渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 6月11日(金)~15日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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6月15日(火)19:00~21:00 三遊亭兼太郎 柳亭信楽 柳家花飛 玉川太福* 三遊亭白鳥 林家彦いち(トークのみ)

「しゃべっちゃいなよ」2021年6月(第3回)

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プレビュー

 偶数月に隔月で開催している創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 若手落語家による創作のネタおろしに、最後は創作らくごの歴史に刻まれる「レジェンド噺」でお送りしています。
 前回の4月公演では、公演直前に休演者が出て、急遽で代替出演者が決まり、準備期間一日での創作らくごも聴けました。
 そして、その際に手をあげてくださった信楽さんが初登場。過去出演経験のある兼太郎さん、花飛さんは今年も彦いち師匠から招集がかかり、初年度の大賞受賞者 玉川太福さんも登場です!
 そして! なんといってもレジェンド噺で、ついについに、三遊亭白鳥師匠が初登場です。どうなるか想像がつきません!

▽三遊亭兼太郎 さんゆうてい けんたろう
23歳で入門、芸歴7年目、2017年二つ目昇進。先日の憧れの格闘家・清水清隆さんと会うことができた。ツイッターでは、人のツイートにいいね!つげがち。インスタグラムには、落語会のチラシを載せがち。

▽柳亭信楽 りゅうてい しがらき
30歳で入門、芸歴8年目、2018年二つ目昇進。先日、カズオ・イシグロさんの「わたしを離さないで」を読んで、感銘を受ける。ツイッターやラジオトークなどで発信している、noteでも文章を書き始めたがまだ1回しか更新していない。

▽柳家花飛 やなぎや かっとび
24歳で入門、芸歴12年目、2014年二つ目昇進。ツイッターにて、日々の睡眠サイクルを公開している。YouTubeで落語の動画を見るときに自動翻訳の字幕をつけてみると面白い事に気づいた。リップクリームをつかわない。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、2007年3月入門。JFN系列にて放送中の「ON THE PLANET」のパーソナリティとして、毎週火曜日25時から出演中。サウナが大好きで、オフピークを狙いサウナに通い続ける。散髪をした帰り道、カレーを食べて銭湯にいくと満たされる。

▽三遊亭白鳥 さんゆうてい はくちょう
24歳で入門、芸歴34年目、2001年9月真打昇進。将来小説家になろうと思っていたが、大学時代空手部に入った事で、断念した。いま創作した落語が絵本となって講談社より発売中。iPadの中には500冊の漫画が入っている。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2021年6月公演

三遊亭兼太郎(さんゆうてい けんたろう)-北区
柳亭信楽(りゅうてい しがらき)-出世の秘密
柳家花飛(やなぎや かっとび)-生みの苦しみ
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-続・がらけぇ兄弟ぇ
三遊亭白鳥(さんゆうてい はくちょう)-台所の隅
プロデューサー : 林家彦いち(はやしや ひこいち)

前回の4月、ある事情で出演がかなわなかった兼太郎さんが満を持して登場。さらに、前回のピンチヒッターに名乗りを上げるも、わずかな差で出演できなかった信楽(しがらき)さんがシブラク初見参。毎回不思議な創作落語を披露する花飛さんに、しゃべっちゃいなよは超久々の太福さん、レジェンド枠の白鳥師匠。バラエティ豊かな会になりました。配信視聴者数が128名と、画面の前でも楽しんでいる人もいっぱいいて、創作落語ファン、しゃべっちゃいなよファンもすごいなあと思いました。

