渋谷らくごプレビュー&レビュー
2018年 12月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:若手の真打二人はのびのびと古典落語を演じます。風藤松原さんは言わずとしれた東京漫才界の宝。はじめてはやはり古典が聴きたいなあという人にオススメです。談笑師匠がたっぷり聴ける贅沢な公演です!どうぞお友だちを連れて。
アングル:ありがたいことに、談笑師匠はここ3年、シブラクの12月に出演してくださり「芝浜」「シャブ浜」「片棒・改」という演目をかけてくださっています。今年はなにが出るのでしょうか。タツオ的に師匠の「芝浜」はもっとも納得のいく一席です。
▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴17年目、2016年3月真打ち昇進。最近まで、お財布とスイカをもっていなかった。小銭はポケットに押し込んでいたため、ポケットがパンパンに膨らんでいた。菓子パンが好きで、菓子パンのことを友達だと思っている。師匠が年下である。
▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴16年目、2017年3月真打ち昇進。最近IQOSからプルームテックに変えた。ファッションにこだわっていて、コートの裏地が派手。高座前はモンスターを飲んで集中する。最近ツイッターで顔文字をつかっている。
▽風藤松原 ふうとうまつばら
2004年太田プロからデビュー。風藤さんは家庭菜園をもちカイワレ大根と青しそを育てている。松原さんは最近「ボヘミアンラプソディ」に夢中になっている。大阪出身のふたりだが、寄席の世界を壊さない、東京漫才の伝統ここにあり。最高級の色物です。THE MANZAI2013、決勝進出。
▽立川談笑 たてかわ だんしょう
27歳で入門。芸歴26年目。2003年真打昇進。早稲田大学法学部を卒業後、司法試験勉強中に落語に出会い落語家になる。司法試験の暗記法を駆使して、入門してすぐに落語50席を戦略的にマスターする。先日、長嶋茂雄とすれちがった。
レビュー
12月15日(土)17-19「渋谷らくご」
台所おさん(だいどころ おさん) 「牛ほめ」
柳家小八(やなぎや こはち) 「寝床」
風藤松原(ふうとうまつばら) 「漫才」
立川談笑(たてかわ だんしょう) 「文七元結」
こちらは、キュレーターである私サンキュータツオ自らがモニターになることになりました。
上の鑑賞ポイントとの対応で、事件解決編といいますか、答え合わせですね。
台所おさん師匠「牛ほめ」
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台所おさん師匠
真打昇進後に、先日上野鈴本演芸場でのトリ公演を終え、19年には池袋演芸場でのトリも決まっており、寄席では間に出ても、最後に出ても、期待に応えられる存在となっています。なんだか、しゃべっているのを聴いて惹きつけられるのはもちろんなんですが、見ているだけでも幸せなんですよね。落語をやってて楽しいというのが、伝わってきます。
演目は「牛ほめ」。ご褒美欲しさに、おじさんの家の牛を褒める、という現代の感覚ではピンとこないお話かもしれませんが、車を褒めるようなものでしょうか。機嫌をとってお小遣いをせしめようとするのですが、ことごとく失敗する、というところが聴きどころの、軽くて楽しいお話です。
この「ご機嫌をとってお小遣いやお酒をせしめよう」というパターンはけっこういろいろなお話にあるのですが、「牛ほめ」は、「覚えられなかった」系ではなく、習った段階の手の内をすべて言ってしまう「暴露」系の笑い話。描かれているのは極端な例かもしれませんが、言われたことをそのまま別の人に言ってしまって人を傷つけている人、いますよね。そこは間に入る人が工夫するところでしょう!と、周囲の人はわかるけど当人は気付いていない。もしかしたらそんな人にこっそり「あなたかもしれませんよ」と気づかせてくれるような、押しつけがましさのない注意なのかも、となかば自戒を込めていつも聴いています。
柳家小八師匠「寝床」
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柳家小八師匠
義太夫を趣味にしている旦那が、師匠に家にきてもらって稽古をする、こんな立場の逆転しておかしなことがあるでしょうか。でも、江戸時代にはあったかもしれません。教える側も職業です。
私は大学で講師をやったりもしていますが、いまや大学全入時代となった現代では、大学所属の先生たちは学生さんを「お客さん」のように扱って学生集めに必死です。学生の授業アンケートもどの大学でも取られますし、先生たちの運命は学生に握られています。そういう意味では、この時代の師匠と弟子の関係も、趣味であればそうだったのかも、と想像してしまいます。
旦那のジャンアインリサイタルのような会。声をかけられた長屋の人たちは即座にいなくなり、間に入った番頭さんはああだこうだと理由をねつ造して旦那に報告するわけです。ここはもちろん爆笑ポイント。小八師匠が演じると、番頭さんの悲哀がまた一段と可笑しくもあり、哀しくもあり。
おさん師匠のお話では、全部内幕を暴露してしまう人が笑いの対象となっていましたが、小八師匠のお話ではむしろ、間に入った人が気を利かせているところが笑いの対象となっていました。このコントラスト、演目選びも楽しかったです。
風藤松原さん
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風藤松原さん
となると、漫才専門、お笑い専門の劇場ではなく、寄席での漫才の理想形は、声を張らない、早すぎない、それでいて面白い、といったものになっていきます。
漫才の同業者として言いますが、風藤松原さんは、寄席の世界でより一層輝きを増す、まさに理想的な漫才師。
毎回自己紹介のネタからつかむのですが、言葉遊びもふんだんに盛り込んでいて、ボケの一言、ツッコミの一言にも無駄がなく洗練された跡があります。漫才がメインではなく、落語がメインの東京の寄席の漫才、なんとなくその伝統を受け継ぐ存在になってほしいです。大阪生まれの二人なんですけどね! 生まれは関係ないです。
立川談笑師匠「文七元結」
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立川談笑師匠
「芝浜」が夫婦がふたりで再生する話だとするならば、「文七元結」は夫婦が子どものおかげで再生するお話。表裏になっているお話だと思っています。
談笑師匠、今年はマクラもそこそこに、静かに「文七元結」を演じ始めました。もちろん、時事ネタ、オリジナルの演出は、随所に見られ、お客さんがしっかりついてこられるように集中を途切れさせない工夫もあり、なんといっても気を抜かずに力を抜いているのがとても聴きやすく、また感動的に響いてきました。
私がどうのああのと細かく演出について語るのは野暮ではありますが、端的にいって、昔からこの話に登場する人物たちが、談笑師匠にかかると「縁」で繋がっていることがわかってきます。
はじめての人には落語の素晴らしさが伝わる最高の一席、落語ファンにとっても発見だらけの、談笑師匠と一緒にコメンタリー付きで推理小説を読んでいるような感覚に陥る最高の一席。どちらにとっても嬉しい一席だったのです。
ただただ感激しました。
お話の構造から演出、セリフのひとつひとつまで、この師匠がこのお話と向き合ってきた時間を感じさせる一席です。
「ああ、そうか、ここはこう解釈すればこんなに面白くなるんだ!」
古典というものがあるジャンルでは、だれしもこういう経験をしたはずです。
談笑師匠の高座には、常にこういう発見があるんです。自己顕示欲ではない、落語愛を、こうした師匠の解釈に見られると私は思っているんですが、さて、どうでしょうか。
ぜひ、この高座が初見だった方は、別の方でも「文七元結」を聴いてみるのもいいかもしれません。あるいは、このまま談笑師匠の古典をコンプリートしていくか。
落語の愉しみは広がるばかりです。こういう一席があるから落語はやめられません。
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「渋谷らくご」12/15 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ
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