渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2018年 12月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月18日(火)20:00~22:00 春風亭昇羊 笑福亭羽光 林家きく麿 瀧川鯉八 春風亭昇々 林家彦いち

創作大賞発表「しゃべっちゃいなよ」:今夜、大賞決定!

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プレビュー

◎「ぷらすと×Paravi」で生中継!(動画配信サイトParavi、ニコニコ生放送にて生中継)
◎審査員:林家彦いち、長嶋有(芥川賞 大江賞作家)、サンキュータツオ ほか

※開演前に、「第四回 渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」の授賞式があります。

初心者向け:偶数月に行ってきた、創作ネタおろし会。今年も5回行われましたが、12月は傑作選です。このなかから今年の一本が決まります。古典よりは、現代の人が作った落語からのほうが入りやすいかも、言葉や名前が古いと張り込めないかも……と心配する人は、まずこの会から! ベストアルバムみたいな会なので、きっと笑えるはず!
アングル:昇羊さんが初の大賞決定戦へ。4年目の会となり、ほかの4名は過去にこの決定戦へも登場している。二つ目も真打も関係なく、個性むき出しで闘いますが、大賞=一番面白かった人、一番受けた人、というわけではありません。それでは審査員がいる意味がなくなってしまいます。今年はどういう結論になるのか!? 


▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991年1月17日、神奈川県横浜市出身、2012年入門、2016年二つ目昇進。飲み会ではペースメーカーとなり、一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つとのこと。最近は、森見登美彦の『熱帯』を読んでいる。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴12年目。2011年5月二つ目昇進。眼鏡を何種類も持っている。最近はフチが白い眼鏡をかけている。猫を可愛がる。可愛い猫のツイートにいいね!しがち。

▽林家きく麿  はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴22年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。褒められたツイートを積極的にリツイートする。イカスミスパゲッティが大好物。ぬか床を大切に育てている。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴11年目、2010年二つ目昇進。文化放送にて放送中の「SHIBA-HAMAラジオ」水曜日パーソナリティ。中山うりの「青春おじいさん」が好き。コンビニに寄らないように気をつけていたら、痩せることが出来た。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。楽屋で仲間を驚かせるためパンツ一枚になることがある。この秋から文化放送のラジオの金曜パーソナリティーをつとめる。ラジオブースでは、すぐにシャツを脱いで上裸になる。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。公式サイトがリニューアルされ、入門されてからいままでの落語家の記憶を書き続けている。

レビュー

木下真之/ライター Twitter:@ksitam
「渋谷らくご」2018年12月公演
▼12月18日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」創作大賞発表
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう) 「吉原の祖」
笑福亭羽光(しゅんぷうてい うこう) 「ペラペラ王国」
林家きく麿(はやしや きくまろ) 「二つ上の先輩」
瀧川鯉八(たきがわ こいはち) 「めでたし」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう) 「お隣さん」
林家彦いち(はやしや ひこいち) 「つばさ」

渋谷らくご創作大賞:笑福亭羽光「ペラペラ王国」
審査員:林家彦いち、長嶋有、池田裕子、木下真之、サンキュータツオ

「しゃべっちゃいなよ」の大賞を決める大会も今年で4回目。2度目の挑戦者もいて、「今年こそは!」という演者さんの静かな闘志が伝わってきました。開演前には「2018年渋谷らくご大賞」が発表され、「おもしろい二つ目賞」を柳亭市童さんと瀧川鯉八さんが受賞しました。納得の結果で、来年への期待がふくらみます。
決勝戦は、落語芸術協会から4人、そのうちの3人が「成金」のメンバーで、2人が「ソーゾーシー」。昇羊さんと昇々さんは昇太一門。きく麿師匠は唯一の落語協会で真打のエントリーとして負けられない戦い。さまざまなアングルから楽しめる決勝戦でもありました。
それぞれキャラクターも落語の質も違うので、自分も含めて審査員のみなさんは頭を抱えていたようです。大賞にふさわしいと思う人を挙げていく中、総じて評価の高かった羽光さんが他の4人を僅差で交わして大賞に。どこがどういう理由で、どこに感銘を受けたのか、それぞれがプロの視点で議論するシブラクらしい審査でした。自分の中では、笑いが多い少ない以上に、初演の後にどれだけ多くの人に届くための工夫をしているか、落語としての世界観が描かれているか、創作落語でしかできない表現なのかどうか、いう観点で見させてもらいました。羽光さんの大賞は、「下ネタを封印したから」というのが主の要因でもないと思いますし、メタ構造の落語が面白かったからという理由でもなく、落語として成功していたのが大きかったのかな、と私は思います。

春風亭昇羊-吉原の祖

  • 春風亭昇羊さん

    春風亭昇羊さん

創作古典というスタイルで挑戦した昇羊さん。二つ目昇進2年目とは思えない落ち着きでトップバッターを務めました。初演時から完成度は高かったのですが、さらに語り込んだ跡が見えました。
「三吉さんのところのぼっちゃん」が三味線の師匠から借りている三味線を壊してしまった。「どうしよう……」と困っているところに兄貴分の男が現れ、60歳になる師匠は今の吉原の原型を作った伝説の人物。怒らせたら何をされるかわからないと脅かされる。謝りにいったぼっちゃんの運命は……という話。
ぼっちゃんと兄貴分の会話だけで笑いが起きる前半が見事でしたし、おどおどしたぼっちゃんと、悪巧みが透けて見える兄貴分のキャラクター作りも素晴らしかった。古典の世界を借りながらも無理に古典風味にせず、笑いを主点に置く構成も見事。初体験を扱った「明烏」という古典がある中、違った切り口でぼっちゃんの目覚めを見せてくれた「吉原の祖」に新しい可能性を感じました。

