渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 1月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

1月11日(金)20:00~22:00 桂三四郎 柳家小もん 入船亭扇遊 柳亭小痴楽

「渋谷らくご」新春!二つ目 柳亭小痴楽がトリをとる会

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

◎「ぷらすと×Paravi」で生中継!(PlusParavi、ニコニコ生放送にて生中継)

初心者向け:若手がトリをとる公演、とくに二つ目という身分の人が大真打のあとにあがってトリをとります。こういう公演はいつも以上に演者を追い込んでしまいますが、いつもとちがった気合の高座で、元気がもらえる公演ですね。
アングル:本年9月に真打昇進が決まった小痴楽さん。なんと芸歴30年以上も上の扇遊師匠のあとにトリをとります。いつもは軽い高座で楽しませてくれる小痴楽さんがトリでどうお客さんを満足させてくれるのか。キャリアも上の三四郎さんも黙っていません。一番若い小もんさんのマイペースぶりも見どころ。

▽桂三四郎 かつら さんしろう
22歳で入門、現在入門14年目。疲れた日はサウナに入ってリフレッシュする。軟水の「クリスタルガイザー」が好きで、楽屋にあるとテンションがあがる。先日、クリスタルガイザーの公式アカウントからリプライをもらった。

▽柳家小もん やなぎや こもん
22歳で入門、芸歴6年目、2018年3月二つ目昇進。お酒を飲むと、すぐに目が赤くなる。お腹いっぱいご飯を食べた時には日本ルナの飲むヨーグルトを飲んで、ゆっくりする。今つかっているスマートフォンが壊れたら、iPhoneに機種変しようと考えている。

▽入船亭扇遊 いりふねてい せんゆう
19歳で入船亭扇橋師匠に入門、芸歴45年目、1985年真打ち昇進。現在落語協会理事。入船亭一門の総帥。ユーロライブの近くにご自宅があるため、歩いて楽屋入りされる。酒豪「軽く飲みに行こうか」という扇遊師匠の誘いは、4時間コース。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴14年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進することが決定。最近公式ウェブサイトをつくった。新宿駅での京王線と小田急線の区別ができず、乗り換えに戸惑ってしまう。

レビュー

文:佐藤紫衣那 専門学校教員 趣味:クラシックバレエ 日課:晩酌

1月11日(金)20-22「渋谷らくご」
桂三四郎(かつら さんしろう) 「時うどん」
柳家小もん(やなぎや こもん) 「湯屋番」
入船亭扇遊(いりふねてい せんゆう) 「ねずみ」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく) 「一目上がり」

桂三四郎さん「時うどん」

  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん

三四郎さんの魅力はなんといっても抜群のワードセンス。本人曰く「場所見知り」していた、という渋谷らくごでも、着実に親しみを感じさせ、お客さんを増やしています。
出だしから軽快な関西弁でまくらをふりながら、客席で落語を「聴く」体制のお客さんに、「聞いてます?」と茶目っ気たっぷりに聞きかえす。楽屋で起こった出来事、自分自身の勘違いが起こした小さな話題を「どうしたらいいですかねぇ?」とまたも相談形式で持ち掛ける。その度に客席に笑いが起こり、気が付くと、落語を「聴いて」いるはずのわたしも、三四郎さんと一対一の「会話」を楽しみはじめ、心の中で「ほんならこないしたら?」と、当然普段使わない関西弁で思わず返事してしまいたくなるような心持になります。うまいなぁ。なんか、軽くて、とってもうまい。なんとかなるやろ感、満載。そしてこんな同僚がほしい。
客席の些細な動き、そしてその日の天候、時節の話題を取り入れながらも、進行は常に自分のペース。淀みなく「それでは関西のお話を一席」と語り始めたのは、時うどん。
東京で落語を聞いていると、当然『時そば』のほうが聞く機会が多いので、高座で時うどんがかかると「時うどんだ!」と、ちょっとお得な気持ちに。三四郎さんは、高座でうどんをすするだけで、なにも話していないのに、客席からクスクスと笑いが。あぁ、うどん。確実にうどん。本当に月並みな感想ですが、寒い日に、美味しそうに目の前でうどんをすすられると、普段は断然蕎麦派のわたしも、あぁ今晩は絶対にうどん!と、うどん欲が高まります。それにしても、おいしそうに、おもしろく、食べるなぁ。

