渋谷らくごプレビュー&レビュー
2018年 1月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
「最初に落語を聴くなら古典というものを聴いてみたい」そう思う方も多いはず。演者の名前もわからない、演目の名前も読めない、そういう人に向けてもオススメな橘家圓太郎師匠。初心者から通まで唸らせる間口の広い芸をどうぞ!
そして三人の若手真打が火花を散らすところがこの会のウラの見どころ。心のなかで一番を決めるつもりで聴いてみて!
▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。フットワークがひたすらに軽く、日本のみならず海外でも独演会を開催している。仮想通貨に詳しい。着物から袴まで作れてしまうほど器用。いまオリジナルバッグを考案中。もうそろそろ商品化される。
▽瀧川鯉朝 たきがわ りちょう
24歳で入門、芸歴26年目、2006年真打昇進。連続テレビ小説の「ひよっこ」にはまり、年末までひよっこロスになっていた。手を両頬にそえて首を傾げる姿が決めポーズ。西原理恵子ファンで、西原理恵子のポスターがあると足を止めてしまう。
▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴14年目、2017年9月真打昇進。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。スケートボードにはまり稽古を重ねているので、技術がめきめきとあがっている。またバク転ができるよう稽古を重ねている。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴36年目、1997年3月真打ち昇進。オヤジの小言マシーンぶりは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。この時期は可愛らしいパーカーを着て楽屋にいらっしゃる。高校時代はラグビー一筋だった。
レビュー
立川こしら(たてかわ こしら)-片棒
瀧川鯉朝(たきがわ りちょう)-街角のあの娘
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-厩火事
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)-鼠穴
立川こしら-片棒
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立川こしら師匠
噺の方は金と銀、この長男次男の似てる感じが面白いです。進む方向はそれぞれ違う二人だけれど、考え方が同じで、結果やることが一緒になる。「片棒」という噺を聴いて兄弟が似てるって感じたのは初めてな気がします。二人とも同じように金遣いがあらいというのはこれまでもあったけれど、全く同じ話をするというのはありそうでなかったような。一緒に暮らしてて考え方が似てきちゃったのかな、兄弟なんだなーってすとんと納得する感じがいいですね。お金に執着がなくて簡単に大金を使おうとするダメなところに、しょうがないヤツラだなって笑っちゃいます。また父親である主人が、金と銀の無茶な話を途中までちゃんと聞いて受けとめているところがこしら師匠らしく感じました。大金を無駄遣いして……といきなり頭ごなしに叱ったり否定するのではなくて、まずはちゃんと話を聞いてくれる。そこにケチなだけじゃない普段の主人の姿、親子の日常が見える気がします。それに対して三男・鉄は、そっけない位に淡々としてる印象。なのにカブトムシを飼育する時におがくずを敷いてはダメと語り出したらいきなり熱い!その説得力が凄いです。会場中が集中して耳を傾けているのを感じました。説明がめちゃくちゃ詳しくて、こしら師匠の知識と経験の幅を感じさせます。師匠の一面が垣間見えると、次は何が飛び出してくるんだろうとわくわくしますね。またそういった経験値に基づいている力強さもありながら、どこか(いい意味で)軽薄なイメージがあって、その軽さの中で遊んでいる感覚が好きです。気楽に来て笑って、そしてすこーし賢くなって帰る。出てくる 登場人物たちにおバカだなぁと笑って、ただ素直に楽しめる。無駄な時間を楽しむ、そんな心の余裕・大人の余裕、みたいなそんなカッコよさ。いいですよね。そうそう、初めてこしら師匠の歌声を聴きましたがいい声!こしらオンステージ。高座がライブステージに変わる瞬間も楽しかったです。
瀧川鯉朝-街角のあの娘
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瀧川鯉朝師匠
