渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 6月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月15日(月)18:00~19:00 隅田川馬石、入船亭扇辰

「ふたりらくご」純米大吟醸落語会

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プレビュー

「純米大吟醸が下戸でも呑める」と思っています。極上のものは、苦手な人をも虜にします。それまで苦手だったり興味がなかった食べ物でも、極上のものに触れて急に好きになったり、興味がでたりしたもの、ありませんでしょうか?もし、まだ落語を喰わず嫌いで終えている人、あるいは、まだこのふたりの落語を聴いたことのない人、あるいは、どちらか片方しか聞いていないという方。ぜひこの「ふたりらくご」にいらしてください。現在、私の考えるうる限りの、最高の1時間の過ごし方です。

先々月に実現したマッチメイクでしたが、好評につき第二弾です。仮にわからなくてもいいんです。まだわからないことがある、という幸せを実感してみてください。本物は、頭でわからなくても、肌でわかるものです。前回は、馬石師匠が「替り目」という酔っ払いがひたすらおかしなやりとりをするお話、扇辰師匠が「三方一両損」という、町人のもめごとの話。どちらも、正しいとか、正しくないとかではなく、押されれば引き、引けば押すといった、「人情」、心のやりとりがメインのお話でした、そしてこのお二人が素敵なのはまさにそこです。笑いはあってもなくてもいいのです。「人間」と「情」を描く落語家さんです。

レビュー

文:noboru iwasawa Twitter:@taka2taka2taka2 50代男性、モニター中もっとも落語歴の長い愛好家

【馬石師匠-締め込み】空間の描き方が絶妙!

とある落語会のチラシで「若手真打、江戸前古典落語の実力派!」と紹介されてますが、出身地は関西、兵庫県西脇市です。たしか7月で、46歳
関西特有の瞬発力を併せ持つ実力派、本格派の若手の一人だと思います。
1991年 顔を4分割して演技出来ると言われている、石坂浩二さんが主宰の劇団「急旋回」を経て1993年五街道雲助師匠に入門。
今、1番落語偏差値が高い一門ではないでしょうか。

真打になって9年目、まだまだ成長熟成が期待されているお一人です。
さて、今回のお話は「締め込み」割と寄席では掛けられる(演じられる)演目の一つでしょう。

泥棒(ドロボー)のお噺です。落語にはドロボーが出て来る噺は多く、寄席においては、縁起の良いものとされています。これは「お客様様の懐を取り込む」と言う意味が込められているそうです。
また、ドロボーを”笑の対象”にしても「何処からもクレームがでないから」なんて話も聞かれます。
落語に出て来るドロボーは、チョット間が抜けていて、憎めないキャラクターとして演じられる事が多いです。

今回のお噺「締め込み」に出て来るドロボーもそんなキャラクターとして描かれてます。ですから”悪者”が出て来ない後味の良い噺、次に上がって来る噺家さんへ繋ぐには、持って行きやすいはなしの一つとされてます。馬石師もそんな考えを巡らせてこの演目にしたのではないでしょうか。

「まくらと噺の内容を細かくネットなどに書かないのがマナー」私もそう考える一人です。ですので、荒荒のあらすじを少しだけ。

多くのドロボー噺に入る時のまくらとは違って「最近の出来事」から入りました。この「最近の出来事話」は演者とお客様の距離をぐっと詰めてくれるのです。時にはお客様の代弁者であったりします。演者の”人となり”が伺える楽しみな部分でもあります。まくらは「演者とお客様の心の名刺交換、演者は「今日のお客様はどんな感じだろう?」お客は「演者は、どの噺をやってくれるのだろ?」一瞬のやんわりした緊張感が生まれるのです。そして最初の笑、文字通りの”緊張の(と)緩和”となります。

馬石師の最近はまっている話から、警官登場、そしてドロボー噺へ入って行きました。

ここからのドロボーは、ドロボーさんと言い換えます。
このドロボーさん、長屋一軒留守を良い事に空巣に入ります。鉄瓶に湯が沸いている(後で重要なアイテムになる)。住人が直ぐに帰って来るなと、警戒をしながら風呂敷を広げ箪笥の着物などを取り纏め一つの荷を拵えた所で、住人が帰って来てしまった、ドロボーさん慌てて裏口から逃げようとするも、其処は石垣で行き止まり(裏口が無い演出もある)ドロボーさん仕方なく台所の上板を上げて床下へと身を隠す。今で言う床下収納庫でしょう。其処に住人である亭主が部屋へ上がってくる、風呂敷包みを見つけ中を確認すると、自分の羽織、女将さんの着物が出てくる。亭主は女将さんが男を作って、この荷を金に替えるつもりだと思い込み、怒りが込み上げている所に、女将さんが戻ってくる。さぁーここからスピード感溢れる亭主と女将さんの丁々発止のやりとり、出会った頃の”うんデバ”話も飛び出す、そのやりとりを床下で聞いていた、いたたまれないドロボーさん、ヒョンな事から、床下から飛び出す事となります。
ドロボーさんドタバタの中、いつの間にか、「時の氏神」となってしまいましす。ドロボーさんは罪を犯す事は無く、亭主、女将さんはより一層絆が深まり、噺はサゲ(オチ)へと。

