渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 1月11日(金)~15日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:深みとコクのある演者四名。トリの扇辰師匠の濃密な空間芸を堪能していただきたい。生の落語でしか触れられない、圧倒的な時間。初心者にもオススメです。
アングル:なにを考えているのかわからない昇羊さん。横断的な活動で視野の広い奈々福さん。再解釈と表現力で聴かせる笑二さん。トリの扇辰師匠まで脳みそが喜ぶこと請け合いの刺激的な流れです。
▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991年1月17日、神奈川県横浜市出身、2012年入門、2016年二つ目昇進。飲み会ではペースメーカーとなり、一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つとのこと。年末は、ムンク展とBLUE NOTE TOKYOでの「ヨウジヤマモト ライブ」に行った。
▽玉川奈々福 たまがわ ななふく
1995年曲師(三味線)として入門、芸歴23年目。浪曲師としては2001年より活動。2012年日本浪曲協会理事に就任。「シブラクの唸るおねえさん」。1月19日NHK Eテレにて、『SWITCHインタビュー 達人達「周防正行×玉川奈々福」』が放送される。
▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴7年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家。飲み会に参加することが多いが、気付くと寝てしまっている。正装しなければいけない日も普段使いのチノパンをこっそりはく。ワイシャツは第一ボタンまでとめる。
▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門28年目、2002年3月真打昇進。ギターからピアノまで演奏する。iPadを使いこなし、気になったものはすべて写真におさめている。新幹線に乗ったときの楽しみは、降りてから駅の喫煙コーナーで一服すること
レビュー
1月14日(月)17時~19時「渋谷らくご」
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう)「二階ぞめき」
玉川奈々福(たまがわ ななふく)・沢村豊子(さわむら とよこ) 「浪花節更紗」
立川笑二(たてかわ しょうじ) 「持参金」
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ) 「明烏」
プレビューに「深みとコクの会」とあったとおりの濃厚な2時間だった。ユーロスペースの2階、決して広いとは言えない会場内は演者さんの発する気合でドロドロになっていた。1日に何人もの演者さんが入れ替わり立ち代りする常設の寄席もいいが、30分ずつ4人の演者さんと向かい合うこの空間は、普段の寄席にはない特殊な空気に満ちている。
何か、イケないものでも見せられている気分だ。
■春風亭昇羊-二階ぞめき
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春風亭昇羊さん
めちゃくちゃな話である。屋敷の2階に吉原が再現できるはずがない。物語の中でつっこみ役の番頭が、「雨が降るといけないからほっかむりをしていく」と話す若旦那に、「屋敷の中で雨が降るわけないでしょ」とつっこむ場面があるが、これつっこみとして成立していない。「屋敷の2階に吉原を作れるわけないだろ!」という観客のつっこみが大前提としてあるからだ。
しかし、これを楽しめてしまうのが落語の面白さであり、楽しませてしまうのが昇羊さんの腕なのだろう。
正月の寄席は大変に忙しいらしく、裏で大あらわになっている前座さんを昇羊さんは遠くからニヤニヤ見ているのだそうだ。そんなまくらを話していた昇羊さんのイメージと、ひょうひょうとした若旦那のイメージがスーッと重なる。
気づいたら落語の世界にいる私たちは、もう昇羊さんの術中にかかっている。
■玉川奈々福/沢村豊子-浪花節更紗
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玉川奈々福さん・沢村豊子師匠
玉川奈々福さんの声には人を目覚めさせる力があると思う。人に落ち着きを与える声ではない。覚醒させる声だ。
当代きっての名人、木村重松を描いたこの浪曲は、月9や朝ドラ並にいろんな要素がてんこ盛り。駆け出し時代の重松と師匠とのほっこりするやり取りや、頭角を現し始めた重松が同業者の罠にかかりピンチに陥るハラハラ感、重松と若き曲師との恋模様など、物語にぐいぐい引っ張られていく。
観客は一本気な好青年、重松に夢中になると同時に、演じている奈々福さんにも魅入られる。重松が師匠にお礼を述べるシーンで、奈々福さんが沢村豊子師匠に向かってお礼の台詞を発するのだが、観客には思わず笑みがこぼれる。節をつけてうたうシーンでは迫力に思わず圧倒される。
爽やかな演目だが、奈々福さんの発するエネルギーで会場には熱気が満ちていた。
■立川笑二-持参金
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立川笑二さん
金と引き換えに嫁を貰うという設定がそもそもアウトだろう。最後まで聞けば分かるが、身ごもってる理由も金をつけられた理由も大層ひどい。このご時勢、テレビでやったら炎上するに決まってる。
ただ場内は大層受けていた。笑いの量はこの日一番だったのではないか。最後まで聞けば分かるが、この話とっても面白いのである。
素朴な見た目ながらどこか目の奥に毒をもったような立川笑二さんの佇まい。私は笑二さんに誘われてあの日共犯になった気分がした。薄暗い会場で、もうテレビでは出来なくなった話を聞いて笑う。そんな時間があってもいいのではないか。
■入船亭扇辰-明烏
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入船亭扇辰師匠
モタレ(この日、奈々福さんに教えてもらった)の笑二さんがワーッと受けても、スッと出てきて演じ始め、すぐに自分の空気にしてしまう。観客は気づいたら扇辰師匠の作る世界の中にいる。
あまりにも堅物すぎる息子を心配した父親は、近所でも有名な遊び人ふたりに、息子を遊びに連れて行ってくれるよう頼む。遊び人ふたりは息子を「お稲荷様へのお参り」とだまして吉原に連れて行く、というお話。
本日2個目の吉原のお話だが、こちらは本物の吉原である。遊び人ふたりが吉原を案内するのを聞いていると、一緒に在りし日の吉原を勉強している気分になる。本には載っていない生の知識で。こんな勉強、落語でしかできないだろう。
堅物の息子と遊び人ふたり、彼らをを取り巻く吉原の人たちの掛け合いがなんとも可笑しく、今にはない風情のある遊びだなあなんて思ったりする。それも全て堅物-遊び人-吉原の女性とタイプの全く違う登場人物を見事に演じ分けている扇辰師匠の力である。
CDやYou Tubeで落語を聴くのももちろんいいが、寄席に来てイケない社会勉強をするのも気持ちがいい。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」1/14 公演 感想まとめ
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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