渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 2月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月18日(火)18:00~19:00 立川談吉 立川笑二

「各賞受賞者の会」渋谷らくご大賞、渋谷らくご創作大賞

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プレビュー

昨年もっとも輝かしい活躍をみせ、おもしろい高座を連発した二つ目におくられる「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞者の笑二さん、
そして昨年のネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」で優勝し「渋谷らくご創作大賞」を受賞した立川談吉さん。
今年の渋谷らくごはこの二人が象徴となってがんばります。どうぞ応援しにきてくださいね。火曜の18時公演ですので、ゆったりとご覧いただけます。

▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴12年目、2011年6月二つ目昇進。電車につかわれているネジや道に落ちているネジまでを写真に収めてツイッターにアップしている。最近は、超牧歌的四コマ漫画「アリクエナイくん」をツイッターに載せている。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴8年目、2014年6月に二つ目昇進。沖縄出身の落語家。飲み会に参加することが多いが、気付くと寝てしまっている。公園のベンチで落語の稽古をする。先日は、ウィッグとメイクに挑戦をしてみた。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi(二の足を踏んでいる間に逃げて行った2月)

2月18日(火)18:00~19:00 「各賞受賞者の会」
立川談吉(たてかわ だんきち) 「およそ3」・「シロサイ」
立川笑二(たてかわ しょうじ) 「お直し」

 今回は2019年の渋谷らくご「各賞受賞者の会」に参加した。2019年の受賞者は二名。一人目は「渋谷らくご創作大賞」を受賞した立川談吉さん。「生モノ干物」というシュールな内容でありながらリズムの心地よい落語で、見事に創作大賞を射止めた傑物である。二人目は「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」を受賞した立川笑二さん。昨年は毎月渋谷らくごに出演し、1月「持参金」・2月「宿屋の仇討」・3月「花見の仇討」・4月「崇徳院」・5月「鼠穴」・6月「わかればなし」・7月「五貫裁き」・8月「青菜」・9月「不動坊」・10月「天狗裁き」・11月「妾馬」・12月「百川」と、アレンジが見事な古典落語やエッジの効いた新作落語まで、多様な落語で楽しませた点が評価されての受賞だ。
 奇しくも二名とも「立川流」の談志孫弟子世代という共通点がある(談吉さんは談志直弟子→左談次門下→談修門下であるが、上野広小路亭で毎月行われている「マゴデシ寄席」にも出演されているため、「マゴデシ世代」とした)。渋谷らくごではこの両名以外にも、こしら師匠・志ら乃師匠・吉笑さん・寸志さんなどが立川流孫弟子世代として出演している。
漠然としたイメージだが、立川流では、家元である故談志師匠を筆頭に、志の輔師匠・談春師匠・志らく師匠・談笑師匠の「立川流四天王」が有名だ。当たり前のことだが、この立川流四天王はいずれも直弟子である。つまり「孫弟子世代といえば」という代表的な人物がすぐに浮かばない現状にある。
例えば円楽一門会では、五代目圓楽の孫弟子世代にあたるのは三遊亭兼好師匠や三遊亭萬橘師匠である。両師匠は既に多くのホール寄席に出演している人気者として有名だ。今回の両名の受賞は、こうした「孫弟子世代といえば」と冠された際にすぐに名前が挙がる可能性を秘めた存在が現れた萌芽として位置付けられるのではないか。

えらい前置きが長くなってしまったが、要するにこれからの成長が楽しみだし、とにかく面白そうな二人の会だということだ。

立川談吉「およそ3」・「シロサイ」

  • 立川談吉さん

 ニコニコとニヤニヤの間のような表情で高座へと上がる談吉さん。「この人はどんな景色を見ているのか」と思ってしまうような、何となくクセがあるなという雰囲気の人物である。
 「普段は古典落語が中心ですが、本日は立川談吉新作名作劇場から二作品を」との前置きから始まった一作目の「およそ3」は、要約すると子どもが永久欠番を欲しがる話。すでに永久欠番を欲しがるという時点で訳が分からないが、出てくる登場人物(息子・母・父)はいずれも訳が分からない。しかしこの訳が分からない人物だけが登場する世界では、その訳の分からないルールの中でのみ通用する秩序が存在しているようだ。それぞれは相手の秩序を否定せずに受け入れて話は進行していくのだが、見ている方としては「いやツッコミをいれろよ」と思ってしまう。もしかしてこの相手の行動を否定するようなツッコミを入れるのがいいと思っている私の感性は既に錆びついたものなのだろうかと不安になってくる。いったいどんな状況で自宅のお風呂場で砂風呂をして、その中にバブを入れようと思いつくのだろうか。何度思い返しても、やはり不思議だ。
 二席目の「シロサイ」は、要約するとシロサイを助ける話。「およそ3」と同じく、どの登場人物(おじいさん・おばあさん・シロサイ〈動物〉)も訳が分からない。簡単な言葉に置き換えれば不条理な世界観なのだが、やはり混沌とした中に一貫性のある秩序が存在している。そしてどの登場人物も相手をそのような存在として受け入れている。「何だよ、突然発狂することがあるおじいさんって」と指摘する人物は、私の心の中にしか存在しない。どこか『日本書紀』のツクヨミの話や、『風土記』の地名起源説話を彷彿とさせる不思議な話だった。

立川笑二「お直し」

  • 立川笑二さん

 ニコニコっとした愛嬌のある雰囲気の笑二さん。その愛らしい見た目とは裏腹に黒い部分がチラッと見えるのが魅力的だ。何よりビシッとした古典落語のあちらこちらに、笑二さんのアレンジが見事に加えられている。
先日ネットの記事であるラーメン店の店主が、お客さんから「30年前と全く変わらないとんこつラーメンの味だ」と言われたが、実際は30年前の2倍以上の量のとんこつを使っているという話が紹介されていた。このお店では時代時代のお客さんの好みに合わせて味付けを濃くしていったとのことだが、落語も同様に時代時代のお客さんの好みに合わせて物語をアレンジしていくことが必要であろう。先人から受け継いだものをそのまま同じようにやっていても、新しいお客さんや、またお客さん自身が変化していく際に満足出来なくなる部分が生まれるからだ。そのような観点から見たときに、笑二さんの古典落語のアレンジは実に見事に時代の味に合わせていると私は思う。
「お直し」は、落語に頻繁に描かれる明るい吉原とは少しばかり毛色の違う、暗い闇の吉原が見えてくるような話だ。笑二さんは、その暗い闇の部分をじっとりと暗く描き出す。ダメだとわかっていても止められない二人の関係、ドロドロと崩れていく中で生まれる新しい二人の関係性。ここでサゲなのかと思わせたところから始まる「エッ!」と声に出してしまいそうなアレンジによって、じっとりとした闇がゆっくりと滲んで明るくなってくるような感覚になった。
今の時代に合わせて古典落語の持っている面白さをどのように引き出すことが出来るだろうか、と笑二さんが真剣に向き合っている姿勢が一席一席から見えてくる。「落語ってどんなのかな?」という人にも是非見てもらいたいし、既にこの落語を何度も見たことがある人にも「こんなアレンジが!」と感嘆するために是非見てもらいたい。
「こいつが談吉さんや笑二さんのファンだから褒めているだけだろ」と思っているあなた、あなたですよ。あなたにこそ談吉さんや笑二さんを見るために渋谷らくごへ足を運んでもらいたい。

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絵:漫才コンビ「キュウ」 ぴろTwitter:@piroguramu 芸人

立川談吉さん

  • 立川談吉さん

立川笑二さん

  • 立川笑二さん

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」2/18 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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