渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 2月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月18日(火)20:00~22:00 三遊亭青森 春風亭昇羊 立川談洲 笑福亭羽光 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 2020年、開幕戦!

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プレビュー

隔月開催の創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。2020年最初の公演です。プロデューサーは、まだまだ創作に挑む、創作らくごの鬼軍曹、林家彦いち師匠!
 今回、エントリーするのは、二つ目に昇進したばかり、初登場の談洲さん、昨年はまさかの前編音合わせの一席を作り上げた青森さん、一昨年のファイナリスト昇羊さん、そして2018年の創作大賞受賞者 羽光さんです。
 それぞれ今年はどんな落語を聴かせてくれるのか! 期待に胸をふくらませてご来場くださいませ。

▽三遊亭青森 さんゆうてい あおもり
23歳で入門、現在入門6年目、2019年2月二つ目昇進。非常に独特な空気感があるウェブサイトを持っている。ガンプラに挑戦してみた、中学生以来。勾玉づくりにも挑戦してみた。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
神奈川県横浜市出身、2012 年入門、2016 年二つ目昇進。飲み会ではペースメーカーとなり、 一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つ。「読書通帳」をつけるなど、読書好き。先日伊勢丹にディスプレイされていた町田康の文章にドキドキした。

▽立川談洲 たてかわ だんす
2017年1月入門、現在4年目、2019年12月二つ目昇進。ヒップホップ基本技能指導資格を取得している。先日生まれて初めて財布を拾い、交番へ届けた。「あいふぉーん」と入力しないと「iPhone」と表示されないことに憤っている。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴12年目。2011年5月二つ目昇進。眼鏡を何種類も持っている。最近はフチが白い眼鏡をかけている。猫を可愛がる。可愛い猫のツイートにいいね!しがち。朝井リョウの「ままならないから私とあなた」に感銘をうけた。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。彦いち師匠プロデュースの鞄が完成した、限定200個で発売中。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2020年2月公演
▼2月18日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」
三遊亭青森(さんゆうてい あおもり)-飼っちゃダメ?
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう)-笠森お仙
立川談洲(たてかわ だんす)-やおよろず
笑福亭羽光(しょうふくてい うこう)-幻の落語
林家彦いち(はやしや ひこいち)-無観客寄席

6シーズン目の「しゃべっちゃいなよ」がスタートしました。昨年は2月公演に出演した談吉さんが「生モノ干物」で強烈な印象を残し、12月の決勝戦で創作大賞を獲りました。創作歴も落語家のキャリアも関係のない一発勝負な場所だけに、誰にでもチャンスがあるのがこの会です。今年も新しい落語の登場が楽しみです。

三遊亭青森-飼っちゃダメ?

  • 三遊亭青森さん

二ツ目昇進後の昨年6月に初めて登場した青森さん。事前録音の音声を用いた掛け合いコント「天才回答少女愛ちゃん」で度肝を抜きました。初回のインパクトは武勇伝として残り、青森さんへの期待は大きくなっています。
今回は落語の形ですが、一風変わっていています。本人曰く「人情話」になったという物語の主人公は、公園である「生き物」を拾ってきた小学生のヨウイチくん。その生き物はアラフォーサラリーマンでした。アラフォーサラリーマンの礼儀正しさを訴え「飼っちゃダメ?」と懇願し続けるものの、以前に拾った「ペス」を家で飼っているため、お母さんは大反対。アラフォーサラリーマンの運命は……。
新しい家族を「外から拾ってきて増やしたい」という発想が、核家族が普通になっている現代の感覚を表していてユニークです。「アラフォーサラリーマン」という漠然とした単語も、聞き手のイメージを掻き立て、さまざまなサラリーマン像が浮かんできます。「飼いたい!」「飼えない」の親子の応酬に、アラフォーサラリーマンが「ダメですかね~」とすり寄り、「ダメなんですよ~」と冷静に返すお母さん。思惑の異なる3者の会話のかみ合わないところに笑ってしまいました。
最後はアラフォーサラリーマンの素性が明かされ、「ペス」の存在がクローズアップされていく。疑似家族を巡るミステリーを見ているようで、最後まで楽しむことができました。昨年は30本、今年に入って3本もネタおろしをしたとマクラで言っていた青森さん。創作力をめきめき付けているようです。

春風亭昇羊-笠森お仙

  • 春風亭昇羊さん

2018年の「吉原の祖」で高い評価を受けた昇羊さん。約2年ぶりの「しゃべっちゃいなよ」とあり、楽しみにしていました。今回も疑似古典でのチャレンジです。
本の貸し借りを通して文通に発展し、上野の茶店の娘さんと所帯を持ったというスケさんの噂を聞きつけた男。「俺もやってみよう」と、笠森稲荷の茶屋の看板娘「お仙」と話をするため、本を持って出かけていきます。しかし、そこには「怪獣おたけ」の異名を取るお仙のおばさんが控え、言い寄る男はすべて追い返していた。男は怪獣を倒し、お仙に会えるのか……
マリオがクッパを倒し、ピーチ姫を助ける。スーパーマリオの世界です。敵が大きく、強いほど物語は盛り上がります。そこは昇羊さん、「怪獣おたけ」の描き方が半端ないです。おたけさんと男の戦いを単純に描くだけでなく、敵対しながらもほのかなコミュニケーションを描くのが昇羊さんのうまいところ。話は意外な方向に進んでいきます。
シンプルな物語の中に、さまざまな工夫が詰まっていて、仕草や声色などの演出も凝っています。ネタおろしとは考えられないほどの完成度。聞いていて心地良かったです。

