渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2015年 6月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月15日(月)20:00~22:00 柳亭小痴楽、柳家喜多八、玉川奈々福、春風亭一之輔

「渋谷らくご」一之輔シリーズ!

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プレビュー

春風亭一之輔師匠、現在37歳、3年前、21人抜きで真打に抜擢された師匠です。
まだ3年しか経っていないのか、と思えるほど現在すでに堂々とした高座、それも、古典の骨格をしっかりとなぞりながら(古典落語の定番の笑わせどころでちゃんと笑わせながら)、独自のくすぐり(笑わせどころ)も入れてとにかくエンターテイメントに徹する噺もあれば、しっとりと聴かせる人情噺もあり。年齢的にはいまはいろいろと試してみる時期だったり、古典に「足し算」をして(自分のくすぐりを加えて)自分らしさを表現したりもする時期です。ですがこの師匠は足し算だけではなく、すでに引き算もできるのです。お酒を飲む番組をやっていたり、ユニクロのCMに出ていたり、日曜の朝にラジオをやっているのは仮の姿、まこと本性は探求を怠らない落語の達人! いままさにその達人が無敵になっていく過程を、私たちは見ることができています。

二つ目にはまだ20代中盤の小痴楽さん(三鷹で不良をしていたという、実は二世落語家)、ベテランには喜多八師匠(14日の紹介文参照)。
「動」と「静」が会場を独特の空気にしたのち、浪曲の玉川奈々福さんが登場します。浪曲は、三味線で合いの手をいれる「曲師」さんと、ひとりでオペラのようなミュージカルのような、歌を「うなる」演者さんが、アドリブで空間を支配する芸です。音楽に興味のある方はとくに必聴です。

レビュー

文:今野瑞恵 Twitter:@tsururaku 40代女性、落語会主催者

渋谷らくごがスタートして半年が過ぎたそうです。落語をまだ聞いたことがない方々に落語を知ってもらいたい!聞きに来てもらいたい!というコンセプトをぶれることなく貫いている姿勢は、同じく落語会を開催している立場からみて、とても頼もしいです。
私が拝見した6月15日(月)の渋谷らくごも、落語初心者の方々に届けるにふさわしい、落語界の未来を感じさせてくれる会になったのではないかと思いました。

【柳亭小痴楽-風呂敷】

トップバッターは小痴楽さん。天然の突き抜けっぷりを知るには、マクラで語られた、つい昨日まで「うつぶせ」「あおむけ」を知らなかった事実だけでも充分かと思います。同じくマクラで語られた小痴楽さんのご両親(お父様は五代目痴楽、先代の小痴楽)、その落語家夫婦の姿を見て育った彼が織りなす「風呂敷」の夫婦間のごたごた。ご両親が背中で教えてくれたのか、いきいきと演じていました。からっとした明るさは、小痴楽さんの持ち味。前のめりに突き進んでいくテンポ感も、二ツ目の活きの良さを感じさせてくれて、若いって良いなあ・・・としみじみしました。

【柳家喜多八-粗忽の釘】

そして喜多八さんの登場。マクラで「寄席ならハネる時間」「この会もいつまで続くのか」、談志さんのことも「生きていたら言わないよ。くたばったから言うんだ」なんて、けだるそうに悪態ついていたわりに、熱い想いを秘めたように「粗忽の釘」へ。力が入っていないように見せかけて、なぜか聞いている私たちは徐々に喜多八ワールドへ誘われ、巻き込まれていきます。この巻き込まれ具合は、生で体験してみないと分からない。おかみさんに叱られてしょんぼりする亭主がおかしくておかしくて、だらしなさも愛らしくて憎めない。そして、初めて聞きましたよ!打ち抜いた釘がまさか阿弥陀さまのあんなところから・・・。

【玉川奈々福、沢村豊子-浪花節更紗(原作 正岡容)】

2分のインターバル明けは、浪曲の奈々福さん。曲師は沢村豊子師匠。浪曲初心者が多いだろうという配慮で、浪曲の説明からスタート。演目も分かりやすいものをセレクトされたそうです。会場(映画館)の性質上、壁に音が吸収されてしまうため、かなり演じにくいのでは・・・と気をもみながら見ていましたが、奈々福さんの伸びのある声がしっかりと心にぶつかってきます。そして豊子師匠の合いの手、凜とした佇まい、しびれます。浪曲は曲師の腕次第でやりやすさが変わるというのはこの日の演目である「浪花節更紗」の中にも出てきましたが、それを目の前で見せつけられた感じです。トークゲストのTOKYO FM「アポロン」の齊藤美絵さんの「浪曲はJAZZ」という言葉、言い得て妙、だなあと思いました。

【春風亭一之輔-唐茄子屋政談】

満を持してトリの一之輔さん。マクラなしで唐茄子屋政談が始まったとき、「ああ、一之輔さんはこの噺に余計な前振りはいらない、噺そのものをしっかり届けたいと思ったんだなあ」と、意気込みを感じました。この手の噺は、濃密で大げさに描かれがちですが、一之輔さんは真打になって3年とは思えないさりげなさで、人情噺である唐茄子屋政談の世界へ、あっという間に引き込んでくれました。とは言っても一之輔さんらしい毒を含んだ部分もたっぷりあり、まさに「一之輔落語」でした。この噺のプロローグに入れることも多い、「実家で繰り広げられる親族会議」の部分も、そのうち聞いてみたいなあ・・・と思いました。個人的なことですが、私が主催する鶴川落語会にも7月にご出演いただくので、その時がとても楽しみです!

客席を見渡すと、大入り。年齢層は若い方が多かったのですが、その中に私と年が変わらない?ちょっと年上かな?という方もちらほら。様々な世代が同じ空間で、同じ落語を見ながら笑う。こんな幸せなことはないと思いました。私が落語会を開催しているのも、そういう幸せな空間を提供できたらという想いからです。落語界の今後を担う方々の、その時その瞬間を垣間見ながら、末永く応援していけたらと思います。

【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」6/15 日 公演 感想まとめ