渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 12月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月14日(土)14:00~16:00 立川志ら乃 雷門小助六 三遊亭圓橘 隅田川馬石

「渋谷らくご」バラエティ落語会

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プレビュー

 若手真打の競演、そしてベテラン圓橘師匠が渋谷らくご初出演です。この会の珍しいのは、落語協会(馬石師匠)、落語芸術協会(小助六師匠)、円楽一門会(圓橘師匠)、落語立川流(志ら乃師匠)という、都内4団体の真打が一同に揃うという点かもしれません。普段はそれぞれの活動拠点をもち、一緒にならない面々が火花を散らせつつもお客様を満足させるリレーをしていくのです。腕利きの真打たちの、バラエティに富んだ四席をお楽しみに!

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが大好き。最近、小売業流注業の情報サイトにて、「立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草」という連載がはじまった、最新号は「フードストアあおき東京豊洲店」を批評している。

▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく
17歳で入門、芸歴20年目、2013年5月真打ち昇進。インスタグラムをやっているが、ほとんどの写真が猫、とにかく猫を可愛がっている。先日、小痴楽師匠から「大好き!!」というサインをもらった。お酒をたくさん飲んだ時はポカリで酔いを覚ます。

▽三遊亭圓橘 さんゆうてい えんきつ
20歳で入門、芸歴54年目、1980年9月真打昇進、六代目圓橘を襲名した。趣味も特技も競馬とのこと。むちゃくちゃかっこいい師匠で「深川の師匠」として後輩からも慕われている。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴26年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。寒くなると肉まんが恋しくなる。近所であれば自転車で行動する。隅田川を自転車で渡るときに感じる風が好き。

レビュー

文:あさみTwitter:@asm177 ライター。落語初心者。大河ドラマ『いだてん』が毎週の楽しみだったので最終回が寂しい。そこで知った「富久」をいつか聞いてみたい。

立川志ら乃(たてかわ しらの)-親子酒
雷門小助六(かみなりもん こすけろく)-紋三郎稲荷
三遊亭圓橘(さんゆうてい えんきつ)-阿武松
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-鰍沢

渋谷らくごは若手落語家が活躍する会。それもあってか、二つ目が高座に上がる率が高い気がしていましたが、今回は演者4名がすべて真打。しかも所属団体がそれぞれ異なるというのだからかなり珍しい会だそうです。プレビューに「バラエティ落語会」と書いてあるのを見て、ワクワクしながら席に着きます。

立川志ら乃師匠「親子酒」

  • 立川志ら乃師匠

開口一番「どうしますか、携帯電話の電源入れますか?」と、事前アナウンスと真逆の発言。「大事な電話かもしれないから、出たらいいんですよ。だって落語を聴くって人生のなかの優先順位は下でしょう?」と自虐を言うのは、あまり固くならずにリラックスして聴いてほしいという志ら乃師匠の優しさでしょうか。そんな志ら乃師匠、スーパーマーケット好きがきっかけで小売業・流通業の情報サイトにて連載を持ち始めたそう。ほかにも以前のヒモ生活のエピソードが話題になり、劇作家の根本宗子さんと座談会を行ったりもしたのだとか。志ら乃師匠のように好きや経験が仕事になれば幸せですが、好きが仕事に悪影響を及ぼすのはいただけないもの。酒好きな息子の将来が心配な父親が登場する「親子酒」です。
見事だったのは後半、酩酊状態の父と息子の様子。正直言っていることの半分はわからないくらいで、呂律の回らなさ合戦をしているかのようです。実は志ら乃師匠、まったくお酒を飲まないとのこと。それを聞いて驚いたのですが、下戸が故に周りの酔っ払いを冷静に観察できたからこそ、体得した表現なのかもしれません。久しぶりの酒に止まらない笑み。酒をすするときの眉の動き。酒が喉から食道に流れ落ちるときの小さな身震い。泥酔するのは勘弁したいですが、志ら乃師匠の飲みっぷりを見ていたら、思わず私も今夜は…と思ってしまいました。