立川談洲-やおよろず

  • 立川談洲さん

昨年12月に二ツ目に昇進したばかりの談洲さん。厳しい談笑一門で二ツ目をクリアしているだけに、センス、実力、人間力は折り紙付きです。
シブラク初登場のネタは、ドラマの飛行機内のシーンで見かける有名なフレーズを使ったあるあるもの。ボーイング787、ロンドン行きの機内で子供の急病人が発生。CAが「お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」とアナウンスすると「神の目を持つ男」が現れ、優秀な外科医による緊急オペが必要だとアドバイスする。続けて「優秀な外科医はいらっしゃいますか?」と呼びかけると「神の指先を持つ男」が現れる。その後も続々と「神の○○」が現れて……。
なじみやすい「お客様の中に」という設定と、次から次へと新しいキャラクターが登場してくる設定は、お笑い系のコントそのものです。しかし、想像で補える落語だけに、登場させる人物の数に制限がありません。ユニークなキャラばかりで、「飛行機内が町として機能するじゃん」というツッコミのセリフには笑ってしまいました。
登場人物が多く出てきても、基本は「1対多」の流れで、かつ談洲さん自体の演じ分けも器用なので混乱はありませんでした。声優さんのようなクリアな声色で、聞き心地も抜群。落語口調でないところは、古典では苦労するところかもしれませんが、現代の落語を演じるうえでは効果的でした。吉笑さん、笑二さんに続く、新しい才能の登場。これからが楽しみです。

笑福亭羽光-幻の落語

  • 笑福亭羽光さん

2018年の創作大賞受賞者。チャンピオンの堂々とした風格が漂う王道のSF落語でした。メタ構造の落語で大賞を受賞した「ペラペラ王国」よりは遙かに構造が難しくなっているのですが、羽光さんのチャレンジ精神、熱意がほとばしっていて、ぐいぐい迫ってきます。「しゃべっちゃいなよ」のお客さんとの相性もよく、会場には不思議な一体感が流れていました。
事前に時空を超越した異世界(中間世界)のバトルを描いたスティーヴン・キングの長編小説「ダーク・タワー」の設定を借り、落語と落語家の世界を描いたと解説した羽光さん。物語はある男が、隠居さんに向かって「幻の落語」を知っているかと尋ねる場面から始まります。落語家がオチを言ったらこの世界は崩壊すると説明する隠居さん。中間世界(落語の世界)では「時うどん」の主人公喜六が登場する羽光さんによる創作落語が進行していきます。
同じ物語は一次元上の世界で落語をしゃべる羽光さんの主観(心の言葉)で繰り返されます。「うどん」「幻」「羽光」の三題噺をリクエストされた羽光さんが、最悪な客席環境で四苦八苦しながら創作落語をやっている。世界崩壊へのカウントダウンは刻々と近づいていく……。
あらすじを聞いても難しいと思うのですが、落語を聞きながらの理解も簡単ではありません。ただ一貫して「落語とは何なのか」「物語とは何なのか」と考え続ける羽光さんの思考実験の跡が伝わってきます。聞き手の集中力も切れることなく、レベルアップした羽光ワールドを堪能することができました。
羽光さんの主観の中の三題噺の途中、「うどん」「幻」「羽光」のお題がクリアされるごとに客席から自然と拍手が起こったのが、みんなで落語を創っている証拠。SF世界にリアルな世界が自然と混じりこんでいて不思議な感覚になりました。

林家彦いち-無観客寄席

  • 林家彦いち師匠

コロナウイルスの影響により、3月1日の東京マラソンが無観客で実施されることになったというニュースを受け、当初の予定を急きょ変更して作ったという今回のネタ。彦いち師匠らしく「もし寄席が無観客だったら」という発想が飛躍した創作落語でした。
無観客寄席になってしまった影響で前座の仕事である「毎度お運びありがとうございます。ご迷惑おかけします。詰め合ってお座り下さい」というあいさつが使えなくなってしまう。その伝統は残さないといけないが、無観客寄席が長期化した結果、前座はどんどんやめていく。伝統を残すために協会が取った対策は前座に円生を継がせ、人間国宝を作ることだった……。
時事ネタを取り込むのが巧みな彦いち師匠の本領発揮の創作落語でした。各地の寄席の床にブラックホールができ、寄席がすべて消えて行ってしまうと円丈師匠の名作「寄席沈没」も思い起こさせるパニック落語。無観客寄席のほうが現実に近いだけに怖くなってきます。
2020年はSWAの再始動もあり、より多忙を極める彦いち師匠。4月以降は毎回ネタおろしを卒業し、鬼軍曹に専念するという発表がありました。同時に、師匠の信頼できる人が代理で創作落語を語るという話も。これもまた楽しみですね。
【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」2/18 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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