渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 6月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月12日(土)14:00~16:00 三遊亭好二郎 柳家勧之助 桂佐ん吉 瀧川鯉八

「渋谷らくご」若手真打大激突!その1

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プレビュー

 落語協会の勧之助師匠、落語芸術協会の鯉八師匠、そして上方落語協会の佐ん吉師匠!
 40を手前とする若手真打のなかでも、各団体を象徴する人物が揃いました。火花バチバチです。
 この会で好きになる人が、たぶんあなたがずっと追いかけ続ける人になると思います。
 そして、トップには圓楽一門会の二つ目 好二郎さん。聴く人をほらがらな気持ちにさせて、懐に飛び込む名手です。贅沢な番組になりました。

▽三遊亭好二郎 さんゆうてい こうじろう
2016年25歳で三遊亭兼好師匠に入門、2020年2月二つ目昇進。マスクは黒色やグレーを選びがち。竹下製菓のブラックモンブランというアイスがソウルフード。落語家になる前、9万円で購入した自転車を何者かに盗まれた。

▽柳家勧之助 やなぎや かんのすけ
2003年21歳で柳家花緑師匠に入門、現在芸歴18年目、2018年9月真打昇進。ツイッターでは「可愛い子ちゃん達」として柳家花いちさんをはじめとして落語家さんのオフショットをアップすることがある。おさん師匠とイチャイチャしている写真もアップすることがある。

▽桂佐ん吉 かつら さんきち
2001年17歳で桂吉朝師匠に入門、現在芸歴20年目。渋谷らくご初登場。先日カッピングをしたため、背中に赤い跡がたくさんついた。最近は配信に力をいれて、動画編集にも挑戦している。トイレを我慢しているときは、ツイッターをして気を紛らわせる。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
2006年24歳で瀧川鯉昇師匠に入門、2020年5月真打昇進。鯉八さんの似顔絵のLINEスタンプが発売中。この春、花形演芸大賞金賞を受賞した。デジタル化した宣材写真のデータサイズが異様に小さい。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

三遊亭好二郎(さんゆうてい こうじろう)-転宅
柳家勧之助(やなぎや かんのすけ)-ちりとてちん
桂佐ん吉(かつら さんきち)-幽霊の辻
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-やぶのなか/新日本風土記

三遊亭好二郎さん「転宅」

  • 三遊亭好二郎さん

開口一番、ワクチン接種という時事ネタを使ったこばなしから、テンポよくまくらを繰り出していく好二郎さん。観客の反応はいまいちだったとしても、マスクの上には出ないくらいの軽い笑いの小咄の方が終わった後まで覚えていられる。その場の笑いの大きさだけでは面白さの質が測れないところが落語の面白さ、だと勝手に思っている。
そんな軽い小咄から、「何にもできないから泥棒にでもなろうか」と言って泥棒になった「でもどろ」の泥棒が主人公の、そそっかしくかつちょっと人が良すぎる「転宅」の噺に入った。
「でもどろ」と言われるほど簡単になれるからって、それでうまく食べていくのは難しそうな泥棒稼業。好二郎さんの泥棒は、生真面目さというか、一途さが愛おしい泥棒だ。盗みに入ったうちの主、お菊と夫婦になる約束を交わし(杯を交わしただけ)、翌朝お菊の家の様子を見に来たが人の気配がない、向かいのたばこ屋に入ったところ、そこで自分がお菊に一杯食わされたことを知る。昨晩の様子をおかしく語って聞かせるたばこ屋に、食ってかかりそうな勢いが一途すぎて痛ましい。振り返って前夜のお菊とのやり取り。お菊の誘いをつゆも疑わず、お財布のお札も持っていかれてしまう。この泥棒にはこの人の良さ、真っ直ぐさを生かせるもっといい仕事がありそうだなぁ、と思ってしまった生真面目な泥棒の一席だった。

柳家勧之助師匠「ちりとてちん」

  • 柳家勧之助師匠

柳家花緑師匠のお弟子さんである勧之助師匠。それにしてもこの一門は、一門ネタに事欠かなそうだ。筆頭弟子の台所おさん師匠のインパクトの強さが渋谷らくごではおなじみなのだろうけれど、師匠の柳家花緑師匠の現実離れっぷりにも驚かされた。某オカルト雑誌を愛読し、人間国宝の孫にして、(今回はその話はなかったが)世界的に有名なバレリーナの弟。落語界にはいろんな人がいるなぁと感心していると、師匠に相槌やおべっかをうまくつかえない、という話から、「ちりとてちん」の本編へ。
なんと言ってもおかしいのは玄関先から旦那のご機嫌取りをする金さんだ。灘の生一本、鯛の刺身、まではともかく、わさびも醤油も、「あるとは伺ったことがあるが、まだ頂戴したことはございません」と言って旦那を喜ばせる。その勧之助師匠が演じる金さんのご機嫌とりが、嫌味じゃない。しつこさはそのセリフ止まりで、まぁしょうがないやつ、ういやつだなぁという旦那の気持ちがよくわかる。「口にするのが初めて」というのは誇張だとわかっていても、その心意気が嬉しいじゃないか、そういう旦那の心を共有できるおべっかなのだ。しつこいおべっかが好感に変わるってなかなかない。勧之助師匠は、普段もどれほど気を遣って相槌とおべっかを言っているのか、あるいは言う人を観察しているのか。
打って変わって、おべっかどころかなんでも知ったかぶりをするのが鼻につくキャラのろくさんが登場。そんな性格を逆手にとられて旦那にまんまと乗せられ、腐った豆腐を食べさせられるくだりでは、しかし、ろくさんの純朴ぶりが見える。いや純朴だからこそ、なめられまいと強がりめいた、知ったかぶりを通すのかもしれないが。
ところで、同じ腐った豆腐をお高くとまった人に食べさせる話でも、東京だとバリエーション違いの「酢豆腐」を演じられることも多いように思う。今回は勧之助師匠のおべっか遣いが堪能できる「ちりとてちん」を観られてラッキーだった。

