渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 2月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

2月12日(火)20:00~22:00 柳家花いち 立川談吉 笑福亭羽光 春風亭昇市 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 19年第1回

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

初心者向け:まだどこでもやったことのない、創ったばかりの落語を演じる。そんなスリリングな舞台がこの「しゃべっちゃいなよ」。創作らくごの鬼軍曹 林家彦いち師匠の召集をうけた4名の二つ目たち。昨年、この創作大賞を受賞した羽光さんがはやくも登場、またそれぞれ団体のちがう若手が、こうした会でしのぎを削るのもほかにない機会です。
勉強会や独演会でネタおろしをせず、こうした他流試合のリングでネタおろしをしてくださる演者さんに感謝、そしてそれを聴きに来てくださるお客様にも感謝! 宇宙初公開の落語を、お客さんと演者で一緒に完成させていく隔月人気シリーズです。
アングル:2018年渋谷らくご創作大賞の笑福亭羽光さんを中心に、構成力のある花いちさん、構成ではなく「絵」で笑わせる希少種 談吉さん、そしてもっとも若手の昇市さんがどう勝負をかけてくるのか。まったく予想がつきません。彦いち師匠が必ずやまとめてくれると思います。

▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。松岡修造をみるとテンションが上がる。昨年は11作品、創作らくごをつくりあげた。

▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴11年目、2011年6月二つ目昇進。最近は、電車につかわれているネジや道に落ちているネジまでを写真に収めてツイッターにアップしている。肉極道を読みながら、唐揚げを食べてテンションがあがっていた。

▽春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち
2014年入門、芸歴5年目、2018年5月二つ目昇進。先輩方のコミュニケーション、気の配り方まで完璧にこなす。先々月ツイッターをはじめた、フォロワー数は順調に増えていっている。年末にももクロ神社に行くほど、ももいろクローバーZに熱中している。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴12年目。2011年5月二つ目昇進。2018年「渋谷らくご創作大賞」を受賞した。最近町田康さんにお会いした。眼鏡を何種類も持っている。最近はフチが白い眼鏡をかけている。猫を可愛がる。可愛い猫のツイートにいいね!しがち。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。公式サイトがリニューアルされ、入門されてからいままでの落語家の記憶を書き続けている。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
「渋谷らくご」2018年2月公演
▼2月13日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」
柳家花いち(やなぎや はないち)-心スタンド
立川談吉(たてかわ だんきち)-生モノ干物
笑福亭羽光(しゅんぷうてい うこう)-宮沢りえの写真集が世界を救う噺
春風亭昇市(しゅんぷうてい しょういち)-連番相手
林家彦いち(はやしや ひこいち)-ふたご

開演前には2018年の創作大賞を受賞した笑福亭羽光さんのトロフィー授与式もあり、2019年初回の「しゃべっちゃいなよ」にかかる期待は高まるいっぽう。王者に挑戦するのは安定感抜群の花いちさん、何が飛び出すかわからない談吉さん、初登場で実力未知数の昇市さん。鬼軍曹の彦いち師匠も加えて記憶に残る5作品が並びました。
「サゲは死ぬ時なんだ。とりあえずやってみる! 押忍」。今回の前説で彦いち師匠が放った名言です。

柳家花いち-心スタンド

  • 柳家花いちさん

    柳家花いちさん

チャーミングな登場人物が魅力の花いちさん。今回は、人を癒すキャラクターを扱った作品でした。
仕事のミスで部長に叱られ、「営業に行って来い!」と送り出された山本さん。道ばたで声をかけてきたのは江戸マモル君(8歳)でした。山本さんのため息を聞いて「ありがとう」と感謝し、「見えないものをあると信じると幸せになれる」と優しい言葉を投げかけながら山本さんを「ハッ」とさせるマモル君。『ハケン占い師アタル』も真っ青な不思議な力を持つマモル君とは何者なのか? 山本さんはどう変化していくのか? その謎は最後に解き明かされます。
謎のフリがあって、謎解きがあって、最後に意外な転換があって着地を決める。非常に聞き応えのある一席でした。マモル君の持つ癒しのテクニックがなぜか扇子を使って煙草を吸ったり、蕎麦を食べたり、手ぬぐいを使って汗を拭いたりとする落語の仕草。やけに落語ツウの8歳が面白かったです。

