渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 2月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月10日(日)14:00~16:00 立川志ら乃 春風亭百栄 林家きく麿 隅田川馬石

「渋谷らくご」爆笑落語会 ~大激突~

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プレビュー

初心者向け:とにかく最初は笑いたい。どんな落語でもいいから笑わせてほしい。そういう人は絶対ここ! どうなるか想像もつかないメンバーですが、いろんな角度から笑わせてくれることだけはまちがいない!
アングル:百栄師匠が古典でくるのか新作でくるのか!? きく麿師匠が大暴れ、最後の馬石師匠は笑わせるのか、しっとりと締めるのか。「爆笑落語会」の看板が、どういうフリになって演目選びに影響するのか、味わいたいです。

▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きで、スーパーの批評をツイッターでおこなっている。心を落ち着けるためにバニラ杏仁を食べる。最近は家に帰ると雪見大福の生チョコレート味を食べてしまう。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
不思議な風貌で、危ないネタをかけつづている。落語協会の野球チームでは、名ピッチャーとして活躍する。
アメリカで寿司職人のバイトをしたことがある。猫が大変お好きという意外は日常生活の様子を見せない。

▽林家きく麿  はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴22年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。褒められたツイートを積極的にリツイートする。洗い物をしながらレモンを口ずさんでいたらしい。焼きトンに七味唐辛子をたくさんかける。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴25年目、2007年3月真打昇進。時間がたくさんあるときのマクラも、オチ優先でなくコラム的な味わいで楽しい。寒い夜に月を見るのが好き。寒い夜に少し小腹が空いた時に食べる肉まんが楽しみ。最近はプレミアム肉まんにも挑戦した。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 猫と喫茶店が好き

立川志ら乃(たてかわ しらの)「たらちね」
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ) 「バイオレンス・スコ」
林家きく麿(はやしや きくまろ)「優しい味」
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)「夢金」

 2月になり梅の花が咲き始めても、春はまだ遠く感じる。雪の降る寒さで吐く息は白い。今月の渋谷らくごが始まった週末には、朝から春の雪が降り、花が咲いた梅の木には白い雪が積もった。
「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春へと咲くやこの花」(古今和歌集)
という詩を思い出す。週末から渋谷では、梅の花ではなく落語家さん、講談師さん、浪曲師さんが、競うように演芸の花を咲かせていた。
 渋谷スクランブル交差点を渡って、フランスパンの名店VIRONや東急本店、東急文化村を通り過ぎ、渋谷らくごへ向かう。
 10日の14時回は、立川志ら乃師匠、春風亭百栄師匠、林家きく麿師匠、隅田川馬石師匠という、爆笑必見のベテラン師匠揃いで楽しい予感しかしない。会場は始まる前から大入り満員でわくわくして来る。

立川志ら乃師匠「たらちね」

  • 立川志ら乃師匠

    立川志ら乃師匠

 もはやレギュラーの貫録で、開口一番を明るく、さわやかに、にぎわせる志ら乃師匠。
素直に大入り満員の喜びに満ちた笑顔で冗談とも本音とも取れるトークで関心を一身に集める。そして照れながら「たのしませたい」というプロとしての男気を感じさせて「たらちね」へ入る。志ら乃師匠は前座噺について色々想いをお持のようだが、前座噺でも「たらちね」は結婚への祝福の色の強いお話で、私は結構好きな噺だ。志ら乃師匠の「たらちね」は特に気合いの入っている独特の「たらちね」で、おもしろくて客席が湧いた。八五郎が大家さんからお嫁さんを紹介してもらう場面で、こんなに笑うとは。演じる人によって同じ新婚話とは思えないから「たらちね」はおもしろい。志ら乃師匠ご本人の明るさが、ガラッパチ八五郎と奥さんの初々しい新婚生活を微笑ましい一席にしていた。そういえば、確かに志ら乃師匠ご本人のおっしゃる通り、志ら乃師匠は、軽くて短い噺が多い気はする。まくら短めで長講に入る志ら乃師匠も拝見してみたい。