桂佐ん吉師匠「幽霊の辻」

  • 桂佐ん吉師匠

渋谷らくご初登場という上方落語家の桂佐ん吉師匠。新大阪で旗を振って見送られてきたという大袈裟な冗談に、にやにやが止まらない。上方の噺家の語りを聞いていると、同じ噺家といえどもこれほど江戸の噺家と口当たり、いや、耳当たりが違うかと驚かされる。同じお茶でも抹茶と紅茶、同じワインでもカベルネ・ソーヴィニョンのスパイシーで濃厚な赤と、リースリングの冷えてよりきりりとした白、みたいな感じだ。貧弱な表現で恐縮だが、濃厚なのがどちらかということでなく(それは噺家の個性)、そのくらいの差を感じるという意味での東西比較だ。それを同じ落語として楽しむ、人間の感覚は不思議だ。
渋谷らくごに出てくる若手の噺家はあまりやらないが、昨今の政局、政治に対する一言二言、いや三言が聞けるのも楽しい。配信ありはいえ、落語会という場は水もの、噺家が市井の人間として率直に感じたこと、不満や不思議さ、を率直に語ることができる場であってほしい。高座で言ってもらえると、そう思っているのは自分だけではなかったんだな!と不思議な安心感が持てるのだ。
本編を何にしようか迷っていたとのこと、暑いので冷んやりとする噺を、ということで入ったのが「幽霊の辻」という一席。
今日のうちにとある村までたどり着きたい旅人が、夕暮れ時にある茶屋に入る。その村までの道の目印になる池や地蔵、橋、井戸にまつわる暗い話をその茶屋のおばあさんが語る。おばあさんの話をどこまで信じるかで、この先の旅路の運命が決まる、そしてこの旅人は結構信じてしまう可哀想な旅人なのだ。「前方(随分昔)の話じゃけどな」といいながら、池からずっと手が伸びてきてと手を伸ばしながら真っ直ぐカメラ目線で語るおばあさんの怖さと言ったら。いくら昔の話とはいえ、いくつもあれば、どこかでは幽霊に当たりそうな気がしてくる。間も無く村に着くというところで辻にいたお姉さん、これを演じる佐ん吉師匠の色気にくらっと来た。それまでおばあさんの不気味さや壮年の男性の軽さや元気さとは違う、艶っぽい表情、そして最後に目の座った表情にやられた。
観覧後に師匠のツイッターを検索したら、本当に直前まで演目を悩まれていたご様子で、あれは演技じゃなかったんだなぁ、とちょっとびっくりした。

瀧川鯉八師匠「やぶのなか/新日本風土記」

  • 瀧川鯉八師匠

鯉八師匠は高座に上がると、片手を上げて「チャオ」と観客に挨拶される。それに合わせて手を挙げてしまうようになった(特にオンライン観覧の場合)。この日は盟友で渋谷らくごでもおなじみの春風亭昇々師匠(!)が、新宿末廣亭の寄席で初のトリを務められるという。是非観に行ってあげてほしい、初日はやはり期するものが違いますから、とのこと。昨年真打に昇進された記憶も新しい鯉八師匠らしい、盟友への励ましなんだな、と思っていると、渋谷らくご大賞を昇々師匠は1回、自分は3回とっている、と真逆に振れ始めた。そういういじりができるのも盟友ならでは、である。
昇々師匠が「落語とは会話の妙である」(だったか)と言っているが、これに反旗を翻す一席を、ということで始まったのが「やぶのなか」という噺。新婚夫婦の妻を中心として、その弟、夫、そして弟の彼女、4人も登場人物がいるのに、そして4人でいた場を語っているのに、全編モノローグ、つまり一人語りで構成されている。思い出される会話はそれぞれ思いを吐露するためのきっかけのすぎず、ほぼ一方通行で終わる。弟が夫婦の家に遊びに来た2回の場面が、どれほど冷ややかなものだったか、噛み合わない思いを抱えたまま、集まり、そして解散したんだな、とわかる。そしてその場の会話は少なかったはずだが、その場を振り返るモノローグでは全員がとても饒舌だ。会話の裏には数え切れないほど、人の思いがある、と実感する一席だった。
そういえば、会話という表に出てこない人の思いを語る噺は、昇々さんの落語にも通じるように思う。
「やぶのなか」を終えるとすぐに「新日本風土記」の噺に突入した。こちらは米作りを生業とする老夫婦の物語。いたわりあう夫婦の様子が心を温かくする。前の噺と異なり、夫婦にやりとりがあるのだ。特にゆびにとげが刺さったという妻と、その手をとってとげを口で抜いてやる夫のやり取りが際立つ。カメラが切り返すように、妻はとげが刺さった自分の指を見、夫はその指をとる。前の一席と合わせて考えると、やり取りとは互いへの愛情と信頼感の証、なのだろうか。
とはいえ新米でチャーハンを作った妻に「バッキャロー」と言ってしまう夫の気持ちはわからないでもない。新米はそのままでおいしい。妻は最後にはわざと指にとげを刺して、夫に抜いてもらっていたが、新米チャーハンも妻による夫の愛試しなのだろうか?

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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