渋谷らくごプレビュー&レビュー
2016年 1月8日(金)~12日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
この1月16日から、『の・ようなもの のようなもの』という映画が公開されます。『家族ゲーム』や『阿修羅のごとく』で知られる故・森田芳光監督の劇場デビュー作『の・ようなもの』から35年、ちょうど35年後の世界を描く映画だそうです。この映画に、ひょっこり関わっているのが、古今亭志ん八さん。劇中の一門の名前が「志ん魚」とか「志ん米」「志ん田」だったりするので、古今亭っぽい名前です。そこにぴったりと志ん八さんがハマってるわけです。先月は、釣り好きの志ん八さんはそんな映画の話から、自作の、魚が主人公の落語を演じてくださいました。「今年は古典もやろうかな」とこぼしていましたが、果たして古典落語を演じる日は来るのか!? この方の才能は計り知れません。いまの力で古典を演じたとしたら最強かも!? …でもたぶんこの日は創作だと思います。
トリの古今亭文菊師匠、おなじ「古今亭」でも、志ん八さんとは全然ちがいます。麗しい目元、高低差を自在に使い分ける美声、端正な姿、きれいな着物の着こなし、一口にいって「華」のかたまり。すべてこの師匠に身を委ねていれば安心。異世界へトリップすることまちがいなし!です。
二つ目ですでに古典実力派の呼び声も高い三遊亭歌太郎さんの伸びやかな落語、これに加えて、先月渋谷らくご創作大賞を受賞した玉川太福さんも、浮世のつらさを忘れさせてくれるでしょう。お正月、終わるな!と思いながら楽しめる回です。
レビュー
文:佐藤紫衣那 性別:女 年代:20代 職業:会社員 落語歴:細々と10年 趣味:映画鑑賞、クラシックバレエ
1月11日(月祝)14時から16時「渋谷らくご」
古今亭志ん八(ここんてい しんぱち)「デメキンⅡ」
三遊亭歌太郎(さんゆうてい うたたろう)「片棒(かたぼう)」
玉川太福(たまがわだいふく)・玉川みね子(たまがわみねこ) 「大浦兼武(おおうらかねたけ)」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)「お見立て(おみたて)」
古今亭志ん八 デメキンⅡ
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古今亭志ん八さん
顔が丸くて鼻が丸い。
たいへんに個人的なこの基準ですが”落語家”という職業のイメージは私の中で子供のころから揺るがないのです。そのため”推しメン選抜”はその方の話を聞く前から実際選考は始まっており、高座に上がって顔を拝見したときには瞬時に決まることがおおいのです。
志ん八さんはこの基準をとても高得点でクリアしわたしの中の”選抜メンバー【外見部門】”にずっといらっしゃる素敵な方。はじめて高座で見かけたときにはそのあまりのどんぴしゃさに、ちょっと、いやかなり、ときめいたのです。はい合格。選抜入りおめでとうございます。(ごめんなさい、その基準が顔と鼻が丸いから、だなんてあんまりうれしくないですよね)
落語家だけでなく人の前に出る仕事というのは外見に良くも悪くも左右されがちだとは思いますが、志ん八さんは、どんな場面においても違和感なく、居そう。会社でスーツを着ていても、スーパーで品出ししていても(もちろん鮮魚コーナーでお願いします)、タイでゾウに乗っていても、違和感なさそう。”居そう力”(いそうりょく/居そう、と思わせる説得力を伴う雰囲気と力。造語)を確実に持ち合わせた方。
だから着られるんですあの赤い着物。あの真っ赤な赤い着物。普通は着られません。
“居そう力”を存分に発揮した金魚。ほんとうに金魚にみえちゃう。なんの魚かわからないけれど、そんな魚、居そう。ブラックバス、見えなくない。
低めのトーンで語られるファンタジー。収まりのいい笑顔がどんな突飛なありえない話にも現実味を持たせてくれる。高揚しない、興奮しない、魚の日常。前作のデメキンとあわせて世界観が好きです。
三遊亭歌太郎 片棒
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三遊亭歌太郎さん
ゆるーくてふんわーりしていて、タレ目で、にっこにこしている歌太郎さん。やわらかい声をきくとほんわーりするのです。季節でいうと冬が似合う方だと思っています。厚手のセーター着て膝の上で動物撫でながら暖かいものを赤いマグカップで飲む休日を過ごしていてほしい。(妄想)
歌太郎さんの魅力は、”いいねぇ~”という感覚。決して唐突ではなくゆるーくゆるーくはじまって、まくらでは鞠を転がす猫のようにそこに居るのに、落語が始まるとたまに垣間見える眼力に、おっと思ってしまう。堪能しつくされることをわかっているかのように、コントロールしながら進めていく意外と策士です。
