渋谷らくごプレビュー&レビュー
2015年 6月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
春風亭昇々さん、立川吉笑さん、ともに30歳の二つ目、まだまだ体力的にもアイデア的にも上り坂のふたりを、ベテラン鯉昇師匠と文左衛門師匠が迎え撃ちます。
鯉昇師匠は、いまや弟子10人以上を抱える大真打。
悠然と、お客さんの様子をじっと見つめるところから変幻自在のマクラをふり、気づいたら古典落語の世界に自然に入っているという、伝説のマッサージ師に指圧されているような「気づいたら気持ちよくなっていた」という経験をさせてくれる落語家さんです。
文左衛門師匠は、いかつい顔面、ぼそぼそしゃべる導入、もう怖い!と思うのは一瞬で、すぐにジワジワおかしさを演出する、心理描写がとにかくすごい師匠です。ここ数ヶ月でも「時そば」「ちりとてちん」「猫の災難」「転宅」「試し酒」、もう「食」をめぐって人がモノローグするような噺がたくさん! シズル感だけでおかしい「ああ、人は食べ物の前に、無力なんだなぁ」と、古より不変の人間心理に気づかせてくれます。今月はなにを演じてくれるのか!
吉笑さんはそんなふたりのはさまれて、自分らしさをどこまで出すのか!?
創作落語の担い手ですが、ロジックで笑わせる技術に長けた、唯一無二の落語家さんです。才能のかたまりでしかない存在なので、才能のほとばしり汁を浴びてください。
レビュー
文:bk_megumi Twitter:@bk_megumi 29歳女性、銀行員 音楽のライブ、漫画、アニメ、演劇が趣味
【春風亭昇々-あごびょん】
5月のシブラクで演じた「先生と生徒」に続き、今月も学校シリーズできました。まくらの時点でなぜか既に膝立ちという前のめりっぷりや、オーバーすぎる表情と謎のテンション、いつもながらそれだけで笑ってしまいますが、今日は一段と、昇々さんらしさが発揮されるネタだったと思います。
アゴが長い先生通称「アゴぴょん」とその生徒というシンプルな設定ですが、笑いをこらえる生徒の表情と、「はい」の発音が「ひゃい」になっているのに本人全く自覚なしに説教を続ける先生の話っぷりが面白い。今にも噴出しそうなのをこらえてむずむずする生徒・・・というか昇々さんの表情は見てるだけでこちらもムズムズこみあげてくるものがありますが、そこにたたみかけるように、“ひゃいひゃい”言い合う先生と生徒のかけあいがくるので、我慢ならず、笑いすぎてちょっと話がきけなくなるほどでした。
先月の「先生と生徒」に比べるとブラックというよりギャグが強めでしたが、私はひそかにこの学校シリーズを楽しみにしているのです。また新作の学校噺をお待ちしています。
【瀧川鯉昇-千早ふる】
まくらの、柔らかい物腰から、なんとなく上品で穏やかな落語をされるのかなあ、なんて思っていたら、全く予想を裏切られる展開に。奇想天外な世界に引きずりこまれました。
娘の学校の宿題に答えられないからってトイレに逃げ込んだうえに小窓からコソコソ脱出してくる親父の行動がおかしいし、竜田川という架空のモンゴル人力士の人生ドラマをとうとうと語りだす隠居さんもおかしいのだが、つっこみ役ほぼ不在の状態で話が進んだあげく、ウランバートルの造り酒屋や、モンゴルの豆腐屋なんかが出てきて摩訶不思議な展開になってくる。
さらに、200丁の豆腐をパオからゲルへゲルからパオへ売り歩くー、なんて細かい描写をされるものだから、頭のなかで勝手に旧モンゴル人力士の豆腐屋人生が映像付きでイメージされて、そのうち、なんだか、ノンフィクションとみせかけたフィクションというか、他人の夢を見ているような不思議な心地になるのでした。なるほど、この方がお師匠さんだから、あの鯉八さんが生まれるのね!
