渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 12月13日(金)~17日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
個性の激突! 若手注目株の昇々さん、浪曲界のホープ 太福さん、大ベテランのブラック師匠、そしてトリは奇跡の40歳 文菊師匠です。
落語は面白い。しかしそれよりも語る人は落語に負けないくらい面白くないといけません。それを証明するのがこの会です。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。楽屋で仲間を驚かせるためパンツ一枚になることがある。最近モスクワで落語会を開催した、現地の方に「楽しかった」と言ってもらえたらしい。
▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門。JFN系列にて放送中の「ON THE PLANET」のパーソナリティとして、毎週火曜日25時から出演中。先日、新潟のバスセンターの黄色いカレーそばに感動した。
▽快楽亭ブラック かいらくてい ぶらっく
16歳で立川談志に入門、芸歴50年目。2000年、「快楽亭ブラック毒演会」が文化庁の芸術祭賞優秀賞を受賞する。歌舞伎から日本映画まで深い知識があり、東京MXテレビ「激論!サンデーCROSS」では映画評論家として出演している。
▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。
レビュー
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-明烏
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-地べたの二人〜湯船の二人〜
快楽亭ブラック(かいらくてい ぶらっく)-七段目
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-柳田格之進
『檸檬と炎』
遠い昔の記憶だが、真っ白なA4の紙に、上から檸檬の汁を垂らし、それを電気コンロに紙が燃えないよう慎重に当てると、檸檬を垂らした部分が、キツネ色にあぶりだされるという理科の実験をやったことがある。
落語も講談も浪曲も、実はこの『あぶりだし絵』の原理に近いのではないか。聞く者はただ紙という名の心と、芸を体験したいという僅かな炎さえ持っていれば、後は自由に演者が芸という名の檸檬を絞ってくれる。そうやって浮かび上がった絵の美しさを抱えて、家に帰るのではないだろうか。
さて、渋谷らくごの公式読み物『どがちゃが』のプレビューには『落語は面白い。それよりも語る人は落語に負けないくらい面白くないといけません。それを証明するのがこの会です』とある。
今宵は一体どんな面白い語りをする演者が出てくるのか。檸檬の絞り方になぞらえて、公演のレビューを記していこう。
春風亭昇々 明烏
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春風亭昇々さん
演目の明烏というお話は、真面目な男が吉原に行く話である。狂人の語るお堅い若旦那の時次郎が、かなりの狂人である。勉強のし過ぎで情緒不安定になっている。この時次郎に様々な人達が振り回される。
檸檬の絞り方で言えば、狂人は片手で檸檬を握りつぶす。苦みも酸味も全てが紙にまき散らされ、勢いそのまま電気コンロであぶりだす。そんな風に明鳥という演目が私の脳裏に浮かび上がってきた。
狂人の語る登場人物たちはみな狂人なのだが、なかでも時次郎の狂人ぶりが面白い。吉原をご利益のあるお稲荷様だと勘違いしたり、見返り柳を御神木、大門を大鳥居と勘違いしたりと、人の言葉を時次郎はすぐに信用する。目をキラキラさせてお稲荷様へとやってきたかと思いきや、段々と雲行きが怪しくなり、ついに時次郎が異変に気付く場面はちょっと怖い。お堅い若旦那が、めまぐるしく感情を浮き沈みさせる、狂った一席だった。
玉川太福/玉川みね子 地べたの二人~湯船の二人~
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玉川太福さん
さて、それを踏まえて玉川太福さんは地べたの二人を語り始める。齋藤さんという中年の男性と、金井くんという若い青年。この二人も、二人で一つだ。齋藤さんは金井くんといるからこそ面白いし、金井くんは齋藤さんといるからこそ面白い。二人の微妙なギャップを見ているだけでも面白い。