本日の片棒、個人的に好きだったのは、お父さんのリアクションが歌太郎さんにぴったりで、ばかー!こらー!頭痛くなってきた…がとても魅力的に映りました。三兄弟の突飛なアホっぽさよりも、困っているお父さんが見ていて滑稽で、うわー、困ってるよ困ってるよ!と意地悪心をくすぐられ、にやっとなってしまった。歌太郎さんの鼻の動きかたは私のなかで注目ポイントです。
玉川太福/玉川みね子 大浦兼武
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玉川太福さん・玉川みね子師匠
ご自身でも触れられていたので、私もすこしこちらで書かせていただきますが、国本武春さんがお亡くなりになられたのは年末のこと。渋谷らくご”どがじゃが”にもしっかりとお顔写真入りの公演案内チラシが折り込まれていたのに…突然なことだったので非常に驚きました。
触れられないということはないだろうけれど、と思ってはいたけれど、今日の太福さんはいつもとやはり少しちがい、背負うんだ、という気持ちが伝わってきて、それがとても熱い想いだということがよく伝わってきました。意志を受け継ぐ、と文字にするとありきたりですが、浪曲界を絶やさないように、がんばってねというお客様からの声に対して、自分ではなく、武春さんを偲ぶ形でしっかりと応えていこうという姿勢。”先生”とお呼びしたくなりました。昨年の渋谷らくご創作大賞のときとは全然、顔つきが違う。(もっとも、あのときは創作講談で”おかず交換”というなにも起こらない内容だったので、当然なのですが…)
唸るときの太福先生は、顔がとてもとても大きく見えることがあります。特に黒紋付でいらっしゃる日は、後ろの黒い幕と相まって白い肌が反射して、本当に顔が大きくみえる。それがとてもいい。昔の舞台役者は顔が大きければ大きいほどいい、とされていた由縁がわかる気がします。怖い人が出てくるとその存在感はぐっと増します。うわー怖い。威厳。しょぼんとすると、いっきにその顔のパーツが中央によって、困るし泣きそうだし、全体的に小さく見えてしまう。本日は、他人の借金を肩代わりした大浦兼武が困るときの顔が、最後の展開での顔の忙しさがとてもよかった。太福先生の講談の魅力のひとつだなぁ、としみじみ思いました。
古今亭文菊 お見立て
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古今亭文菊師匠
お見立ては個人的に好きなお話のひとつで、噺家さんの個性がとても出るなぁと聞くたび思います。それはおそらく、この3人のうち主人公はだれか。喜助、喜瀬川花魁、杢兵衛大臣。喜助に一番感情移入してしまう日は、わがままばっかり言わないで、そろそろ帰れよ、となるし、杢兵衛に見所があると、気持ちわるいんだけどその一途に想う気持ちに心を掴まれるときもある。特に泣いちゃうとき。
本日の主人公は花魁だった気がします。あのけだるさ。あのわがままさ。そこに翻弄される男2人。話の舞台はだいたい男2人で展開されるのに、あのたまに出てくる喜瀬川花魁の気だるさが、手のひらで男2人を転がしている大人の女がとてもしっかりと印象に残ったからではないかなと思います。着物のいろもあるのかもしれないけれど、今日の文菊師匠は女座りしていたあの身体の斜めのラインが、すーっと通っていて、癖のあるこれ見よがしなタバコの持ち方も、めんどくさそうな喜助を見る目も、眉間のしわも、ひとつの絵として印象に残っています。あー、この人、美人だし、いい女。ここに説得力があると杢兵衛がそこまでして想う気持ちがなんとなくわかる気がするのです。
また、余談にはなりますが、落語家さんは新年のごあいさつを兼ねてご自身のお名前が入ったぬぐいを配られます。ロビーにみなさんの手ぬぐいが展示されており、色とりどりでデザインも凝っていて個性がここでも出るのだなぁと眺めておりましたが、文菊師匠の手ぬぐいをみて思わず噴きだしてしまいました。文菊師匠!似ている!ご自身の似顔絵がプリントされたおしゃれな手ぬぐいなのですが、その似顔絵が、一筆書きのようなタッチなのに本当に、似ている!人の魅力があんなに出ている似顔絵はなかなかみることができないと思います。機会がありましたら文菊師匠に手ぬぐいをみせていただいてみてください。本当に、とっても、似ています!
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トークゲスト:劔樹人さんと
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「渋谷らくご」1/11 公演 感想まとめ