渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 7月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月16日(月)14:00~16:00 台所おさん 林家彦いち 柳亭小痴楽 柳家花緑

「渋谷らくご」柳家花緑師匠、登場!

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プレビュー

 若い頃から国宝の孫として注目され、真打昇進も22歳、数々のメディアにも出演してすでに落語界を代表する存在のひとりとなっている花緑師匠。ですが、順風満帆に見えるキャリアでも、注目されたなかで自らトライ&エラーを厭わず芸の幅を広げてきた泥臭く、ストイックな姿がかっこいい師匠でもあります。
 今日、はじめて落語を聴く方、あるいは落語を聴き始めて数回、という方が多い「渋谷らくご」にご来場の皆さまに、まだキャリアの中盤にさしかかったばかりの、華があって重厚な、花緑師匠の姿を目に焼き付けてもらいたいです。これから一緒に歳を重ねられる幸せを感じてもらいたいと思います。
 年上の弟子のおさん師匠、こちらも人気者 彦いち師匠、ハートが大きく芸は軽く の小痴楽さん。なにも考えず楽しんでください!

▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴17年目、2016年3月真打ち昇進。最近まで、お財布とスイカをもっていなかった。小銭はポケットに押し込んでいたため、ポケットがパンパンに膨らんでいた。最近ツイッターの告知では文末にたくさん「よろしくお願いします」とつけている。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。いまはバイクに熱中している。「彦いち袖形かばん」をプロデュースした。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴13年目、2009年11月二つ目昇進。オンライン視聴者討論番組「激論ザムライ!」のファシリテーター。いま片っ端からアガサクリスティーを読み漁っている。7月のツイッターはワールドカップ一色だった。

▽柳家花緑 やなぎや かろく
15歳で祖父である五代目柳家小さんに入門、22歳で真打昇進、戦後最年少で真打ち昇進を果たす。芸歴31年目。先日、爪に「西郷どん」と、愛犬のネイルをした画像をツイッターにアップしていた。なんでも挑戦を続けおもしろがる、最高の努力家でもある。おでんの具はちくわぶが好き。弟子の台所おさん師匠よりも年下という面白い師弟関係。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi (恵比寿 夜ノ森のレモンサワーを飲みたくなる夏)

7月16日(月)14:00~16:00 「渋谷らくご」
台所おさん(だいどころ おさん) 「松曳き」
林家彦いち(はやしや ひこいち) 「長島の満月」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく) 「岸柳島」
柳家花緑(やなぎや かろく) 「天狗裁き」

「飾らない男たち」


 暑い盛りの7月16日、祝日の晴天の空の下てくてくと渋谷へと向かう。駅から外へ出るとギラギラとした日差し、べたべたとした空気。こういう日は涼しい屋内でのんびりとするのが一番である、絶好の落語日和とはこういう日なのかもしれない。そんなことを考えながらクラクラと坂を上っていく。

 整理番号は145番、自分の番号が呼ばれるのを涼みながらぼんやりと待つ。近くで待つ人たちも汗がたらたらと流れている。そんな時、白いTシャツで涼しげに階段を上がっていった人が。小痴楽さんであった。ああいう飾らない雰囲気を纏いたいものだとしみじみ。
さて、自分の番号が呼ばれたのでぎゅうぎゅうの席の中から空いている場所を探す。今日もぼんやりと楽しい時間が始まる、出囃子の音が聞こえてきた。

台所おさん「松曳き」

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

飾らない人柄は魅力的だ。そんな中でもおさん師匠は滲み出るようなおかしさを湛えている。「どうも、おさんです」と挨拶をしただけで、思わず笑ってしまうおかしさ。ただ普通の出来事が、おさん師匠のフィルターを通すとおかしくて仕方がないのだから不思議だ。
今日はトリが自分の師匠であるため緊張しているとのこと、ふわふわした感じなのだろう。まくらの途中で花緑師匠が登場し「しっかりやりなよ」と、よりふわふわした空気に。花緑師匠が下がったのを確認してから、ニコッと「ああいう茶目っ気のある師匠なんですよ」と語る姿が印象的で。あぁ本当に師匠のことが好きなのだなという気持ちが伝わってきて、あたたかい気持ちになった。

自分自身の粗忽エピソードから「松曳き」へ。滲み出るおかしさを湛えたおさん師匠が、どうしようもない粗忽者を噺のなかに登場させるのだから間違いない。ぼんやりとしたお殿さま、そそっかしい家老の三太夫さん、言われたとおり「お」と「たてまつる」を付けてしまう植木屋さん。どこにもしっかりとした人がいない。

小さな勘違いが大きな問題を生み出してしまう三太夫さん。ただそれ以前の粗忽ぶりを見ていると、いつかこいつはとんでもないことをやらかしてしまうに違いないという気持ちになっている。大事件の前には、小さなヒヤリ体験が数多くあるということだろう。
まぁこの人だったらしょうがないよなぁと思うのは、それまでのおさん師匠の見せてきた世界の力なのだろう。心地よくあたたかな気持ちになった。

