渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 9月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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9月17日(月)17:00~19:00 入船亭扇里 柳家わさび 隅田川馬石 立川寸志

「渋谷らくご」二つ目 立川寸志トリ公演 -大人の落語会‐

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プレビュー

 語り口に圧倒的個性の光る、語り部 扇里師匠、30分の緻密な組み立てに必ず遊び心をふりかける策士 わさびさん、どんな局面からも必ずお客さんを引き込む達人 馬石師匠。
 最後は、50歳を過ぎて2017年渋谷らくご「たのしみな二つ目賞」を受賞した、いまなお伸び盛りの寸志さん。まくらの改良にも余念がなく、古典の掘り下げも冴えわたる。この方を見ていると、「好き」という情熱はどこまでも人を成長させると実感させられます。硬軟織り交ぜた、「伸び続ける練達の芸」を堪能してください。情熱の寸志さんです。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴22年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。渋谷らくごに出演の前は、ざるそばを食べるのがルーティーン。この夏は、畳を替えた。この夏、あることがきっかけで「シン・ゴジラ」を観た。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴15年目、2008年二つ目昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。体重が軽いので、競技ボートのコーチに「向いている」と言われたらしい。歯を矯正している。NHKにて「落語ディーパー」に出演中。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴25年目、2007年3月真打昇進。高座を終えて楽屋を出る速度が渋谷らくごの出演者の中で最も早い。時間がたくさんあるときのマクラも、オチ優先でなくコラム的な味わいで楽しい。この夏も毎朝10時に隅田川沿いを走り続けた。

▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。2017年渋谷らくごたのしみな二つ目賞受賞。緊張を楽しめる性格。渋谷らくごに出演するときは自分なりのテーマをツイッターで公開する、今回のテーマは「こうなると落語神の憑依を待つしかない。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 趣味:茶道 猫のいるカフェ巡り

入船亭扇里(いりふねてい せんり) 「弥次郎」
柳家わさび(やなぎや わさび) 「MCタッパ」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき) 「浮世床~夢~」
立川寸志(たてかわ すんし) 「らくだ」

入船亭扇里「弥次郎」

  • 入船亭扇里師匠

    入船亭扇里師匠

 絵本作家であり落語家。渋谷らくごのポットキャストでは、落語を物語るように語る美声で注目され、落語の音声商品も飛ぶように売れた扇里師匠。
 音声と生の声を聴き比べてみると、生で拝聴する扇里師匠の声はポットキャストで聞いた時より、実際は、優しくてはかなげに聞こえます。それでも「入船亭」の皆さまは綺麗な落語をかける人で、扇里師匠も例外なく綺麗な言葉を操られて綺麗な落語をかけられておりました。
今回の扇里師匠のまくらでは今年台風や地震で被災地となった地域へお金がない場合、何ができるだろうと考え「いつもより一杯多く呑んで経済が巡って被災地へ届けば」とユーモアを交えて語られていました。今回の「弥次郎」も北海道が舞台の噺で、扇里師匠ができる北海道の方々への「できること」は北海道の落語をかけることだとお考えになったのではと察して、胸が熱くなりました。 「弥次郎」という噺は、北海道が寒すぎて、お酒が凍る、雨が降ったまま凍る、たき火も凍るなどの描写が素晴らしく、詩や絵本の世界に引き込まれる感覚になりました。
 「いのししのお腹を裂くと子どものいのししが16匹産まれる」「しし16だからか?」
という会話も、いのししの赤ちゃんが16匹いるのを想像して幸せな気分に。
 扇里師匠の絵本の世界のような落語に会場は静かに聴き入っていました。

柳家わさび「MCタッパ」

  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん

 北海道の童話の世界にひたる客席の空気を渋谷まで戻すわさびさん。静かな会場を丁寧なまくらで少しずつ盛り上げる天才です。静かだった会場にどっと笑いを何度も起こすわさびさんは本当に凄腕です。押し芸と引き芸ではわさびさんはご自分を引き芸と判断して、反対の押し芸として桂S四郎さんやN金メンバーをイニシャルトークで例に挙げるのが、またおもしろくて爆笑が起こりました。わさびさんは落語仲間への毒トークも、実は嫉妬したふりの称賛であり、同時に、これからはじまる落語へのまくらでもあるのが凄いのです。
今回の「MCタッパ」は近年のパーティピープル略して「パリピ」と呼ばれる人々を題材にした新作落語です。日本ではインスタ映えする場所やお料理の見た目にもこだわるパリピも、わさび落語のMCパリピは、「弟子にして下さい!」とやってきた老夫婦からタッパに入れた差し入れをもらって懐柔されてしまう可愛げのあるキャラで親近感を感じます。老夫婦の住まいに、毎晩若者たちが不法侵入して来るのは、多分、インターネットに「実録・激レア廃墟」「心霊スポット」「東京都内の事故物件」などと表記して、老夫婦の家が載せられているでは。(笑)抱腹絶倒したい時は柳家わさびさんを拝聴したいと改めて思う高座でした。

隅田川馬石「浮世床~夢~」

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

 袖から覗く長襦袢の色、着物、帯が薄紅色の系統の装い。馬石師匠は佇まいもしぐさも美しい。何も言わず座っていても間が持つのではないでしょうか。前にあがられた扇里師匠とわさびさんの落語を聴いて、まくらでコメントする優しさに馬石師匠のキャリアと余裕を感じられます。そして落語に入ると、美しいしぐさも加わり、高座は馬石師匠の世界一色になって、「浮世床~夢~」が、よくかかる古典落語であるにも関わらず美しさに見惚れてしまいます。古典落語にも色々な演じ方があるでしょうが、馬石師匠の落語には、「安定と安心と見目麗しさ」が常に存在して実に優美なのです。
前にどんな芸人さんが暴れ倒していても、馬石師匠はマイペーズに高座に上がられて古典落語をかけられる。本寸法でありながらも凝った江戸落語が聴きたい、しぐさも拝見したいなど欲張りになっている時、私が伺う候補は馬石師匠の確立も高いです。そして、年齢を問わず他の方にもお薦めし易いし、イケメン落語家さんが好きな方にもお薦めできる師匠だと思っています。

立川寸志「らくだ」

  • 立川寸志さん

    立川寸志さん

 最後は「たのしみな二つ目賞」の寸志さん。演者さんは、軽くて短い前座噺が好きな方もいれば、人情噺が好き、新作がおもしろい、下ネタをよくかける、まくらが長いなど芸風があります。寸志さんの落語を拝聴するのは3月の「死神」以来2回目で、今回は寸志さんがどんな落語をかけられる演者さんなのかも気になりました。そして落語は、聴く機会の少ない「らくだ」で、もう、ホント嬉しかったです。(喜)いきなり主人公と思われるらくだが死体となる珍しい展開、クズ屋さんとヤクザなお兄さんとの関係性、今では聞かない「かんかんのう」のを寸志さんがどのように表現されるのかも楽しみでした。
 結果、ヤクザなお兄さんも、大家さんも、クズ屋さんも演じ分けもおもしろく、寸志さんがトリの日に渋谷らくごへ伺えて本当に良かったです。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」9/17 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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