てっきり現代が舞台の新作落語なのかと思っていたら、古典だったと知ってびっくりでした。古典落語なのにモンゴルってありなの!?ここまで自由で、時代だけでなく国境すら超えたアレンジも許されるのか。古典っていっても、意外と自由なんですね。
【立川吉笑-舌打たず】
まくらから噺に入ったと思ったらまくらに戻るというフェイントをかましてきた吉笑さん、立川流がトリッキーとおっしゃっていましたね。あなたが一番トリッキーですよ。今回のまくらは道案内じゃなくて、前座時代の話でした。偉い人が「白」を「黒」と言ったら「白」でも「黒」になるという例えのとおり、実際に「白い足袋」が師匠の一声で「黒く」なったという話、ことわざかるたの絵のようなエピソードでした。
理屈っぽくて変質的に神経質な内容を早口でまくしたてるようにしゃべるという吉笑さんの落語が私は大好きなのですが、今回の創作落語「舌打たず」は、得意技の“ロジック”や“ギミック”だけでなく、舌打ちしながらしゃべるという芸当が効いている作品。以前、瀧川鯉八さんとの二人落語会「ニュー・ラクゴ・パラダイス」で聞いたことがあったのですが、今回もやっぱり面白かったです。
視界の隅に入ったおばあさんに「メモなんかとるんじゃないよ」と隠居さんが言う場面など細部の演技が改善されたり、舌打ちしながらしゃべるスキルも上達して、よりいっそう洗練されていっているのを感じました。噺家や噺自体の成長を楽しめるのも落語の魅力。やっぱり落語はナマモノなんですね。というわけで、心の中は「目閉じず舌うたず」な状態でしたが、表情に出やすい私の人柄では実行するのが難しく、終始笑ったりニヤけたりでした。
【橘家文左衛門-青菜】
第一印象は、怖い。黒い。堅気でない。身構えていたら、意外と小声で話されるので驚きました。二日酔い、で始まるまくらに、もしやこの人はかなりの酒飲みなんじゃないか?と思ったのも束の間、確信に変わりました。植木屋さんの「柳影」の飲みっぷりといったら!自他ともに認める酒好きの私としては、見ているだけでゴクリ。なんて美味しそうなんでしょう!あの飲みっぷりはお酒が本当に好きな人じゃなきゃできないですよ。
お大臣の家の軒先でお酒をふるまわれながら、だんだん気が大きくなった植木屋さんが手酌で飲み始める様子など本当に芸が細かくて、半径2㍍ぐらいの場所からその様子を眺めているような臨場感。特に、鯉のあらいを食べるシーンや、氷を口に放り込んだシーンなんて、頭の中のカメラが勝手にアップになって・・・料理番組かと思いました。なんという表現力。ガサツな江戸っ子なのに、家に帰ってお屋敷の真似事をしようとする様子もかわいらしくて、なんだかだんだん植木屋さんに愛着がわいてくるのでした。
文左衛門さんの表現で、「舌打たず」をやったとしたら、前半の「舌打ち」だけで隠居さんに気持ちが全部伝わってしまうので、「舌打たず」にならないんだろうなあなんて思いつつ。シブラクが終わってからさっそく「柳影」をググってみたら、焼酎を味りんで割ったお酒だそうで、うーん、味の想像がつかない。てっきり「柳影」なる日本酒があって、どこかに飲めるお店があればなあなんて期待していたので、ちょっと残念。ああ「柳影」、飲んでみたいなあ。
ラストのトークで映画評論家の松崎健夫さんが、映画やドラマでは表現しにくいものとして音楽や落語のような「観客を巻き込んでグルーヴを生んでいく」ものとおっしゃっていました。私は音楽が好きで、好きなミュージシャンのライブやフェスに行きますが、落語の高座やシブラクに行くのは、まさに音楽のライブやフェスに行くのと同じ感覚です。好きな噺家さんの手ぬぐいなんか、バンドタオルみたいに、出囃子のときに振り回したりしたらいいんじゃないでしょうか(マジで)。なぜライブがいいのか、それはやっぱり、その場でないと体感できないグルーヴがあるからだと思います。
音楽のフェスに行くと、目当てのバンドの合間に、知らないバンドの曲を聴いて、意外といいなと思ったりして、調べていくうちに好きなジャンルやミュージシャンが増えていって好きなジャンルが深まる、ということがよくあります。シブラクもそれと同じで、好きな噺家さんの「ライブ」(高座)を聴きに行ったら、たまたま「対バン」していた別の噺家さんを好きになったりして、どんどん好きな流派や噺家さんが増えていくという状態になります。ちなみにこれはオタク用語でいうと「沼」っていうやつで、まあいわば私はこうして「らくご沼」にはまっていったわけですが。噺家さんにとっても、シブラクは「対バン」ですから、まさに個性対個性の一騎打ち。若手、ベテラン関係なく、実力勝負できる場所。その緊張感と高揚感が織りなすグルーヴは、やっぱり、その時にその場に居ることでしか感じられないものです。
そして、その真剣勝負。勝敗は、どっちがより大勢にウケたか、芸達者か、人気があるかなんて野暮なものではなくて、その場にいる観客一人一人のなかでの、超個人的な「好き」という価値観で決定されるものだと思います。この噺が、この噺家が、「好き」かどうか。どうして好きで、どうして好きじゃないなのか。それを自分のなかに探求していく過程もまた、落語の面白さなんじゃないでしょうか。
【この日のほかのお客様の感想】
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