渋谷らくごプレビュー&レビュー
2015年 6月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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6月13日(土)17:00~19:00 笑福亭羽光、鈴々舎馬るこ、古今亭志ん八、立川志ら乃、林家彦いち
林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」
プレビュー
2月からはじまったこの「しゃべっちゃいなよ」も今回で3回目。
毎回スリリングな高座の連続で、演者さんにとっては独演会でもないこの「渋谷らくご」という場所で、ネタおろしをするという会。演者さんのウキウキする感じと、ヒリヒリする感じがダイレクトに伝わってくる、非常に稀有なライブになっています。そして、いよいよ演者さんから「出たい」と言っていただける会になってきました。
馬るこさん、志ん八さんは、どちらかというと古典落語の担い手の多い「落語協会」という団体におられながら、積極的に創作らくごに取り組んでいる二つ目の落語家さん。ついでにいうと「渋谷らくご」も初登場。
羽光さんは上方落語、芸人的発想で漫談で沸かせつつ古典落語も演じる落語家さんですが、やはりこの人も創作らくごに才能が光ります。
志ら乃師匠は、志らく師匠の「シネマ落語」(映画を題材とした落語化)に通じる、名作映画の改題的なものをはじめ、日常的な気づきを落語にすることもできる、立川流のなかでも独自路線をひた走る孤高の落語家。
そして、今回も彼らをとりまとめたのは、発案者である林家彦いち師匠!今回も自ら創作らくごをひっさげて登場です!
レビュー
文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
複数の演者さんが出る創作落語のネタおろしの会は、お客さんが集まりにくいというのが経験則であるのですが、これだけの数が集まるということは一定のファンがついてきたということじゃないでしょうか。もちろん、もっと増えて欲しいけど、共犯関係を味わうなら、凝縮した感じでも悪くないと思います。今回は変わった設定のネタが多かったので、置いて行かれないように、必死に食らいついていきました。
【笑福亭羽光-前座卒業式】
題名からわかるように、いわゆる業界内幕ものです。内幕ものの面白さは、落語界を知らないお客さんが、落語家さんの世界を少しだけ垣間見られることにあります。演者さんも経験がベースにあるので、話が作りやすい。いわゆるWin-Winの関係になります。
羽光さんは「卒業式の呼びかけ」というあるあるネタをベースに「もしも落語家の前座に卒業式があったら」という発想で作っていました。さすがお笑い芸人出身で関西人。しょうもない状況に対して、冷静に突っ込む人物を配してバランスを取るところが絶妙です。サゲ(オチ)も「前座」という単語にひとひねり加えてあって驚かされました。
個人的には、本編に入る前に振った○○師匠の話が、細かいところにこだわる羽光さんの性格を反映しているようで印象的でした。
【鈴々舎馬るこ-博士の異常な執着】
個人的に期待していた馬るこさん。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主人公を博士に変えて、変態性を加えたようなSF作品でした。
75歳の博士が、15歳の頃に何らかの理由で転校していった初恋の少女に会うために、60年前にタイムトラベルする胸キュンストーリー。のはずが、変態博士の妄想が大暴走し、とんでもない行動に出ます。変態が出てくると、お客さんによっては受け付けなかったり、引いたりしてしまうものですが、馬るこさんは博士のバックグラウンドをギャグで説明していくことで、血の通ったキャラにしていました。
「純情と変態は紙一重」を描いた見事な一席です。マクラで振った古典落語における「おじいさんの描写方法」から、「変態おじいさんの表現方法」に至るまでの解説も計算されていて、落語の世界から変態の世界、SF的な世界に入りこむことができました。気になったところは、タイムスリップもので問題となるタイムパラドックス(未来を変えることの影響)ですが、サゲ前で回避しているので、ギリセーフですかね。
【古今亭志ん八-寄席避難訓練】
志ん八さんは近年、創作落語界わいで注目を集める若手二ツ目さんです。なんといっても作るネタがシンプルで、短くて、わかりやすい。それでいながら、どこか不思議で独特の雰囲気を持っている。熱演派や説明派が多い創作落語界の中で、声を張らない志ん八さんは貴重なタイプです。
寄席避難訓練は、寄席のお客さんが、つまらない落語家を高座上で人質にとって「身代笑い」を要求するというものでした。コントのコンビニ強盗ネタは山ほどありますが、落語家を人質に立てこもるというのは落語家ならではの発想です。人質犯が扇子を「ナイフ」に見立てて脅す場面で、登場人物たちがみんな「ナイフ」と信じてしまうところも落語ならではの面白さです。
「もしも○○だったら」の発想が羽光さんと重なってしまったのは、本人も予想外でしたでしょうが、こういうネタかぶり的なことが起こるのも創作落語ですね。
【立川志ら乃-そばーん】
いわゆる街の異端児、はぐれモノが、トラブルを解決するヒーローもの。江戸を舞台にした疑似古典新作です。
このタイプの話は、ヒーローをいかに魅力的に、かっこよく描くのが勝負になってくるのですが、志ら乃さんの作ったヒーローは、「そば」を天高く放り投げている間に悪人をやっつけてしまう、十手持ちのはぐれモノ。ルパン三世の石川五右衛門ばり、3分で怪獣を倒すウルトラマンよりすごいです。
それを「映像」が見えない落語で演じるのは相当大変で、現に最初は私も「そばーん」の設定がわからず、高座の上で何が繰り広げられているかを理解するのに少し時間がかかりました。たぶん多くのお客さんもそうだったでしょう。
しかし、ヒーローの活躍を何度か見て、インパクトのあるファーストシーンの狙いや、その設定が理解できてからは時代劇のような快調なテンポで悪人をやっつけていく志ら乃さんの語り口に乗せられてしまいました。さらには悪役のうどん一味との直接対決、暗がりの中でのそばとうどんの勝負判決と、怒濤の展開をみせ、最後は活劇をたっぷり楽しんだ気分になりました。
【林家彦いち-未来世紀江戸】
「もしも」の世界を描いた作品が多かった今回でしたが、最も「if度」が高かったのがこの作品。
彦いちさんは「日本が開国をせず、2015年の今も江戸幕府が続いていたら」という発想で、2015年の長屋の風景を落語にしてしまいました。ITのテクノロジーと、ご隠居さんを中心とした長屋の共同体社会。180度異なるものが融合すると、とんでもないものが生まれてきます。
「全自動心張り棒」で家のカギをかけ、「足認識草履」でセキュリティーチェック、「全自動キセル」で煙草を吸ってリラックス。まさに、彦いちワールドとしかいいようのない世界を繰り広げ、笑いの扉をこじ開けてきます。さんざん笑わせておいて、後半は一転して不穏な展開。ITによる「標準化」「グローバリズム」に反旗を翻す1人の隠居の意地が示されます。
タイトルからわかるようにテリー・ギリアムのカルト映画「未来世紀ブラジル」を彷彿させるブラックな世界。つながりを強制し、監視しあうIT社会に少しだけ皮肉を投げかけてみせる、みごとな一席でした。
【おまけ エンディング】
タツオさんと彦いちさんの振り返りトークが面白いです。彦いちさんは自分のネタでいっぱい、いっぱいの中でも、楽屋で後輩の動きに目を配り、しっかりネタも聞き込んでいることがわかります。彦いち作品の創作裏話も明かされるなどお得度満点でした。創作裏話は他の演者さんもあるでしょうから、交代で登場してもらいたい気もしました。