渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 6月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月12日(金)18:00~19:00 瀧川鯉八 立川こしら

「ふたりらくご」鬼才、激突!

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プレビュー

1975年生まれの立川こしら師匠、現在39歳。
立川志らく師匠のお弟子さんですが、果たしてこの人がやる落語は落語なのか、お笑いなのか、アートなのか。聴く人によって意見が分かれるところではありますが、面白いことだけは確かです。
髪を染め、落語界の慣習とはまったく離れたところで育った落語家。まさに「異端」の名に相応しい才能ですが、こういう人が落語の将来を変えていきます。どこまでシャレでどこから本気なのか、まったくわからないポーカーフェイス。この師匠、一度としておなじマクラをしゃべったことはなく、毎回発見の連続です。前回は、高校時代に月30万を稼いでいたナゾの過去のカラクリの一端が明かされました。今回はなにをしゃべり、どんな噺をしてくれるのか、期待大です。

1981年生まれの瀧川鯉八さん、現在34歳。
新作落語で、ほかにない独特の高座をすでに自分のものしている鯉八さん。発想の突飛さもさることながら、表現力も高くて、決していそがず、お客さんを置いてけぼりにしない。なにより「瀧川鯉八」という落語家をキャラクタライズしていて、演出力も高いと思いです。
ここまでは前回とおなじ説明ですが、いま鯉八さんは落語界で一番「おもしろいことを24時間考えている」人間に近い人物です。どんな質問をしても普通の答えが返ってきません。良かったら、ツイッターで話しかけてみてください。「ふたりらくご ‐鬼才編-」どうぞお楽しみに!

レビュー

文:サンキュータツオ Twitter:@39tatsuo   夏の足音がしてきた梅雨時期の蒸し暑い日。 金曜18時の渋谷はまだ明るい空。駅前には巨大モニターが数台、車道には宣伝トラック、流行のファッションに身を包んだ若者が大勢闊歩する渋谷の雑踏を、コンクリート打ちっぱなしのユーロライブに足を運び「落語」を聴く。
  • 瀧川鯉八

    瀧川鯉八

鯉八さんの魅力をどう語ればよいのだろうか。 かわいい熊のような存在、かわいい声という外見的特徴なのにもかかわらず、この人の脳は異次元だ。 マクラも落語もおなじスピードで語り、明確な場面転換もなく、緻密な人物描写の描き分けもない。そもそも何時代のどこで語られている噺なのかもわからない。これだけわかりにくい要素が揃っているのにもかかわらず、笑いに必要な情報は揃っていて、一言ひとことで笑いが起きるほど精度が高い。おもしろいのだ!
「おはぎちゃん」と呼ばれる「村のアイドル」的な存在。おはぎちゃんを応援する村の人々。「おはーぎちゃーん」と呼ぶと「はーい」と答えるコールアンドレスポンスは村の日常になっているような世界。 しかし、そんな空気に異論をさしはさむ村人が出てくる。もう「おはぎちゃーん」とは呼ばない!と決意し、そもそもそんなにかわいくない、という「王様は裸だ!」と言ってしまう真実を語る正直な男だ。  だが、この噺はそんな陳腐な展開では終わらない。実はおはぎちゃんは、「応援したい気持ち」という、村人の気持ちを満たす存在でもあり、ただ「自己顕示欲の強いアイドル」ではない一面をみせる。無責任な聴衆と、彼らに祀りたてられる「おはぎちゃん」。徐々に村人の「同調圧力」と「アイドル(おはぎちゃん)本人による説得」という展開を見せ……。どのコミュニティでもありそうな構図を笑いの対象として完成させてしまう手腕、そして面白さ! 天才だー!
こしら師匠は、そんな鯉八さんの演目を受けて、今回は「すもも鬼太郎」という創作で迎え撃つ。 桃太郎というだれもが知っている話、しかしその桃太郎が鬼を退治しにいったら負けてしまった、というところから、おじいさんが新たに川へ、ニューヒーローを拾いに行き……
  • 立川こしら

    立川こしら

いつもは古典のナンバーをかけるこしら師匠が、この「鬼才対決」でがっぷりよつ! まさかの創作、ありがたいことです。 噺の詳細は、またどこかで聴くときのために控えておきますが、序盤に出てくるキジの伏線だったり、川で拾った「すもも」以外のものも、後半で回収されるあたりの構成はよく練られていて、この脳で古典も解釈しているのかと想像すると、そりゃ面白いはずだとだれしもが納得できると思います。
初日の金曜日は「こしらシリーズ」となりつつありますが、最近は、大阪や三重、名古屋で毎月独演会をなさっているようで、そんな旅の道中でのアレコレなんかもマクラで聴けるのも楽しい。
「落語」のなかでは周辺的な存在かもしれない鬼才同士だが、こういう方々のおかげで落語は常に拡張している。 この二人の普段のご活躍もあり、初日の18時にしてはお客さんも入ってよくウケた。ありがとうございます!
こうして6月の「渋谷らくご」はスタートを切りました。