渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 12月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月14日(金)20:00~22:00 立川寸志 立川志ら乃 古今亭文菊 春風亭百栄

「渋谷らくご」春風亭百栄(ももえ)師匠を聴こう!

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プレビュー

初心者向け:年齢不詳の四名によるバラエティに富んだ公演で、とても入りやすい会です。寸志さんの語りの心地よさ、志ら乃師匠の軽さ、文菊師匠の重厚感、百栄師匠は創作・古典両方やる方なので、どなたを追いかけるのも楽しいはずです!
アングル:文菊師匠はおそらく笑わせる噺でくるので、その後に百栄師匠が得意の創作で別の笑わせ方をするか、はたまた近年着手する古典でトリネタを用意してくるのか、注目の一席となります。立川流の二人がどこまで沸かせるか!?


▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。2017年渋谷らくごたのしみな二つ目賞受賞。緊張を楽しめる性格。カラオケボックスに入り稽古を重ねる。最近親知らずを抜いた。小学校での落語のワークッショップに自信があるらしい。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きで、スーパーの批評をツイッターでおこなっている。先日、ラジオ番組に裸に赤い褌の出で立ちで出演した。免許を持っていないので、駐車時の「オーライ」の意味を知らなかった。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴16年目、2012年9月真打ち昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近はキャリーバッグで楽屋入りする。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。落語協会の野球チームでは、名ピッチャーとして活躍する。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi(今年の目標を忘れて、来年の目標を考えている12月。)

12月14日(水)20:00~22:00 「渋谷らくご」
立川寸志(たてかわ すんし) 「片棒」
立川志ら乃(たてかわ しらの) 「低酸素長屋」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく) 「夢の酒」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ) 「落語家の夢」

「困難があるから面白い」


 寒風吹きすさぶ師走の渋谷。キラキラとしたネオンの灯を横目に、渋谷らくごへと向かって歩く。何でこんな寒い日に、わざわざ私は渋谷まで遊びに行っているのだろうかという考えが頭をよぎる。もっとやるべきことがあるんじゃないのかという気持ちと、だからこそ遊ぶことが大切なのだという気持ち。私は誰に対して言い訳をしているのだろうか、と苦笑するころには会場へと着いている。
トイレを済ませてから前のほうの席に座り、ぼんやりと開演時間まで今月のプレビューを読み始める。すると今回から「初心者向け」と「アングル」という二つの方向性がプレビューで示されていることに気付く、細やかな工夫が加えられていてとても面白い。今日は「年齢不詳の四名によるバラエティに富んだ公演」とのこと、確かに誰が何歳なのかわからない面々が集っている。
ぎゅうぎゅう過ぎず、かといってガラガラではない、ちょうどいい感じの人の入り。とっぷりとふかふかの椅子に身体を沈めていると出囃子が聴こえてきた。

立川寸志「片棒」

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    立川寸志さん

年齢不詳の一番手は立川寸志さん。ケチな人の小噺、時間のない中でも出された熱いコーヒーを飲む工夫などのまくらから「片棒」へ。もし父親が死んだらどのような葬儀を行うのかという湿っぽい内容が、息子たちによってバカバカしくカラッとした展開になるのがとても好きな物語。
とにかく贅を尽くした葬儀で来場者数約七〇〇〇人を予定している長男。歴史に残るような葬儀を計画した結果、祭りになってしまう二男。それぞれが楽しそうに自分が考えた理想の葬儀について熱っぽく語っていて、これは葬祭クリエーターの物語なのではと思えてくる。寸志さんのなめらかで、早口でも一つ一つがくっきりしている言葉がするすると入ってきた。いままでにない明るい葬儀、見たことのない新しい葬儀。特に二男が父親に対して熱心に話しながら、「でね、でね、」と身を乗り出している姿が無邪気で愛らしかったなぁ。
三男の考える地味で質素倹約な葬儀は父親の考えには一致するのだろうけれども、私は愛らしい二人の考えた葬儀を応援してしまう。お金は使うためにあるのだから、景気回復を目指してパッと使おうというような気持ち。これじゃ私は勘当だな。