噺に入る前に、以前この落語をやった時のお客様の感想をお話されて……一体どんな噺なんだろう、ついていけるのかしらと始まる前からヒヤヒヤドキドキです。そうして始まったこの物語の主人公は、洋菓子店の前にいる女のコの人形。ちょっと舌を出した表情が印象的な、おめめクリクリのあのコです。そんなペコちゃん(笑)の視点が楽しい新作落語。鯉朝師匠の少女っぽい話し方や表情は違和感なく、というかむしろコミカルなキャラクターが師匠の雰囲気に合っていらっしゃって、意外に可愛いです(笑)。テンポよく語られていく中で、隣の薬屋の前にカエルの人形がいたりとか、ちょっと探せば身近にありそうな町並みが頭に浮かんできます。けれどペコちゃんの目線で見てみると、同じ町なのに全く違う世界が広がります。小学生の男の子たち、ベロベロの酔っ払い、また勘違いしているおばあちゃんなどなど、見方ひとつで新鮮な驚きが次々生まれる日常が可笑しい。
後半はペコちゃんの視点から店長の視点に変わり、話が急転直下でおおお?と思っている内に終わってしまってびっくりです。意外にもハッピーエンドでした(笑)。もし最後までペコちゃんの視点で終わったらどうなるのかな?もしくはうまくいかない終わりだったらどうなるのかな?鯉朝師匠のあのペコちゃんなら、他にも面白いエンディングがたくさん用意されているような気がします。色んな視点で広がる世界、見てみたいですね。
古今亭志ん五-厩火事
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古今亭志ん五師匠
噺は「厩火事」。髪結いの仕事をして、7歳下の夫を養っているおさきさん。あまりによくしゃべるおさきさんに、相談に来られた旦那もうるさく感じるほど。うるさいといっても声が大きいとか、つけ入るスキがない程のマシンガントークではなく、言葉の物量といいますか、次から次へと出てくるその言葉の返しがもの凄い感じです。うーん、うまく言えませんが、志ん五師匠のおさきさんはどこか柔らかくゆったりしている。けれどやっぱり見ていてうるさい(笑)。小首をかしげ、柔らかな雰囲気がありながら、きちんとうるさいおさきさんというのが不思議で可愛らしいです。ケンカのたびに来るのは困るけど、なんだか憎めない愛嬌があります。
夫への不満を訴えるおさきさんに、旦那が諭す言葉をかけるものの、おさきさんは次々と予想外の切り返し。小気味よい二人のやりとりがとても楽しいです。旦那の受け方も次々に変わっていき、あれよあれよと話が進む心地よさ。旦那とおさきさん、そして夫とおさきさんの会話。水の流れに乗っているような良い気分です。なんだかんだ言いながら、おさきさんの相談に乗ってくれる旦那の優しさ、ちょっと離れてそっと見ているような不思議な距離感。志ん五師匠の落語に流れる空気感にはいつも優しいまなざしがある気がします。
橘家圓太郎-鼠穴
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橘家圓太郎師匠
また兄が弟に厳しく対応した理由がわかった後もいきなり仲直りするのではなくて、兄が弟に帰ることを勧め、そうだったのかと弟が理解してからの酒宴というのがとても自然に感じました。兄が「火事になれ」と言っちゃうところ、好きです。それから夢を見た後の、兄が「(弟が)まだ許してない」とぼそりという言葉が楽しい。お兄ちゃん、結構いい性格してると思います。
印象深いシーンはやはり火事の後ですね。信じて再度お金を借りに来た弟への兄の仕打ち。断られても断られても、何度も食い下がる弟の姿。結局受け入れてくれない兄に対し、憎しみをぶつけ激しく怒るというより、「兄弟なのに」という弟の憤りと、受け入れてもらえない悲しみ、その絶望感が伝わる気がしました。それでも兄が弟の幼い娘に対して飴をあげるところは、兄が弟とその家族を大事にしている気持ちが見えて、人間としてどうしようもない人ではないけれど、自分の店の商いの為には信用がない人にはお金は出せない、自分の身を守ることを優先するという……。兄が独り身という設定も、何か感じる気がします。
以前どこかでこの噺を聴いた時には、幼い娘に対しても手荒な対応をしていたような記憶があり、そういった事がない分、余計に人間らしい感じがしました。冷たくしたいわけではないが、出せないものは出せない。そういうことって大小はあっても自分の身を守るために日常よくあることなのかもしれません。ごく当たり前のやりとり。誰もがそこまで冷たくはないけれど、結果冷たくしてしまうこと。とても人間らしい噺なのかもしれないと思いました。そんな圓太郎師匠の人間の描き方が好きです。
改めて振り返ってみると、この回はこしら師匠の仮想通貨のお話から始まり、圓太郎師匠の人とお金にまつわる物語で終わりです。お金はうまく使えば楽しく幸せにしてくれるけれど、場合によっては不信や絶望をもたらすもの。その場ではただ笑って楽しく聴いていましたが、そんなお金に対する教訓を感じるような流れがあったことに後から気づきました。師匠方の噺の選び方に改めて感服です。
【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」1/14 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