春風亭百栄師匠「バイオレンス・スコ」

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

 ふわっとした風貌を侮ってはいけない。百栄師匠は腰が低くて自慢話をしないだけで、結構引出しの多いインテリジェンスな落語家さんである。質の高い新作落語を作る創作力、間の取り方、人を緊張させない話し方、落語知識、おしゃれさ、パフォーマンス、可愛いらしさだけでは測れない魅力で、百栄師匠は、いつの間にか客席にいる人々をご自分のファンにしてしまう。
 二人だけの落語会で、少し生意気な若手落語家さんが百栄師匠をいじった時に、「弟子の強めし」「桃太郎奇談」で爆笑に次ぐ爆笑を起こして、若手落語家との実力の差を見せつけたときは、その場にいた多くのお客様が「百栄師匠は天才だ!」「すごい」と感想をシェアし合った。本気になれば会場を抱腹絶倒に出来るが、皆さんと歓談したい場合は、周囲の話題に聞き入っていらっしゃる。百栄師匠が飼っている猫ちゃん2匹は、今でこそ大切に飼われているが、昔は野良猫として、猫の縄張りで生活していた猫ちゃんだったらしく、今回の「バイオレンス・スコ」も、野良猫の縄張りと野良猫にご飯を運ぶ「猫好きOLや主婦」を題材にしている。
主役のスコティッシュフォールドは耳の垂れた猫で、喧嘩相手のアメリカンカールは耳がカールしている猫だと、猫の品種や性格を把握していると、つい猫ちゃんたちを思い浮かべて笑ってしまう。最近のキャットフードはどんどん良くなっていて、種類も、鶏肉はもちろん、まぐろ、鮭などの単品メニューばかりではなく、猫の年齢順に栄養を分けているもの、スープ、噛まなくても食べられるチャオチュールなど人気商品が豊富であって、昭和時代の鰹節や味噌汁をかけた「猫まんま」は一切出て来ない。猫のグルメ事情にも詳しい。私は結構、百栄師匠の創った落語が好きです。

林家きく麿師匠「優しい味」

  • 林家きく麿師匠

    林家きく麿師匠

 最近のきく麿師匠といえば、最後に「昔の名前で出ています」を歌うイメージが強い。今回もカラオケを披露されるのではと考えていると出張先で、風邪にも関わらず、カラオケのお誘いが何度もあるまくらであった。お風邪はもう大丈夫なのだろうかと心配になる。噺のテーマになった「優しい味」という言葉は、一見、ほめ言葉に聞こえるが、よく考えると、味が優しいってどういう味のことなのか。女の人がおしゃべりで盛り上がり追及していく過程で知的好奇心をくすぐられた。それに真面目に怒っても、困っていても、きく麿師匠はおもしろくて、どっと笑いが起こる。おもしろくて可愛いというのは最強の武器で、お客様も打てば響くように笑う。抱腹絶倒の回でした。早くお風邪が治りますように。

隅田川馬石師匠「夢金」

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

 人は何故夢を見るのか。いわゆる「夢」を落語で体験する度に、「電気羊はアンドロイドの夢をみるのか」(映画「ブレードランナー」の原作)的な疑問を投げかけたくなる。「船頭はお金の夢をみるのか」というと、船頭の寝言から「夢金」は始まるので「Yes」である。爆笑らくごの騒ぎの後に、すうと高座にあがる馬石師匠を見て、夢から覚めたように会場の空気が静かになり、馬石師匠が船頭の夢の寝言をいうと、私たちは次の違う夢の世界へと誘われるように見入った。金曜日の古今亭文菊師匠と同様、馬石師匠は「夢金」をかけ始める。相変わらず伸ばした腕の、長くて美しいお姿、横からでも絵になる美しさ。そして雪景色の描写を語る声の艶やかさ。早朝に真っ白な雪景色を見たばかりの日で、雪を思い出して、私は寒さを思い出し震える。シンシンと音も無く降る雪の中、船頭は、お金に目がくらんで船を出す。しかし、お金に目がくらんだ船頭よりも、お金目当てに殺人まで犯す侍がいて、「夢金」の船頭の正義は成り立つ。
なぜ「船頭はお金の夢を見るのか」私も夢を見るように馬石師匠の「夢金」の世界に没頭しながら考える。そのとき、船頭がお金の夢を見るのは、私が落語で味わう夢のような楽しい時間と似ているのではと気がついた。船頭の夢も私の聴く落語も雪が降っている。「夢金」が終わり、楽しい夢のような時間から現実へ戻るべくユーロライブを出る。「夢金」のあの船頭も落語のラストで夢から現実へ目覚めただろうか。  
また雪が降ったら、馬石師匠の「夢金」が聴きたい。




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「渋谷らくご」2/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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