渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 7月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月13日(金)18:00~19:00 春風亭昇々 隅田川馬石

「ふたりらくご」18時の昇々:古典の達人 馬石師匠

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プレビュー

 若手二つ目の昇々さん。中堅真打の馬石師匠。
 毎月ここ「渋谷らくご」で、お客様を満足させ続ける演者による、サービス精神旺盛な一時間。
 ひとり30分、じっくり楽しめるのもほかにない機会です。初心者から愛好家まで、どんな方でも楽しめます!

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。願掛けの際の断ち物として「スマートフォン」を選んだためスマホを使わなくなり、空いた時間に本を読むようになった。ただスマホで将棋アプリをやりたいらしい。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴25年目、2007年3月真打昇進。高座を終えて楽屋を出る速度が渋谷らくごの出演者の中で最も早い。暑がりで、楽屋入りすると涼みたがる。毎日ランニングを欠かさず、近場の移動には自転車をつかうことを心がけている。

レビュー

文:サンキュータツオTwitter:@39tatsuo 渋谷らくごキュレーター/漫才師

7月13日(金)18時-19時「ふたりらくご」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「ちりとてちん」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)「甲府い」

「飽きない二人」


金曜の18時。
会社の仕事もこの時間に終わりにくい。同僚や友だちとの飲みの誘いも断りにくい。
そんな貴重な時間に「落語会」に行くというのは、相当特別なことだ。
少なくとも、渋谷駅から決して近くない場所ユーロライブまで歩き、落語を聴く。
この時間のために、何日も何週間も前から、この日の仕事を休んだり断ったり切り上げたりして、すべてを整理して「賭け」てくれる人たちがいる。演者もうそう、お客さんもそう。

で、あれば、最高の1時間にしたい。
平日の18時から19時という魔の時間帯を、「秘密の愉しみ」の時間にしたい。
そういう想いでこの平日の1時間の番組を組んでいます。
否定的なことを言いだしたらキリがない時間帯と場所。だけれども、それをおしてでも行きたいと思える「贅沢な時間」。

昇々(しょうしょう)さん、馬石(ばせき)師匠、ともに毎月必ず渋谷らくごに出演いただいている落語家さんだ。
普通の演者なら、ネタ数から逆算して、この日のネタはこれとこれかなとか、ネタ尽きてきたら出演回数減らすかとか、そういうことを考えるのかもしれませんが、
この二人は違います。
どんなネタを何回聴いても、飽きない。
それは、お客さんと一回きり、この空間どれだけ楽しく過ごせるか、そのことを考えて、ライブ感を大事にしてくれる二人だからです。

春風亭昇々さん

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

最近、人間ドッグにはじめて行ったという昇々さん。
芸人は面倒くさがりが多いので、病院いかない検診うけないという人も多いのだけれど、そんな昇々さんもついに体調を崩し検査に行く羽目に。そこで体験したことをしゃべるだけ。もちろん出来過ぎなオチもない。
だけどこの人の落語が楽しいのは、何回した話も、はじめて話すことも、すべて「はじめての気持ち」という実感でしゃべれるからかもしれない。
胃カメラが鼻の穴を通り過ぎていく、それに昇々さんがリアクションをする。このシーンを再現するだけで、もうずっと聴いてられる。この人が伝えたいことは、シーンや物語ではなく、感情や実感なのである。
気付いたら落語本編に入っているのも、この人の持ち味。わざわざ「落語やります」とか、「ここまではマクラです」とかは言わない。私もそれは言わないほうがいいと思う。
気付いたときには落語の世界。それが気持ちいい。

「ちりとてちん」も、従来の方法でただオーバーにやるのではなく、しっかりキャラクターを立てて、前半も後半もおもしろい。
なにをやってくれてもいい。昇々さんが実感こめて、目を見開いて、本気でふざけてくれてればいい。すでにこの人は「作品」ではなく、自分という「人間」で楽しませる術を心得ている。
火曜日の18時公演では、なにをやるだろうか。今月の渋谷らくごには2回出演していただく。昇々さんがここの高座のために、なにをやろうか考えている時間も、想像するとありがたくも楽しい。

隅田川馬石師匠

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

にぎやかな昇々ワールドを、一瞬で自分の空気にすることができる馬石師匠。
毎朝走って身体づくりをしているのはいいけれど、ここ最近の真夏日の影響で、少し顔が焼けています。正気の沙汰ではありません。
品があって技術があって知識もある、そんな師匠でも、時々顔を出す「異常性」がオモシロくて芸人くさくて、愛らしい。
馬石師匠は、こっそりいろんなことをなさっている方なのですが、自分からあまり言わないのが変態くさくていいのです。たいがい落語家でも漫才師でも、「上手い」と表現される演者は、「可愛げ」を失いがちなんですけど、馬石師匠は、おもしろくて、かわいい。上手いのに。
面白い、かわいい、そういう人は必ず愛らしい隙があるものです。馬石師匠の場合は、この異常性、変態性でしょうか。いや、これは褒め言葉です。最上級の褒め言葉です。
どこか、冒険家のような孤高の存在で、愛想はいいのだけれど頑固で他人とベタベタしない。その距離感が、品となって高座ににじみ出ます。
この距離感があるから、たまに素でお客さんに語りかける「わかるでしょ?」と同意を求めてくる馬石師匠に、キュンとするわけです。距離感の達人なんだなあ。

この日、馬石師匠が選択した演目は「甲府い」(こうふい)。
人情噺のようでいて、泣かせるところまでいかない、サゲもいたってバカバカしい。考えようによっては、ベタベタせずに、サラッとした人情噺です。一番かっこいい。泣かせない人情噺、だけれども、いいもの聴いたなあと思わせてくれる噺。

言われたことを素直に受け止め、聴かれたことにそのまま答える。だからこそ、お腹が減ったらお金がなくても手を出してしまう。ストレートな性格で、ある面で、地方出身者らしいこの噺の主人公が、江戸という都市に受け入れられる噺ともいえます。それを「縁」という言葉でまとめるオシャレさ。
この噺を、江戸の人たちはどんな気持ちで聴いていただろう。こういうやついるな、優しくしたいな俺も、と思ったのだろうか。
江戸に出てきた地方の人たちは、どういう気持ちだったろう。故郷の父母を想い、お世話になった人に感謝し、心細くも受け入れてくれた江戸という街を、少しは好きになって温かい気持ちになっただろうか。そういうことすら想像させる。

説明的ではないのに、万引きしようとした男を雇うことや、さらにその男に一人娘を預けること、そういったものがスッと入ってくるように、細かく仕込みを工夫する。
サゲの仕込みを、まったく違和感なく、さりげなく、目立たないように、それでいて効くタイミングで印象に残す仕事には、感嘆するしかありません。
すごいです。馬石ワールド。

何席もこの空間で演じてきて、通常運転の高座を務める。しかしそれが「特別な一日」「特別な一時間」となっていく。来場した人に、来なきゃよかったという人はいない。来て良かった、と思わせる。
だからこその二人は毎月「渋谷らくご」に出ています。



【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」7/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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