柳家小もんさん「湯屋番」

  • 柳家小もんさん

    柳家小もんさん

ロートーンボイス、そしてマイペースな小もんさん。池袋演芸場の二ノ席との掛け持ちとのことで、黒紋付での登場。すっと脱がれたその羽織の裏がまた素敵。若くして『粋』を心得ていて、抜け目なくおしゃれです。
話に入ると、調子の良い口調でぱーぱーと話し出す若旦那。「お釜の中でお米がぴかぴかと、し(・)かっている」と、ほんとうにさっき江戸から抜け出たような流ちょうな江戸弁。清々しく爽やかに「にこやか」、というよりは、ちょっと企みを含んでいそうな「にやけ顔」。話す内容の調子のよさが際立って、ますます若旦那のどうしようもなさ、でもなぜだか憎めない愛らしさ。小もんさんの色白肌、鼻に抜ける声も相まって、なんだかすこし色っぽくみえてきた。素敵!かわいらしいなぁ!と思わず見入ってしまいます。この気持ちは、おそらく銭湯で湯船に浸かりながら番台をながめていたおじさんたちと同じ。おもしろいからながめていましょうよ。客席に座りながらもそんな気持ちにさせてくれる、みているこちらまでにやけてしまう、あたたかな一席でした。

入船亭扇遊師匠「ねずみ」

  • 入船亭扇遊師匠

    入船亭扇遊師匠

『いろいろなお正月を、何十年も過ごしてきたわけですが』
三四郎さん、小もんさん同様、お正月の寄席、また落語家の風習について語られるなかでおっしゃられたこの一言。
師匠がまだ前座だったころのお正月はまだまだ朝が早かったこと。そしてそのお正月あつまった後、師匠に連れられて大師匠のお宅へお邪魔したこと。道場があり、そのなかでたくさんの師匠がたに囲まれて、普段飲みつけない日本酒をたくさんいただいたこと。その間に寄席へ行き「へべのれけ」での高座へ上がったこと…思い出話をしながら、いつものにこーっとした笑顔を浮かべてお話になる姿。あぁ、昔を懐かしみながらも、つい先日のことのように語られるその様子は、きっと気持ちはあの頃のままですね、師匠、とあたたかな気持ちになります。今はそんなこと、あまりないですねぇ、と昨今の寄席事情は少し変わってきたことにも触れられ、私も体力が衰えましたし…と謙遜しながらも、この後小痴楽さんから昨年末の「へべのれけ」事情を暴露されてしまう師匠。まだまだしっかりご健在です。
「ねずみ」宿屋に泊まるお客さんへ対し年派のいかない子供が無邪気に振る舞う場面が一番好きなシーン。扇遊師匠が演じる子供は、本当に無邪気で罪がなく、嫌味がなく、また出てくる登場人物に愛嬌が感じられます。これもきっと、師匠が落語家として『何十年も過ごしてきた』功績。なんと素敵な年の重ね方。これからも、どうぞ末永く、いろいろなお正月を重ね、語り継いでいただけたら…と、切に願います。

柳亭小痴楽さん「一目上がり」

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

今やすっかりお忙しい、各方面で大人気の小痴楽さん。2019年9月21日をもって真打へ昇進することを渋谷らくごの高座でははじめてお客様へご報告されました。たくさんの拍手。愛されている証拠です。
忙しさが極まり、時節に合わせた噺がしたいけれど今日はできない、でもしたい。とまくらのなかで「紹介」。観客の要望に応え、この日にあわせた良い高座にしようという姿勢をひしひしと感じます。「ファンサービス」に大盛り上がりの客席。当日劇場にいらっしゃった方はラッキーな一日でした。
「一目上がり」は、掛け軸を褒めたい八五郎さんが、次のお宅へ伺うたびに、掛け軸を褒めたいけれど、どうも褒めるべき言葉がひとつずつ、3(賛)、4(詩)、5(語)…と増えていくこのおはなし。もちろんわたしも掛け軸を拝見して「これは結構な賛ですね」だなんて褒めることができないので、八五郎の健闘を見ながらも身が引き締まります。おしい!と思うと同時に、そのおっちょこちょいさや冗談の言い回しがどことなく、粋。そしてなにより、彼の言動を近くでみながら愉しみ愛でる周囲の人の愛情を感じます。若くして入門した小痴楽さんも、きっとこうやってたくさんの師匠がたに愛でられたのでしょう。へらへらっとしているようで、本当に、憎めない。小痴楽さんの人たらしぶりは本年もきっと高座で発揮されることでしょう。

真打が決まった小痴楽さん。そして同等ほどのキャリアの三四郎さん、二ツ目にあがったばかりの小もんさんも、今からまた何十年か経ったのち、彼らの口から今日の扇遊師匠のように『いろいろなお正月を、何十年も過ごしてきたわけですが』と語られるその日が来るとき、その片隅に、渋谷らくごのこの高座、そして楽屋での出来事が話題に上がる日がくるのかもしれない。そして、きっとその日がくるときにも、私は客席で落語を見続けたい、と、私自身も『何十年後かのお正月』に思いを馳せました。本年も、そしてこの先も、話芸と共に歩むのは、演者だけでなく見届ける観客しかり。このさきも、目が離せないなぁ、と感じさせてくれた新年初日の渋谷らくごでした。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」1/11 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
写真の無断転載・無断利用を禁じます。