浪曲の檸檬の絞り方は、まず檸檬を三日月形に幾つか切って分ける。節がやってくる度に、三日月形に切った檸檬の果肉部分を、三味線の音色がぎゅっと押す。ぱあっと弾けるように飛んだ檸檬の汁が紙に染み込み、じんわりとアルコールランプであぶり出されて絵が浮かび上がってくる。
銭湯に行くまでの齋藤さんと金井くんの様子や、脱衣所の様子、そして銭湯に入った後からも、特別大きな事件が起きるという訳では無いが、一つ一つの動作や言葉が面白い。特に齋藤さんの良い意味での気持ち悪さと、金井くんの良い意味での若者感が見ていてとても微笑ましい。
最後はちょうど時間となり、あぶりだし絵の完成形を見れぬまま(?)、イボがどうなったかも分からぬままに、おしまい。後引く面白い一席だった。
快楽亭ブラック 七段目
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快楽亭ブラック師匠
話題は12月12日に亡くなった名優・梅宮辰夫さんの話。年齢を重ねたベテランの放つ言葉には、含蓄が含まれていてとても良い。それまで知らなかったことを知る喜びがある。
歌舞伎好きだというブラック師匠。歌舞伎役者さんとの思い出を語りながら演目へ。
歌舞伎が大好きな若旦那が大暴れする話で、歌舞伎を知らなくても十分に楽しめる。ブラック師匠の滑らかで聞き取りやすい語りもあって、物語の中で語られる歌舞伎のお話しがスルスルと耳に入ってくる。思わず、物語の登場人物が歌舞伎の内容を語っていたということを忘れてしまうほど、真に迫った語りにゾクッとする。
ブラック師匠は檸檬を絞るというよりも、全身が檸檬風呂に入っていて、風呂から上がった勢いで大きな紙にドーンッとぶつかっていき、その後、ぶつかったところを火炎放射器であぶり出すような感じがする。僅かに卑猥な絵が浮かんでくる遊び心もあって面白い。圧倒的な知識量と経験が何をしても面白さに繋がっている。登場人物に愛嬌があって、歌舞伎好きが歌舞伎好きのまま、思う存分に語ることの純粋さを見る。好きなことを好きなように、思う存分語る人はいつ見ても輝いて見える。
最後は高座からも転げ落ちて、ダイナミックな一席だった。終演後はお見送りもされていて、ベテランながらとてもお客様思いの噺家さんである。
古今亭文菊 柳田格之進
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古今亭文菊師匠
語られるのは、武士の誇りを持つ剛直な柳田格之進の数奇な運命。
娘おきぬの助言もあって碁会所に行き、そこで会った万屋源兵衛と懇意になり、ある日、万屋源兵衛の自宅で碁を打つことになる。ここから大きく格之進の運命は変わっていく。
文菊師匠の檸檬の絞り方は、檸檬を二等分し、果肉部分をスプーンで押して小皿に汁を流す感じである。毛先の細い白毛の筆をそっと檸檬汁に浸して、ゆっくりと白い紙に筆を走らせる。その動きの美しさに思わず溜息がもれる。じっくりと蝋燭の炎であぶり出され、浮かび上がってくる絵の、はっきりとした輪郭に思わず息を飲む。鮮明に浮かび上がった絵を見る時、そこに滲む古典の雰囲気が私は何とも言えず好きなのである。
さて、無くなった50両の金を巡って格之進が盗んだのだと怪しむ番頭の徳兵衛が出てくる。この徳兵衛の表情と言葉が何とも憎たらしい。特に、格之進が「50両の金が出たらどうする」と迫った時の「出てきませんよ」と言う時の、軽薄な表情が何とも憎たらしい。娘のおきぬが吉原に身を売り、武士の誇りを守ってまで拵えた50両が、こんなにもあっさりと、嫌疑をかけてきた人間に手渡されてしまうことが腹立たしい。
やがて50両が見つかり、格之進が盗んでいなかったことが分かる。その時の徳兵衛の哀れな表情。そして再び格之進に出会い、首を切られることを覚悟する徳兵衛と源兵衛。最後に格之進が取った行動には、痛切な思いが現れているように感じた。
文菊師匠の力強く、芯のある語りには、武士の誇りに生きた一人の男の、どこまでも真っ直ぐな精神が蝋燭の炎のように、静かに揺らめいていた。
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写真:渋谷らくごスタッフ
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