後味の良い一席でした。

馬石師匠は、まくらを含め27分でまとめ、扇辰師匠にバトンを。
この一席、馬石師はかなり噺を刈り込み、入れ事(ギャクなど)を抑え、話の軸足がブレること無く仕上げていました。

空間の描き方は見事でした。御叱りを受けることになるかも知れませんが、一つ御紹介いたします。それは、大風呂敷を広げるシーンです。
ドロボーさんが懐から風呂敷に見立てた、手拭いをサッと出し、客席の一番前に届きそうな風呂敷を”ふわっと”した存在感を顔の動きと、目線の動きと手の動きで、見せてくれました。

実際、風呂敷は”ふわっと”広げただけでは、皺が寄ってしまい、床に大きく広がらないのです。

師は、目線で風呂敷の四隅のうち手で持ってない隅を追い、床におりて行く形を描きながら、手は、床におりて来る風呂敷を最後にピッと手首を返し、風呂敷の皺をのばしたのです。

女将さんが鉄瓶を女投げのシーン
風呂敷の中身を確認するシーン

こんな事の何気ない動きが丁寧に繰り返されることによって噺の中にどっぶりと浸してくれました。
また、馬石師匠の噺を聴きたいと思わせる一席でした。感謝多謝。

【扇辰師匠-ねずみ】スッと頷く一席!

ヨーロッパエクスペディション(遠征)から、帰国して間も無いなかでのシブラク、どの噺を演ってくれるのかな~と考えていると、馬石師を弄る所から、まくらに入りました。

扇辰師のシブラク初登場は、昨年11月、演目「雪とん」でした。秀才奇才、立川吉笑さん「粗粗茶」の直ぐ後に扇辰師があがりました。吉笑さんの笑いのベクトルが、360度散らばっている余韻中、師は言葉では”やりづらくてしょうがね~”と表現していましたが、10分も経たないうちに、見事に扇辰ワールド、しんしんと雪降る夜にお客様を、誘いました。

まくらは、ヨーロッパツアーから、旅のお話、そして奥州仙台の宿場町の街はずれ。

扇辰師匠、2002年に真打昇進、シブラクでは、「喋っちゃいなよ」でお馴染みの、林家彦いち師匠と同期となります。寄席を中心に活動されてますが、文左衛門師匠、小せん師匠、3名で、三K辰文舎(サンケイシンブンシャ)なる、バンド活動も行っています。因みに6月30日文京シビックホール。第11回を数える落語&ライブが予定されてます。
寄席、各種落語会、バンド、ヨーロッパツアーと大忙しです。

奥様は、詩人で作詞家の覚和歌子さん。
「千と千尋の神隠し」主題歌「いつも何度でも」で名が知られています。

さて、今回の「ねずみ」と言うお噺、左甚五郎の逸話が題材となっており、他には落語で、「竹の水仙」「三井の大黒」などかあり、なかなか出会えない「叩き蟹」にも左甚五郎が出て来ます。この甚五郎、実在の人物ですが、実像が掴める資料が少ない人物の一人となります。

噺に戻り、場面は奥州仙台の宿場町のはずれ、この甚五郎に声を掛ける小僧さん。扇辰師は、ここで丁寧に人物を描きます。
小僧さんは、甚五郎を見上げながら、両手を胸の前に何かを摘まむ仕草で子供を描き、ちょっと前屈みになりながら、目線をおとし、子供の話をきちんと聞く姿で、甚五郎を描きました。ここで素直な子供と、優しい甚五郎を創りあげました。

小僧さんに、説明を受け、大きな宿屋「虎屋」を目印に、小僧さんの宿屋「ねずみ屋」を見つける場面は、この噺の象徴的なシーンです。空間の描き方が、秀逸でした。

扇辰師は、目線と、顔の動きで、先ず下手(しもて、高座に向かって左)に、大きな宿屋「虎屋」を描き、首を上手(かみて、高座に向かって右)に、目線で小さな宿屋「ねずみ屋」を見事に描いてくれました。

噺のあらすじは、書きません。是非、高座を観てください、良いお噺です。
このお噺は何回聴いても、胸が熱くなります。好きな噺の一つです。扇辰師は、前日14日の黒門亭で、「竹の水仙」をかけてます。

次もまた、扇辰師匠の噺を聴きたいと思わせてくれる、一席でした。感謝多謝。

立川吉笑さんの言葉を借りれば、「伝統芸能としての落語」「大衆芸能としての落語」その両方を見事に演じる事が出来る、師匠お二人ではないでしょうか、私はそう思ってます。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/15 日 公演 感想まとめ