三遊亭兼太郎-北区

  • 三遊亭兼太郎さん

鬼軍曹・彦いち師匠の召集令状(赤紙)に応じた感が、ぴったりはまる兼太郎さんの出演。本人は創作落語への関心が薄そうなのに、高校・大学で格闘技を経験してきたことが彦いち師匠の琴線に触れて、出演をオファーされたのではと想像する兼太郎さん。
創立90年、県内有数の伝統高校に入学した田中クン。文武両道を目指すその高校は、生徒の部活動参加を必須としていた。部活の数は200種類以上。生物教師・ハタケのケミカルジョークに翻弄されながらも、田中クンは2週間の仮入部期間中に、さまざまな部活を経験していく。というお話です。
何せ200以上も部活があるわけですから、いろいろな部活が出てきます。剣道部、サッカー部、柔道部と最初はまともですが、後半はほぼほぼだじゃれのような部活も出てきて、田中クじゃなくても頭がフラフラしてきます。話は並列的に進んでいくものの、相方の安藤クンとの会話で混ぜっ返しながら、テンポよく進んでいくので、リズム感があって聞きやすい。古典落語の登場人物たちのような軽やかなやり取りです。体験入部開始から2週間後、田中クンの選んだ部活もきわめて落語らしい。設定は現代ですが、核の部分はかなり古典っぽく、兼太郎さんのテクニックが生かされたユニークな創作落語でした。

柳亭信楽-出世の秘密

  • 柳亭信楽さん

信楽さんは初めて見ました。新作をやられている方とは知らず、どんなネタをやるのかとても楽しみでした。彦いち師匠とタツオさんの前説の時点で、着てきた私服をいじられていて、キャラクターへの期待感も膨らんできます。結果、想像以上にすごいものを見られたというのが感想です。
マキヤマエンタープライズの初代社長が、緊急入院で危篤状態に。息子で2代目社長のシゲルには、息があるうちに出世の秘密を打ち明けたいという。シゲルはその前に、全財産の入った金庫の番号を、父から教えてもらわなければならない。病院に駆け付けたシゲルに父は衝撃の事実を打ち明けるが、金庫の番号を教える前に息を引き取ってしまう。というお話です。
実はこの「あらすじ」の部分までが前振りで、その設定を生かして物語は二転三転、行ったり来たりを繰り返します。主人公・シゲルはこのピンチをどう切り抜けるのか。ちょっとしたミステリーにもなっていて、緊張感を持ちながら見続けることができました。
台本的にはコントだよなあと思って、終演後に調べてみたら、信楽さん自身が元コント師だったんですね。慶応出身で演劇サークルとか(wiki情報)。何か納得しました。でもコントのテクニックをきちんと落語に反映させていて、ハイブリッドな感じの完成度が高い作品になっていました。 ドラマ「コントが始まる」では30代になって息詰まったお笑いトリオ「マクベス」(菅田、神木、仲野)が解散を選んでそれぞれの道を進んでいきます。マクベスのコントは面白くないので(そういう演出なので)、その道に納得はできます。一方で、信楽さんのような形で生かされることもあるのだなあと、うれしくなりました。マクラで「他にも面白いネタはあるから、もしつまらなくても信楽がつまらないと思わないでね」と本人がいっていたので、他の作品も見てみたくなりました。

柳家花飛-生みの苦しみ

  • 柳家花飛さん

「出世の秘密」からの「生みの苦しみ」って何かリレーみたいですね。シブラクでは「律義な男」「電信後退」と2つの創作落語を披露してきた花飛さんが2年ぶりの登場です。ご自身でもTwitterのプロフィールで公開しているように、ある特性のためにアイデアは生まれやすいものの、それを形にするのは苦手なのだとか。今回はそうした自身の体験から、ある落語家が新しい落語を生み出すまでの苦しみを創作しました。
創作落語のアイデアが浮かばない落語家が、カウンセリングを受けにいく。カウンセラーは彼を公園に連れ出してウォーキングしろといったり、瞑想をしろといったり、現代アートを見ろといったり、冷水と温水で交互にシャワーを浴びろといたり、とんちんかんなアドバイスばかり。ネタおろしまでに落語を作ることができるのか。というお話です。
花飛さんの語り口の特徴として、淡々と進めていくので、決して派手ではないのですが、ひとつひとつを見ていくと、2倍も3倍も感情の起伏が起きても不思議でない出来事が起こっています。現代アートを見に行ったら、コウメ太夫の独演会だったって。いかにもうさんくさいカウンセラーと、それに盲目的に従う落語家。「早く、うさんくささに気付いてくれよ」とハラハラさせられながらも、最後はきれいな着地。
落語協会大喜利王選手権で大喜利王のタイトルを獲得したこともある花飛さん。そのアイデアを生かした作品をもっともっと聞いてみたくなりました。

