはダブルボケでAとBの区別がつきにくいところが多少わかりづらかったようです。オチのセリフで吉笑さん自らダブルボケであることをネタばらしするのですが、会話自体は当日談の男Bがボケで、男Aをツッコミの形でミスリードしているのでそこは狙い通りなんですよね。今回はマクラで吉笑さん自身の「後日談」のエピソードを話してからの導入もあり、企みのある高座に興奮が止まりませんでした。

林家彦いち-長屋ばいぷれいやーず

  • 林家彦いち師匠

審査のため、高座は見られませんでした。彦いち師匠の最新刊「瞠目笑(どうもくしょう)」には久米宏さんのラジオ番組で披露した創作小噺が100近く収録されています。それを読むだけでも彦いち師匠のすごさがわかります。今回も5人の若手に向けるまなざしは終始温かいものでした。2020年はSWAも始動とのことで、新しい創作落語の歴史が始まる予感がしています。

授賞式の様子

渋谷らくご大賞の授賞式

  • 今年の渋谷らくご大賞は立川笑二さんです

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写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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