立川志ら乃「低酸素長屋」

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    立川志ら乃師匠

年齢不詳の二番手は立川志ら乃師匠。上野広小路亭の受付で「鈴本演芸場はどこ?」と訊かれる話や、新作落語に入っていく心情の吐露。どんなドキュメンタリーになるのかという空気、いつの間にか志ら乃師匠のホームとなった会場で、いっぱいの拍手と共に始まった「低酸素長屋」。
この噺は渋谷らくごで行われているしゃべっちゃいなよで、林家彦いち師匠がヒマラヤに行った際の経験を基にして生み出した落語とのこと。広い江戸のどこかにあるという酸素の薄い長屋を舞台にした落語って、その設定だけでもう面白い。はたして江戸のどこに酸素の薄い環境があるのだろうか、いや落語だからいいのだ。
酸素が薄いことによって生じてくる、火がつかない、うかつに笑ってはいけないといった様々な問題。どうしようもないくらい、ただひたすらにくだらない展開が最高。そして何よりテレビで見た酸素吸入器を参照して生み出したという、手ぬぐいを使用したアイデアがすばらしい。志ら乃師匠の登っている山を、そっと見守っていきたくなる三十分間。

古今亭文菊「夢の酒」

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    古今亭文菊

年齢不詳の三番手は古今亭文菊師匠。私は渋谷らくごで文菊師匠がトリの会を見ることが多かったので、この三番手という位置は新鮮。今年の出来事を振り返りつつ、スマフォゲームやら、お相撲についてやら、浅草演芸ホールでの出来事などのまくらから「夢の酒」へ。
「夢の酒」はひたすらバカバカしい物語だ。ただ夫が昼寝をしている時に見た夢の話を妻にするだけなのに、文菊師匠のバージョンだと新鮮なツヤがある。あれっ、この落語ってそんなに真剣な話だっただろうかと思ってしまう。
何しろ夫が向島に住んでいる謎の女に誘惑されていく夢での様子を聴きながら、妻の顔つきが変化していく際の細やかな表現。夫がやさしく「怒っちゃいけないよ、怒っちゃいけないからね」と様子を伺いながら話しているが、妻の返事の仕方と表情から絶対怒ってんじゃんという心境がはっきりとわかる。
大旦那が最後のセリフを言ったときの、何ともいえないしみじみとした後味。さすがだなぁ文菊師匠。

春風亭百栄「落語家の夢」

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    春風亭百栄師匠

 年齢不詳のトリは春風亭百栄師匠。「アングル」に書かれていた内容を思い出して、古典がくるのか?新作がくるのか?とワクワクしていた。そうして始まったのは「落語家の夢」、もしもペットとして落語家を飼うことができたらという物語。
 ある寄席の売店に立ち寄った母親と小学校1年生くらいの娘。どうやら娘が最近落語に夢中で、東京かわら版から出されている名鑑を熟読しているとのこと。ついにはペットとして落語家ちゃんを飼いたいらしい。いやいやそれは無理だろうと思えば、出来るとのこと。私が知っている世界のルールとは、どこかが違っている。娘が一番好きな人間国宝の〇〇治師匠、その次に好きな人間国宝の弟子の〇〇治師匠、多頭飼いができるなら〇路師匠など、なかなかの趣味である。

 面白いなぁと笑いながら、ふっとこの落語は初心者向けと言えるのだろうか、という考えが頭をよぎる。

『徒然草』の七十八段には次のような行為をたしなめる内容が記されている。
「いまさらの人などのある時、ここもとに言ひつけたることぐさ、物の名など、心得たるどち、片端言ひ交し、目見合はせ笑ひなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世慣れず、よからぬ人の必ずある事なり」
 初心者の人がいる場所で、常連の人たちが自分たちだけがわかる名称で呼んだり、目配せして笑ったりして、初心者を不安な気持ちにさせるのは世間知らずのバカな人がすることだ、というような意味だ。

