渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 9月10日(金)~15日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
今年に入り三題噺に取り組みはじめ各公演を満員にしたり、創作らくごユニット「ソーゾーシー」での活躍も目覚ましい渋谷らくごのトリックスター 立川吉笑さん。この公演はそんな業界大注目の二つ目 吉笑さんがトリをとる公演です。とはいえ、一瞬で観客の心を鷲掴みにするおさん師匠、渋谷らくごの組長 文蔵師匠と、安定感のある師匠方も出演する楽しい会となる予感。
ポイントは3番手で登場のつる子さん。二つ目ながら創作も武器としているうえ、笑いに対しての貪欲さもあり、おなじ二つ目の吉笑さんとの激突にも注目したいところ。どんな高座をお客さんと一緒につくっていくのか、お楽しみに!
▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴20年目、2016年3月真打昇進。落語家になる前に、東京から大阪まで歩いて旅したことがある。ふと思い立ち普段着で富士山に登ろうとしたら止められた。いまは自転車で行動している。ソーセージをおかずに大量の米を食べる。
▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴35年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「椎茸を戻し玉ねぎセロリ生姜をつかったカレースープ」。待ち時間にはiPadで麻雀をしている。コンビニの中華まん蒸し器に秋を感じる。
▽林家つる子
2010年9月に入門、2015年11月二つ目昇進。2016年にはミスiD2016の特別賞を受賞する。群馬地酒大使をつとめている。この夏はそうめんをアレンジして食べ続けている、最近のアレンジは「ナスと豚バラとピーマンをつかってチャンプルー風」。
▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在芸歴11年目、2012年4月二つ目昇進。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。先日福岡空港で出会った味市春香なごみの創作メニュー「鮭明太」に感動した。ここ2ヶ月で12kg減量した。
レビュー
台所おさん(だいどころ おさん)-岸柳島
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-猫の災難
林家つる子(はやしや つるこ)-お菊の皿
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-ぷるぷる/乙の中の甲
ワクチン接種2回目の翌日、副作用がぼちぼち出てきているなぁという中、オンラインで視聴した。でもこういう体調のイマイチな時でものんびり楽しめるのが落語の素敵なところだ。
台所おさん師匠
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台所おさん師匠
ところがまくらのフワフワした語り口とは打って変わって、本編「岸柳島」に出てくる侍は勇ましい。勇ましい、とは褒め言葉だが、むしろこの侍は手が負えない。対岸に舟で渡る途中でキセルの雁首を落としたから戻れと言ったり、だったら残った吸い口を買い取ると言った屑屋の、その首を切って取ってやると言っていきりたったり。そういう侍を演じるときのおさん師匠は、結構な威厳があるのだ。穏やかだと思っていたら、いきなり切られた、みたいな衝撃があった。こういうギャップもあるから、おさん師匠はたまらない。
橘家文蔵師匠
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橘家文蔵師匠
猫に身を食べさせて骨と頭だけになった鯛を、熊さんはまだ食べるところはあると言って隣のおかみさんから譲り受ける。そこにやってきた兄貴分、なんとその日はお酒を奢ってくれるという。熊さん、この日はついている。
「うまくいっちゃった」と、子供っぽいいたずら顔の文蔵師匠の愛らしさがたまらない。
そして、うっかり畳にこぼしてしまった、そのお酒すらできるだけ一滴も漏らすまいという熊さんの執念がすごい。床の酒をすする。畳を押して、染み出させて飲む、最後には体を擦り付ける。
どれだけお酒が好きなんだ!という感じなのだが、好きっぷりが徹底していて気持ちがいい。
文蔵師匠、どこまでやったことがあるんだろう、とちょっと想像してしまった。きっと畳のお酒は吸ったことがあるんじゃないでしょうか、と想像させてくれる楽しいお酒の一席だった。
林家つる子さん
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林家つる子さん
怪談話の会に挑戦したときのこと、怪談師に伺った怪談を話すコツの一つが落語に通じているという。それが想像力を掻き立てるために固有名詞を使わない、ということらしい。そういえば落語は、怪談に限らずとも、固有名詞と言っても、誰でも熊さんはっつぁんで、身近な誰かを思い出せるようになっているんだなぁ、と気づかされる。
しかしいかに固有名詞を出さないと言っても、イニシャルトークでは訳がわからない。番長皿屋敷の噺に出てくる登場人物をAさん、Aさんが岡惚れするKさん、Kさんの許嫁のSさん、うーんやっぱりこれだと人格が浮かばない、面白いものだなー、と思っているうちに、お菊の皿の一席に。
お菊の幽霊となったつる子さんが、怖い!女性落語家が演じるお菊を初めてみたというのもあるのかもしれない。つる子さんは高座では野太めの太い声を出すが、お菊さんの時だけは声が高め。
一方、いい女かを確かめたときの長屋の男連中の騒ぎっぷり、これが冒頭のお菊さんの声の高めのおどろおどろしさと面白いコントラストになっていた。 その後、芸の勘所をつかんで愛想が良くなっていくお菊さんも可愛い、が、演じることに慣れきってしまったお菊さん、ついに鼻鳴らした。お菊さんが鼻を鳴らすなんて!
うらびれてさびしいお菊さん、芸に脂が乗ったお菊さん、早く切り上げたくて開き直ったお菊さん、お菊さんのいろんな表情を、つる子さんが引き出していた。
立川吉笑さん
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立川吉笑さん
最初の「ぷるぷる」、松脂をなめて、唇が大変なことになりました、うまく話せない、という設定。この噺は、吉笑さんの口芸がすごい。口を極力開けずにわずかな隙間から話してくる。若干聞こえるから、こう言っている??と想像するけれど、いやでもよくわからない、その微妙なストレス感がおかしい。
次は「乙の中の甲」の一席。「貸してくれた銭返してくれ」という男に、「俺の知っているお前はそんなこと言うおめえじゃねぇよ。『金輪際返す必要ねぇ』と言ってくれるはず」、と言ってのける友人の男。借りている男の方が、じゃあ俺の中のお前に聞いてくる、と言い出す始末。しまいには俺の中の、お前の中の、俺に聞いてくる、みたいなことになってきた。この、目の前の人間の存在を信じない話、古典落語の何かに似ていると気づいた、そうだ、粗忽長屋みたいなおかしさだ。
吉笑さんの噺の方が粗忽長屋よりもうちょっと理知的で、どこまで追いかけていけばいいんだー、と噺の渦に取り込まれた一席だった。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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