立川談吉-生モノ干物

  • 立川談吉さん

    立川談吉さん

15年「当たりの桃太郎」、16年「シロサイ」、17年「肛門飴舐め専門店」、18年「酒場放浪記」に続く5回目の談吉さん。今回もTwitter上で連日「できない」「これでいいのか」など、作品作りの苦労を愚痴りながら、悪戦苦闘する姿を見せてくれました。その結果、何とも言えない不思議な傑作が誕生しました。
工場のベルトコンベアーで青い箱と赤い箱を仕分けている2人。「青は生モノ、赤は干物」と分けるだけの仕事。1人は3カ月の新人で、1人は15年のベテランです。その2人の会話が淡々と続くのですが、その会話に意味はほとんどありません。最後は暴走を始めて「ポテコ」「ババロア」「ココ山岡」など意味のない単語の羅列が続いて突然終わる。ジャンルで言えばシュールやナンセンスなのかもしれませんが、意味がない会話ならではの面白さがあります。舞台でタツオさんが言った「イリュージョン」の世界。意味や認識をはぐらかしていく会話が聞き手の脳をかき乱し、活性化していくのです。
このネタにストーリーはなく、歌のように作られています。「生モノ干物」の仕分けがAメロ、同じリズムで「ゆでモノ」が入るのがAダッシュメロ、短いBメロをはさんでサビになだれ込む感じ。特にサビの部分はパンクのリズムを打っているようで自然と乗せられていきます。話はシュールですが、リズムとテンポはまさしく落語。古典落語の「紙屑屋」「平林」、談志の「やかん」にも通じるユニークな作品でした。

笑福亭羽光-宮沢りえの写真集が世界を救う噺

  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん

「SF風の話をどうわかりやすく伝えるか」をテーマにチャレンジしたという羽光さん。最初に作品の企画意図とテーマを解説するという掟破りの行動に打って出ましたが、羽光さんのメッセージはきちんと伝わってきました。
舞台は1991年。高校生のヨシオ君に宇宙人が寄生するところから物語は始まります。ヨシオ君の体と心を乗っ取り、地球侵略を狙う宇宙人から地球を守れるのか?
SF風ですが、青春物語にエロをまぶした「私小説落語」の芸風がしっかり反映されていて、私にはそちらのイメージのほうが強かったです。特に「宮沢りえの写真集」が1991年のヨシオ君をはじめとする男子高校生にどれだけ強烈なインパクトを与えたか! その思いはしかと受け取りました。

春風亭昇市-連番相手

  • 春風亭昇市さん

    春風亭昇市さん

私自身、昇市さんの落語も創作落語も初めての体験です。ネタおろしの創作は、二つ目昇進1年目の若手とは思えないほど完成度が高く、意欲にあふれた作品でした。
「ももいろクローバーZのファン」(モノノフ)である昇市さん自身の経験から作ったと思われるチケット争奪戦にまつわる話です。家でももクロのDVDを見ている娘の影響で、隠れももクロファンになっていたお父さん。娘と奧さんを巻き込んでライブチケットの抽選に参加します。1人2枚(連番)までの応募に家族3人分。お父さんはライブに行けるのか?
アイドルを扱ったマニアックな作品と思いきや、実際はお父さんの悲哀を描いたホームドラマでした。誰と一緒にライブに行くか、連番相手がポイントになります。同じホームコメディでも、デフォルメしてくる昇々さんと比べて昇市さんはドラマ寄り。登場人物の心情をセリフや態度に乗せてくる印象で、お父さんの家庭でのポジションが明らかになってくるとその切なさが大きくなってきます。笑いは多くありませんが、ところどころに放り込まれるギャグが効果的。伏線を張ってサゲで見事に回収。家族から疎まれているお父さんがちょっとだけ幸せになりながらも新たな波乱を予感させるラストが印象的でした。

林家彦いち-ふたご

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

パラレルワールドやタイムスリップなど、空間や時間を自在に扱いながら毎回、不思議な作品を生み出し続ける彦いち師匠。今回は「彦いち」の代演を「ふたごの弟」にやらせるという設定で、2つの視点から自身の高校時代までのエピソードをしゃべっちゃいました。
彦いちのコピーロボットとなる役割を振られた弟の元に、「今日やるネタ」として動画が送られてきます。そこには、小さい頃に飲んだブラックコーヒーの思い出や、子供時代に兄弟げんかばかりしていたエピソードなどが語られていました。それを見た弟は、代演として出た高座で自分の視点から見た兄の裏のエピソードを暴露するストーリーです。
兄の視点が表なら、弟の視点は裏。本人によって美談に仕立てられたエピソードが、オセロゲームのように次から次へとひっくり返されていく爽快感がたまりません。複数の視点をカミシモで切り替えながら進める落語に対して、視点を完全に切り分けた実験的な作品。落語の構造を熟知した彦いち師匠のチャレンジ。さすがです。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」2/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
写真の無断転載・無断利用を禁じます。