渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 9月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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9月16日(日)14:00~16:00 台所おさん 春風亭昇市 入船亭扇辰 瀧川鯉八

「渋谷らくご」二つ目 瀧川鯉八トリ公演:クセモノ落語会

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プレビュー

 何度聴いても笑っちゃう。何度聴いても味わい深い。生の高座に触れ、語る姿、語る声、そのすべてを反芻して楽しめるクセモノたち。
 一度聴いたら忘れない、そんなインパクトのある方々の会です。
 ギョロ目のおさん師匠は落語も楽しい、初登場の昇市さんは現代的な感覚に優れた二つ目になりたての新星、ベテラン扇辰師匠は、時間の流れを濃密に感じる圧倒的描写力、そしてトリの鯉八さんは現代の寓話、御伽噺で映画や芝居やお笑いなどを圧倒する才能です。来なきゃダメ、ぜったい!

▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴17年目、2016年3月真打ち昇進。最近まで、お財布とスイカをもっていなかった。小銭はポケットに押し込んでいたため、ポケットがパンパンに膨らんでいた。毎週お風呂場にてバリカンをつかって頭をかりあげる。昔はマッシュルームカットだった。

▽春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち
2014年入門、芸歴5年目、2018年5月二つ目昇進。渋谷らくご初登場。前座さんとして渋谷らくごをお手伝いいただいていた。先輩方のコミュニケーション、気の配り方まで完璧にこなしてくださった。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。ギターからピアノまで演奏する。正装する時はスーツに蝶ネクタイという出で立ち、すごく似合う。iPadを使いこなし、気になったものはすべて写真におさめている。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。2017年第三回渋谷らくご大賞「おもしろい二つ目賞」受賞。この夏は、フィンランドのヘルシンキへ行ってきた、大好きな映画監督アキ・カウリスマキのロケ地めぐりをした。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter:@Caoleen1022 自慢 :ピアノ界のスーパースター・リストと同じ誕生日

台所おさん(だいどころ おさん) 「大工調べ」
春風亭昇市(しゅんぷうてい しょういち) 「宮戸川」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ) 「家見舞」
瀧川鯉八(たきがわ こいはち) 「俺ほめ」

「想像する楽しみ」


クラシック音楽を楽しむ人って、落語も多分楽しく感じられると思います。クラシックの作曲家って個性が強いと言うか破天荒な人が多いですよね。子供の頃に伝記を読んだときには、人格者とまでは言わないものの、真面目で人としての手本のような人たちだと思っていましたが、実際はもっと面白みのある人間臭い人たち。
落語も同じで、個性豊かな噺家さんたちが高座に上がります。実は気楽に楽しめる伝統芸能というところで共通点も多いクラシックと落語。相乗効果で楽しみ方が広がる感じがします。

「大工調べ」台所おさん師匠

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

指揮者や演奏家によって曲の印象って大きく変わります。最近一番感じたのがラフマニノフの「パガニーニの主題による狂想曲」。よく某マンションのCMで流れてた曲です。ラン・ランは切なさが強い印象。一方フジコ・ヘミングの演奏では哀しみを超越した微笑みを浮かべた雰囲気。どちらが正しいとか優れてるとかはなく、違いって面白いなと興奮するんです。
おさん師匠の「大工調べ」、こんなモヤモヤする噺だったっけ?というのが一番の感想。この噺はガメつい大家に対して大工の兄貴がカッコイイ啖呵を切るスッキリした噺だと思っていました。でもおさん師匠の噺を聴いて、大家さん理不尽じゃないかと思いました。悪く…なくね?落語はスッキリ聴きたいから、大家さんがガメついほうが正直落語としては好きです。でも、こういうモヤモヤした噺になると、ずっと考えますよね。おさん師匠のちょっと余韻を残すところ、けっこう好きです。フジコの演奏で、悟りにも似た感覚の背景を考えてみたくなるように、余韻を噛み締めながらモヤモヤを分析するのもなかなか楽しい。

「宮戸川」春風亭昇市さん

  • 春風亭昇市さん

    春風亭昇市さん

ピアノをずっと習っていたので、すっごく大きなことを言えばチェルニーは師匠に当たります。えぇ、教本と弾き手の関係ですが。でも、全世界のピアノ奏者の殆どがチェルニーの教本にお世話になっています。そのチェルニーから直接指導を受けたのが、超絶技巧てお馴染みのリストです。技巧の下地を作ったのはチェルニーなのかな…と思いを馳せるわけです。
今回でしぶらくデビューの昇市さんの師匠は昇太師匠。私に落語を聴くキッカケを与えてくれた師匠です。かなり個性が強い師匠ですよね。落語も、どこかには師匠のエッセンスが入っているものかと思うんですが、昇市さんは見た目も喋り方も爽やかで好青年。一門らしさはどのあたりだろうか?と観ていましたが、このデビュー戦で宮戸川をやる感じに癖の強さを感じました。いや、普通なのか?でも、私の中で宮戸川はちょっと異色と言うか、昼間からキャア‼︎という感覚です。いかにも落語な熊さんやら八っつぁんやらが出てこない噺を選び、爽やかに演ってのける感じが今後見続ける楽しみにもなります。

「家見舞」入船亭扇辰師匠

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

ラヴェルはいまいち実態が掴めない作曲家だと思っています。偏屈な表情を見せたり、でも遊び心があったり。だから、ラヴェルの曲って演奏難しいんですよね。聴くだけなら大好きな作曲家ですが、弾くのは大嫌いです。良さを説明しようとするとやたら長くなって、最後は何を言っているのか分からなくなる。こんな「よくわかんないけどカッコいい」を一言で言う便利な言葉が「エスプリ」です。
 細かい意味は違えど「エスプリ」同じニュアンスなのが「粋」という言葉ではないでしょうか。そんな「粋」という言葉が似合うのが扇辰師匠。この師匠の実態が掴めなさはラヴェルと同じ。ちょっと近寄りがたい雰囲気を出しつつ、高座を聞いているととってもお茶目。昇市さんが「恋の噺」だったからコイの噺でも…と始まったのが「家見舞」。一応ネタ被りを避けるのが落語会の特徴と聞いていたので、敢えて被せてきたのか…?とちょっと謎でした。そう、私はこのネタを知りませんでした!これは粋というより「ボレロ」のようなエスプリじゃないかと思います。粋だ粋だと思っていたら、エスプリもあっただなんて、ちょっと次回から観る印象が変わりそうです。

「俺ほめ」瀧川鯉八さん

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

世界観が独特なのがサティの曲。時期によるところも大きいのですが、クラシックというジャンルの幅の広さがよくわかります。そしてサティを「きちんとしたクラシック音楽」というジャンルに入れているのは、クラシックの懐の広さを感じます。
一般的な「落語」を想像しながら鯉八さんの落語を聴くと、ちょっとびっくりしますよね。鯉八さんの落語を聴いていると、落語の定義ってなんだっけ?と考えてしまいます。そう、サティと同じようにジャンルの懐の広さや奥深さを感じるのが鯉八落語です。
サティの曲では決して荘厳な大曲や超絶技巧、華麗なワルツなどのザ・クラシックな曲や同時代のドビュッシーのような絵画的な曲はありません。それと同じように、粋な江戸弁も無ければ「俺ほめ」にはストーリー性だって無いんです。でも、それだけが落語じゃないって気付かせてくれる。ピアノ曲が稼働領域の限られた10本の指の範囲内でどれだけのものが表現できるかに対し、落語にもかなりの制限がある。その制限内でどんな勝負をするのか。それが「俺ほめ」なんだと思いました。

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「渋谷らくご」9/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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