渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 2月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:キャリア8~9年の二つ目が勝負のトップと三番手、癒し系の志ん五師匠、そして渋谷らくご初登場の正蔵師匠に挟まれて奮闘します。最初は「古典落語」を聴きたいという人はまずはこの会に! 若手が気持ちよく挑戦している姿に勇気をもらい、最後は真打が締めるという安定感をお楽しみください。
アングル:渋谷らくご大賞 柳亭市童さんが、初登場の正蔵師匠の前にあがります。正蔵師匠、明るいキャラクターでお馴染みかと思いますが、聴かせる演目もたくさんお持ちの師匠ですので、どんな演目を選んでくださるのか楽しみです。
▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。緊張を楽しめる性格。カラオケボックスに入り稽古を重ねる。元編集マン。最近はツイッターで、落語の疑問をツイートしている。落語の登場人物が住んでいたであろう場所を推測して、実際に訪れたりしている。
▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴15年目、2017年9月真打昇進。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。海が好きで、釣りが好き。最近公式ウェブサイトのデザインを一新して、おしゃれになった。スケボー好き。
▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴9年目、2015年5月二つ目昇進。2018年渋谷らくご大賞「おもしろい二つ目賞」を受賞。最近渋谷の街になれてきて、渋谷駅を攻略しつつある。最近、市童さんの顔がプリントされたチロルチョコをプレゼントされた。身体がかたい。
▽林家正蔵 はやしや しょうぞう
15歳で入門、芸歴41年目、1987年真打ち昇進、2014年落語協会副会長に就任。渋谷らくごにご出演いただいていた喜多八師匠は正蔵師匠のことが大好きだった。中学生の頃に聴いたマイルス・デイヴィスがきっかけでジャズが好き。
レビュー
2月9日(土)17-19「渋谷らくご」
立川寸志(たてかわ すんし)-芝居の喧嘩
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-唖の釣
柳亭市童(りゅうてい いちどう)-蒟蒻問答
林家正蔵(はやしや しょうぞう)-蜆売り
立川寸志さん
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立川寸志さん
わざわざ来た甲斐もあり、開口一番でも高座へ上がると途端に客席から“待ってました!”と声がかかります。寸志さんの何よりの強みは、この客席からの絶大な信頼。そして寸志さんも、「ねぇ?」「そうでしょう?そうだようねぇ?」と上がり調子にお客さんに問いかけ、確実に客席を取り込んでいきます。臆することなく客席を全面的に信頼していることがよく伝わってきます。元編集マンでありながら、脱サラし、落語家を志すには決して早いとは言えない時期に落語家へ転身した寸志さんは「客席から見る落語」そして「落語を愛するお客様」の存在をよく心得ている。寸志さんからも、落語愛がひしひしと伝わってきます。
そんな寸志さんがマクラで相談事のように話し始めた『どうしたら勝てるか』問題。「もしも仮に客席から敵が現れ高座に居る最中に襲われた場合、どうやって『勝つ』かを考えているんです。講談師は釈台に貼り扇があるし、浪曲にも見台がある。落語にはない!どうします、仕方ないから座布団でなんとか戦おうと思う!」と、そもそも『勝つ』必要ある?と思わせるような内容を、はっきりとそしてのびやかに話すその様はみていて清々しい。そしてはっきりとした宣言をしたのち、落語本編へ。
この会の並びを見て、「私『以降』は落語協会!で正統派!あとの方々がなんとかしてくれますから」と口では言いながらも、立川流をしっかりと背負って、負けず劣らず、本寸法の「芝居の喧嘩」。啖呵を切る場面でも一度も言い淀みなく、とんとんとんと話が展開していくさまがとても気持ちがいい。
なんとなく「ジャムおじさん」に似ている寸志さん。いい意味で、とてもいい意味で庶民派。抜群の安定感で開口一番を飾ってくださいました。
古今亭志ん五師匠
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古今亭志ん五師匠
「唖の釣り」は与太郎と七兵衛さんが池の鯉を内緒で釣る話。様々な噺に登場するこの「与太郎」。馬鹿で与太郎、と相場が決まっておりまして…とマクラで触れられます。あまり賢い与太郎さんにはお目にかかりませんが、噺を聞き比べると、演じる人それぞれに、そしてその噺それぞれに「与太郎像」があるのだなと感じます。志ん五師匠がこの噺の中で演じる与太郎は、おどおどとせず堂々。そして慌てない。
登場人物がいくら手を焼き、お前はどうしようもないねぇ、と小言を言っても、にこーっと笑っているその与太郎を見ていると、あ、もうちょっと日常をのんびりと寛大に楽しもう、
噺の中の誰よりも日常をその時を大切に、新鮮に楽しんでいるのは与太郎だ、と感じます。叱られても、だめだよ、と言われても、えへへ、と笑いながら楽しそう。それでいて周囲の人から愛される与太郎。志ん五師匠の渾身の笑顔で与太郎を演じられると、あたたかい心持になります。 ご自身も釣りが好きな志ん五師匠。この日の羽織の紋にはお魚が釣られている絵が。高座で自ら触れることはありませんでしたが、客席の、とくに前の席の方で気が付かれた方も多かったはず。客席に、この空間にいることで共有できるささやかな愉しみ。これだからやっぱり、落語は生で客席で、みなくちゃ。
柳亭市童さん
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柳亭市童さん
本人にこのような感想が届くたびに悲しみ憂いているんじゃないか、と思うと書きにくいこの一文ですが、決して「老けている」だとか「年寄りくさい」だとか、悪い意味ではなく、毎度見るたびに実力に圧倒されてしまうからこそ、どうしてもこう思わざるを得ないのです。
落語会のおわりに私服でお見掛けすると、色白で丸顔の、よくよく見ると目がくりっとしていて童顔で、眉は基本ハの字。市童さんは、人柄の良さ、謙虚さ、落語へのリスペクトがどの高座を見ていても伝わってきます。自分より年上の落語家さんから可愛がられていることが本当によく伝わってきます。
蒟蒻問答。噺の中の登場人物は計4人。「演じ分け」という言葉では言い表せないほど、一人一人がそこに、本当に「いる」!