玉川太福/玉川みね子-続・がらけぇ兄弟ぇ

  • 玉川太福さん・玉川みね子師匠

しゃべっちゃいなよは、4年ぶりという太福さん。昇々、吉笑、鯉八さんとのソーゾーシーで、ネタおろしを何作もかけているし、「男はつらいよ」の全作浪曲化に取り組んでいる最中だし、古典の連続読みにも挑戦しているし、毎週深夜のラジオのMCは務めているし、毎日多忙な日を過ごしています。そんな中でのネタおろしですが、初代・創作大賞にふさわしい楽しい浪曲を見せてくれました。
「がらけぇ兄弟ぇ」は、上野か浅草あたりの喫茶店で、犬をあしらったジャージに身を包んだアニキと弟分・ヤスの2人が、電子タバコを吸いながら、ガラケーからスマホに変えるかどうかを話しているという浪曲です。続編となる今回は、スマホ(iPhone)を買ったアニキが、使い方をヤスから教えてもらいます。アニキは音声アシスタントに「Hey Siri(ヘイ セィリィ)」と問いかけるが、反応してくれない。とうとう弟分のヤスに「ヘイ ヤスー」と頼るようになる。LINEデビューからFacebookデビュー。“いいね”を覚えたアニキはどうなるのか…。というお話です。
太福さんの身辺雑記浪曲に高齢曲師の玉川祐子師匠にスマホを教える「祐子のスマホ」という新作があるのですが、その面白さをきっちり作品に落とし込んだのがこのシリーズ。次郎長伝の任侠モノのテクニックを生かして、地べたシリーズにも共通する何気ない日常のおかしさをクローズアップする。進化を続ける太福さんが見られます。これからもアニキとヤスの2人から目が離せません。

三遊亭白鳥-台所の隅

  • 三遊亭白鳥師匠

レジェンド枠で登場した白鳥師匠。選んだネタは25年前に初演して、しばらく封印していたものを最近になって復活させたという「台所の隅」でした。何でも今出演している浅草演芸ホールと、鈴本演芸場で、子供から高齢者まですべてのお客さんから笑いを取っているのがこのネタなんだとか。 若手のころは寄席にも出られず、売れるまでに長い時間がかかったという白鳥師匠は、とにかくお客さんに受けること、笑ってもらえることを正義としています。今回も、新作の落語家でも、「寄席に出て笑ってもらえなければダメなんだぞ!」と、楽屋で聞いている若手に向かってメッセージを発しているかのような高座でした。
白鳥師匠の母親は、ゴキブリが大嫌いで、ゴキブリ退治用にホウ酸の団子を「悪魔の手毬唄を歌いながら作っていた」と紹介。そこから本編に入ります。ゴキブリの親分ゴキ蔵の女房ゴキ美が人間に殺された。子分のゴキ助が葬儀を仕切っていると、弔問客としてハエの叔父貴や紙切り虫がやってくる。ネズミの忠太郎親分と酒を飲もうと、つまみに持ってきたのはゴキブリが大好きなホウ酸団子。ゴキ蔵親分の運命は。というお話です。
ギャグもふんだんに入って随所に爆笑ポイントを作りながらも、ストーリーでもしっかり引っ張る。白鳥師匠の十八番でもある、伏線を張って最後に回収する構成が見事にはまっています。
白鳥師匠を若手時代から見てきた私としては、「ル・ピリエ」「コロコロ」「ゴールドラッシュ」「大阪出入り止め」といったフレーズを聞いて懐かしくなりました。

アフタートーク

  • プロデューサー 林家彦いち師匠・サンキュータツオ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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