笑福亭羽光-ペラペラ王国

  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん

「おばあさんとのなれそめを話してやる」というおじいさんに対して、聞き手の孫が「しっかりしたプロットで、先の読めない展開で、すやすや眠れる話をして欲しい」とリクエスト。そこから回想シーンが積み重なっていく話です。回想シーンは、「おじいさんが会社員時代に雪山で遭難した時、部下の田中君に彼女とデートした話をする話」、「デートの最中、彼女に対して大学時代に母校の高校で探検部の話をした話」、「その探検部でペラペラ王国に行き、ペラペラザウルスに遭遇した時の話をする話」の3つで構成されています。
落語としては珍しいタイプですが、小説や映像のジャンルでは時おり見かける構造です。そもそも落語ではお客さんに理解させるのが難しいので、チャレンジする人はほとんどいないのですが、羽光さんは落語的に見せることに成功していました。
おじいさんが話す相手は、時代の順に、「孫」、「部下の田中君」、「デート中の彼女」、「探検部の学生」と4つに分かれています。羽光さんはその4者を回想シーン外からのツッコミ役に使うことで、観客はどの時制の話をしているのかが頭の中で瞬時に想像できる。映像のスイッチャーの役割を観客に委ねたことで、聞き手の脳内が活性化されたのだと思います。雪山での遭難、探検部の冒険など、印象的なエピソードを作ることで状況の絵柄も頭の中に浮かびやすい。老人ホームのおじいさんやおばあさんには難しかったと思いますが、シブラクの客席にはしっかりリーチしていました。大賞受賞者として今後、シブラク以外の場所でもこの話が受けるように続けてもらえたらと思います。

林家きく麿-二つ上の先輩

  • 林家きく麿師匠

    林家きく麿師匠

「次世代の爆笑王」。今、一番おもしろい落語家さんは誰かと聞かれたら、必ずきく麿さんと答えるほど今一番乗っている落語家さんです。12月初旬の末廣亭のトリ公演も連日、古典落語の寄席では見たことのない盛り上がりとなりました。
今回は、たけしとあきらの同級生2人が、2個上の先輩・みつるさんから「納涼怪談大会」に呼び出され、「俺を震え上がらせるような話をしろ!」と命令される話。ファミレスやドンキホーテで見かけそうな、ごくごく普通の人たちの日常風景。何も考えずにシンプルに笑えるのがきく麿師匠の創作落語です。
特に「納涼怪談大会」でたけしとあきらが披露した怪談が爆笑もの。高1の時の肝試しで冷凍したこんにゃくを背中に入れられて気絶した過去があるみつるさんに対して、「やさしい怪談」を話してあげます。ちっとも怖くない怪談に「なんなんだ」と翻弄されていくみつる先輩。怪談の並べ方がきく麿師匠の真骨頂で、面倒くさい先輩に対する後輩なりのやさしさがにじみ出ていました。

瀧川鯉八-めでたし

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

2018年のしゃべっちゃいなよでは「ひとでなし」と「めでたし」の2本をネタおろしした鯉八さん。黒・鯉八と白・鯉八の両極端の中から決勝は白・鯉八の「めでたし」でした。 「男なんて星の数ほどいる」と彼女に言われた男が、自分が彼女にとって唯一の男であることを証明しようとする話。人類70億人、男性が半分の35億人からスタートし、茶碗を洗うタイプの男、足がくさくない男などの彼女の理想のタイプを絞り込んでいきます。最後の最後まで絞り込んでいった中で、2人の男女がたどりついた結論とは。マッチングアプリで恋人を探すのが当たり前になりつつある現代、決して架空の話とも思えません。
他愛もない男女の会話が描かれていますが、実は「運命の人は何か」を問いかける深いテーマがあることがわかります。自分が運命だと思っている相手は、本当に運命の人なのか。相手は自分を運命の相手と思っているのか。そんな思考的な実験を、統計的な遊びを使って見せてくれます。ハッピーエンドで終わるほんわかした余韻に、白・鯉八の神髄を覗くことができました。落語的な表現では派手さがない分、不利にも働く要素はあるのですが、かみしめれば、かみしめるほどじわじわ来るのが鯉八作品。「おもしろい二つ目賞」にふさわしい高座でした。

春風亭昇々-お隣さん

  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

同じネタでも誰がしゃべるかで全然違ってくる創作落語ですが、昇々さんほど落語の中のキャラクターが自然と受け入れられる人はいません。
ネタは、栃木から東京に引っ越してきた若夫婦の旦那さんが、アパートの隣人に手土産を持ってあいさつにいく話です。バカにされたくない栃木の男が隣人に対してマウンティングを取りに行く。強気に出ながらも、相手のスマートな対応に戸惑い、相手に取り込まれていきます。小心者だけどつい強がってしまう。テンパって追い詰められていく人をやらせたら、昇々さんが一番。落語の中の人物が昇々さんと重なっていき、徐々に惹きつけられていくのが昇々マジックです。

林家彦いち-つばさ

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

審査のため、高座は見られませんでしたが、間違いなく面白かったはず。「つばさ」は寄席の鈴本演芸場のトリでもかけられたほど、今年の彦いち師匠を代表する作品だったと思います。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」12/18 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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