なにもしないでいる江戸からの流れ者に対し、「坊さんやってみないかよ、字が書けなくても構わない、いろはにほへとの」「いろはにほへと」をお経にして読むシーンでは、「ほら、こんな具合に、いーろーはーにーほーへーとー(ぼーん)」とまねごとをはじめ、「こんな具合でいいから坊さんやってみろ」と言われ、流れ者が「そんなんでいいならやってみましょうか」と二つ返事で坊さんへの『転職』を受け入れてしまう場面が、『世の中ついでに生きている』の世界の出来事らしく、落語らしくて一番好き。その「そんなんでいいならやってみましょうか」という時の市童さんの表情が、しょうがないねぇ、と眉を一層ハの字にしながら、それでも楽しみにあふれ、にやけていて、本当に、本当に、かわいい。
北海道、札幌市出身。27歳。平成生まれ。東西合わせて800人居るとされている落語家の中でも、出身地も同じ、そして世代も同じ市童さんは、この先も無条件で応援していくと早々に心に決めている一人です。同じ時代を生き、落語を見届けるうれしさを、これからもきっと私に教えてくれると信じています。
林家正蔵師匠
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林家正蔵師匠
鶯谷、根岸にあるご自宅から“駅前にドトールと富士そばがない”渋谷に来るのは久しぶりのことだそうで「高座に上がってやっと落ち着いた」とのこと。初期の渋谷らくごにご出演くださり、会を支えて下った、柳家喜多八師匠との思い出話を、ひとつ、ふたつ、と語りはじめます。「あの兄さんは格好良かったんですよ、言うならばね、フランスの、マルセイユの、乞食みたいな風体だった。」と語りながら昔を懐かしむその視線は、あぁやはり高座がいちばん落ち着かれるのだな、と思わされます。
「今日は雪がちらついていますからね、寒い時期の話にしましょうか」と語り始めたのは「蜆売り」。
正蔵師匠の高座は、語り口はもちろん、ひとつひとつのこまやかな所作に引き込まれます。落語に入りますよ、と言葉では言わないけれど、口調が穏やかになり、ゆっくりと時間をかけて羽織の紐を解き、その解いた紐を両の手でぐっと伸しながら丁寧に伸ばし、ゆっくりと両手でそでをつかんだまま、肩から羽織を外す。
雪の降る冬の寒い日、11歳の子供が蜆を売り歩き、心優しい大店の主人がその子供の蜆をすべて買って「今日は殺生したくない日なんだ」とその蜆を川へ返してあげる。幼い子供の身の丈話を親身になって聞くうちに、今日この瞬間出会うそのずっと前から2人は妙な縁でつながっていた、という、とても心温まるお話。
「腹減ってるだろう、飯でも食っていけ」と言われ、温かいお茶と巻きずしを出される。ありがとう、と無邪気に喜びながら、大きな湯飲みに入ったたっぷりのお茶を、大事そうに両手で持ち上げ、ひと口、ふた口と飲む。お茶を口にもっていくだけの、当然言葉もなにもないこの10秒ほどのシーン。お茶のあたたかさ、そして子供がいかに寒い中長時間作業してきたかが、悴んでいる手をできるだけ茶碗から離さないようにぴったりとつけたままお茶を口にもっていくその所作が、どれだけ子供が苦労を重ねて来たかがわかります。
高座が終わり、追い出し太鼓が鳴る中「緞帳が下りないのならちょっとお話しようかなと思ったんです…ありがとうございました。」と、照れくさそうに笑い、丁寧に頭を下げ、そのうえ高座から下りたあとも、立ち上がってお辞儀をする姿。謙虚な姿勢が伝わる一幕でした。
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「渋谷らくご」2/9 公演 感想まとめ
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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