渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 1月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:これほどバラエティに富んだ公演はありませんね。コース料理よりもまずいろんな味を食べたいなっていう人にもオススメ。それでいて聴き応えがあり、サービス精神旺盛な演者のみなさんの力量を感じ取っていただけます。
アングル:こしら師匠、太福さんといった前に出ていく人たち、わさびさん、小八師匠というお客さんをひきこむ人たち。四者の客席との距離感も堪能できる。太福さんが古典、新作どちらでくるかによっても、小八師匠の出方は変わってくるでしょう。
▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴15年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進することが決定。痩せ形で現在の体重は52kg。今年も例年通り、元日は浅草寺に行き49分26秒並んでお参りをすます。
▽立川こしら たてかわ こしら
21歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。フットワークが軽く、日本のみならず海外でも独演会を開催。1月19日光文社新書にて、こしら師匠初の新書が発売される。タイトルは『その落語家、住所不定。 タンスはアマゾン、家のない生き方』。
▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門、2012年日本浪曲協会理事に就任。ソニーミュージックから玉川太福CD『浪曲 玉川太福の世界』が発売中。新年早々腰が痛い。地元の銭湯で知り合いに会うことが増えた。靴下が可愛い。
▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴16年目、2017年3月真打ち昇進。最近IQOSからプルームテックに変えた。ファッションにこだわっていて、コートの裏地が派手。高座前はモンスターを飲んで集中する。最近ツイッターで顔文字をつかっている。
レビュー
1月12日(土)14:00~16:00 「渋谷らくご」
柳家わさび(やなぎや わさび) 「反対俥」
立川こしら(たてかわ こしら) 「反対俥」
玉川太福(たまがわ だいふく)・玉川みね子(たまがわ みねこ) 「石松三十石舟」
柳家小八(やなぎや こはち) 「子は鎹」
「今日降る雪の いや重け吉事」
「10時40分ごろ、東京都心で初雪が観測されました」
寒い朝。布団にくるまりながら、ぼんやりとテレビを見ていると初雪のニュースが流れている。もぞもぞと布団から出ていくと、自分の抜け殻が生まれた。視線を窓の外へと向ける。曇天の空が一面に広がっている、しかし白い雪は見えない。どうやらドッサリと降る雪ではなかったようだ、一安心。無精者に雪は厳しい、自分への言い訳になってしまうから。
あたたかな格好に身を包んで渋谷へと向かう、到着した会場はふんわりとあったかい。着ていたコートを脱いで、一口ペットボトルのお茶を飲む。今回のプレビューを読むと「これほどバラエティに富んだ公演はありませんね。コース料理よりもまずいろんな味を食べたいなっていう人にもオススメ」とのこと。何が起こるかわからなくて楽しい二時間が始まる予感あり。
柳家わさび「反対俥」
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柳家わさびさん
前半はよろよろとした頼りなげなおじいさんの車屋、気持ちは若くとも体がついていかない様子。後からやってきた若い車屋さんにも、さらには年寄りの車屋さんにも抜かれて行ってしまう。さすがにこれでは降りるしかないのだが、悪い車屋さんではない。
後半は勢いのある若い車屋、気力体力ともに充分の様子。ドラム缶を飛び越えていき、電車と競争して勝ってしまうほどの速さ。ついには橋を渡らずに、川の中を潜っていく勢い。水中でゴボゴボと進んでいく際に、扇子を軽く広げて顔の前で横に動かしていく「お魚」でケラケラと笑ってしまった。
軽やかな「反対俥」で気持ちがふわふわしてくる、寒い中やってきてよかった。
立川こしら「反対俥」
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立川こしら師匠
先ほどはよろよろとした頼りなげなおじいさんの車屋が登場したが、こちらの世界ではすぐに勢いのある若い車屋が登場。さっそくお客さんを乗せて走り始めてドラム缶を飛び越えると、ジャンプの勢いそのままに空の旅へ。「えっ!」と陸上に置いて行かれそうになった私も懸命についていく。
フライト中の人力車では、氷山に衝突した沈没していく戦艦の中で上官と部下の男が信頼を築いていくような展開の謎の映画をたっぷり見た。すると今度は急降下、川の中に。舟になった人力車を漕いでいくとは、陸海空を網羅したような「反対俥」である。
「反対の反対は賛成なのだ」はバカボンのパパのセリフだが、「反対俥」の後の「反対俥」は確かに「反対俥」だった。こういうとんでもないことが起こるのがたまらないねぇ、面白い。
玉川太福・玉川みね子「石松三十石舟」
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玉川太福さん・玉川みね子師匠
ここまでの流れから太福さんは浪曲バージョンの「反対俥」なのかと思ったら、「やりたかったけど持っていないから出来ない」とのこと。ひょっとするのではないかと期待していた自分がいた。
人力車という乗り物から、今度は舟へと乗り替わって「石松三十石舟」へ。要約すれば、男二人が舟の中で寿司を食べてお酒を呑みながら話をするだけの物語だ。何か事件が起こるわけでも、重大な教訓を得ることもない。ただ、この何も起こらない時間というのがとても面白い。
友達とどうでもいいことを話しながら過ごした時間、スマフォを開いてぼんやりとSNSをしている時間、あと十分だけと布団に潜っている時間。人から「その時間に何の意味があるのですか?」と尋ねられたら、返答に窮してしまう。これらの何も起こらない時間は何の意味もないかもしれない。けれどとても充実していて、とても大切な時間だと私は思うんだ。
舟の中で男二人が他愛もないやりとりを続ける。「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ!」、ただそれだけのことが面白い。そしてその他愛もないやりとりをさらに面白くしようと工夫を凝らす太福さんと、三味線の糸にのせて物語の面白さを増幅させていくみね子師匠のことを、私は自分の言葉でもっと伝えていきたいと思っている。
柳家小八「子は鎹」
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柳家小八師匠
何でこうなってしまったのかな、あの時違う選択をしていたらな、と後ろを振り返ってしまうことは誰にでもあるのではないだろうか。少なくとも私は振り返ることが多々あり、その度に下唇をグッと噛んでいる。
私にはこの噺に出てくるような妻を追い出した苦い過去も、そんな男を静かに思い出し続ける愛情も、ぎくしゃくした世界で懸命に日常を過ごした幼少時の思い出もない。けれども「子は鎹」という噺に描かれた、人が人を想い続けることの難しさや、懸命に約束を守ろうとする姿、不器用な人間が不器用に生きていく姿勢に共感してしまう。 目の前にある落語を観ているようでいて、その視線は自分の内側をじっと見ているように思える。
特に印象深かった場面がある。鰻屋の二階に突然別れた妻がやってきて決まりの悪くなった父親が、「用事があるから」といって帰ろうとする場面。父親が立ち上がろうとした時に亀ちゃんの発した、「なんだ逃げんのか」という言葉。その言葉の重さがしっとりと私のなかに残っている。
寒い帰り道。ふわふわとした高揚感の余韻と共に駅まで歩きながら、むかしむかし大伴家持が天平宝字三(759)年のお正月に詠んだ歌を思い浮かべる。
「新しき 年のはじめの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事」
新しい年のはじまりに降る今日の雪が積もり重なっていくように、私にもあなたにも、良いことがもっともっと積もり重なっていきますように。
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「渋谷らくご」12/14 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ
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