林家彦いち「長島の満月」

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

 飾らない人柄は魅力的だ。そんな中でも彦いち師匠は滲み出るような熱さを湛えている。タッタッタッと座布団へと向かう姿を見ただけで、こちらもスッと座りなおしてしまうような熱さ。
 まくらは渋谷らくごでもお馴染みのE師匠のきゅうりダイエットの話。末廣亭の楽屋での出来事が、渋谷らくごへとつながり、そして末廣亭の楽屋での後日談。私が見る限り、E師匠は確かに最近痩せたような気もする。そりゃ源氏パイがきゅうりになれば当然か。

   どこから噺の世界に入っていったのか、笑っているうちに気づくと「長島の満月」へ。
彦いち師匠が幼少期を過ごしたという長島、噺に出てくる主人公の男はそんな長島での「ないないネタ」を回想していく。

 給食の思い出は漁師さんが持ってきてくれた刺身
 大事件は信号機が作られたこと
 初めての淡水での水泳大会など

 どれもが多くの人たちにとっては「ないないネタ」である。ダメだ、話しても全然共感してもらえないと一人煩悶する男の苦悩。 しかしそんなふわふわと回想する一つ一つのエピソードは、光り輝いた粒揃いの物語の集まりだ。自分にとって苦悩するような思い出は、違う視点から見れば何と面白いことか。世界は自分の視点次第でいくらでも輝いていくのだ、長島の満月と同じように。

柳亭小痴楽「岸柳島」

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

飾らない人柄は魅力的だ。そんな中でも小痴楽さんは憎めない魅力を湛えている。何か問題があったとしても「こいつだったら仕方ないなぁ」と思えるような人柄が伝わってきて。
まくらは先日亡くなられた歌丸師匠との思い出。あくまでからっと思い出を語る姿勢は、その飾らない人柄と相まって実に心地よい。どうやら小痴楽さんは歌丸師匠から「ちぃ坊」と呼ばれていたようで、「しょうがねぇなぁ、ちぃ坊は」と言われるエピソードが多々あったとのこと。
大切な人との物語が自分の中に残っている限り、その人は生きている。その物語を聞いて覚えている人の中にも、その人は生きている。

 サッカーの話からグイッと旅、そして船と話を持っていき「岸柳島」へ。そんな力で持っていく感じもまた憎めない魅力を湛えている。

 出掛かった渡し船へ強引に乗り込んだ見目のよろしくない若い侍。舟の縁でポンと煙管をたたくと、雁首がぽろっと川の中に落ちてしまう。何とか拾えないかと船頭に言うが、もはやどうしようもない。周囲の人々は声こそ出せないが「ざまあみろ」と腹の中で笑っている。いわゆる「シャーデンフロイデ」、自分が手を下すことなく他者が不幸や失敗に見舞われた時に生じる、喜びや嬉しさといった感情だ。

 そんな不幸に見舞われた侍から、屑屋さんが不要になった吸い口を買い上げたいと持ちかけると大騒動。カッとなった侍が屑屋さんを殴る。小痴楽さんが噺のなかで行う殴る仕草は、思わずヒッとなる緊張感だ。そんな飾らないかっこよさが、噺の細部に表れていた。

柳家花緑「天狗裁き」

  • 柳家花録師匠

    柳家花緑師匠

飾らない人柄は魅力的だ。そんな中でも花緑師匠はストイックに追い求める姿勢を、爽やかに魅せていて。厳しさと優しさ、自らが経験してきたことを基にした、本物の言葉を伝えているように感じる。

自分の弟子が渋谷らくごに出演していることの感謝と、弟子との付き合い方について。落語家の増加と日本の人口減少によって生まれるとんでもない未来。そんな夢のようなお話から、眠っているときに見る夢の物語「天狗裁き」へ。

なんか夢を見ていたような気がするけれども、目が覚めた時にはもう既に覚えていないことがある。それでなくともぼんやりした頭がさらに曖昧模糊としているような。

主人公の男は奥さんから「どんな夢を見ていたの?」と訊かれるが「いや、見てねぇよ」と、本当のことを伝える。けれども信じてくれない、ついには大喧嘩。
止めに入ってきた隣人にも、「どんな夢を見ていたの?」と訊かれるが「いや、本当に見てないんだ」と、本当のことを伝える。けれども信じてくれない、やっぱり大喧嘩。
止めに入ってきた大家さんにも、「どんな夢を見ていたの?」と訊かれるが「いや、見てないんです」と、本当のことを伝える。けれども信じてくれない、ついには家から出て行けという事態に。
ついに裁きの場、お奉行様のおかげで一安心かと思えば、「どんな夢を見ていたの?」と訊かれる。「嘘ではありません。本当に見てないんです」と伝えるが、信じてもらえない。ついには松の木につるされてしまう。
何でこんなことにと思っているところに天狗が助けに訪れて、そして予想通り、、、という展開。

一つ一つの展開は予想通りに進んでいき、同じパターンが繰り返されていく。だからわかっているはずなのにやっぱり笑ってしまう。多くの人の姿が全く異なる姿で頭の中に浮かび、また単調になることなくケラケラと笑ってしまう。花緑師匠のおかげで幸せな笑いにほんわりとした。

それぞれの飾らない男たちの、それぞれの流儀。
私もまた自分だけの流儀、自分なりの魅力を身に付けていきたい。


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「渋谷らくご」7/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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