雷門小助六師匠「紋三郎稲荷」

  • 雷門小助六師匠

小助六師匠は千葉県松戸出身。今も松戸にお住まいだそうで、帰りに松戸駅周辺の居酒屋で人生の先輩方と喋りながら一杯ひっかけるのが楽しみだそうです。松戸は元々東京へのアクセスも良く、再開発も進行中。しかし一方で、時にはタヌキの姿が見られるほど自然も豊かなのだとか。そんな松戸が登場する「紋三郎稲荷」です。
落語は聞き手の想像力が試される娯楽。今回は話し手の小助六師匠が、まるで『ブラタモリ』のように今と昔の松戸を交互に説明することで、私たちに想像のヒントをたくさん与えてくれました。松戸出身、小助六師匠だからこそできるアレンジにちょっと得した気分です。駕籠屋の勘違いと平馬のいたずらがきっかけで、平馬は松戸でも狐を装うことになりますが、小助六師匠は背筋がシャンと伸び、声を張り上げずとも会場にスッと通る気持ち良い声の持ち主。その佇まいが眷属のイメージと重なり、騙されちゃう駕籠屋と宿屋の主人らの気持ちがちょっと分かるような気もしました。一方で駕籠屋が宿屋の主人に平馬が狐だと伝える際には、両手を頭の上に挙げ狐の耳のポーズ。「これもんなんです」と説明する仕草がとてもキュートでした。

三遊亭圓橘師匠「阿武松」

  • 三遊亭圓橘師匠

渋谷らくご初登場の圓橘師匠。昔「東横落語会」で名人の落語を聴いたことが、この道を目指すきっかけの1つにもなっているそう。そんな思い出が今回の渋谷らくご出演に繋がったのだと思うと感慨深いですね。初の出演ということで何を演るかを随分思慮されたようですが、ネタ帳を確認したところ相撲の噺がないとのことで、「阿武松」をかけてくれました。
登場した瞬間から本当に柔らかい雰囲気で、にこにこと微笑まれていた圓橘師匠。声色も温かい空気をまとっており、失礼ながらも「好々爺」という言葉がぴったりだなという印象を持ちました。しかしその印象がひっくり返ったのはまくらの後半。相撲の練習の真似をされた際の声が、それまでの声量の倍以上。鋭く突きさすような声の出し方に、会場の空気が一瞬で緊張感に包まれました。その変わりようにびっくり。若手から大ベテランまで観られる渋谷らくごだからこそ出会えた圓橘師匠の凄みに、改めて落語の面白さを知ったような気がしました。また力士の肌の色や質の描写をしっかりされていたのは、相撲好きな圓橘師匠ならではでしょうか。次に相撲中継を見る際は、その点にも注目したいと思わせてくれました。

隅田川馬石師匠「鰍沢」

  • 隅田川馬石師匠

落語は文字通り、オチ(サゲ)があるから落語と名が付いたそうですが、なかには「そのオチはどうなんだ?」というものもあるとのこと。そういうときは「噺」という言い方なら良いのではと考えているのだそうです。この日かけたのも、その理論で言えば「噺」になるのでしょうか。「この人数だからやりますけどね。30分近い噺のなかで、笑いどころは1つもないから! それは腹の底から伝えておきます」と注意事項を伝えたのち、はじめたのは「鰍沢」です。
鰍沢=シリアス。そんなイメージを持っていたのですが、馬石師匠の鰍沢は、馬石師匠の柔らかい声が作用してか、前半では「旅人の人の良さ」みたいなものが透けて見えるような気がしました。だからこそ、後半で旅人が毒を飲まされ苦しむ様子は衝撃そのもの。夫が玉子酒を飲んでしまったと知ったお熊の金切り声も、旅人の柔らかい声と対比し、恐怖を煽ります。印象的だったのは玉子酒の飲み方です。旅人はズズ、ズズっと少しずつ飲むから、玉子酒の熱さやとろみ、そして酒の苦手さ伝わってくる。一方お熊の夫は湯呑に指を突っ込みとろみを掻き出すことで、空腹や豪快さが見えてくる。飲み方ひとつで様子や人物像が浮き彫りにできるのだと、馬石師匠の技を見た鰍沢でした。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」12/14 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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