 実際この「落語家の夢」の中には寄席についてや、その落語家を知っていなければ分かりづらい箇所がある。そうした箇所を増やして常連だけが笑って満足し、初心者には意味が分からない落語にすることも出来るだろう。けれどもこの落語はそうした方向には進んでいないように思えた。
物語の中では落語協会・落語芸術協会・落語立川流・円楽一門会の違い、東京かわら版という手引きの存在、登場する落語家がどんな人物なのかもさりげなく説明されている。こうした工夫は、初心者の次への一歩の誘いとして機能しているのではないか。そのように考えると「落語家の夢」という物語は、今日はじめの一歩を踏み出した人が、次の一歩を踏み出すための足場として最適の落語なのかもしれない。

 小林秀雄は『学生との対話』のなかで、学生から学問とは喜びよりも苦しみのほうが多いのではないかと問われた際に以下のように答えている。
「困難があるから、面白いのです。やさしいことはすぐつまらなくなります」

寸志さんの陽気な一席で落語を味わう気持ちが盛り上がっていき、どうかしている感の強い志ら乃師匠の落語でガツンとやられて、ちょうどいい2分間のインターバル。そして文菊師匠の丁寧でやわらかな笑いで気持ちが落ち着いて、百栄師匠の「これが百栄師匠」という感じの物語をたっぷりと味わった。2時間の中で生まれて終わっていくゆるやかな連帯感がとってもよかった。


一年間渋谷らくごへと通い、レビューを書かせていただいた。自分の書いた文章を読みながら、私はこんなことを考えていたのかと振り返りながら思ってしまう。以下1月~11月分の記録。
1月14日(日)17:00~19:00 「渋谷らくご」
立川志ら乃「ずっこけ」
柳家小里ん「にらみ返し」
雷門小助六「宿屋の仇討ち」
神田松之丞「天明白浪伝 稲葉小僧」

2月9日(金)20:00~22:00 「渋谷らくご」
立川こしら「火焔太鼓」
橘家文蔵「千早ふる」
春風亭百栄「バイオレンス・スコ」
柳家緑太「鰍沢」

3月12日(月)20:00~22:00 「渋谷らくご」
柳家わさび「風呂敷」
春風亭百栄「どら吉左衛門之丞勝家」
玉川奈々福・澤村美舟「狸と鵺と偽甚五郎」
三遊亭粋歌「落語の仮面−嵐の初天神−」

4月13日(金)18:00~19:00 「ふたりらくご」
立川左談次 「短命」
五街道雲助「死神」

5月15日(火)20:00~22:00 「渋谷らくご」
三遊亭鯛好「鈴ヶ森」
柳亭市童「寝床」
立川笑二「猫の忠信」
三遊亭遊雀「御神酒徳利」

6月8日(金)20:00~22:00 「渋谷らくご」
柳家小せん「金明竹」
三笑亭夢丸「徳ちゃん」
玉川太福・玉川みね子「地べたの二人 湯船の二人」
春風亭昇々「千両みかん」

7月16日(月)14:00~16:00 「渋谷らくご」
台所おさん「松曳き」
林家彦いち「長島の満月」
柳亭小痴楽「岸柳島」
柳家花緑「天狗裁き」

8月10日(金)18:00~19:00 「ふたりらくご」
立川寸志「たがや」
古今亭文菊「甲府い」

9月17日(月)14:00~16:00 「渋谷らくご」
桂三四郎「かずとも」
橘家圓太郎「甲府ぃ」
玉川太福・玉川みね子「西村権四郎」
古今亭志ん五「明烏」

10月14日(日)14:00~16:00 「渋谷らくご」
立川志ら乃「ゾンゾンびんびん」
橘家圓太郎「小言幸兵衛」
雷門音助「権助芝居」
入船亭扇遊「明烏」

11月14日(水)20:00~22:00 「渋谷らくご」
柳家小八「お見立て」
三遊亭遊雀「代り目」
玉川奈々福・澤村美舟「寛永三馬術 曲垣と度々平」
瀧川鯉昇「餃子問答」

今月の4席を合わせて、合計44席。自分で書いた感想を読みながら、こんなことあったあったと思い出して一人ニヤニヤしてしまった。来年もまた渋谷らくごで、様々な人や様々な物語との出会いがあるのだろうなぁと楽しみな一年の終わり。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」12/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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